57 Brave Man and Buddies(勇者と仲間)
アイリスは”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと行動を共にする。
主要人物
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
ミサリア・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗る。
メイリア・・・異世界から『ウルリア』に転移してきたVtuberの一人。仲間を戦闘で失い、ゼロの仲間になる。
リヴィアナ・・・”オーバーザワールド”序盤で倒されるはずだった魔族のキャラ。
ポロン・・・『終焉の塔』崩壊時の生き残りの少女。奇跡的に蘇った『ウルリア』の子供の一人
ユイナ・・・異世界から来たアバターで動く少女。
女性の転移は不可能とされていたが、魔女になることで転移可能となった。使い魔は猫。
”オーバーザワールド”・・・異世界の体感型ゲーム。魔王ヴィル、ゼロたちのいる世界との接続が完了した。
『ウルリア』・・・海に沈んだリーム大陸にあった都市。電脳空間にあった子供たちの脳は、ゼロが消滅させた。
「メイリア、あの薔薇拾わなくていいの?」
「いい。寒気がする」
「綺麗な薔薇なのに」
「じゃあ、ポロンが持っていけばいい」
「あたしがもらったわけじゃないもん」
ポロンがいつまでもドレークが置いていった薔薇を気にしていた。
「七つの大罪って、”オーバーザワールド”のストーリーを進めるのに関係あると思う?」
アイリスが少し伸びをしながらリヴィアナに話しかける。
「思わない。七つの大罪自体が闇にも光にも分類されない異質なものだし。開発者も意図してないから、どこか別のゲームから来たんじゃないかって話もあるくらいだよ。人間の村に行くなら、角隠さないと・・・」
リヴィアナが角を隠すように、髪の毛をわしゃわしゃしていた。
「どうしてそうゆうレアキャラ3人と遭遇するのか」
「ゼロは他の人にも会ったことあるの?」
「2人ね。傲慢と怠惰を名乗ってたよ」
ゼロが振り返ってアイリスのほうを見る。
「そういや、ミサリア見なかったか?」
「何?」
「わっ・・・」
ミサリアが軽く飛んで、ゼロの横に近づいていく。
「びっくりした。どこ行ってたんだよ。まさか転移魔・・・」
「そんなわけないでしょ。ふらっと離れてただけ。ゼロが勝手に見失ったんでしょ?」
「いや、でも、どこか隠れるようなところないし」
ゼロが指でこめかみを搔いていた。
ミサリアが髪を後ろにやる。
「もしかして、ゼロは少しでも私がいないと寂しくなるの? 意外と呪いの私に惚れちゃったり?」
ミサリアがおちょくるように言った。
「そうじゃないって。俺は元々勇者を想定して創られたアバターだ。パーティーの人数は常に把握しておく仕様になってる。見失って事件に巻き込まれてたら大変だからね」
「本当にそれだけ?」
「・・・・・・・・・」
ゼロが軽く頷いて視線を逸らした。
「そう! ゼロは勇者だからミサリアのことを気にしてたの。惚れたとかそうゆうのじゃないからね」
「ふうん」
「勘違いしたら駄目だから! ゼロはみんなに均等に優しいの! 誰かが特別とかないからね」
ポロンが釘をさすように突っかかっていった。
ミサリアがまだからかいたくて仕方ないような顔をしている。
ゼロが面倒くさそうな顔をして、息をついた。
「あはは、さすがヴィル様の兄で、モテますね」
「ふふ、ゼロはどこか魔王ヴィル様に似てるよね」
アイリスがつられて笑いながら言う。
「私も、妹がいるからゼロの気持ちは多少わかるよ。どうしても心配しちゃうんだよね」
「妹ってリリスですか?」
「そう。今頃魔王城で何してるのかな? って」
「リリスなら、マキアとセラと仲良くなってましたよ。魔王城に馴染んでるので大丈夫です」
「よかった」
アイリスがほっとしたような顔をした。
「でも、ゼロは全然ヴィル様のこと気にしてないように見えますけど」
「気にしてるよ」
「ん・・・・・・・?」
ユイナが不思議そうな顔をする。
「ゼロは本心を隠すのが上手いだけ。本当は魔王ヴィル様のこと、弟として心配してる」
アイリスがミサリアとポロンの間に入って宥めるゼロに視線を向けた。
「きっと今も本心が混ざったり、混ざってなかったり」
「そうですか・・・? あ」
ユイナがモニターを出して、遠くを指す。
「見えてきました。コカの村です」
「あれが・・・・」
街は草原の中にあり、色とりどりの花で囲まれていた。
低い建物が多く並び、どこかの国の城下町のような造りをしている。
「思ったより大きいね、アリエル王国くらいあるかな。こんなに広いのに、プレイヤーの地図に載らないなんて・・・」
「最近のゲームは未知のことが多いほうが盛り上がるんですよ。みんな配信したり、通信しながら情報収集しますから」
「確かにコカの村って書いてあるね。街に見えるけど」
アイリスがユイナのモニターを覗き込んだ。
「わぁ・・・・綺麗。本でしか見たことのない景色!!」
「おい、待てって。どこに敵がいるかわからないんだから!」
ポロンが目を輝かせて、駆けていった。
ゼロが慌てて追いかけていく。
煉瓦でできた門があり、近づくと花の香りがした。
警備員はなく、特に結界も張っていなかった。
「こんなに大きな街なのに、天使がいなくて壊れないのか」
ゼロが見上げながら言う。
「ミナス王国はすぐに消滅しそうになりましたよね」
「あぁ。入ったら何かあったりして」
