63 Liar(嘘つき)
アイリスは異世界のゲーム”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと行動を共にする。
時空の魔女ライネスにより、”オーバーザワールド”のイベントスキップが発生し、ゼロは未来のルートに飛ばされた。
未来のルートでは、ゼロは闇の力をコントロールするため、ゼロとメイリアはアポロン王国の勇者の学校ブレイブアカデミアの二次試験の実技試験を受けることになった。
主要人物
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
ミサリア・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗る。未来において、死んだことになっている。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
ナナココ・・・異世界のゲーム配信者。登録者数が常に10位以内に入っている。
デグ爺さん・・・元勇者を名乗る老人。ブレイブアカデミアの魔法薬学の先生。
カゲトラ・・・ブレイブアカデミア、剣技の先生。
”オーバーザワールド”・・・異世界のVRゲーム。ゼロたちのいる世界と、接続が完了した。
カラン カラン カラン
ゼロがアメジストの剣を消す。
地面に足をつけると、ぱらぱらと色とりどりの魔法石が落ちてきた。
トートルは消滅することなく、小さな魔法石に変わっていた。
ゼロが宙に浮かせてかき集めてから、瓶に入れていく。
「これでいいな」
「・・・・・・・・・・」
観客席は静まり返っていた。
キィンッ
「おい!」
カゲトラがゼロに剣を突きつける。
「何の真似だ? 今、何をした?」
「二次試験合格のために、トートルを倒したんだよ」
「この得体のしれない魔法はなんだ?」
「俺は”オーバーザワールド”の人間じゃないんだから、別の魔法も使えるって」
ゼロが動じずに笑いかける。
「トートルを倒せばいいんだろ? 俺はルールを破っていない」
「生意気な口を・・・・・」
カゲトラが一歩下がって、剣を降ろした。
「審判だ!!!」
客席に向かって叫ぶ。
ブレイブアカデミアの生徒たちと、先生たちがざわついていた。
デグ爺さんがじっとゼロのほうを見つめている。
シュンッ
会場の真ん中に白い光が差しこむ。
『はい。審判に参りました、アンドロイド、ユリです』
「今のゼロの戦闘について、確認してくれ」
『かしこまりました』
3Dホログラムで映し出された手のひらサイズの少女が、天秤を持って現れた。
「天秤・・・」
『今の受験者ゼロ戦闘が正当と認められた場合は左、不正を認められた場合は右に、では、学長の目に判断を仰ぎます』
少女が天秤をかざす。
カゲトラが眉間にしわを寄せて、天秤を見つめていた。
カタン
天秤が少しも揺れずに左に傾いた。
会場がどよめく。
『左の皿に傾きました。今の戦闘は正当とみなします』
少女があっさりというと、天秤をしまって頭を深々と下げた。
『では、失礼します』
「あぁ」
少女が一瞬で姿を消した。
カゲトラが腕を組んだまま、ゼロを見下ろす。
「そうゆうことだ。俺は引っかかるが、お前は合格らしい」
「正当に判断してもらえてよかったよ」
ゼロが瓶のふたを閉めて、光にかざす。
魔法石が日差しを通して、赤、黄色、緑、青、紫、白に輝いていた。
「勇者様・・・」
メイリアとナナココが駆け寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
「さっきの何? すごい魔法だね。いたたた・・・」
ナナココが額の傷を押さえる。
「回復薬使い切ったのか? ほら・・・」
ゼロがナナココに回復薬の瓶を渡す。
「いいの?」
「いいよ。俺、いっぱい持ってるから」
「うん・・・ありがと」
ナナココが遠慮がちに受け取って、回復薬を飲み干していた。
みるみるうちに、傷が治っていく。
「ふぅ・・・これで、リスナーに心配させずに配信できる」
「痛覚を切ってないプレイヤーは珍しいって聞くけど」
「私は、本当にこの世界にいたいと思ってるから。なるべく痛覚は切らないようにプレイしたいの」
「ふうん」
ナナココがモニターを表示して、持っている道具を確認していた。
「勇者様の腕輪は何色になりましたか?」
メイリアが明るい口調で、ゼロの腕を見つめる。
「あ、そうだな。んー」
ゼロが手をかざすと、白から黒へ変わっていった。
「黒みたいだ」
「黒ですか。私と同じ剣士かと思ってたのですが、何の職業なのでしょう」
「黒ってなんの職業? おっさん」
「錬金術師だな。俺はお前を認めてないが、仕方ない・・・学長の判断は絶対だ」
カゲトラがゼロを睨みつけながら言う。
「今回の入学者は3人だ。学長がここに来る。それまで待っていろ」
「わかりました」
「あの、ここで配信していいですか?」
「構わない」
ナナココが嬉しそうに配信画面を開いていた。
「ゼロ」
「ん?」
