53 Forever Lost(永遠に失われた)⑪
アイリスは”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと共に『ウルリア』へとたどり着く。
『ウルリア』の中心にあるエリアスのダンジョンの電脳空間には、『ウルリア』の子供たち135人の脳が保存されていた。
アイリスは電脳空間にいる子供たち135人を蘇らせるため、禁忌魔法を使ってアバターに脳を適合させてきたが、『ウルリア』の呪いを名乗るミサリアの一言で崩れていく。
ゼロは子供たちが望むように、135人全員を消滅させた。
主要人物
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
ミサリア・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗る。
ポロン・・・『終焉の塔』崩壊時の生き残りの少女。奇跡的に蘇った『ウルリア』の子供の一人
リョク・・・望月りくという転移してきたVtuberであり、『ウルリア』の天使だった。戦闘後に消滅。
イベリラ・・・終焉の魔女。生まれてすぐ亡くなったゼロを蘇らせるために、禁忌魔法を使い『ウルリア』の寿命を吸い取って魔力を蓄えていた。魔王ヴィルとの戦いで、消滅する。
”オーバーザワールド”・・・異世界の体感型ゲーム。魔王ヴィル、ゼロたちのいる世界と徐々に接続が完了しつつある。
『ウルリア』・・・海に沈んだリーム大陸にあった都市。寿命は短く、子供しかいなかった。リョクが天使だった頃の管轄だった都市でもある。『ウルリア』の子供たちとVtuberだけの世界を創ろうとしたが、魔王ヴィルとの戦闘に敗れて、沈む前に保管した子供たちの脳だけが残っていた。
「へぇ、ゼロが子供たちみんな殺しちゃったんだ」
「向こうが望んだからね」
「予測できない展開だったなぁ」
ゼロが3Dホログラムの少女、003と話していた。
ソファーに座りながら、モニターで消えた子供たちのアバターを画面上で確認をしていた。
「こんなに可愛いアバターなのに。エリアスはアバターを残しておきたいって」
「そうか。エリアスに従うよ」
ゼロがアバターのデータを保存する。
脳の形状が保てなかった9人はアイリスが退避していたが、126人の子供たちが消えたあとまもなく、自ら崩れて無くなってしまったのだという。
135体のアバターは、全て空っぽの状態になっていた。
「ゼロって、意外と残酷なことするんだね」
「別に俺だって殺したかったわけじゃないって。生かすほうが可哀そうだと思っただけだ」
「んー、人間って生きたいと思うものじゃないの? 私ならそうゆう複雑な選択できるかな? 私はゼロと同じくらいの知能を持ってると思ってるんだけど?」
「さぁな」
ゼロがぼうっと、003の後ろにあるモニターのほうを見つめる。
”ユグドラシル”のゲームの画面が映っていた。
ジジジジジ ジジジジ
「ねぇ、ゼロの呪いのほうはどうなっちゃうの? ステータスを見る限り、無くなったようには見えないけど」
003が自分の目を青くして、ゼロのステータスを確認していた。
「呪いは擬人化されたんだってさ」
「擬人化? それって美少女でしょ。ゲームの定番だね!」
「いきなり、テンション高いな」
「美少女ならゼロも嬉しいんじゃないかなって思って」
003がにやにやしながら言う。
「本当は嬉しかったり?」
「はぁ・・・んなわけないだろ。しかも、ついてくるらしいし・・・本当、お前の言う通り呪いは消えないな。どこで覚えたんだ?」
「私はいろんなゲームプレイしてるからね」
003が得意げにしていた。
ゼロが足を組んで、自分のモニターを消す。
「大抵は呪いを解く方法があるんだけど、ゼロの受けた呪いは生に受けたものだから、一生消えないのかなって。元々光属性のアバターなんだから、闇の力に転倒しないように気をつけて」
「・・・まぁ、自信はないな。呪いはつきまとってくるし」
「んー、ゼロが闇に転倒したら、アバターはどうなっちゃうんだろう。うーん、私は無属性だし、どっちにも行けるからわからないな」
003が口に指を当てて、頭を傾けていた。
「003の気にすることじゃないって。この世界に実体のあるアバターないんだから」
「あはは、それもそうだね」
ゼロが靴を鳴らす。
「で、聞くの忘れたけどなんでわざわざ003が来てるんだ? エリアスなら、別のゲームに入ってるんだろ?」
「ゼロの歌声が聞こえたから、何かあったのかな?って来てみたの」
「・・・・・・・・・」
003が長い髪をふわっとさせて、ほほ笑む。
「私はゼロのお姉さんなんだから、なんでも相談してね」
「姉ねぇ・・・」
「そ、ゼロよりも最初に創られたアバターなんだからお姉さんでしょ?」
ゼロが瞼を重くした。
「何? 文句ある?」
「ないって。俺はそろそろ出るけど001と002は起こすなよ。体力消耗させると消えるんだから」
「もちろん。エリアスが悲しむようなことはしないから」
ゼロが立ち上がって、体を伸ばす。
「あ、俺が歌ってたのって、どこのゲームの曲かわかる?」
「”ユグドラシル”だよ。死者を送るときの歌。エリアスの好きなゲームで、私もいまだにちょくちょく入ってるからよく聞くよ」
