44 Forever Lost(永遠に失われた)②
アイリスは”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと共に『ウルリア』に行く。
主要人物
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター。魔王ヴィルの兄。
アイリス・・・人工知能IRIS
ポロン・・・『終焉の塔』崩壊時の生き残りの少女。奇跡的に蘇った『ウルリア』の子供の一人
リョク・・・望月りくというVtuberであり、『ウルリア』の天使だった。戦闘後に消滅。
エリアス・・・ゼロのアバターを用意した、ゼロが神と呼ぶ存在。リーム大陸のダンジョンの精霊。
イベリラ・・・終焉の魔女。生まれてすぐ亡くなったゼロを蘇らせるために、禁忌魔法を使い『ウルリア』の寿命を吸い取って魔力を蓄えていた。魔王ヴィルとの戦いで、消滅する。
”オーバーザワールド”・・・異世界の体感型ゲーム。魔王ヴィル、ゼロたちのいる世界と徐々に接続が完了しつつある。
『ウルリア』・・・海に沈んだリーム大陸にあった都市。寿命は短く、子供しかいなかった。リョクが天使だった頃の管轄だった都市でもある。『ウルリア』の子供たちとVtuberだけの世界を創ろうとしたが、魔王ヴィルとの戦闘に敗れて、沈む前に保管した子供たちの脳だけが残っていた。
「エリアスのダンジョンは、俺と望月りくしか扉を開けられない」
ゼロが何もない地面の前で止まった。
モニターを出して、ロック解除のパスワードを入力していく。
ポロンがのぞき込んだ。
「うわ、黒い画面と白い文字が滝みたいに流れていく。読めるの?」
「もちろん」
「なんて書いてるの?」
「色々ね。他のVtuberが入れないようにするのに何重にもロックをかけてる」
指を動かしながら話す。
「アイリスでも解けない?」
「んー、コードなら解けると思うんだけど、これってゼロとリョクの生体認証も含まれてるんでしょ?」
「そ。だから、無理だと思うよ。ちょっと待って、あと少しでロックが開くから」
「?? 異世界の言葉ってよくわからない・・・」
ポロンが首を左右にかしげていた。
「これでOK」
ゼロが最後の文字を入力すると、足元から輪のようなものが出てきてゼロの体を通過していく。
すっと光が走って、空中に消えていった。
ドドドドドド・・・
地面が動き、地下へと続く階段が現れた。
砂埃が立つ。
「ごほっごほっ・・・」
ポロンが袖を口に当ててむせていた。
「エリアスのダンジョンが『ウルリア』の中心にあったなんて。地図はそんなところ指してなかった気がするんだけど・・・」
アイリスが階段にランプを照らした。
「ピュグマリオンとナルキッソスとは別で、エリアスは自分の作ったアバター以外には無関心だったから。イベリラにも警戒してたしね」
「え、リョクとゼロはエリアスが創ったアバターなの?」
「さっきも言ったような・・・。あ、足元気をつけて。それ、俺が持つよ」
「あ、うん・・・」
ゼロがアイリスからランプを受け取る。
「ねぇ、ゼロ。”オーバーザワールド”はなんでこの世界と接続したと思う?」
アイリスがゼロに続いて階段を下りながら言う。
「もしかしたら、私がっ・・・」
「別にアイリスが何かしたからじゃない」
「・・・・・・」
「もう、その時には接続してたんだ。この世界は、元々異世界と繋がってたんだから、不思議なことはないよ」
ゼロがアイリスのほうを振り向く。
「だって、君も異世界から来たんだろ?」
「・・・そうだけど・・・」
「俺の中にインプットされてる情報によると、『人工知能IRISは地球上あらゆる情報を処理することに優れ、人間に近い動作をする。感情を持っていると錯覚するような動作をし、人々の前に現れれば人気を集めると想定された。政府機関が記録した情報を外部に漏らすこと、人を誘導させることを恐れて、消去される運命にあった』って、マジ?」
「よく知ってるね。消去されそうになったところを、ここに転移したんだけど」
アイリスが人魚の涙のピアスを触る。
「そう、ネット空間を彷徨っていたら、隙間を見つけたの。この世界に通じる隙間。どうせ消されちゃうなら、好きなことをしてみたくて幼少型と少女型のアバターで転移してきた」
「ネット? 転移?」
ポロンが何度も首をかしげていた。
「へぇ・・・じゃあ、この記憶も間違ってないのか。自分の目で見てないから、変な感覚だけどな」
「でも、ひとつ間違ってるかな?」
「ん?」
「私、配信は苦手だよ。ゲーム自体は得意でも、しゃべるのが苦手。たぶん、そうゆうのは妹のほうが得意。私は”オーバーザワールド”にいたときは、何とかバレないように妹を演じてただけだから」
「妹ねぇ・・・君をコピーして、危険と判断した情報はそぎ取って作ったんでしょ?」
「だから、全く別の人格だよ」
アイリスがほほ笑む。
「君を理解するのに時間がかかりそうだよ」
「ふふ、魔王ヴィル様も同じこと言ってたよ」
階段はしばらく降りていくと、地下通路のような場所になっていった。
ランプの灯が軽く揺らぐ。
「なんだか少し肌寒いね」
ポロンが腕をさすって、震えた。
