68 Past(過去)④
アイリスは異世界のゲーム”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと行動を共にする。
時空の魔女ライネスにより、”オーバーザワールド”のイベントスキップが発生し、ゼロは未来のルートに飛ばされた。
ライネスがスキップしたイベント、ゼロにミサリアの死んだ過去を見せる。
ゼロは呪いだったはずのミサリアが魔王代理であるサタニアだったことを知り、昔いたゲーム『ユグドラシル』での記憶を思い出していた。
主要人物
勇者ゼロ(前世:ベリアル=ゼアル)・・・『ウルリア』の呪いで蘇った、堕天使アエルの魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。魔王ヴィルと共にベリアルの魂を持つといわれている。
アイリス・・・人工知能IRIS
ミサリア(前世:アスリア)・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗る。
未来において、死んだことになっている。
”オーバーザワールド”・・・異世界のVRゲーム。ゼロたちのいる世界と、接続が完了した。
”ユグドラシル”・・・転生前に、ゼロとサタニアがいたVRゲーム。
▼ SAVE DATA …… ▼
ベリアルが剣に炎をまとわせる。
ドドドドドドドドドドド
月の女神が出した二体のゴーレムが突進してきた。
― グルシフ・タータ ―
グワァァァァ
鋭い炎の風が刃のようにゴーレムを刺した。
一瞬でゴーレムは真っ二つに割れて、消えていく。
「どうだ? 使いこなせそうか?」
「んー、まぁ使いにくいけど問題ない。慣れると思う」
ベリアルが剣を見ながら、息をついた。
「今の魔法は初めて聞いたな。どこで覚えた?」
「アスリアの本棚だ。昼間のベリアルはどうだった?」
「なるほど。元使っていた魔法の類は、昼間のベリアルのほうに渡ったようだな。代わりに向こうのベリアルはアスリアのことをほとんど覚えていなかった。記憶が重なる部分と、そうでない部分があるのか」
月の女神が興味深そうに頷いていた。
「終わってから分析するなって・・・」
「魂の分割する者など、いないからな。昼間のベリアルはもう少し魔力調整に時間がかかりそうだ。私が見ているから問題ない」
「そっか。よろしくな」
「ベリアル、お前は必ずそのフードを被って行動しろよ」
月の女神がベリアルのフードを指す。
「わかってるよ。自由な代わりに、こそこそ動かなきゃいけないんだろ? 向こうのベリアルと顔が同じだし、バレることはありそうだけどな」
ベリアルが剣をしまった。
「あとは・・・名前も変えたほうがいい。ゼアルという名前にしよう」
月の女神が展開していた魔法陣を解く。
夜風が湖の表面を撫でていった。
「ゼアル? どうゆう意味?」
「古き本の魔神から取った名前だ」
「神か。じゃあ、それにしておくよ。特にこだわりはないから」
ゼアルが天を仰いだ。
ユグドラシルの樹が大きく揺れている。
空には無数の星が瞬いていた。
▼ エリア11(仮)、パーパルの泉 ▼
▼ SECRET MODE UNLOCK ▼
「ふぅ・・・・・」
星の女神アスリアが泉の上に立って、星を眺めていた。
大きな杖を降ろしている。
近くの木の下で、怠惰のオベロンが眠っていた。
「七つの大罪はオベロンしかいないのか」
「ベリアル!?」
「ん!?」
オベロンが眠そうな目を擦って起き上がる。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
アスリアとゼアルがその場で固まった。
「んー。眠いな。寝るか」
オベロンが反対のほうを向いて横になった。
しばらくして、寝息を立てる。
アスリアがふぅっとため息をついて、泉の上を飛んでゼアルの元へ降りる。
「ベリアル、どうしてここに? だって、明後日からプレイヤーが入ってくるし夜は・・・」
「今はゼアルだよ」
ゼアルが口に指を当てた。
「星空ってやっぱり、外で見るのが一番だな。これ、全部アスリアが配置したのか?」
「そう。運命に沿ってね。みんな綺麗に輝いてるでしょ」
アスリアが少し誇らしげに言う。
「あぁ、月明かりが負けそうだ」
「それよりゼアルってどうゆうこと?」
「色々あってさ」
ゼアルが笑いながら、大きな岩に腰かけた。
月の女神との会話のこと、
ベリアルの魂を2つに分けたこと、
自分が夜出歩くことのできる裏側に回ったことを順を追って話していく。
アスリアが杖を握り締めて、ゼアルから視線を逸らしていた。
「俺が最初に魂が固まったんだ。表に出ていくベリアルは、目覚めるまで割と時間がかかってたよ。まぁ、魂を分けた兄弟って感じだ。俺が兄で、向こうが弟だな。名前は弟に残してやったよ。俺の名前はゼアル」