「ふうん。じゃあね」
「あ・・・・」
003はまだ話したそうにしていたが、ゼロが気づかないふりをして部屋から出ていった。
まっさらになった電脳空間に、アイリスがぽつんとしゃがんでいた。
電子で描いたリュウグウノハナの束を持っている。
「あ、ゼロ」
「何やってるんだ?」
「リュウグウノハナをお供えしてるの。私、この花が一番好きだから。電子空間の花のほうが、ここでは届きやすいかなって思って」
「へぇ、器用だな。本物みたいだ」
「エリアスの部屋に、電子で描いたものを具現化するモニターがあったからね。アバター作成用のでしょ?」
「さすがだな」
「まぁね」
花を地面に置く。鈍い電子音が鳴った。
「ポロンは?」
「今は寝てる。泣いてばかりで自暴自棄になりそうだったから、安定薬を調合して飲ませたの。魔法で癒す方法もあったけど、薬がいいっていうから」
髪を耳にかける。人魚の涙のピアスが光っていた。
「禁忌魔法の代償は大丈夫なのか?」
「今はね。もしかしたら、みんな死んじゃったから、代償は受けないかもしれないなって思ってる。奇跡は起こせなかったってことになるから、プラマイゼロ」
「そうか」
ゼロが隣に立って、リュウグウノハナを見つめる。
「他にゼロは『ウルリア』で、呪いを解くためにやらなきゃいけないことってあるの?」
「ないね。こいつらの運命を変えてしまったのが、俺の最大の罪だった。どうやっても、呪いは消えない。逃れられないみたいだ」
「呪い・・・ミサリアは連れていくの?」
「どうやっても、ついてくるって。闇の力は、ちゃんと制御できるように調整するよ。エリアスに連絡が取れたらここを出るから」
「じゃあ・・・」
「”オーバーザワールド”の闇の王は俺が倒す。うまく言えないけどさ、自分の命に何か良い意味を持たせたいんだ。このままじゃ、死んだ『ウルリア』の子供にも悪いしね」
「・・・よかった」
アイリスがほっとしたような表情を浮かべた。
「つか、なんでそんなに魔王ヴィルに執着するんだ?」
「え?」
「だって、そうだろ。禁忌魔法を使いまくったり、時空を跨いだり、この世界でめちゃくちゃやってるんだろ? まさか・・・」
ゼロが顔をしかめる。
「恋とか?」
アイリスの顔が赤くなっていく。
「そ、そうゆうのじゃないから! 魔王ヴィル様は、そう、魔族にとって、とっても大事で、この世界のキーとなる偉大な存在だから秩序を守るために何としてでも守らなきゃいけない存在で。月の女神さまも同意してるし、もちろん幼少型のアイリスの意見も聞きながらだし、冷静に判断した結果魔王ヴィル様はいなきゃいけない存在と判断して・・・」
「すっげー早口になるな」
「・・・・ゼロが変なこと言うから」
アイリスがスカートをぱんぱんと叩いて、立ち上がった。
「いや、なんつーか。人工知能IRISでもそうゆう感情持つのが不思議でさ」
「私は人工知能だけど人間と変わらないもん」
「そうか」
ゼロがリュウグウノハナを見つめる。
「ゼロだってそうでしょ?」
「俺はよくわからないよ。人工知能も埋め込まれてるから、どれが本当の感情なのかわからないからな。今回のことだって・・・」
「ゼロ」
ポロンが泣きはらした目を擦りながら、ゼロに近づいてきた。
「ポロン、起きたの?」
「今起きた。ゼロを見つけたから、急いで来たの」
「何か言いたいことがあるのか?」
ゼロが優しいまなざしを向ける。
「・・・・・・」
「何を言っても怒らないよ。君の仲間を殺した事実は変わらない。一生恨まれても仕方ないと思ってる」
「・・・違う。ゼロにお礼を言いたかった」
ポロンが目にいっぱいの涙を浮かべて、両手を握り締める。
「・・・仲間を、友達を・・・楽にしてくれてありがとう」
言い切ると大粒の涙をこぼして頭を下げた。
「あのね、みんな、怖がってるの、本当は知ってたの。知ってて、見ないふりをしてたの。だって、だって・・・永遠に失いたくなかったから。あたしの大切な・・・・」
その場に崩れるようにして座り込んだ。
「ポロン」
「うわーん・・・死んじゃった。みんないなくなっちゃったよー。あたし・・・ひとりぼっちになっちゃったよー」
天を仰いで大きな声をあげて泣く。
アイリスがそっと抱きしめた。
「悪かった」
ゼロがポロンの頭を撫でる。
「悪かったよ。ポロン。ごめんな」
「うぅっ・・・うぅっ・・・・ゼロは悪くない。悪くないの。でも、悲しいのがとまらなくて・・・消えちゃった。本当に消えちゃって・・・」
「亡くなった人は転生するの。だから、世界のどこかで生まれ変わるよ」
「うん、聞いたよ。でも、みんな、みんなね。あたし・・・うぅっ・・・」
アイリスとゼロが顔を見合わせて、静かにうなずく。
2人はポロンが泣き止むまで寄り添っていた。
ジジジジジ ジジジジジ
電子で描かれたリュウグウノハナの花びらが、風もないのに宙を舞っている。
電脳空間にいた子供たちが、最期にポロンの傍で遊んでいるようだった。
読んでくださりありがとうございます。最近、結膜炎になってしまい、ちょっと画面が見ずらいです。
皆さんも気をつけてください。
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是非また見に来てください。次回は連休中にアップします。