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EP Grimoire⑦

悪魔の幼少型のアイリスは、月の女神の神殿の前で魔王ヴィルの棺を守っていた。

魔王ヴィルを地上にも同ため、勇者ゼロが禁忌魔法で自分の身体を停止させる。


幼少型のアイリス・・・人工知能IRISは転移時に幼少型と少女型を用意していた。

           月の女神により、幼少型のアイリスは分霊で悪魔、

           少女型のアイリスは本体で天使として、世界を守るように命じられる。

           人工知能IRISはこの契約により、異世界転移した。

黒い妖精・・・悪魔の傍にいて、雑務をこなす妖精

魔王ヴィル・・・魔族の王。

        異世界のゲーム”オーバーザワールド”の闇の王が目覚めたことにより、眠りにつく。

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いにより死から蘇った、天使の魂を持つアバター

        魔王ヴィルが生まれる前に死んだ兄

レナ・・・・北の果てのエルフ族の巫女。異世界住人にエルフ族を殺されて生き残りとなる。

レムリナ・・・”オーバーザワールド”天界の姫。


ベリアル・・・古き魔界の王の名。(VRゲーム:ユグドラシルの日蝕の王)

 月の女神が杖をかざすと、祭壇の周りに歯車が現れた。

 ゆっくりとした音を立てながら回転していく。


「駄目だな。一度逆回転した歯車は、そう簡単には戻らない」

 月の女神が歯車を見ながら言う。


「じゃあ、魔王様は・・・」

 幼少型のアイリスがぎゅっと本を抱きしめる。


『どうなってしまうのですか?』

『ここから動けないのですか?』

 黒い妖精がバタバタと飛び回る。


「まぁ、待て。焦るとろくなことがない」

 幼少型のアイリスが不安そうに本を握り締めていた。


「ヴィル、お前の中に異世界の闇の力があるな?」

「そうだな。まだ、いまいち掴みにくいが」


「その魔力を意識的に使え。元の魔力は使うな」

 月の女神が強い口調で言う。


「・・・元の力・・・?」

「お前の場合は前にもテラに異世界の力を渡されてたから、融合が早かったんだ。魔王になる前の魔力・・・オーディンとイベリラがお前に残した魔力は絶対に使わないようにしろ」

 月の女神が歯車に杖を向ける。


 ガタン ガタン ガタン ガタン


 小さな歯車が緑色に光った。

 一つの歯車だけが逆に回ろうと抵抗しているように見えた。


「見てみろ。これは”オーバーザワールド”という接続してしまったゲームが世界の中心となる回り方だ。ゼロが”オーバーザワールド”にうまく馴染んで、進めてきたから歯車はもう戻らない」

「ゼロが異世界の技術で創られた体を持つからですか?」

 レナが目を伏せがちに言う。


「そうだ。ったく、ラグナロクがあるから勇者に選んだものを、お前には勇者の素質があったんだけどな」

 月の女神がガラスのように固まったゼロの前に立つ。


「相変わらず異世界が関わると厄介なことになる。禁忌魔法まで覚えていたとは・・・」


「あの、ヴィルは地上に降りていいのですか?」

 レナが迫るように言う。


「突然倒れて、棺に入れられるなんてことはないですか?」

「エルフ族の巫女よ。さっきも言った通りだ。元の魔力を使わなければな」


「元の魔力を使えばどうなるんですか?」


「ゼロが停止したから問題なく動くだろうが、お前の元の魔力は今の歯車に乗らない。簡単に言えば、魔王じゃなく、魔族・・・いや、ただの人間になるだろう。お前の母親も父親も人間だったからな」


