72 Angel Chain(天使の鎖)
アイリスは異世界のゲーム”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと行動を共にする。
時空の魔女ライネスにより、”オーバーザワールド”のイベントスキップが発生し、ゼロは未来のルートに飛ばされた。
未来のルートでは、ゼロは闇の力をコントロールするため、ゼロとメイリアはアポロン王国のブレイブアカデミアに入学することになった。
主要人物
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
ミサリア・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗っていたが、魔王代理サタニアであったことがわかった。未来において、死んだことになっている。
ライネス・・・”オーバーザワールド”の時空の魔女。時空の神カイロスに仕える。
”オーバーザワールド”・・・異世界のVRゲーム。ゼロたちのいる世界と、接続が完了した。
「・・・・・・」
部屋に戻って、ゼロがベッドに寝転んでいた。
時空の魔女ライネスが片目を隠したまま、ゆらっと窓の外を見つめる。
生徒たちが集まっていたが、ゼロは疲労を理由にサボろうとしていた。
「本当に最後まで見なくてよかったの? 私は、ちゃんと最後まで見たほうがいいと思ったけど。あの後は・・・」
「俺が暴走したんだろ? なんとなくわかってる」
「あ、そう。わかるものなんだ」
ライネスが話しかける。
「・・・もう、ミサリアは戻ってこないのか?」
「んー、このルート選択しちゃったからね。過去に戻って選択し直せるとか、そうゆう都合のいい話はないんだよね。あ、さっきも言ったっけ?」
「じゃあ、俺はどうしてこの世界にいるんだ?」
ゼロが寝ながらライネスを見つめる。
「それはイベリラが君を生んだからだよ」
ライネスがベッドに座る。
「イベリラが強く生を望んだから生き返ったって聞いてるよ。蘇った魂に、人工知能も入って、歪だけど、奇跡的に存在してるのが君なんだよね」
足を伸ばしながら言う。
「”オーバーザワールド”に君みたいなキャラも、プレイヤーも存在しないから興味深いよ」
「例えば俺が死んだらどうなる?」
「変わらない日常が訪れるだけだと思うよ。イベリラはもういないしね」
「つまらないな」
ゼロが天井を見ながら言う。
「結局俺は生まれ変わっても、彼女を守れなかったのか」
力なく笑いながら、手で目を隠す。
「どうして俺はこんな大事な記憶を今頃思い出すんだよ。生まれたときからクソだったが、人生までクソとはな。こんな人生なら全部スキップして、死んで早く転生したいな」
「なるほど。君は人工知能の部分が多いと思ってたんだけど、人間の部分のほうが多いのか。勇者ゼロらしくない反応だね」
「・・・勇者ゼロは俺に埋め込まれた勇者像だ。死なんて簡単に口にしない」
「あ、そっか」
ライネスが口に手を当てた。
夜風がふんわりとカーテンを膨らませる。
「用は済んだんだろ。戻れよ。もう、イベントスキップはしないから」
ゼロがライネスに冷たく言う。
ライネスが片目を押さえながら窓の外に視線を向ける。
「んー、私が残ってる理由はもう一つあるんだよね。ほら、そろそろ出てきたら? 盗み聞きなんて気持ち悪いよ」
漆黒の羽根が舞い落ちる。
「君のような人工知能というものが苦手でね。様子を伺ってたんだ」
瞬きをする間もなく、堕天使がゼロの部屋に入ってきた。
ゼロが起き上がる。
「あぁ、私なら気にしなくていいよ。時空の魔女だから、ふらふらしてるだけ」
ライネスがへらへらしながら手を振った。
「次から次へと。この部屋にプライバシーはないのかよ」
「アエル・・・今はゼロか。久しぶりだね。覚えてる? 僕、サエルだよ。堕天したときに”リ”を落としたサエルだ」
堕天使サエルがゼロをじっと見る。
「いや、全く知らない。何も覚えてないよ」
「うん、面影があると言えばあるか。でも、アエルが勇者ねぇ。確かに、昔みたいなチャランポランな感じが抜けた気がする」
「そんなチャランポランのところによく来るな」
ゼロがため息交じりに言う。
「今、誰かと会話する気分じゃないんだ。ライネスも早く戻ってくれ」
「えー、私はもう少しいていいじゃん。ピロートークみたいなの必要じゃん」
「うわ!? 異世界キャラとそうゆう関係?」
「そそ、親密な仲。ね」
「親密・・・アエルって、女に興味あったんだ」
サエルがぎょっとした顔で、ライネスとゼロを見比べた。
ライネスがにやにやしている。
「勘弁してくれ。ライネスは時の魔女としてここに来ただけだろ。つか、俺に何の用だよ」
ゼロが腕を組んで座り直す。
