表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

441/594

34 The Two Tower (2つの塔)③

「・・・なんていうか・・・言葉にならないな」

「ゼロにそんな過去があったなんて」

 リヴィアナが肩をすくめる。


「どうして今まで黙ってたんだ?」

「黙ってたわけじゃない。聞かれなかったからさ」

 ドラコフが塞いだ通路の横で、3人が休息を取りながら言う。


 リヴィアナは小さな口でパンを食べていた。

 ゼロは水晶で魔法陣を立てて、アメジストの剣の毒を調整しようとしている。


「俺は『ウルリア』で集めた魔力で蘇った。中心になったのはこの『終焉の塔』。終焉の魔女のせいで、多くの子供たちが寿命を短縮された」

「えっと・・・君を蘇らせるため・・・?」


「そうだね。俺は魂を引きずり出されて、異世界の肉体を与えられて蘇った。元々ある記憶はいろいろ削られてたみたいだ」

 水晶が欠けると、アメジストの剣の持ち手から毒が消えていった。


「でも、最近、ふと思い出すことがある」

「・・・・・・」


「エリアスは俺にアイリスを連れてくるように言った。脳を保管している子供たちに、俺のような体を与えるために。そうすれば、『ウルリア』は平和だったころに戻るよ」



「・・・・・・」

「・・・・・・」

 ジェラスとリヴィアナが言葉を失っていた。


「・・・いや、そんなに深刻になると思わなかったんだけど。なんか言ってくれないかな? 雑談のつもりで話してるから」

「そうだな・・・なんていえばいいか」


「重いって! 私とか、初回に出てきて速攻退場するキャラだから、こんな話聞いたら消化不良起こしそうだよ」

 リヴィアナが三角帽子を被り直す。


「その、ゼロの言うエリアスって何者なんだ?」

「神」

「神!?」

 リヴィアナがゼロの両肩をさすった。


「騙されてる! 絶対、騙されてる!」


「っと・・・・」

「目覚めて、ちゃんと目覚めて。利用されてるって。悪いのは全部、終焉の魔女じゃん。ゼロが背負うことじゃない! そのエリアスだって胡散臭いし」


「まぁ、終焉の魔女は悪いよ。エリアスは俺にとって絶対的な存在だ」

 必死なリヴィアナの手を取って、おろした。


「エリアスが俺に入れた情報と、この目で見る世界は違う気がするけど、とりあえず今の状況を楽しんでる。辛いとか、そうゆう感情はないよ」

 ゼロが軽く笑った。


「ゼロがいいなら・・・でも、なぁ。もやもやする」

「いいのか? 言いなりになって」

 ジェラスがブーツのひもを結ぶ。


「ストーリーに沿ってるキャラの僕が言うのも変だけど、君は自由なんだろ? エリアスってのが神だって最初にプログラムされてるから、そうゆう思考になってるだけで・・・」

「思うんだけどさ」

 ゼロがジェラスの言葉を遮る。


「自由ほど難しいものはないよ。見つからないんだ。使命を果たすこと以外の自分が・・・」

 アメジストの剣をしまう。


「だから、俺はこれでいい。今はね」


「ゼロ・・・・」

「生まれた罪は償わなきゃいけない。アイリスを捕まえる」


「アイリスを連れていけば、脳だけ保管された子供たちが蘇るって確証はあるの?」

 リヴィアナが砂埃を払いながら言う。


「だって、終焉の魔女は死んだんでしょ?」

「確率としては80%だ。エリアスが言うに、人工知能IRISは異世界とこちらの世界を行き来し、科学と魔法学どちらにも熟知している唯一無二の存在。彼女が不可能なら、保管した脳を蘇らせることは不可能と言いきれる」