「”オーバーザワールド”との完全接続で、世界のルールが変わってきたんだと思う。いざとなったら私とゼロがいればなんとかなるでしょ。花の甘くていい香り。見たことない花ばかりね」
アイリスが近くのピンクの花に顔を近づける。
「私、魔族だってバレなよね?」
「その帽子を被ってれば大丈夫だよ」
「属性の見た目を聖属性に変える帽子・・・うん。不安だけど」
ポロンがリヴィアナの帽子を押さえた。
「ミサリアは属性変更しなくていいの? 呪いなんでしょ?」
ポロンがもう一つ金色のバレッタをミサリアに渡そうとする。
「いらないわ。私は呪いだけど闇には分類されないもの。無属性かな」
「どうして・・・」
「光にだって呪いはあるでしょ?」
ミサリアが髪を耳にかけてほほ笑んだ。
「・・・・・・」
コカの村に入ろうとしないユイナのほうを見る。
「ユイナ、入らないの?」
「えっと、戸惑ってしまいまして・・・なんだか、一気に色んなことが変わってきてしまいましたね。Vtuberが現れたときからでしょうか・・・」
ユイナが腕をぎゅっと握り締めながら言う。
「私はこの世界への適合率が高かったから、転移させられて・・・他の異世界住人もまだちらほらアリエル王国に残っていますが・・・」
「”オーバーザワールド”で転移できるなら、自分たちがいらなかったんじゃないかって言いたいのか?」
ゼロが鋭い口調で言う。
「見た感じ、君らのほうがリスク高そうだしね」
「・・・・・・」
ユイナが口をつぐんだ。
「でも、君らはもう、こっちの世界の住人に近いんだろ? ”オーバーザワールド”で転移してくるプレイヤーとは別だよ」
「私もゼロと同意見。確かにゲーム感覚で転移してきた異世界住人(アース族)もいたけど・・・・今残ってるのは、この世界へ完全転移をしたい人たちだと思ってる」
アイリスがユイナの目を見る。
「・・・私・・・ずっと死にたいと思ってたんです。この世界で死ねば、もう二度と戻ってこれなくなりますが、元の世界に戻れるので」
「え!? そうな・・・」
「ポロン、しっ・・・」
リヴィアナがポロンの口を押さえた。
「本当は異世界転移なんかしたくなくて・・・でも今は絶対に生き延びようと思ってるんです。ヴィル様を助けるために」
ユイナが顔を上げる。
「そのためなら”オーバーザワールド”のどんな仕様も利用します。絶対にヴィル様を救い出します!」
「・・・うん」
アイリスが少し間を置いて、頷いた。
「ねぇ、君たち・・・っと。危ない。あ、ごめんごめん。見慣れない顔だなって思って。どこの街から来たの?」
ゼロが何か言おうとすると、10代後半くらいの青年に声をかけられる。
両手で抱えた紙袋には食料が入って、ゆらゆらしていた。
「ミハイル王国から来ました」
「ミハイル王国? あぁ、こっちの世界の王国のことか。そういやパーシーが言ってたな。どうやってこの街を見つけたの? っと・・・あぶな。買いすぎたかな・・・」
青年が落ちそうになったリンゴを空中でキャッチした。
「それは地図に載って・・・っんーんー」
「たまたま歩いてたら、街らしきものがあったので寄ってみたんです」
メイリアがポロンの口を押さえて、前に出てくる。
「へぇ、そうか。王国から意外と近いんだね。あ、君はアイリスだよね? 最強の人工知能IRIS」
「最強って言われると自信がないけど。一応、合ってるよ」
「プレイヤーたちが、急に配信なくなったからびっくりしてたよ」
「色々あって・・・しばらく配信は辞めようかなって」
アイリスが愛想笑いで誤魔化した。
「なるほど。いろんな視聴者いて大変そうだもんね。で? こっちのメンバーも、プレイヤーなの?」
「俺は勇者だよ。この世界の勇者」
「勇者!? マジか・・・」
青年がぱっと自分の前にモニターを出す。
「ガチで勇者ってこと? じゃあ、アイリス以外は勇者のパーティーってこと?」
「私も”オーバーザワールド”のプレイヤーです。なので、アイリスと同じですね。私以外は、こっちの世界の住人です」
ユイナがにこっとしながらアイリスの横についた。
「・・・・・・・・・」
ゼロが何か言おうとするポロンを止めた。
ユイナが手で話を合わせるように指示をしていた。
「それはすごいね。俺はトーマス、”オーバーザワールド”の住人でヒュプノスの街で生まれ育って、今はコカの村に住んでる。ギルドには所属していない、普段は酒場で料理人をやってるよ」
トーマスが紙袋を持ち直した。
「この村に来客も珍しいのに、勇者一行が来るなんて。そうだ、何か作ってやるよ。この世界の接続したって言われても、俺みたいな末端のキャラには情報がなくてさ。それに・・・」
トーマスがアイリスのほうに視線を向ける。
「人工知能IRISとも話してみたかったんだ。でも、この街でアイリスは変装しておいたほうがいい。有名すぎて、広まるのも早いからね」
「・・・わかった。ありがとう」
シュンッ
アイリスが一瞬で、ピンクの髪を水色に変えて、瞳を青く変えた。
長かった髪は、肩までつかないくらいの短さになっていた。
「え!?」
ゼロとメイリアがあからさまに驚いていた。
「アイリス、そんなことできたんですか?」
「『ウルリア』に行ったときに、自分用のアバターもひとつ作っておいたの。IRISで知ってる人に会うといろいろ大変で」
アイリスが人魚のピアスを触りながら苦笑いをする。
「これなら大丈夫だよね?」
「あぁ、さすがだね。その姿なら、絶対にバレないはずだ。ついてきてくれ」
トーマスが紙袋から食材が溢れないようにしながら歩いていく。
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