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36 The Two Tower(2つの塔)⑤

「油断してたな。魔王ヴィルが先に行ってしまった」

 ゼロが恨めしそうに、橋を見つめる。


「この橋にかけた凍結魔法、知らない匂いがするよ。これが魔王の力?」

 リヴィアナが黒い氷柱のようになった橋に近づく。


「触らないほうがいい。死ぬかもしれないからな」

「へ!?」

 リヴィアナが跳ねるようにして、階段のほうへ降りていった。


「あれがこの世界の魔王か。闇の波動がビリビリ伝わるよ」

「なになに? どうゆうこと?」

「魔王ヴィルは冥界の王の剣を持ってるんだ。まぁ、冥界からも認められた魔王、一筋縄ではいかないよね」

 ゼロがモニターを出して、目の前の橋を映す。

 シミュレーションモードに切り替えて、アバターを動かすと、触った瞬間、闇に飲まれるように硬直していく姿が映っていた。


「ほら、どのパターンでも通れない。渡ろうとした瞬間、死ぬ」

「えー、怖」

「へぇ、ゼロのモニターにはそんな機能ついてるんだ」

 ジェラスがのぞき込む。


「エリアスが付けたんだ。このルートは完全に通れなくなったな」

「この世界はなんというか・・・”オーバーザワールド”のキャラが生存できるのかわからないよ。こんな魔法をあの一瞬で・・・」


「そうそう。もしかしたら闇の王よりも強いかも。って、魔族の私が言っちゃダメか」

 リヴィアナが口に手を当てて肩をすくめる。

 すっと、一人で階段を下りていった。


「魔王は特殊だよ。俺もね」

「ゼロ・・・」

 ゼロがモニターを消して、声を低くした。


「でも、あの魔王ヴィルはどうして・・・・」

「ねぇねぇ、こっち、こっちに部屋があるよ。もしかしたら別ルートかも」

 リヴィアナが大きな声でドアを指した。


「遠回りになるな・・・」

「仕方ないよ。この魔法は、僕にもどうすることもできない。触れた瞬間、冥界に落とされるような感覚だ」

 ジェラスが漆黒に染まる橋に視線を向ける。


「ここにいるってだけで足がすくむよ。今は、別ルートを探すほうが早い」

「・・・わかったよ」

 ゼロが遠くを見つめた後、渋々階段を下りていった。



「木でできた扉、魔力は感じられない・・・けど」

 リヴィアナがドアの前で躊躇していた。


「ドアを開けた瞬間、どばっと魔族が出てきたりして」

「自分だって魔族じゃん」

「私、魔族って実感ないんだってば。確かに角はあるけどさ」


「いようが、いないが、どっちでもいいって。開けるぞ」


 バァン


 ゼロが勢いよくドアを開けた。


「きゃっ、ゼロって本当、容赦な・・・え・・・」

「女の子の・・・部屋?」

 ジェラスとリヴィアナが固まった。


「なるほどね」

 ゼロだけ、全てを察したような顔をした。

 一室だけ、塔の中とは思えないようなピンク色の薄い壁紙が広がっていた。

 白いベッド、レースのついたソファー、ぬいぐるみが並んでいる。


「何これ・・・・」

「配信部屋だよ」

「配信部屋?」

 ゼロが棚にあった、小人の人形をつまみながら言う。


「なるほど。言われてみれば・・・Vtuberの配信部屋って感じ。納得。って・・・不気味だってば」

 リヴィアナがうなずきながら、きょろきょろ周りを見渡す。


「なんで唐突に配信部屋なんか出てくるんだ?」

 ジェラス王がカメラをセットする台のようなものを警戒しながら眺めていた。


「『ウルリア』が浮上してから、Vtuberたちが住み着いて、配信してたからね。確か、この塔を守っていた天使がいたんだ。その子が作った配信部屋だよ」

「天使? って、さっき話してた?」

「そう。『ウルリア』を守っていたのは、異世界から転移してきた珍しい天使だ。最終的には死んじゃったけどね」

 ゼロが軽く流す。


「天使って・・・・・」


「ここは”オーバーザワールド”と接続する前、大規模な戦闘があったんだ。異世界から転移してきて、この世界ごと乗っ取ろうとしたVtuberと、魔王ヴィル率いる魔族・人間との戦闘が・・・」

「どうして乗っ取ろうとしたの? Vtuberはリーム大陸にいたんだよね? それだけじゃダメだったの?」

 リヴィアナが前のめりになる。


「Vtunerはうまくのせられたんだよ。あの天使も、子供たちも」

 ゼロが呆れたような口調で言う。


「天使はほかにもいてね。この世界は穢れてるから、リーム大陸の浮上を機にリセットしようとしてたんだ。天使たちも馬鹿だよ。終焉の魔女イベリラの計画通りに事が進んでるって気が付かなかったんだ」

「・・・・・・・」

「Vtuberは戦闘でほとんど消えた。メイリアも元Vtuberだけど、たまたま生き残っただけ。で、その後の天使たちはどうなったのか知らない」


「魔王が勝ったんだな?」

「そう。終焉の魔女イベリラがいたから勝算はあったんだけど、人工知能IRISを連れた魔王ヴィルには敵わなかった。俺もそのとき、この塔にいたはずなんだけど、記憶が薄いね」