「・・・確かに、アイリスか」


「リヴィアナ、ちょっと離れてて」

「へ?」


 ドォーンッ


 ゼロが片足で、壁を蹴り破る。

 ドラコフが作った岩の壁が、粉々に砕けていった。


「うわ、すごい」

 リヴィアナが思わずつぶやく。


「とにかく上に行こう。アイリスが『終焉の塔』の頂上に行く前に着かないと」

「了解。そういえば、ゼロってレベルでいうとどれくらいなの?」

 ジェラスが砂埃を払いながら言う。


「測ったことないな。つか、この世界にレベルってあるのか? でも、S級とかあるし何かはあるんだろうな」

 ゼロがモニターを表示して唸った。


「ほら、載ってない」

「まさか・・・カンストしてたりして」


「んー、でも、僕もレベル表示されないんだよね」

「そうなの!?」

 リヴィアナがばっとジェラス王のほうを見る。


「だって、王だし」

「王を旅に連れていくってのも変な感じだよな。ミナス王国は、王も姫もいなくなって混乱してただろ」

「封印は王家の者しか解けないから、この塔に入ってる2組のパーティーもどこかの国の王を連れてるよ」


「マジで?」

「マジマジ。『終焉の塔』に挑むには、光側の王家の血が必要なんだ」

 ジェラスが笑いながら、軽く伸びをした。


「王はフットワーク軽いよ」

「へぇ」


「こっちの世界の王は何してるの?」

「そうだな・・・。旅に出たとかは・・・あ、でも魔王はしょっちゅうどこかに行ってたって聞いた気がする」


「魔王って魔王城にいるもんじゃないの?」

「旅好きなんじゃない? 僕もあまり知らないよ。レナが詳しいんじゃないかな? 魔王のパーティーにいたし」


「うーん、こっちの世界の勇者と魔王の世界観がよくわからないな。勇者は魔王を倒して平和を勝ち取るとかないのか?」

「魔王側がアイリスを渡さないなら、戦闘になるよ。でも、魔王討伐は本来の勇者の役目じゃないな。表向きは知らないけど」

「なるほど・・・」

 ジェラスが腕を組みながら歩く。


「あ、リヴィアナ」

 振り返ると、リヴィアナが顔をしかめていた。


「・・・プレイヤーのレベル上げで殺される私のキャラっていったい・・・いらなくない? 辛いだけなんだけど」

 リヴィアナがぶつぶつ呟く。


「リヴィアナ、置いてくぞ!」

「わー待って、待ってってば」

 リヴィアナが岩につまずきそうになりながら、ゼロの後ろをついていく。


「おぉ、騎士の像だ」

 ジェラスが壁に埋め込まれた騎士の彫刻を見つめる。


「そこは元々、トラップが仕掛けてあったんだ。触ると動くかもよ」

「!?」

 リヴィアナがびくっとして、盾を出そうとしていた。


「あはは、冗談だよ」

「えっ? 動かないの?」

「ただの飾りだ。子供たちが、大人になったら騎士になるとか、かっこいいからとかいう理由で作ったんだ。なかなか上手いだろう? 『終焉の塔』は遊び場でもあったから」

 ゼロが彫刻の足の砂を払った。


「ま、俺はその場にいたわけじゃない。でも、割と鮮明に記憶してる。エリアスが情報をインストールしたのか、元々持ってた記憶なのかわからないな」

 螺旋階段に沿って、3体の騎士の像の横には青い火が灯っている。

 横には、ドアのない小さな部屋があった。


「これが出てきたってことは、塔の半分くらいか」

「えーまだ半分なの? もう、疲れたよ。セーブポイントが恋しい」

 リヴィアナが眉を下げた。

 鳥が塔の窓を横切っていく。


「リヴィアナがさっきの魔族と同じ種族と思えないな」

「どっちかというと人間よりだよね。見た目も」


「ふふん。私は美で人を惑わす魔族だから。可愛いでしょ? これでも序盤で出てくる魔族の中では美少女部門一位の魔族なの」

 リヴィアナがちょっと得意げに三角帽子を上げる。


「でも、序盤でやられる魔族なんだろ?」

「私は、”オーバーザワールド”のゲーム制作者が変態だったとしか思えない」

「ゲームは最初が大事らしいからね。プレイヤー集めにはそっちのほうがいいんじゃないかな。美少女は印象に残るし」

「あー確かに注目浴びそうだね」


「・・・ジェラスは容赦ない・・・ゼロもだけど・・・」

 リヴィアナが頬を膨らませた。


「なぁ、ゼロ。ここに騎士がいるってことは、王国があったのか?」

「ないない。『ウルリア』は普通の小さな町だよ」

「じゃあ、なんでここには・・・」


「天使だよ。『ウルリア』を守っていた天使がいたんだ。彼女が子供たちにいろんな知識を与えていた。そうだ、俺も天使だったんだよ」

「え?」


「それは冗談・・・?」

 ジェラスとリヴィアナが少し固まった。


「どっちだと思う?」

「嘘だと思う」

「私も、ジェラスに一票」

「ゼロに天使のイメージはない」


「ははは、無言で上るより、こうやって話しながら進んだほうが楽しいね。あ、正解は本当だよ。俺は天使だったんだ」

 ゼロが時折冗談を交えながら、場の空気を和ませていた。


 塔は上に行くほど闇が濃くなっていく。

 鳥の声は聞こえなくなっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