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69 Past(過去)⑤

アイリスは異世界のゲーム”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと行動を共にする。

時空の魔女ライネスにより、”オーバーザワールド”のイベントスキップが発生し、ゼロは未来のルートに飛ばされた。

ライネスがスキップしたイベント、ゼロにミサリアの死んだ過去を見せる。

ゼロは呪いだったはずのミサリアが魔王代理であるサタニアだったことを知り、昔いたゲーム『ユグドラシル』での記憶を思い出していた。


主要人物

勇者ゼロ(前世:ベリアル=ゼアル)・・・『ウルリア』の呪いで蘇った、堕天使アエルの魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。魔王ヴィルと共にベリアルの魂を持つといわれている。

アイリス・・・人工知能IRIS

ミサリア(前世:アスリア)・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗る。

      未来において、死んだことになっている。

”オーバーザワールド”・・・異世界のVRゲーム。ゼロたちのいる世界と、接続が完了した。

”ユグドラシル”・・・転生前に、ゼロとサタニアがいたVRゲーム。

 ▼ NOW LOADING …… ▼   

 ▼ ガルテラ国  ▼

 ▼ ギルド『デルダの馬車』 ▼ 


 ゼアルがフードを深々と被って、ハーブティーを飲んでいた。


 グランフィリア帝国の住人が、ガルテラ国を助けるために集まってきている。

 外では、プレイヤーたちが覚えたての魔法で建物を修復していた。


 ギルド内ではドワーフたちがプレイヤーにセーブポイントについて説明したり、受付の少女がクエストの紙を貼っていたりしている。


『そう。ここがガルテラ国最大ギルド『デルダの馬車』。少し肌寒いから、装備にブランケットとかあると便利かも。私はこれから、パーティーを組む予定。初期の職業は定まっていないみたいで・・・』

