400 魔王ヴィル降臨
勇者ゼロが仮死状態になることにより、魔王ヴィルが復活した。
魔王ヴィルが地上に戻ると、異世界の”オーバーザワールド”というゲームと接続が完了し、プレイヤーやキャラたちが中心の世界になっていた。
主要人物
魔王ヴィル・・・魔族の王
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
サタニア・・・ミサリアと名前を変え、ゼロと共に行動をしていたが、命を落としていた。
レナ・・・北の果てのエルフ族の最期の生き残り。異世界住人によって仲間を殺された。
エヴァン・・・死んで異世界転生した元アリエル王国の王国騎士団長。ヴィルと利害関係が一致して魔族になった。時の神クロノスに仕える時帝でもある。
深夜0時を回り、時折オオカミの遠吠えが聞こえた。
ヴィルが指定した場所に魔族が集結していた。
上位魔族、数名に加え、部下たちも3000名程度集まっているようだ。
「プレイヤーの前に魔族への説明ねぇ」
「当然だろ」
「それもそうだよな。じゃ、ヴィル、うまくやってよ」
「あぁ」
エヴァンがにやっとして、先に降りていった。
元々、ダンジョンがあったが、今は精霊すらいない廃墟のようになっていた。
アイリスは、”オーバーザワールド”との接続が関係してるのではないかと話していた。
”シンオオクボ”や”カマタ”などのダンジョンの精霊が今どうなっているのかは掴めていない。
「魔王ヴィル様!」
サリーが真っ先に俺を見つけて声を上げる。
ザッ
上位魔族が草原にひざまずいた。
エヴァンがゆっくりと、ザガンの横に並ぶ。
サタニア、ププウルはいない。
シエルは少し気まずそうに、上位魔族の列に並んでいた。
「おかえりなさいませ。魔王ヴィル様!!」
「心配をかけたな」
「とんでもございません」
カマエルがメガネを上げる。
「魔王ヴィル様にお会いできるのが待ち遠しく」
「私も魔王ヴィル様に会いたかったです。こうしてまた、魔王ヴィル様の前に集えるのが嬉しいです」
ジャヒーが目を潤ませた。
「お力になれず、もどかしい思いをしておりました。ババドフは魔王城の外で大暴れしていまして・・・」
「違う。シズと力比べをしていただけだ」
ババドフが不服そうに言う。
「あの、異世界のゲーム? というのもエヴァンから説明いただきましたが、具体的にどうしたらいいかわからず、各自力が弱まっていたので、鍛錬をしておりました」
ジャヒーがくるんとした角を触りながら言う。
「サタニアもいなくて・・・」
「ププウルも行方不明でして・・・」
「あいつらのことはいい。少し休息しているだけだ」
マントを翻す。
「命令だ。お前らには今から”オーバーザワールド”の魔族を殲滅してもらう。出会った奴ら、全て殺していけ」
「魔族を・・・ですか?」
サリーが首を傾げた。
「そうだ。”オーバーザワールド”の闇の王があらゆる種族の者たちを魔族にして、自分の部下を増やし、この世界を支配しようとしてる。俺ら魔族と同等ではない」
「うーん、魔族だけど魔族じゃない・・・難しい。もう少しかみ砕いてもらえますか?」
「ゴリアテ、今の魔王ヴィル様の説明がわからないなんて呆れるぞ。お前は脳筋すぎる。部下に聞け」
「なんだと!?」
「落ち着きなさい。魔王ヴィル様の前よ」
サリーがゴリアテとカマエルの間に入る。
ザガンがため息をついていた。
笑みが漏れる。
相変わらずこいつらは変わらないな。
「簡単に言えば、”オーバーザワールド”の闇の王が生き残るか、俺が生き残るか、ということだ」
「!?」
魔族が静まり返った。
「そんな・・・」
「この世界に、そもそも魔族の王は2人いらないだろう?」
「もちろんです!」
「魔王ヴィル様しかいません!」
ジャヒーとサリーが口をそろえて言う。
「俺が闇の王を倒す」
魔族を見渡す。
風が草木を撫でていった。
「魔族はお前らだけで十分だ。”オーバーザワールド”の魔族なんかいらない」
オォオオオオオオオ
「魔王ヴィル様、なんと嬉しいお言葉」
サリーが頬を赤らめて、頬に手を当てた。
魔族が雄たけびを上げた。
地面を鳴らして、空気が振動していた。
「各自、管轄しているダンジョンの周りの街や国を目指してくれ。”オーバーザワールド”に乗っ取られたとはいえ、地形は変わっていないはずだ」
上位魔族が頭を下げる。
「かしこまりました。このカマエル率いる部隊にお任せを。見事に一掃して見せます」
「私の管轄の部隊のほうがより早く殲滅できるわ」
「サリー・・・・」
「カマエルには負けないから。ふふ、この剣ってば、命が欲しくてうずいてるわ」
サリーが赤い髪を後ろにやって、剣を掲げた。
