52 Forever Lost(永遠に失われた)⑩
アイリスは”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと共に『ウルリア』へとたどり着く。
『ウルリア』の中心にあるエリアスのダンジョンの電脳空間には、『ウルリア』の子供たち135人の脳が保存されていた。
アイリスは電脳空間にいる子供たち135人を蘇らせるため、禁忌魔法を使ってアバターに脳を適合させてきたが、『ウルリア』の呪いを名乗るミサリアの一言で崩れていく。
子供たちはアバターで生きることより、死を選んでいた。
主要人物
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
ミサリア・・・ゼロに降りかかる『ウルリア』の呪いを擬人化した存在と名乗る。
ポロン・・・『終焉の塔』崩壊時の生き残りの少女。奇跡的に蘇った『ウルリア』の子供の一人
リョク・・・望月りくという転移してきたVtuberであり、『ウルリア』の天使だった。戦闘後に消滅。
イベリラ・・・終焉の魔女。生まれてすぐ亡くなったゼロを蘇らせるために、禁忌魔法を使い『ウルリア』の寿命を吸い取って魔力を蓄えていた。魔王ヴィルとの戦いで、消滅する。
”オーバーザワールド”・・・異世界の体感型ゲーム。魔王ヴィル、ゼロたちのいる世界と徐々に接続が完了しつつある。
『ウルリア』・・・海に沈んだリーム大陸にあった都市。寿命は短く、子供しかいなかった。リョクが天使だった頃の管轄だった都市でもある。『ウルリア』の子供たちとVtuberだけの世界を創ろうとしたが、魔王ヴィルとの戦闘に敗れて、沈む前に保管した子供たちの脳だけが残っていた。
「死にたくないやつは手を上げてくれ。そいつだけ、離れててもらう」
「ゼロ! 何するの!?」
「お前らの意志を知りたい。生きてる限り、ここから出られる可能性はある。俺が探す。約束する! それでもお前らは死にたいか?」
ポロンの声を無視して、ゼロが子供たちに呼びかける。
「・・・・・・・・・」
しんと静まり返っていた。
「・・・わかったよ」
「違う、違う、ゼロ、そんなはずはない!」
ポロンが首を振って近くにいた少女の手を握る。
『ポロン・・・』
「ねぇ、サリナは違うよね? 魔法使えるって喜んでたじゃん。これからはずっと一緒だって話してくれて・・・」
『ごめんね。ポロン』
サリナがポロンの額に、自分の額をくっつける。
ジジジジ ジジジジ
「!?」
ポロンの額にぴりっと電流が走る。
サリナの右指は透けていた。
『私はもう駄目みたいだよ』
「そんな・・・そんなこと言わないで。信じて、このアバターはサリナだけのものだから。ちゃんと適合して、こうやって話もできてるし」
『へへへ、死ぬのは怖くないよ。ポロン、一人にしてごめんね。一緒にギルドを作って、冒険に出かける夢も、お祭りの屋台で美味しいものたくさん食べる夢も、叶えられなくてごめん』
「・・・・・・・」
『ポロンは私の分も生きて。リョク様が言ってたこと覚えてる?』
「生まれ変わりの話?」
『そう。大人になって、また会えたらいろんな話をしてね』
サリナが力なく笑って、ポロンから離れる。
「いやだ、いやだよ。お願い、サリナ」
ポロンが涙をこぼしながら首を振った。
「もう一度聞くが、生き残りたいやつはいないってことでいいな?」
『いいよ』
『こうやって少しずつ体が崩れていくほうが怖い』
『俺たち、どうなっちゃうんだろうって。体が分離し始めてる。脳までおかしくなったらって思うと、今すぐにでも殺してほしい』
少年が自分の腕を見つめながら言う。
『本当は脳が保管されてるときもずっと怖かったんだ。リーム大陸が沈んだ時も・・・このまま消えちゃいたいって思ってた』
『私もだよ』
『拷問してきた人間たちも見てきたし、あんなふうに叫びながら死にたくなかったよね。太陽の光を浴びれなかったのは残念だけど。もう、楽になりたい』
全員が何の抵抗もなく、死を受け入れていた。
「待って! お願い!」
ポロンがゼロの前で両手を広げる。
「お願い・・・ゼロ、もう少し待って!! 話をさせて!」
「アイリス、ポロンを部屋に連れて行ってくれ」
「・・・・わかった」
アイリスがポロンを連れて飛び上がる。
「止めて!! 私の大切な!! 大切な仲間なの! 私には、もうここにいるみんなしかいないの!」
『ごめんね。ポロン。ポロンが来るの待ってるから。転生するまで待ってるね』
サリナが叫ぶように言う。
「・・・・・・・」
「離して! お願いだから・・・アイリスは方法があるって言ってたじゃない」
「もう、できない。あそこまで脳とアバターが分離してしまったら、元に戻らないの。人工知能を埋め込めばできないこともないけど、彼らの人格は失われてしまう」
「そんな・・・じゃあ、最期までみんなの傍にいさせて・・・」
ポロンが何度も首を振っていた。
「駄目。邪魔になるから。ゼロの、ね」