 モニターに向かって配信を始めているプレイヤーもいた。


 街は崩れている部分があったが、活気づいてきていた。

 夜になればエルフ族が宴を始める。


 グランフィリア帝国から一番近かったからだろう。

 ギルドの建物は、一番最初に復興した建物で、プレイヤーはまずここに集まり、パーティーを結成する。


 ゼアルはしばらくギルドに出入りしていた。


「お兄さん、最近、しょっちゅうここに来てるね」

 エルフ族の女剣士がゼアルの横に座った。


「グランフィリア帝国の人間?」

「そうだよ。このギルドに入ろうか迷っててさ」

「なるほど。いいギルドだよ。プレイヤーはもう100人以上集まってるし、国の復興も、ものすごい早いしさ」

「へぇ・・・」

 ゼアルがフードを押さえながら話す。


「君は?」

「私はガルテラ帝国の生き残りなの」

 瓶のふたを開けて、口をつける。


「あの悪夢は今でも忘れられない。グランフィリア帝国が全員無事だったって聞いて驚いたよ。私はたまたま洞窟のクエストに行ってただけで・・・」

 赤い髪をかき上げる。

 きついアルコールの匂いがした。


「最悪だ。街が一晩であんなことになるなんて。大切な人はみんな死んだ」

「・・・・・・・」

「私の目標・・・いや、このギルドの目標は、星の女神を倒すことだ。絶対に許すものか。私の家族を、仲間を・・・」

 低い声で言う。


「星の女神に関する情報はあるのか?」

「無いね、でもプレイヤーはゲーム経験が豊富だ。国の再建が終われば、色々と動いてくれるって言ってるし。期待してるんだ」

 頬を赤くしたままにやっと笑った。

 目が赤くはれている。


「ほら、プレイヤーって配信したり、内部で会話したりして情報共有が早いだろ。あっという間に・・・」

「ディアラ! また絡んでたのか」

「うわ、返せって」

 屈強なおっさんがディアラから瓶を取り上げた。 


「悪かったな、少年。昔はこんな奴じゃなかったんだが」

「返せって、酒飲まなきゃやってられねぇだろうが」

「はぁ・・・・・」

 おっさんが頭を搔いた。


「構わないよ。俺、このギルドに入ろうかどうか迷ってて、出入りしていただからさ」

「なるほど。グランフィリア帝国の者か」

「そうだよ」

 おっさんがじろじろとゼアルを見つめる。

 ディアラがおっさんから無理やり瓶を取り上げて、酒を飲んでいた。


「お前も、星の女神に大切な者を殺されたのか?」

「・・・そうじゃない」

 ゼアルが遠くを見つめる。


 バタン


 ディアラがテーブルに突っ伏した。

 おっさんがディアラから酒を取り上げて、隣に座った。


「私は絶対にゆるさな・・・殺してやる。今すぐ殺してやる」

「お姉さん、大丈夫?」

「ったく、前は真面目だったんだけどな。ディアラのこと悪く思わないでやってくれ。今にも崩れそうなのを何とか酒で誤魔化してるんだ。ここの住人はみんなそうだ」


「・・・・・」

「で? このギルドに入りたいのか? 俺がギルドマスターに話を通してやる。見たところ、その年齢にしてはかなり強そうだし・・・」

 ゼアルがハーブティーを飲み干して立ち上がった。

 おっさんが何か話したそうにしていたが、遮るように口を開いた。


「俺、このギルド入るのは止めておくよ」

「ん? どうした? 気に食わないことでもあったのか?」


「違う違う、ここはみんな十分に強いからさ。俺は他の国をあたるよ。弱い国の再建を手伝いたいんだ」

「なるほど。勇者みたいな考えだな」

「目立ちたがりなだけだよ」

 ゼアルが作り笑いをする。


「あ・・・」

「ご馳走様。美味しかった」

 フードを押さえながら、グラスとコインをカウンターに置いていった。

 メイド服の少女が振り返る。


「あ、お客さん、お釣り」

「・・・・・・・・・・」

 ゼアルが魔力を押さえつけながら、無視してギルドの建物から出ていった。



 プレイヤーが来るようになってから、数か月が経っていた。

 プレイヤーの中ではこのゲームが話題になり、次から次へと入ってきた。

 星の女神アスリアのことを知る者はいない。


 滅亡した国を一から立て直しながら、いつかアスリアと側近の七つの大罪を倒すという共通目標ができていた。

 一つの敵がいれば、国々は争わずまとまりやすい。


「・・・・何も知らないくせに」

 開発者が考えた意図通りに進んでいる。

 星の女神アスリアは、隕石を地上に落とし、国を壊滅させた悪女として広まっていた。


 でも、毎晩星が途切れることはない。

 アスリアが役目を放棄することはなかった。


 星が瞬くたびに、ゼアルにはアスリアが泣いているように見えていた。

 ユグドラシルの樹が大きく揺れる。 




「ここがガルテラ国。あとで配信しようかな」

「エリアス、どこの国が一番プレイヤー少ないの?」

「ジュレーブ帝国かな。ここからかなり離れたところにあるから、移動手段考えなきゃな」

「移動手段なら・・・わっと」

 前を歩いてきた3人組の内、1人の少女がゼアルにぶつかってきた。

 ゼアルが慌てて、フードを押さえる。


「あ、ごめんなさい」

「いや、こっちこそ悪い。考え事してた」

「あれ? 君ってもしかして、グランフィリア帝国の王? ベリアル?」

 少年の一人がゼアルの顔を覗き込む。


「違・・・」

「あ、絶対そうだ。僕が間違うはずない。だって、コード一緒だもん。認証、完全一致!」

 エリアスがモニターを出して、コマンドを打ち込んだ。


「!?」

「エリアス・・・」

「駄目だよ。エリアス、勝手に個人情報覗いたら。バレちゃいけない理由があるかもしれないじゃない」

 2人がため息交じりに言う。


「リュウジもユイナも優等生すぎるんだよ。これは開発者の想定していない動きで確定だな・・・やっぱり、このゲームは何か違うと思ったんだ。深堀するともっと面白いことになりそうだ」

 エリアスがモニターを見ながらぶつぶつ言う。


「また始まった」

「えっと、名前、わからないけどごめんね。ここで貴方に会ったことは絶対に誰にも話さないから」

 ユイナは髪の短い、さっぱりとした印象の少女だった。

 リュウジは剣士、エリアスは魔導士のような姿をしている。


「エリアス、行くぞ」

「何の事情があるのか気になるじゃん。生き別れの双子にしては、一致しすぎてるんだよ。グランフィリア帝国の王ベリアルのコピーとか?」

 エリアスがゼアルに近づく。


「まぁ、そんなところだ。絶対に言うなよ」

 ゼアルが周囲に誰もいないことを確認して、観念したように息をついた。


「俺はキャラに数えられない存在だ。ストーリー上にいないから、自由に行き来できる」


「こんなところで何してるんだ? 何か目的でもあるのか?」

 リュウジが眉を上げる。

「わざわざ変装するなら、人の多いガルテラ国を選ばないだろ」


「・・・・・・」

「あ、ごめん。言いたくなかったら言わなくていいよ。私たち、ギルドを探してただけだから」

 ユイナが思いっきり手を振った。


「じゃあ、言わないでおくよ」

「もしかして、怒ってる?」


「はは、怒ってるよ。お前らにじゃないけどな」

 ゼアルが笑いながら3人を睨みつける。

 魔力の圧に押されて、黙り込んでいた。


「プレイヤーはストーリーに乗っかるだけだからわからないだろうな。星の女神アスリアは普通の女の子だ。なのに・・・」

 ゼアルが言いかけた言葉を飲み込んだ。


 ユイナがリュウジとエリアスのほうを見る。


「お前らに話すことじゃないな。じゃ、円滑にプレイ楽しんでくれ」

「私たちでよければ話してくれないかな? 力になれると思うよ。私たち色んなゲームに入ってきたから、かなり強いプレイヤーなの」

「あぁ、俺らストーリーに沿って動くのが嫌なプレイヤーだし、開発者泣かせってよく言われるよ」

 リュウジが腕を組んで笑いかける。


「・・・・・・」

「2人の言う通り、そこそこ力になれると思う。僕がいれば、今みたいな分析も可能だ。他にできる奴はいないだろう」

 エリアスが自信ありげに言う。


 ゼアルが少し沈黙して、フードを被り直した。


「ありがとう。今の話、絶対に外部に漏れないようにしてくれ。それだけでいい」

「あ・・・・・」


「俺、人を信用しないから」


 ゼアルが引き留めようとするユイナを無視して、地面を蹴る。

 ガルテラ国の塀を軽く飛び越えて、塀の外に出ていった。

星の女神アスリアは完全に悪役に回ってますね。

ユイナ、リュウジ、エリアスは、今はゼロやヴィルたちの世界に関わっていますが、彼らはVRゲーム『ユグドラシル』のプレイヤーでした。ゲーム慣れしたかなり強いプレイヤーですよ。


★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。

次回は来週アップします。是非また見に来てください。

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