43 Forever Lost(永遠に失われた)①
アイリスは”オーバーザワールド”の闇の王を倒して、仮死状態になってしまった魔王ヴィルを復活させるため、勇者ゼロと共に『ウルリア』に行く。
主要人物
勇者ゼロ・・・『ウルリア』の呪いから生まれた、天使の魂を持つアバター
アイリス・・・人工知能IRIS
ポロン・・・『終焉の塔』崩壊時の生き残りの少女。奇跡的に蘇った『ウルリア』の子供の一人
リョク・・・望月りくというVtuberであり、『ウルリア』の天使だった。戦闘後に消滅。
エリアス・・・ゼロのアバターを用意した、ゼロが神と呼ぶ存在。
サタニア・・・魔王代理。異世界から転移してきた少女。
現在は”オーバーザワールド”の七つの大罪、傲慢のジオニアスに捕まっている。
”オーバーザワールド”・・・異世界の体感型ゲーム。魔王ヴィル、ゼロたちのいる世界と徐々に接続が完了しつつある。
深い夜空に宝石をちりばめたような星が広がっていた。
潮風が香る。
アイリスがスレイプニールから降りた。
「これが本当にリーム大陸なの?」
「そうだよ」
ゼロがポロンの手を取って、地面に降ろす。
リーム大陸は草木がほとんどない、砂と岩ばかりの地になっていた。
「誰もいない。人の気配がない・・・動物の気配も」
「『ウルリア』のあった場所は?」
「そこが『ウルリア』のあった場所だよ。Vtuberたちが、思い思いに描いてた土地は消滅した。残ってるのは、ナルキッソスのダンジョンとピュグマリオンのダンジョン・・・」
ゼロがスレイプニールを撫でながら言う。
「あとは、エリアスのダンジョンくらいだ」
マントを後ろにやった。
「想像以上に何もなくなっただろ」
「どうして、こんなことになったの? Vtuberがいなくなったから?」
ポロンが呆然としながら呟く。
「あの戦いに負けたのもあるよ。でも、一番の理由は『ウルリア』の天使が死んだからだ。この世界で、天使や堕天使のいない国は力を失うんだろ? そうゆうのはアイリスのほうが詳しいよ」
「え・・・うん。王族は天使を召喚して国を創るの。天使や堕天使がいない国は力を持てない。滅びる運命にある」
アイリスがランプに明かりを灯しながら言う。
「この世界のルールだよ」
「面倒だよな。天使なんて、堕天したりどっかの国に行ったり、好きにやってるのに。スレイプニール、ありがとな。ゆっくり休んでくれ」
ゼロがスレイプニールを魔法陣の中に戻した。
「ここにいたVtuberって本当に誰も残っていないの?」
「ほとんどのVtuberは望月りくがいなくなってから消滅していった。ざっくり言うといい感じに残れた例外もあるけど、大体消滅したよ」
「消滅って死んだってこと?」
「そ。どの電子空間にも残っていない」
「・・・・・・・・」
ゼロが軽い口調で話していた。
「さぁ、行こう。みんなの脳が保管されているのは、『終焉の塔』があった場所から、少し離れたところだ」
「ゼロは悲しくないの?」
「俺?」
「だって、Vtuberと組んでたんでしょ? 私たちが目を覚ましたときに、『ウルリア』の理想郷の中心はゼロだって聞いてた・・・」
「勘弁してくれ」
ゼロが頭を搔く。
「俺は別にこんな体いらなかったし、少しも望んでいなかった。ここにVtuberと”ウルビト”だけの理想郷を創るなんて思い上がりもいいところだ」
「・・・・・・・」
「俺は別に望月りくが目指した『ウルリア』を創るためにここにいるんじゃない。ただ、自分に埋め込まれた役目を果たすためだ」
ゼロがポロンに顔を近づける。
「苦しいなら引き返したほうがいいと思うけどいいのか?」
「う・・・ううん。大丈夫。覚悟して来たから」
「じゃあ、いいけど」
ポロンが思いっきり首を振って、顔を背けた。
「・・・・・・」
さらさらになった髪を手櫛でとかしている。
「本当に何もないのね。ずっと同じ景色」
アイリスが砂地を歩きながら言う。
「ゼロが『ウルリア』って言った地点から想定すると、この辺りは確か、ライブ会場のようなものがあったはず。でも、今は何もない。あんなに満ちていた、不思議な魔力も全く感じない」
「元々、罪を重ねて沈んだ大陸だ。清らかな天使の心臓で一時的に浮上しただけの国。あんな風に、Vtuberの創造するままの世界が存在してたこと自体がおかしかったんだ」
ゼロが近くに岩に触れて、段差を上る。
「呪われた地に、草木が芽吹くことはない」
「ゼロ・・・・」
「でも! あたし、『ウルリア』に来たことは後悔してないんだよ」
ポロンがゼロのほうを見てほほ笑む。
「寿命を奪われてるから大人になれずに死んじゃう、とか、初めて聞いたときは驚いたけど、あたしたち4人とも、元いた国では奴隷だったから」
手首をさする。
「リョク様が連れて行ってくれたの。みんなに会わせてくれた」
「ふうん。随分、ポジティブだね」
「だって、『ウルリア』に来なきゃ、ゼロに会えなかったでしょ?」
ザザーッ
「んーここに人?」
「!?」
「誰もいないと思ってここにいたんだけどなー」
突然、巨大な岩陰から少年が顔を出した。
フードを深々と被って、眠そうな目をゼロに向ける。
― ホーリーソード ―
― アメジストの剣 ―
アイリスとゼロが一瞬にして剣を構えた。
「お前は誰だ!? 『ウルリア』の者ではないな?」
「『ウルリア』・・・んー、聞いたことないような、あるような・・・」
