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73 Magic defense technique(魔法防衛術)

アイリスは異世界のゲーム”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと行動を共にする。

時空の魔女ライネスにより、”オーバーザワールド”のイベントスキップが発生し、ゼロは未来のルートに飛ばされた。

未来のルートで、ゼロは闇の力をコントロールするため、ゼロとメイリアはアポロン王国の勇者の学校ブレイブアカデミアに入学することになり・・・。


主要人物

勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。

アイリス・・・人工知能IRIS

ミサリア・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗る。未来において、死んだことになっている。

メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。

ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。

レイシア・・・ゼロが現れるまで首席だった女剣士。

トリコ学長・・・ブレイブアカデミアの学長。

カゲトラ・・・ブレイブアカデミア、剣技の先生。

”オーバーザワールド”・・・異世界のVRゲーム。ゼロたちのいる世界と、接続が完了した。

『ちゃんと映ってるかな? 今日は初めての授業、魔法防衛術です。授業始まったら映しちゃダメって言われてるから映せないけど、今はこんな感じ。綺麗でしょ?』

 ナナココが配信カメラを持って、ブレイブアカデミアの中庭を映していた。

 真ん中に丸い円のステージのようなものがあり、生徒たちが集まってきている。


 月の輝く夜だった。


『今日の授業は任意だけどね。ほら、ちゃんと準備したし、大丈夫、大丈夫、疲れはちゃんと取れてるから。うん、ぷーたろうさんありがとう。そう、このままぶっ続けで強くなるよ。あ、隣にいるのはメイリアね』

「えっ、私、あまり配信には映りたくないんだけど」

 メイリアが慌てて髪で顔を隠した。


『あ、ごめん! みんな、今の見なかったことにしてね。そう、ナナココ、テンション上がっちゃって。配信NGの子もいるから、ね』

 

 メイリアがゼロのところに駆け寄ってきた。

 観戦席にいたエルフ族、ドラゴン族、人間がモニターを出して、杖や剣、斧、槍などの武器を出している。

 ナナココが配信していることについて、誰も文句は言わなかった。

 

 時空の魔女ライネスの話では、キャラはリスナーやプレイヤーの間で、人気が上がるほど自身の生存確率が上がるから、どんどん自分たちを外の世界に配信してほしいと思っているらしい。

 レイシアが剣を見つめながら、柱に寄りかかっていた。


「勇者様、何かあったのですか? 遅れてきていたので」

「時空の魔女ライネスと会ってたんだ。結局、ミサリアは生き返るらしい」


「え!?」

 メイリアが思わず声を上げた。

 ゼロが口に指をあてると、メイリアが慌てて口を押えた。


「本当なのですか?」

「あぁ、堕天使が契約だって言ってたから確かだよ。若干、物騒なこと言ってたけどな」

 メイリアが聞き返そうとすると、エルフ族の魔法防衛術の先生が現れた。

 背のすらっとした薄い紫色の髪を持ち、20代前半くらいに見える。


「17人か。みんな、集まってくれてありがとう。これから魔法防衛術の授業を始める。新入生もいるから改めて紹介したほうがよさそうだね」

「・・・・・・」

 ゼロと、メイリア、ナナココのほうを見る。


「僕はデーメーテール王国から来た、エルフ族のフィオルグだ。王国時代は、王国騎士団長を務めていたが、闇の王の復活からはブレイブアカデミアの教師として働くことになった。祖国は心配だが、ここで闇の王と戦える者を輩出するほうが大事だと判断してね」