「魔王ヴィル様、ププウルの管轄の場所はどうしましょうか」
リカが顔を上げる。
ププウルの後ろにいた魔族たちは、浮かない顔をしていた。
「ププウルの管轄は範囲が広く・・・」
「そうだな。今から上位魔族を選出するのも厳しいか」
「じゃ、ププウル管轄の場所は、俺が行くよ」
エヴァンが手を上げる。
「なるほど。エヴァンなら適役かもしれないな」
「そうね。エヴァンなら・・・」
リカとジャヒーがエヴァンを見て納得していた。
「だってさ、ヴィル」
「お前・・・・・・」
エヴァンが魔族にどんな洗脳したのかよくわからないんだよな。
生意気な顔で、親指を立ててきた。
「仕方ない・・・。エヴァン、頼んだ」
「ちょっと待って」
「!!」
サタニアが空から降りてきて、隣に並んだ。
アメジストのような髪が、月明かりに煌めく。
「サタニア! どうして君が・・・」
「安心して、魔王代理と務められるくらいの力は戻ってるから」
「そうじゃなくて。だって・・・」
― 魔女の剣―
キィン
剣を出す。
満月の時のサタニアの魔力だった。
「ほらね」
「サタニア」
「ヴィル、私に聞きたいことがたくさんあるでしょ? 全部片付いたら、ちゃんと説明するから。今は戦闘に集中させて」
「・・・・・・・・」
「戦いたいの。魔族として。”オーバーザワールド”中心の世界なんて認めない」
凛とした声で言う。
アイリスから聞いていた話とは違うが、サタニアで間違いないようだな。
「ねぇ、マジで大丈夫なの?」
エヴァンがサタニアに近づく。
「力が落ちてるように見える?」
「それがないのが、不気味なんだよ。君はゼロの呪いを・・・」
「色々あったけど、今はちゃんと魔王代理のサタニアよ」
サタニアがアメジストのような瞳に、月を映した。
「私ならププウルの代理が務まる。エヴァンはヴィルと一緒に闇の王の討伐をして。ヴィルにもしも何かあって暴走したら、私には止められない。お願い、エヴァンはヴィルといて」
「わかったけど・・・ヴィル・・・」
「サタニア、今も心臓は天使に掴まれたままなんだろ?」
「まぁね。でも、本当に大丈夫よ。コツを掴んでるから」
胸に手を当てる。
「あまり無理するなよ」
「うん。心配ばかりかけてごめんね。でも、ヴィルだって眠ってたんだから、おあいこだからね」
サタニアが髪を耳にかけて、自信なさげにこちらを見上げた。
「そうだな。ここで過去を振り返ってる場合じゃない。今は”オーバーザワールド”をぶち壊すほうが優先だ」
「ありがとう、ヴィル」
サタニアがほっとしたような表情をする。
軽く飛んで、ププウルが統括していた魔族たちの前に降りていった。
「サタニアも戻りましたね!」
「あぁ、なんだか久しぶりにワクワクしてきたな」
「そうね。人間たちが魔王ヴィル様に服従するようになってから暇だったもの」
「魔族は暴れてこそだよな」
「よし、俺の部隊! 作戦会議だ!」
ゴリアテが斧を掲げて魔族を集めていた。
「魔王ヴィル様・・・」
シエルが自信なさげに近づいてくる。
「私、ずっと弱くなっていたので、せっかく魔王ヴィル様から頂いた力、使いこなせるかどうか・・・上位魔族としてここに立ってるのが申し訳なく」
「おかしな部分でもあるのか?」
「いえ・・・でも・・・」
シエルが白銀のツインテールを触りながら息をつく。
「シエルなら使いこなせる。安心しろ、俺も同じ魔力だ」
「はっ・・・魔王ヴィル様と同じ魔力、失礼しました!」
シエルが表情をキリっとさせて、剣を持ち直した。
「そうですね! 私は魔王ヴィル様と同じ魔力なのですものね。では、絶対に負けません。行ってきます」
軽く頭を下げてほほ笑む。
地面を蹴って、魔族たちのほうへ飛んでいった。
「ふうん・・・」
エヴァンが疑いの視線をこちらに向けてきた。
「・・・・なんだよ・・・」
「別に。ヴィルは相変わらずモテるなって思って。アイリス様っていうものがありながらねぇ・・・つか、シエルの魔力ってアレだよね? いつの間に?」
「行くぞ」
「ちょっ・・・ヴィル、待てって。あー、城に帰ればマキアのこともあるしさ、マジでヴィルばっかりハーレムだよな。って聞いてる?」
「・・・・・・・・」
マントを後ろにやって飛び上がった。
エヴァンがしばらくぶつぶつ言いながらついてきていた。
エヴァンはもともと人間ですが、上位魔族の記憶を操作して魔族として認めさせています。
でも、ヴィルへの忠誠心は変わりません。
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いつもありがとうございます。次回は来週アップします。
是非また見に来てください。