「気配が・・・無い? なんだろう、この感覚・・・」
ポロンが一歩下がって、杖に手をかけた。
「僕は”オーバーザワールド”の七つの大罪、怠惰のオベロンだよ。なんか静かだなって思って、この辺で過ごしてたんだけど、戦闘でもするの?」
「七つの大罪って」
「ゼロ!」
「っ・・・・・」
ゼロが踏み切って、加速してオベロンに突っ込んでいく。
カン
「物騒だな」
オベロンがすぐに槍を出して、剣を止める。
「僕は『怠惰』だけど、動きは早いほうなんだ。で、なんで急に攻撃してきたの?」
「七つの大罪、ジオニアスを知ってるか?」
ゼロが低い声で言う。
剣に埋め込まれたアメジストが、じっとりとした毒を放出していく。
「もちろん知ってるよ。僕らの仲間だし。その剣、ただの剣じゃないね。”オーバーザワールド”の匂いがするけど、君は”オーバーザワールド”の住人じゃないよね?」
「俺はこの世界の勇者だ」
「勇者? なるほどー。どこにでも勇者っているもんね」
カンッ
オベロンがふわっと飛んで、少し離れたところに立つ。
眠そうな声で続ける。
「ジオニアスに会ったんだ。どこにいたー? 僕、はぐれちゃったんだ」
「七つの大罪はこの世界で何をするつもりだ?」
「んーそうゆうのは、ジオニアスに聞いてよ。僕は怠惰担当だし、ぐうたらできたらどうでもいいんだよね。異世界で面倒なことには足を突っ込みたくないしさ」
杖を回して、伸びをする。
「・・・紫色の髪と瞳を持つ少女を知ってるか? ジオニアスが連れて行った・・・確か”アスリア”とか呼んでたな」
「えっ、アスリア様がいたの!?」
オベロンが急に顔色を変えた。
「アスリア?」
「・・・こいつら、サタニアとかいう魔女のことをアスリアって呼ぶんだ」
「サタニアがアスリア? ”アスリア”って名前を聞いたことがない・・・私の記憶のどこにも・・・転生前の異世界にいたサタニアに会ったことあるけど、七海っていう普通の女の子だったし・・・」
アイリスがホーリーソードを下に向けたまま、こめかみに指を当てる。
「誰かと間違ってるんじゃ・・・」
「なるほど。アスリア様がいるなら、話は別だ」
ザザーッ
オベロンが杖を地面に向けると、魔法陣が展開された。
「どおりでこの地は、アスリア様の魔法の匂いがした。気のせいかと思ったけど」
「待てって。どうしてお前らはあの魔女を・・・」
「もう少し真剣に探すか・・・・」
シュンッ
魔法陣が緑色に輝くと、すぐにオベロンが姿を消した。
アイリスが駆け寄って、魔法陣の跡を眺める。
「この作り方、サタニアの転移魔方陣に似てる・・・。まさか、さっきのオベロンが言ってることも間違いじゃないってことかな。ゼロはどう思・・・」
「何かの間違いだろ」
ゼロがアイリスの言葉を遮って、アメジストの剣を解いた。
「俺はあの魔女が異世界転移して、魔王代理になったのを見てるんだ。悪魔に強引に覗かれた記憶だけどね」
「そうかな・・・断定はできないと思うけど。この模様も95%は合致してるから、七海のときか、その前に”アスリア”って少女だって可能性もある」
「転移魔方陣って、大体全部同じだろ」
風が吹くと、転移魔方陣の跡が消えていった。
「あれが”オーバーザワールド”の七つの大罪の怠惰・・・あたしと一緒」
ポロンが呟く。
「キャラ被りしてないから安心しろ」
「それはもう気にしてないってば。七つの大罪ってことは、何か私たちみたいに罪を背負ったのかなって思って」
ポロンが段差を上って、ゼロに近づいていった。
「リヴィアナはあいつらのこと”オーバーザワールド”のバグだって言ってたよ。何を意味するかは分からないけど、今気にすることじゃない。変な寄り道してしまったな」
「あたしはゼロと冒険するなら遠回りでもいい」
「なんで?」
「なんで・・・って」
ポロンが頬を赤らめる。
「ちょっと待って。うーん、なんか居心地が悪い!」
アイリスが顔をしかめて、ゼロとポロンの間に入る。
「どうしたの?」
「なんだか、むずむずするの。このむずむずする感覚を分析すると、もうすぐ恋人同士になりそうな人に挟まれてる気分。2人は付き合いそうなの?」
「はぁ!?」
ゼロが呆れたような声を出す。
「えっと、あ、アイリスはそう思うの?」
「うん」
「どど、どんなところが?」
ポロンがにやけながら、アイリスのほうに迫っていく。
「なんか、私邪魔なのかもって。2人の間にいたら」
「えぇっ、そんなことないよー」
ポロンが頬を押さえて首を振っていた。
「人工知能IRISの精度ってそんなもんかよ。本当に大丈夫なのか?」
「失礼ね。私はちゃんと処理の精度は保ってるんだから。恋愛以外って言われてるけど・・・恋愛とかは、自分でソースを集めて分析していかなきゃいけないから難しいの」
「・・・へぇ・・・」
ゼロが冷めたような表情をする。
「何? その疑いの目は。ま、私自身は、そうゆうの完璧にこなしてるけどね。たぶん!」
「たぶんね。たぶん」
ゼロがため息をつく。
「恋人、恋人ってすごい響き。へへへ、あ、ガラスっぽい破片見ーつけた」
ポロンが機嫌よさそうにガラスの破片を空にかざしていた。
アイリスが少し頬を膨らませて、ホーリーソードをしまった。
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