ポケットに入れていたエメラルドを月明かりに透かした。
「今後、見えないところから、ベリアルをうまく支えるつもりだ」
「ゼアル・・・は、古い魔神の名前なの?」
「あぁ。月の女神から名付けられた。あまり自分の名前にこだわりないし、そこそこ気に入ってるよ」
トン
アスリアが地面を蹴って、軽く飛んでゼアルの横に並んだ。
「いい名前ね」
「なんか、思ったより驚いてないな」
「そうゆう運命が見えていたから。星の配置から」
「また、運命かよ・・・」
「運命はなかなか変えられないのよ」
アスリアが両手を上に向けながら深呼吸する。
「うん。今日は天体も問題なく流れてるみたいね」
「ずっと聞きたかったんだけどさ」
「ん?」
「どうして、隕石を落としたんだ?」
ゼアルが正面を向いたまま、真剣な表情をする。
「隕石を降らせたのは星の女神アスリアしかいない。そうじゃない理由を探し回ったけど、この世界で星の力を使えるのがそもそもお前しかいないんだ」
「・・・・・・・・」
「滅ぼしたかったのか? この世界に存在するすべての国を・・・」
「グランフィリア帝国はゼアルがいれば大丈夫だと思ってた。他国は、想定内」
「想定内って・・・」
アスリアが杖を引き寄せる。
杖は丸い魔法石の周りに星の輪がいくつも回っていた。
「滅ぼしたかったわけじゃないけど、月食で魔力が高まって、星の軌道が少しズレたの。一つ崩れたら引き寄せるように落ちてくる。流星群は止められなかった」
「・・・・・」
「私のミスよ。みんなミスだとは思わないだろうけどね」
アメジストのような瞳をゼアルに向ける。
「大規模な隕石を降らせたのは私。多くの国々を滅亡に追い込んだのも私」
アスリアが覚悟の決まったような声を出す。
「・・・この世界の外側にいる開発者がお前の役割を、勝手に決めた。プレイヤーが好む物語にするために。たった一人で星を操るなんて、そもそもどんなに勉強したって無理に決まってる」
「でも、私は星の女神でよかったと思ってる」
「え?」
アスリアがすっと立ち上がって、杖を天にかざした。
― XXXXXXXXXXX XXX XXXXXXXX ―
シュンッ
杖先から真っすぐ光の柱が現れる。
手のひらに乗せていた石を、光の柱の中に入れると、パンと弾けて空へ上がっていった。
「ほら、星はひとつひとつが暗闇に穴を空ける。素敵だと思わない?」
「お前は地上の様子を見ることがないから、そんな悠長なことが言えるんだよ。隕石の降る夜、ユグドラシルの世界は消滅しそうになった」
「ベリアル・・・じゃなくて、ゼアルがいなければ、でしょ?」
「・・・・・・・」
ゼアルがアスリアの浮かべた星が上がっていく様子を眺めていた。
「・・・俺が守れたのはグランフィリア帝国だけだ。七つの大罪を通して知ってるだろ? 民が星の女神のことをどう思ってるのか」
「星の女神が恐れられているってこと? それとも、このままじゃ私がゲームのラスボスになっちゃうって話?」
「両方だ」
アスリアの言葉は、茶化しているのか真剣なのかよくわからなかった。
ゼアルが両手を後ろについた。
「アスリアはプレイヤーにとってラスボスになる。月の女神もそう読んでる。俺も、魂を分けたら魔力が半分になった。前のようには止められない」
「じゃあ、どの国のパーティーが最初に、私を倒しに来るかかけてみない?」
「お前な・・・・」
「私はグランフィリア帝国に一票!」
アスリアがゆっくり座って、一本指を立てた。
「このゲームの悪役に回っていいのか?」
「私が隕石を降らせることができるのは事実だもの。また降らせる可能性があるのも事実」
髪を耳にかける。
「プレイヤーが来たら、七つの大罪を配置しておく。私はここじゃなく、『星の塔』で星を操るわ。自分の運命も大体読めたしね」
アメジストのような髪がさらさらと流れた。
「悪役らしく、塔に閉じこもって勇者の到着を待つわ」
「・・・また、来るよ。俺は表にいるベリアルとは違って自由にこの世界を回れる。何かいい方法を探してやる。お前が悪役にならない方法を・・・」
「・・・・・・・・」
アスリアが目を細めてほほ笑む。
「ありがとう。ゼアル」
ふわっと飛んで、岩から降りる。
泉の上を歩いて、七つの大罪、傲慢のジオニアスのほうへ向かっていた。
「・・・ったく、無理しやがって」
ゼアルが息をついて星を眺める。
▼ SECRET MODE LOCK ▼
星の女神アスリアは『ユグドラシル』のラスボスなんです。
ゲームのボスって可愛いと倒しにくいですよね。
★やブクマで応援いただけると大変うれしいです。
今週またアップするので是非また遊びに来てください。