「全部、君を蘇らせるためだった・・・のか?」

「そう。荷が重いよ。俺の命なんて、そんな大したものじゃないのに」

「・・・・・・・」

 ゼロが遠くを見ながらつぶやいた。


 リヴィアナが匂いを嗅ぎながら、棚のほうへ歩いていく。


「ねぇねぇ、どこかにいいアイテムとか転がってないかな? 一瞬で最上階行くような」

「なさそうに見えるけどね。これも、ただのぬいぐるみだ。ごほっ、埃っぽいな」

 ゼロが猫と熊のぬいぐるみを避ける。

 埃が宙を舞っていた。


「アイテムはなくても隠し通路はあってもおかしくないんだよね。『ウルリア』の配信者が、ここから配信していたとすれば・・・当然、最上階にも行けたはずだ」

「ゼロ、君は何を企んでるんだ?」

 ジェラスがゼロの目を見つめる。


「俺の目的は単純だって。アイリスを連れて、『ウルリア』へ戻る」

「本心だよ」


「?」

「僕は光魔法を使う王だ。光と闇が表裏一体だということはよくわかってる。君は、両方持ち合わせているのも見えているが、本心はわからない。善悪どちらに進もうとしているのか」

「・・・・・・」

 ゼロがふっと笑った。


「本心では怒りと憎しみが渦巻いていて、いつ爆発してもおかしくないんじゃないのか・・・って言いたい?」

「そうだ。『ウルリア』を復活させて、そのあとはどうする? ”オーバーザワールド”と接続して、『ウルリア』の住人を蘇らせて、何をしようとしてるんだ?」

 ジェラスが腕を組む。


「・・・答えられないならいい。僕の目的はレムリナを闇から救うことだからね」


「別に俺はそこまでこの世界を嫌ってないよ。”オーバーザワールド”との接続をしたかったのは、このゲームの中にアイリスがいたからだ」

「・・・・そうか?」

 ジェラスが眉をひそめる。


「子供たちを蘇らせた後は・・・そうだな。俺は勇者だから、ただの勇者に戻るのか」

 ゼロがソファーに手を置きながら言う。


「じゃあ、君の内側から感じる怒りは何に・・・」

「個人的には、七つの大罪が気になってるよ」

「七つの大罪って、さっき会った・・・?」


「そう。魔女を一人連れていかれたからね」

 ゼロが涼しい顔をして、ジェラスを横切った。


 ギイィ


 ゼロがソファーを押して、壁との間を空ける。


「あった。これだ」

「おぉ!!」

 リヴィアナが砂時計を持ったまま駆け寄ってくる。

 

「隠し階段?」

「あぁ、ここが配信部屋だったら絶対あると思ったんだ。大体こうゆうのは棚の後ろかソファーの横にあるだろ。『終焉の塔』も色々と改造してたからね」

 壁に子供が一人通れるくらいの穴が空いていた。

 中には下へ続く階段が見える。


「でも、これ、地上に向かう階段じゃないのか? 降りる階段に見えるんだけど」

「隠し通路だからね。どこかで最上階へ向かうようにできてるはずだ。ここにいたVtuberは最上階で配信することもあったからね」

 ゼロが屈んで、穴に体を通す。


「ギリギリ通れそうな感じだ。リヴィアナは余裕だね。ジェラスは?」

「僕も体型的にはゼロと同じくらいだからいけるよ。でも、装備品はいったん外すか」

 ジェラスがマントを取って、道具の入ったリュックを降ろした。


「じゃあ、俺から行くよ」

「了解。気をつけて」

「ねぇ、ゼロ。この砂時計持っていっていい? すごく綺麗なの」

 リヴィアナが星の形をした砂の落ちる、砂時計を見せていた。

 光をあてると、新緑のような色に変化した。


「いいんじゃない? 配信者はいないし、こっちに不利になるようなアイテムはないと思うよ」

「やったぁ」

「何に使うの?」


「わからないけど綺麗だから持っていく」

 リヴィアナが大切そうにポケットにしまった。

 

「じゃあ、行くぞ」

 ゼロが穴から落ちて、階段に滑り降りた。

 どこからともなく、風の吹き抜ける音が響く。


「ねぇ、魔族とか出てきたりしないよね? 別ルート通ったら、とんでもない魔物が出てきた・・・とか」

「はは、わからないけど、ゼロがいるなら大丈夫だろ」

「そうだけど・・・暗いの怖いな」

「すぐ明るくするって。ほら・・・」

「うん」

 ジェラスがリヴィアナの手を取って、先に通した。


 ザザーッ


 最後にジェラスが降りてくる。

 ゼロがマントについた砂を払った。


 ― ルーミア


 ジェラスが人差し指に光を灯して、ふわっと飛ばした。

 丸い光が壁に当たり、弾けるようにして、光が広がっていく。


「隠し通路のわりには、ちゃんと道が整備されてるんだな」

 ゼロが下に続く階段を見ながら言う。


「そうだね。壁は凸凹してるけど、確実に誰かの通った跡がある。ゼロの言う通り、上に続く階段がありそうだ」

 ジェラスが壁を軽くたたいて、耳を当てる。


「空洞になってるのか? 変わった音がするな」

「とりあえず、少し歩いてみるか」


「うん。あ、ジェラスは後ろね」

「わかってるって」

 リヴィアナがゼロの後ろにつく。

 ゼロ、リヴィアナ、ジェラスの順に一列になって、狭い道を歩いていった。

読んでくださりありがとうございます。

面白かったら是非ブクマ、★で応援をお願いします。

大変喜びます。

次の話は来週載せます。

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