「ただの人間・・・一番胸糞悪いな」

 ヴィルが顔をしかめる。


「ねぇ、ヴィルはちゃんと元の魔力とか、テラの渡した力とか、レムリナが渡した魔力とか、区別ついてるんですか?」


「いや・・・・よくわからん」

 ヴィルが頭を搔く。


「頼りないです。嘘でもビシっと言ってください。ヴィルに世界の平和がかかってるのですよ!」

「仕方ないだろ。さっき目覚めたばっかで、いきなり言われたんだから」

「でも! 頑張ってください。レナは今の地上みたいな世界嫌です!」

 レナがヴィルを揺さぶりながら言う。


「自分の魔力を区別するなんて、私でも難しい。そうゆうレナはできるの?」

 幼少型のアイリスがレナを睨む。


「レナの魔力は一種類なので、関係ないです」

「・・・・・聞いた私が馬鹿だったわ」

 幼少型のアイリスが、呆れたようにため息をついた。


「月の女神様、何かいい方法はないでしょうか? 悪魔の私の目を持っても、瞬時に見分けるのは不可能です」

「んーそうだな。今のままだと確かに危険か」


 パチンッ


 月の女神が指を鳴らして、金色の縁で装飾された乳白色の腕輪を出した。

 ヴィルに渡す。


「これを使え」

「ん?」

「腕につけて魔力を流したとき、蒼く光れば異世界の魔力、白いままだったら元の魔力だ。これで自分を調整しながら戦闘しろ。コツを掴め」


「あぁ、わかった」

「ヴィル、本当に大丈夫ですか? レナはなんだか心配なのです」

「何もないよりマシだろ。地上に降りたら、徐々に上手く使いこなすよ」

 ヴィルが受け取った腕輪をはめる。

 青い光沢を出してから、乳白色に戻っていった。


「ヴィルは器用かもしれませんが、さっきレムリナが与えた闇の魔力は複雑ですよ。無茶だけはしないでくださいね!」

「あぁ」

 レナが強く念を押した。

 幼少型のアイリスがほっとしたような表情を浮かべた。


「あ、魔王様」

「ゼロが俺を・・・・・」

 ヴィルがゼロのほうへ歩いていく。


「・・・・・・・」

 何か言おうとして、口をつぐんだ。


「おい、こいつはどうするんだ?」

 固まったゼロを見ながら言う。


「そうだな。禁忌魔法は私でも解けるものではない・・・クロノスに聞くしかないか」

「殺すのか?」

「いや」


 カチャン


「ん?」

 どこからともなく、小瓶が現れてゼロの足元に転がった。

 ヴィルがマントを後ろにやって、拾い上げる。


「・・・魔法石・・・か?」

 月にかざすと七色に透き通るように輝いていた。

 ポケットに入れる。


「殺すことはできないな。他の方法を何か考えとくよ。アイリス」

「はい」

 幼少型のアイリスがふわっと飛んで月の女神の傍についた。


「他の3人の悪魔を集めてくれ。魔王ヴィルが地上に降り、ゼロがここに残ったことを知らせなければならない。あとは、記録も頼んだぞ」

「かしこまりました」


 幼少型のアイリスが頭を下げて、ヴィルのほうを見る。


「魔王様、どうか気をつけて。お会いできて嬉しかったです。では、ここで失礼します。聖女アイリスを、よろしくお願いします」

 黒いスカートを少し持ち上げてお辞儀をした。

 地面を蹴ると、少し浮き上がり、降りると同時に消えていった。



「悪魔のほうのアイリスも可愛いですよね。悪魔なのでたまにものすごく怖いのですが、ヴィルは聖女アイリスと悪魔のアイリスどっちが好みなんですか?」

「そういや、ここからどうやって出るんだ?」

 ヴィルがレナを無視して、周囲を見渡す。 

 レナが頬を膨らませて文句を言っていた。


 月の神殿は、木々に囲まれていた。

 水の音がさらさらと流れる、世界から切り取ったような場所にあった。



「えっと、レナに連れてきてもらいました」

 レムリナが少し前のめりになって言う。


「レナが?」

「はい。お任せください」

 レナが大きな杖を出す。


「レナが舞えるのは、『ヴァルハルの舞』だけではないのです。『ディアナの舞』『イナンナの冥界下り』も、他にもいろんな舞ができるのですよ」

 自慢げに言って、段差を下りていく。


「へぇ、どうして今まで黙ってた?」

「・・・旅をしていた時のことを、最近少し思い出すようになってきたのです。500年位前は、ちゃんとエルフ族の巫女として、外へ出ていったみたいで・・・この話は戻ったらしますね」

 レナが少しふらついているレムリナを見る。


「レムリナはもう地上に降りて大丈夫ですか?」

「大丈夫。早くお兄ちゃんを助けたいから」

 レムリナの顔色は悪かった。

 唇は青く、瞳は暗くなっていた。


「本当に大丈夫なのか? 地上に降りれば、すぐに魔族に狙われるんだろ?」

「いいの!」

 ヴィルがよろめくレムリナを支える。


「時間がない。私はどうなったっていいから、お兄ちゃんを!!」

「・・・・ヴィル、行きますよ。レナが踊れば、少し意識が朦朧とするかと思いますが、信じてください。レナは舞で失敗したことはありません」

「了解だ」

 ヴィルが頷く。


 レナが杖を大きく振り回して、くるりと回った。

 花びらのように徐々に浮きながら、魔力を高めていく。

 大きく風が吹いた。


 ― ヴィル・・・ ― 


 風の中に、声が聞こえたような気がして、ヴィルが振り返った。

 月の女神はいなくなり、水の流れる音だけが響いていた。


「魔王ヴィル様、そろそろかと・・・」

 レムリナが呼ぶとヴィルがはっとして、レナを見る。

 レナは雪の結晶を舞い上げながら、大きな魔法陣が描かれていた。

 

「・・・・・・」

 冷たい魔力に触れる。

 ヴィルが目を閉じて、レナの魔力が満ちるのを待っていた。

読んでくださり、ありがとうございます。

次回から主人公交代です。ヴィルをよろしくお願いします。


また是非読みに来てください。次回は来週アップします!


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[良い点] 主人公交代。新たな物語を楽しみにしています!
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