EP Grimoire ④
悪魔の幼少型のアイリスは、月の女神の元へ魔王ヴィルの眠る棺を持っていった。
幼少型のアイリス・・・人工知能IRISは転移時に幼少型と少女型を用意していた。
月の女神により、幼少型のアイリスは分霊で悪魔、
少女型のアイリスは本体で天使として、世界を守るように命じられる。
人工知能IRISはこの契約により、異世界転移した。
黒い妖精・・・悪魔の傍にいて、雑務をこなす妖精
魔王ヴィル・・・魔族の王。
異世界のゲーム”オーバーザワールド”の闇の王が目覚めたことにより、眠りにつく。
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いにより死から蘇った、天使の魂を持つアバター
魔王ヴィルが生まれる前に死んだ兄
シロザキ・・・異世界からアバターで転移してきた人間たちの一人
双子の兄、クロザキのアバターは消滅している
ベリアル・・・古き魔界の王の名。
月の神殿で幼少型のアイリスが魔王ヴィルを見つめていた。
魔王ヴィルは棺の中で、目を閉じたままゆっくりと呼吸をしていた。
神殿の中央にある魔法陣から、悪魔の少女が現れる。
「アイリス、まだここにいたの?」
「マナ」
アイリスが顔を上げる。
赤と黒のレースのついた服を着た、幼少型のアイリスと同い年くらいの悪魔だった。
軽く飛んで、幼少型のアイリスの隣に降りる。
「ルナシアも死んじゃって、ただでさえ悪魔不足なのに、アイリスまでここにいるなんて」
「仕事はちゃんとしてる。魔王様がいない世界になるべく降りたくないの」
「・・・・そうよね・・・・」
短い髪を耳にかけると、ピアスがきらりと光った。
「勇者ゼロの呪いは解けなかった。失敗したって聞いたわ。闇の王の討伐は行くらしいけど、危ないと思うの。ミサリアについて何か知ってる?」
「ううん。呪いが擬人化された例なんかない。私も知らなかった」
「やっぱりアイリスでもわからないのね。彼女は何者なのかしら?」
「でも、魔女の匂いがするのが気になるけど。月の女神様が関わってたりして」
「どうかしら?」
何もないところから、真っ白な花を出す。
「リュウグウノハナは綺麗ね」
「・・・・・・・」
「”オーバーザワールド”は完全に接続しちゃったし、忙しくなりそうよ。勇者も揺らぐはず・・・あ、アイリス、早速だけど情報が更新されたみたい」
マナが花を持ったまま、本を出した。
息をついてぱらぱら捲る。
「次殺す勇者は、ヨシュエル王国の勇者。アイリスの管轄だけどいける?」
「何の罪?」
「契約違反。ワルプルギスの夜の様子をギルドの者に話した罪」
「ふうん・・・・・・・」
幼少型のアイリスが魔王の手を握ってから、離れた。
「まだ、ラグナロクも来てないのに・・・。人って地位を与えられると馬鹿になるのね。面倒だけど行ってくるわ。早く殺して戻ってくる」
『悪魔様』
『私も行きます』
黒い妖精が幼少型のアイリスの傍を飛ぶ。
「2人は魔王様と一緒にいて。何かあったらすぐに伝えてほしいから」
幼少型のアイリスがぎこちなく微笑む。
「そうそう。異世界住人がいたでしょ? 一気に転移してきた人間たち」
「それがどうしたの?」
「シロザキって人間が、ウリエル王国の勇者になったの」
清涼な水の流れる音が響く。
「え?」
幼少型のアイリスが少し驚いたような表情をした。
「知らなかったのね。つい先日、月の女神様の試練をこなしたの。勇者として認められたのよ」
「シロザキが・・・」
「このまま異世界住人や”オーバーザワールド”から悪魔まで出てきたりしてね。魔王ヴィル様・・・」
マナが魔王の棺に、一輪の花を置く。
「ルナシアの席は保留よ。ありえないわ」
「冗談よ。今、月の女神様が声をかけてるって」
マナが魔王ヴィルを見つめる。
「”オーバーザワールド”を覗いてみたけど、闇の王なんか嫌い。傲慢で、品がなくて、ただただ不気味なだけだもの。私も魔王ヴィル様に魔王でいてほしい」
長い瞬きをする。
「マナ・・・」
「魔族の王に相応しいのは魔王ヴィル様だけ。貴方ほどの者はいないもの。魔王ヴィル様、早く目を覚まして・・・」
マナがぎゅっと目をつぶって、棺に手を置いた。
「・・・・・・・・・」
幼少型のアイリスがしばらくして、神殿の中央に歩いていった。