「王国騎士団長・・・」

「そうだ、他に何か聞きたいことあるかい? 何でもいいよ」

 近くにいた魔導士の少女が視線を逸らした。


「・・・・・・・・・」


 細い目で周りを見渡す。

 生徒たちに緊張が走っているのが伝わってきた。


「ん、特に何もないみたいだね。今日は、魔族が活動的になる夜に集まってもらった。実戦形式でやってみようと思ってね」

 フィオルグ先生が指動かして、青いキメラを出す。


「キメラ?」

「このキメラは幻影だ。よくできてるだろう?」

 ライオンの頭、蛇の尾を持つ炎属性の、”オーバーザワールド”の魔族だった。


「げ、幻影と戦うんですか?」

「幻影じゃ、意味ないんじゃ・・・」

「幻影といっても、完全にコピーしている。実体化しているといってもいいかな」


 フィオルグ先生がキメラの頭に手を置く。

 キメラが牙をむき出しにして、今にも飛び掛かりそうになっていた。


「僕は、召喚術も得意分野としていてね、倒した敵を幻影として召喚できるんだ。今回の授業はこいつらに、攻撃することなく、魔法で自分の陣地を守ること」


「攻撃することなく・・・?」

「シールドだけってことか?」

 生徒たちが顔を見合わせてざわついていた。

 

「こいつは闇属性と炎属性を併せ持つ。まぁ、試しにやってみるといい。そうだな・・・レイシア、手本を見せてやってくれ。できるかな?」

「はい! やってみます」

 レイシアが素早くフィオルグ先生の前に来る。

 剣を前に突き刺して、シールドを展開した。


「準備はできたかな。いくよ」

「いつでも、どうぞ」


 グルルルルルルルル


 キメラが鋭い牙に炎をちらつかせた。


「スタート!!」


 ゴオォオオオオオ


 キメラが飛び掛かりながら、蒼い炎を吐いた。

 レイシアの張ったシールドは水のように炎を吸収していた。

 キメラが爪で引っ掻いた場所は、魔力を集めて修復している。


「っ・・・」

 レイシアが奥歯を嚙んで、一歩下がった。


 フィオルグ先生が手を挙げて素早く止める。

 一体のキメラが消えていった。


「はぁ・・・はぁ・・・」

「性質変化は見事だったよ。欲を言うなら、君はシールド自体の展開が上手くない。魔力は一定にシールドを張ってなかったから、修復せざるを得ない状況になった」

「・・・はい・・・」


「まぁ、上出来だ。今ので自分の弱点がわかっただろう。練習して挑むように」

「ありがとうございます」

 フィオルグ先生が簡単なアドバイスをして、数体のキメラを出した。


「こんな感じだ。魔法防衛術は素早い判断と、的確なシールド展開が求められる」

 キメラの色は、赤、青、紫、黄色、緑など、様々な色に分かれている。


「・・・・・!!」

「対象者に触れそうになった瞬間、このキメラは消えることになっている。怖がらずに、練習してくれ。準備ができたら、それぞれキメラが襲い掛かるよ。僕が見て回ろう」

 

 

「勇者様、大丈夫そうですか?」

「俺はね。メイリアは?」

「少し・・・自信がないですね。道具なしにシールドを展開するのは、苦手なので」

 メイリアが剣を下に向けて、額に汗をにじませていた。


「授業なんだし、気楽にやればいいよ」

 ゼロが軽く笑って見せた。


 ガルルルルル


 カンッ


 生徒たちが襲い掛かるキメラを、あらゆるシールドで止めていた。

 すぐにシールドが割れてしまい、数秒でキメラが消えてしまう生徒もいる。


「君はさっき入学したばかりの生徒、ゼロだよね? シールド展開は得意かい?」

「99%、大丈夫だと思うよ」

「カゲトラから、君のことは要注意人物と聞いてる。トリコ学長は期待しているらしいけどね。トートルを魔法石に変えたのも見ていたよ。”オーバーザワールド”では見ない魔法だった」


「まぁ、俺は”オーバーザワールド”接続前の世界の人間だからさ」


「それもそうか」

 ゼロがアメジストの剣を出して、フィオルグ先生と話していた。

 フィオルグ先生が視線をキメラのほうに向ける。


 3体のキメラが反応した。


「試しにやってみてくれるかな? 簡単だろ?」

 フィオルグ先生が挑発的に言う。


「そうだね。簡単だ」


 ゼロがにやっと笑って、自分を囲うようにシールドを展開した。

 

 ドン


 上から飛び掛かってくる1体のキメラをシールドで止める。

 時間差でキメラが2体、左右から襲い掛かってきたが、ゼロの張ったシールドを破ることはできなかった。

 

 しゅううぅぅぅううう

 