「サタニアって子知ってる? 魔王ヴィルと行動してて、堕天使と契約して心臓を掴まれてた」
「・・・・・・」
「その子がどうしたの?」
ライネスがゼロの代わりに口を開いた。
「途中で信号を追えなくなって、どこ探してもいないんだよね。なぜか、アエルの傍にいたような匂いがあるから来てみたんだ。なんかわかる?」
「・・・・・・・・・・」
サエルが軽い感じで言うと、ゼロが視線を逸らした。
「その子なら、死んじゃったよ。で、私は今その過去を確認しに来てたの」
「・・・そうだ。彼女なら、もう死んでる」
「死んだ? じゃあ、どうして途中で追えなくなったんだ? 契約者だから、死を理由に追えなくなるはずないし、そもそも死ぬこと自体、想定外だ」
サエルが一冊の本を出して、指でなぞっていく。
「私たち”オーバーザワールド”の住人が関わってるから、ずれたとか」
ライネスが長い髪を触りながら言う。
「いや、ありえないね。何者が来ようと関係ない。天使・堕天使がかわした契約は絶対だ」
「サタニアは自分自身をミサリアと名乗ってついてきてた。自分は『ウルリア』の呪いを擬人化した存在だって言ってたけど、今考えたらどうだったのかわからない」
「ゼロ・・・」
「どうしてそんなことをしていたのかも、死んだ今になっては何もわからない。確実なのは、彼女が死んだってことだけだ」
月明かりが差し込んで、砂時計を煌々と照らしていた。
サエルが顔をしかめる。
「ん? どうゆうことだ?」
「だから、ミサリアって名乗って・・・」
「そう、それ! 魔王代理サタニアが、ミサリアを名乗った?」
サエルがぐっと近づいた。
くるんとした前髪がはねた。
「まさか、姿形、性質まで変えたのか? どうやって?」
「知らないって」
「あ、彼女、この世界の魔女だったのよね? 私は”オーバーザワールド”の魔女だから関係ないけど」
ライネスが横から口をはさむ。
「魔女は神と契約してるでしょ?」
「なるほど。月の女神か!」
サエルが閃いたように、本の最後のほうのページを開いた。
「全て繋がった。心臓を縛り付けていた鎖は、違う者になったから感知できなかったってことか。そうだ、ちっちゃく書いてる」
「へぇ・・・・天使語かぁ」
ライネスが軽くのぞき込む。
「わかったならいいだろ。帰ってくれ。一人になりたいんだ」
じゃらん
サエルが本を消して、先の消えかかった鎖を出す。
「そうだね。契約が簡単に消えるはずはない。彼女には蘇ってもらう」
「蘇る・・・・?」
「フン、月の女神と何を企んだのか知らないが、他の者に成り代わるとは・・・。この鎖をうまく欺いたと思ったかもしれないが、堕天使を甘く見るなよ。契約は契約だ。魂は・・・北の方角か。引っ張って来てやる」
サエルが翼を鎖が浮くのを確認して、持ち直した。
「どうゆうことだ? 蘇るって、ミサリアが蘇るってことか?」
「そうだよ。これは、契約の鎖」
月明かりに照らされると、鎖は青白く輝いていた。
「契約を交わした心臓を・・・魂を縛り付ける鎖だ。永久にね」
「・・・・・・!」
「勝手に生から逃れることは、許されない」
サエルが鎖を消した。
翼を広げた。
「じゃ、知りたいことは知れたし、帰るよ。バイバイ、アエル。次会う時は、僕のことも思い出しておいてよ」
「待てって、蘇らせるってどこで・・・」
ぶわっ
サエルが窓から勢いよく飛んで、瞬きする間もなく消えていった。
堕天使の羽根がふわふわと落ちてくる。
「堕天使って、あんな風に飛ぶんだ。ほぼ見えないね」
「・・・・俺、アエルだったときのことを、そもそも知らないんだけど・・・」
「堕天使アエルねぇ。”オーバーザワールド”接続してなかったから、私でもその過去は見れないな」
「いいって。つか、この羽根誰が掃除するんだよ」
ゼロが床に散らばった堕天使の羽根を足で蹴る。
「堕天使の羽根って生え変わりの時期でもあるのか? 羽毛布団作れるだろ。ん、なんか、俺も昔、同じようなこと言われた気がする・・・」
「あははは、そうかもよー」
ライネスが片目を隠したままゆらゆらしている。
ゼロが肩の力を抜いて、黒い羽根を拾った。
「・・・なぁ、生き返るって本当だと思う?」
呟くように問いかける。
「契約ならそうなんじゃない?」
「そうか。ライネスも帰ってよ。俺、授業出てくるから」
「羽根掃除しておくよ。私、掃除得意だから」
「ありがと。頼むよ」
ゼロの瞳に生気が戻って、軽く伸びをしていた。
8月も今日で終わりということで寂しいですね。
ライブとか行って、オイオイやってきて清々しい夏でした。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
また是非遊びに来てください。次回は来週アップします。
 