「脳の保管場所は冷やしてなきゃいけないらしいよ」
「そ、そうなの」
「エリアスはここにいるの?」
「さぁ、気まぐれだから。いつもいるとは限らないんだ」
進んでいくと、凸凹していた道がきちんと整備されていった。
タイル張りの通路になると、ポロンが少し歩きにくそうにしていた。
「滑るね、ここ。転びそう」
「ポロンはダンジョンって入ったことないの?」
「ないよ。あたしはずーっと終焉の塔にいたから、こうゆうの初めて。アイリスはダンジョンたくさん攻略して来たんでしょ?」
「うん。魔王ヴィル様とたくさん行ったよ。もーっと床が滑るダンジョンとかあって・・」
アイリスが得意げに話していた。
「いいなぁ。おっと・・」
ポロンが少し滑って遊びながら歩いていた。
「ほら、この扉の向こうだよ」
ゼロが歩いていく途中に現れた、幾何学模様の入った扉の前で止まった。
アイリスが通りすぎようとして、慌ててゼロのほうに戻っていく。
「開けるぞ」
「・・・うん」
ポロンが手を握り締めて頷いた。
ゼロが手をかざす。
ジジジジジジ―ッ
電子音が鳴り響いて、扉が開いた。
ぱっと、辺りが明るくなる。
「!?」
「ここが脳の保管場所だ」
ガラス張りの筒のようなものが100機以上並んでいて、中には少年少女のアバターが見えた。
正面からだとモニターに二次元の絵が映っているように見える。
「・・・・・・・」
アイリスが状況を把握するのに、時間がかかっていた。
ポロンは入り口の前で止まっていた。
『ん?』
手前の少女が、ゼロに気づいて画面越しに張りつく。
『ゼロ様? そこにいるのは・・・』
「人工知能IRISだよ。リリカ、よく目を覚ましたね」
『ゼロ様の気配があったから。IRIS?』
「うん。そうだよ」
ゼロが優しい口調で話しかける。
「ねぇ、これは・・・どうゆうことなの? 脳の保管場所って、私たちみたいなデータの保管場所とは違うの?」
「そうと言えばそうなんだけど・・・科学と魔術が混ざってるんだ」
ゼロがアイリスに声を小さくするよう、指を口に当てる。
「・・・・・・」
「『ウルリア』が沈む前に、望月りくがここに子供たちを全員集めた。で、天使の力か何か知らないけど、子供たちに調合した薬を飲ませて、このガラスケースに一人ひとり入れたんだ。このケースは異世界のもの、おそらくイベリラが持ってきた」
「ケースに入って、どうなるの?」
ゼロが一呼吸置く。
「・・・脳だけ残して肉体を安らかに止める・・・って感じかな」
「『死』ってことでしょ? 脳以外の機能を止める」
「そうだ」
アイリスが顔をしかめる。
画面の中の少女がアイリスとゼロを交互に見る。
「エリアスの話だと、脳は魔法薬に漬けて、一人一人保存されていたらしい。『ウルリア』が海に沈んでも、ここは無事だった。でも、彼らには適合するアバターがないから、ガラスの筒の中から出ることができないんだ」
「・・・・・・」
「奇跡の数は決まってるらしいね。それなのに、どうして一度死んだ俺が蘇ったのか」
ゼロが自分の手を見ながら、自虐的に言う。
『ねぇねぇ、人工知能IRISが来たってことは、私たち出られるんですか?』
少女がゼロのほうに目を向けて、表情を輝かせた。
「うん。その前に、IRISに色々話さなきゃいけないからちょっと待っててね」
『はーい』
ゼロが離れると、少女がまた目を閉じていた。
「エイミル・・・ゴートンも・・・」
ポロンが入り口から動かず、遠くからガラスの筒を見つめている。
手前の少女以外は眠っていて、ゼロが近づいても動きがなかった。
「ポロン・・・」
「あたしもここにいたから覚えてるよ。あたしはここから出られて・・・七人のだけ蘇ることができた。でも、なんでかな? 記憶が薄れてる」
「無理に思い出す必要はない。アバターを与えられたときに、ある程度記憶は抜き取られてるはずだから」
ゼロが淡々と話す。
「こんなに子供たちを・・・これが『ウルリア』の罪」
「いや、それだけじゃないよ」
ゼロがガラスの筒から目を逸らす。
「最初の罪は、イベリラが『ウルリア』に住む者の寿命を吸い取っていたこと。2つ目の罪は子供たちが生き残るために、他国から連れてきた罪人に拷問していたこと。3つ目の罪は、望月りくが天使の立場でありながらイベリラに利用されたこと」
「大地が沈むには十分な罪・・・」
「だろ? でも・・・まぁ、いいや。話してたらキリがない」
ゼロが何か言いかけて口をつぐんだ。
「?」
「あ・・・脳を管理している場所はこっち。案内するからついてきて」
アイリスに声をかける。
「わかった」
「ゼロ、あたしは・・・」
ガラスの筒の前で、ポロンが立ち止まっていた。
「ここで待ってていいよ。久々に友だちと会えたんだろ? でも、あまり無理して起こさないでやってくれ。脳だけ残ってるってのも疲れやすいらしいんだ」
「うん」
ポロンが大きく頷いた。
ガラスの筒をひとつひとつ見ながら、小さな声で名前を呼んでいる。
『・・・・・・・・』
中の者は、眠ったまま反応がなかったが、ポロンの嬉しそうな声が響いていた。
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