「いや・・・こんなの・・・」
アイリスが抵抗するポロンを押さえつけるようにして、部屋に向かって飛んでいく。
カンッ
ゼロがアメジストの剣を地面に突き刺した。
地面に聖なる魔力が流れる。
「痛みはない。すぐ楽になる。でも、魔法は・・・少しびっくりするかもしれないから、みんな目を閉じててくれ。なるべく早く終わらせるから」
『ありがとう。ゼロ様』
「・・・・・・・・」
子供たちが目を閉じる様子をじっと見つめていた。
すっと息を吸う。
― 祈りの業火 ―
ゴオォォォオオオオオオオオ
ガシャン しゅうぅぅぅぅ
『ありがとう。ゼロさ・・・』
子供たちが一瞬で白い炎に包まれる。
アバターも、ガラスの筒も、テーブルも寝床も、武器も、防具もすべて真っ白な炎が焼き尽くしていった。
ミサリアがふわっと飛んで、ゼロの横に立つ。
「炎なのに吹雪みたいな魔法ね」
「・・・・・・・・」
「大丈夫。ちゃんと消えていってるわ」
「これで満足かよ・・・」
ゼロが下を向いたまま、剣を握り締める。
子供たちのほうを見ずに、手を震わせていた。
「どうしたの? そんな声を荒げるなんて。彼らの望みを叶えてあげただけでしょ?」
「俺は・・・こんなことをするために生まれてきたのか・・・?」
「ん?」
「生かして殺す・・・なんて、辛いに決まってるだろ」
「・・・ゼロにもそうゆう感情、あるのね」
ミサリアが涼しげな顔で言う。
「呪いにはわからないだろうな。こいつらより、俺のほうが死ぬべきなのに、なんで俺が殺してるんだよ」
ゼロが額に剣を押し当てて目を閉じていた。
ぐっと奥歯を嚙む。
「なんで俺が生きてるんだ・・・・。どの物語を見たって、勇者が子供を殺す世界なんてありえないだろ。こいつらは、俺さえいなければ、あの終焉の魔女さえいなければ、普通に大人になって、夢だって叶えられたかもしれないのに・・・クソが・・・・」
「安心して。誰も苦しんでない。雪が積もってるみたいだよ。ほら」
「・・・・・?」
「ゼロの言う通り、痛みはなかったみたいね。静かに消えていった」
ゼロが顔を上げると、辺り一面真っ白になっていた。
子供の声は無くなった。
ガラスの筒が出す電子音も無くなった。
ただ、真っ白な炎だけがうっすらと広がっている。
「綺麗な魔法ね・・・天使が使う魔法によく似てる。遠い昔で、忘れちゃったけど」
ミサリアが目を細める。
「お前は呪いなんだろ? 俺を殺せないのか?」
「呪いは死よりも生きる残酷さを選ぶに決まってるでしょ」
「・・・だよな。言うと思ったよ」
ゼロが片膝を立てて座り直す。
マントを後ろにやった。
「でも、私がいるから貴方は呪いが体から切り離されてるのよ。もう少し感謝してもらってもいいと思うんだけど?」
「こんなことをさせておいて、どうやって感謝すればいいんだよ」
「ふふ・・・そうね。これから、私はゼロについていく。これは貴方の生と共にある契約だから、拒否できないわ」
ミサリアが笑みを浮かべた。
「残念ね」
「本当にな」
ゼロが長い息を吐いた。
「一人にさせてくれ」
「いいけど、呪いからは逃げられないからね。自害しようとすれば、その前に私が貴方の心臓を掴んで苦しめるから」
「性格悪いな」
ゼロがアメジストの剣の魔力を、すっと変化させる。
「わかってるよ。一人でこいつらを弔ってやりたいだけだ。といっても、弔い方なんてわからないから、他ゲームの情報を引用するしかないけどさ」
「ゲーム・・・・?」
ミサリアが首をかしげる。
「俺はエリアスに色々情報入れられてるんだよ。その中に、天界へ死者を送り出す魔法がある。効き目はあるんだか知らないけどな」
― 天界への導き ―
さああぁぁぁぁ
アメジストの剣を小さく回して、たくさんの光の玉を出現させた。
ふわふわとしながら、真っ白な炎の中に入っていく。
「送り火? っていうのか?」
「そんな毒々しい剣から、よく聖なる魔法なんて出せるのね」
ミサリアが光の玉を一つ引き寄せて言う。
「その剣、”オーバーザワールド”の闇属性の剣でしょ? 流れる毒は調整しているのね。勇者は光属性の剣を持ったほうが闇に呑まれず馴染むのに、なんでそんな剣なんか・・・」
「美しい剣だろ?」
ゼロが柄の部分に埋め込まれたアメジストを触りながら言う。
「何でも使いこなせるのが勇者だ。闇の剣であっても問題ない」
「あ、そ」
ミサリアが興味なさそうに呟いて、離れていった。
アメジストの剣をしまう。
「さてと・・・・・死んだら声はいつまで届くんだろうな」
光の玉と真っ白な炎を見つめながら、歌を口ずさむ。
一度も聞いたことはないが、自分の中にインプットされている、死者を送る歌を・・・。
読んでくださりありがとうございます。昨日七夕でしたね。
七夕にこの話を出したかったなーって思いながら1日過ぎてしまいました。
ブクマや★で応援いただけると大変うれしいです。
また是非遊びに来てくださいね。次回は今週中にアップします。