 キメラが煙になって消えていく。


「!?」

「うわ・・・」

「馬鹿な・・・このキメラを?」

 ゼロはいつの間にか生徒たちの注目を集めていた。

 フィオルグ先生が腕を組んで、息をつく。


「終わり、でいいかな?」

 ゼロがキメラが襲ってこないのを確認して、シールドを解く。


「どうだった?」

「速度、魔力の量、キメラに合わせた属性変化、全てを一瞬でこなす。完璧だったよ。何の指摘箇所もない」

「よかった。俺、こうゆうの得意なんだ。何といっても現役の勇者だからね」


「勇者様、またナルシストに戻ってる・・・」

 メイリアが瞼を重くして呟く。


「・・・・・・・」


 パンパン


 フィオルグ先生が生徒たちの視線を感じて手を叩いた。


「ほら、今のを見ただろう? 皆もやってみてくれ。僕は不可能な課題を出しているわけじゃない。不可能ではないと思うことが大事だ」

 

「はい!」

 フィオルグ先生の言葉に、生徒たちが散らばっていった。

 メイリアが深く息を吐いて、薄いシールドを展開する。


「よし、俺も!」


 ブオンッ


 それぞれがシールドを展開している中、ゼロが天を仰ぐ。

 空気が澄んで、星が瞬いていた。


 キィンッ


 フィオルグ先生が、ガラスのように透き通った剣をゼロに向けた。


「ん?」

「君は、もしかしてこの世界の魔王ではないのか?」

 マントを後ろにやって、ゼロを睨みつける。


「・・・・・・」

 ゼロが不敵な笑みを浮かべる。


「!」

「だったら、どうする?」

「是非、手合わせを願いたいと思ってね。デーメーテール王国、王国騎士団長フィオルグ=デルタとして」

「はは、冗談だよ」

 ゼロが両手を広げて、ぱっと剣を消した。


「冗談? でも、君の魔力は・・・」

「さっきから言ってる通り、俺は勇者だ。魔王じゃない。悪いけど、フィオルグ先生の期待するような者じゃないよ。この世界に魔王は一人だけど、勇者はたくさんいるんだ」

 笑いながら言う。


「こっちの世界の魔王とは放っておいていいのか? 勇者の敵は魔王と決まってるだろ?」

「魔王は眠ってるんだ。今は、悪魔が連れて行って、目を覚まさない。こっちの世界の闇の王が復活したから・・・あとは・・・」

 ゼロが背を向けた。


「俺がいるからだろうけどね」 

「?」

 足元の四角いタイルを見つめながら呟く。


 しゅううううぅぅうう


「やった! できた!」

 ナナココに突撃していたキメラが消えていく音がした。



「とにかく、そうゆうことだから」

「待て、君らの世界で、魔王は敵じゃないというのか? ”オーバーザワールド”で言うところの、闇の王と同じだろう?」


「敵じゃないよ。しかも、色々あって、人間たちの中では英雄視されているらしいんだ。もし、誰かがこの世界の魔王を殺すというなら・・・」

 ゼロが振り返って、冗談っぽく微笑んだ。


「俺がそいつを殺すよ」


「・・・・・・」

 フィオルグが一歩下がって、唾を飲み込んだ。

 剣を消して、髪をかき上げる。


「フン、僕たちの敵は闇の王だ。無駄足踏んでる余裕はない。君が魔王だったらと期待して、ちょっと腕試ししたくなっただけだ」

「そっか。俺、魔法防衛術の授業終わりでいい? 今日は色々あって疲れてるんだ。早めに寮に戻りたくてさ」


「・・・あぁ。今回の授業は二重丸をつけておいてやろう」

「はは、ありがとう」


 ゼロが少しメイリアの様子を確認してから、軽く飛んで、寮のほうへ戻っていった。

アイリスの言った通り、勇者ゼロは魔王ヴィルのことを大切に想ってるんですよね。

ただ、ゼロの場合、人工知能が複雑に絡んでるから自覚できていないだけです。


アイリスは自分も人工知能だから、ゼロの気持ちがわかるんでしょうね。


今回も読んでくださりありがとうございました。

★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。

次回は、週末か来週アップします。是非また見に来てください!

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