カゲトラがゼロの横を通って、耳打ちする。
「お前が2回目に使ったのは闇魔法だろ? 隠しても無駄だ。一瞬だけ闇を放ち、すぐに光魔法を被せることで誤魔化していたはずだ。俺には見えていた」
「へぇ・・・・・」
「だが、学長がお前の入学を許した。気づかなかったのか、気づいていたのかは知らないけどな。危険だということには変わりない」
「そっか」
「俺はお前を見張っているからな」
「・・・・・・・・」
ゼロがカゲトラのほうを見上げて、無言のまま笑みを浮かべる。
「フン・・・不気味な奴だ」
カゲトラがマントを翻して、無言のままその場を去っていく。
「勇者様、どうしましたか?」
「あ、いや。それより、この魔法石綺麗だろ? 俺が錬金術師なら、こいつらもうまく魔道具として錬成できるかもしれないな」
言いながら、瓶をポケットにしまっていた。
『ナナココ、緊急配信だよ! なんとナナココはブレイブアカデミアに合格しました! そう、一次試験より二次試験はずっと難しくて、残ったのも3人だけなの』
ナナココがモニターに向かって、興奮気味に話している。
『そう。AIの受験者は全員、二次試験で落ちちゃったの。ナナココと、あと2人こっちの世界の子が・・・こっちの世界ってのは、異世界の、そう、マジなの!』
「いきなり配信って・・・よくやるよ」
「勇者様、観客席にいるのはブレイブアカデミアの先生や生徒たちでしょうか?」
「さぁな」
「試合開始の時より、増えているようなのですが」
メイリアが客席のほうを見ながら言う。
『ごめん、いったん切るね。また後で状況伝えまーす』
ナナココが慌ててモニターを切る。
シュンッ
中央の魔法陣から、杖を持った三角帽子を被った小人と、すらっと背の高い女剣士が現れた。
小人が前に出てくる。
鼻は高く、耳は尖っていて、目は大きかった。
「僕が学長のトリコだ。ドラゴン族の末裔で、普段はこうやって、ドワーフの姿に変装している。こっちのほうが何かと都合がよくてね」
ナナココが配信を切って、トリコ学長のほうを見る。
「メイリア、ナナココ、ゼロ、よく二次試験を突破してくれた。ブレイブアカデミアの学長として3人を正式に迎え入れるよ」
わああぁぁぁぁ
「おめでとう!」
「いい試合だったな!!」
「3人ともよかったぞ!」
堰を切ったように、歓声が沸き起こった。
デグ爺さんも落ち着いた様子で、拍手をしている。
「さんきゅ」
ゼロが観客席に両手を振っていた。
メイリアが照れながら、神を耳にかけている。
「はははは、久しぶりの入学者だよ」
トリコ学長が目じりにしわを寄せた。
「ブレイブアカデミアに入学できる者はなかなか少なくてね。最近創立して、まだ22人しかいないんだ。わからないことも多いだろう、彼女レイシアに質問するといい。一応、22人の中でも成績トップの実力者だ」
「レイシアです。ブレイブアカデミアの1期生、職業は剣士になります」
レイシアが無表情のまま頭を下げた。
「はい! あの、配信は・・・やってもいいのでしょうか?」
「あぁ、プレイヤーが来るのは初めてだね。もちろん。許可するよ」
トリコ学長が笑いながら言う。
「やった」
「トリコ学長!」
レイシアが眉間にしわを寄せて、声をかける。
「プレイヤーに内部情報を公開したら・・・」
「まぁまぁ、アポロン王国にブレイブアカデミアがあることを知らないプレイヤーも多い。多くの人に知ってもらって、受験者数、合格者数ともに増やしていかないといけないんだ」
「・・・・・・・」
「不満なのはわかる。でも、闇の王が誕生した以上、こっちものんびり選んでいられない。テミスの街のように、魔族に乗っ取られたらどうにもならないからね」
「それは・・・そうですね」
「一刻も早く、勇者となるべく優秀な人材を送り出さなければ」
トリコ学長が顔をしかめた。
「テミスの街って、どうなったんですか?」
メイリアが少し緊張しながら、トリコ学長に声をかける。
「知らないの? アポロン王国にいるのに?」
「私たちヒュプノスの街のほうから来たので、他の街のことあまり分かっていなくて・・・」
「テミスの街は、最初に闇に呑まれた光の街だよ」
トリコ学長が低い声で言う。
レイシアが悔しそうに奥歯を嚙んでいた。
「アポロン王国も危ないと言われている。2人は元々この世界の住人、1人はプレイヤーだから知らなくて当然だろう。いい機会だ。ブレイブアカデミアを創立した経緯を説明するよ」
「はい・・・・」
「僕についておいで」
トリコ学長が短い手を組んで、とことこ前を歩いていく。
ゼロとメイリアが後に続いた。
ナナココは配信したそうにうずうずしていたが、レイシアが睨みつけるとすぐにやめて、ゼロに駆け寄っていった。
読んでくださりありがとうございます。風邪をひいておりました。
夏風邪はバ・・・・・うん。
寒暖差すごいので皆様も気をつけてくださいね。
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次回は今週中にアップしたいなと思ってます。また是非遊びに来てくださいね。