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31 Angel Sword(天使の剣)

「『終焉の塔』の門番ってどんな奴だったの? 霧がかかってよく見えなかったけど・・・」

「ただの魔女だよ」

「でも、本当に一人で倒しちゃったんだ。この世界の勇者ってみんな強いの?」


「さぁ、他の勇者に会ったことないから」

 リヴィアナが両手で杖を持って、少し緊張しながら歩いていた。


 ゼロが『終焉の塔』の前に立つ。柔らかな潮風が吹いた。

 雲間から日差しが差し込む。


「これが『終焉の塔』か・・・ここに妹が・・・・」

 ジェラスが剣を持って、息を吐いた。


「ここから先は様々な仕掛けがある。魔族だって強い。気は抜けないな」

「ストーリー上はどうなってるの?」

「僕が知ってるのは、この塔に闇の王の部下にさらわれたレムリナ姫が眠っていて、プレイヤーと共に救出に行くってところまでだ。無事救い出した後のことは知らない」


「闇の王だっけ?」

「あぁ、”オーバーザワールド”は光と闇がテーマになってるんだ」

「へぇ・・・リヴィアナはなんか他に情報ある?」


「わ、私、ゲーム序盤でやられる魔族だから『終焉の塔』の先のストーリーなんて知らないよ」

 リヴィアナが角を触りながらびくびくしていた。


「・・・・・それより、この塔が現れてから、ここ一帯が”オーバーザワールド”の力に侵食されている。どこまでリンクしたの?」 

「わからないけど、さっそく現れたね」

 ジェラスが剣を構えた。


「わっ」

 リヴィアナが飛び上がる。


 ザザァー


「唐突だな」


「ふふふ」

 『終焉の塔』の扉から、二本の角の生えた女が黒い影のようなものを3体引き連れて出てきた。

 赤い髪を内側にくるんと巻いていて、短いスカートからは悪魔の尻尾が見えた。


「あらあらまぁまぁ、よくここまでこれたわね。ジェラス王」

「ダスティア・・・」


「誰かが来るのずっと待ってたのよ。もう、待ちくたびれちゃった」

 赤い唇を舐めながら、短い杖を出した。


「そこにいるのは・・・そう、異世界の人間なの。美しく整った顔、誰かが描いたみたいね」

 しっとりとした視線をゼロに向ける。


「ゼロ、ダスティアはすごく強いからね・・・」

「ん? 有名なの?」

「有名も有名も・・・。闇の権力者に仕える魔族の1人だよ」


「権力者って言い方好きじゃないわ。闇の王よ。私たちの王。あれ?」

 ダスティアがリヴィアナのほうを見て、にんまりとする。


「あらあら? 裏切りものの魔族がいたなんて。弱すぎて目にも入らなかったわ。闇の王にしっかり仕置きをしてもらわなきゃ」

「っ・・・・」

「こっちにおいで。今ならまだ、生かしておいてあげるわ。だって、いきなり異世界の者と交流を持つなんて・・・・色々聞いておきたいしね」


「いや・・・・」

 リヴィアナが口に手を当てて一歩下がる。


「ゼロ。き、気をつけて。ダスティアの周りにいるあの黒い影に触れると死んでしまうから」

 黒い影が人の形のようになり、ダスティアの周りをゆらゆらと揺れていた。


「ダスティアは自分が殺した人間の魂を、あんなふうにかき集めて自分の配下に置くの!」


 しゅぅううううう


 黒い影が揺れるたびに、冷たい風が吹く。


「無駄よ。ろくにレベルを上げてこなかった王と、その辺にいる異世界の人間を連れてきたところで、闇の王に仕える私に敵うわけないでしょ?」

「・・・・・!」

 ジェラス王が額に汗をにじませる。

 ゼロが剣に魔力をまとわせながら、前に出た。


「お前はこっちの世界でいうところの、上位魔族って感じか?」

「ふふふ、それよりもずっとずっと強いかもね? だってこの『終焉の塔』は闇の中継地点なんだから」

 ダスティアが杖をくるくる回した。


「私の力をさらに高めてくれる!!」


 ― 死霊の舞 -


 ゴオォォォォォオオ


「!?」

 3体の黒い影が輪になって、3人を取り囲んだ。


「うわっ、どうしようどうしよう」

「じんわりと殺してあげる。じっくりじっくりとね」

 ダスティアが赤い唇に指を当てた。


「すごい魔力だ。さすが闇の王に仕えるだけある・・・ゼロ、ここはどうにか僕が抑え込む。『終焉の塔』の扉が開いてるうちに、君は・・・」


「はははははは!」


「ゼロ?」

 ゼロが急に笑い出す。


「どうしたの? 壊れちゃった? 気づけ薬? 薬草、薬草なかったかな」

 リヴィアナがモニターを出して、必死に道具を確認していた。


「リヴィアナ、俺は正気だって。薬はいらないよ」

「え・・・?」

「『終焉の塔』が闇の中継地点? 面白いことを言うなって思ってさ」

 ゼロが鏡花水月の刃先に光魔法を付与する。


「何がおかしいの?」

「俺はこの『終焉の塔』が産んだ呪いだ」


 ― 光魔風刃シャウト


「お前ごときが勝てるわけないだろ?」

 剣を振り下ろすと同時に、黄金の風が吹いて、3体の黒い影を切り裂いた。 


 シュウゥゥゥゥ


「な!?」

 

 バサッ


 ゼロのマントが宙を舞った。

 ダスティアがシールドを張る前に、ゼロが剣で貫こうとする。


 キィンッ


「ぐっ・・・」

「ふうん、オートシールドとかないんだ?」

 咄嗟に、杖で受け止めた。

 ゼロが笑みを浮かべたまま、剣を振る。


「死霊の舞が効かない!?」

「そんなに驚くほどのことでもない」


 カン カン カンカン


 ゼロが押していく。

 ダスティアが戸惑いながら、杖を硬化させて避けていた。


「君、別に対して強くないよ。おそらくこっちの世界の上位魔族のほうが強い」

「あんた、何者なの?」

「勇者だよ。ただのね」

 左手を剣から離して、指を動かす。


 ― 毒薔薇のチェーン


 ドドドドドドドッドドッドドドド

 

 地面から蔦が現れて、一瞬にしてダスティアを縛った。


 からんからん


「うっ・・・・」

 ダスティアの手から、杖が落ちていく。


 カツン


「ゼロ・・・」

 ゼロが軽く蹴って、ジェラスのほうへ転がした。


「これは・・・闇属性の魔法? さっきは光属性、まさか真逆の属性を・・・?」

「まぁね。使えるかわからなかったけど、一応使えるみたいだ」

「一応って・・・ずいぶん強がりを言うのね」


「お前こそ、よくその体勢で威勢よく話せるな」

 ゼロが縛り上げたダスティアを見上げながら言う。


 ダスティアがほほ笑む。


「フン・・・こんなんで勝ったつもり? この私を捕らえるなんていい度胸ね」

 手の周りから、毒薔薇のフリーズが枯れていった。


「ゼロ、ダスティアは死を呼ぶ魔族なんだ! 気を抜いてるとすぐに殺される!!」

 ジェラス王が叫んだ。


「そう。死はいつも私の傍にある。すぐ殺せるのよ。さすがジェラス王はよくわかってるじゃない」

「ふうん・・・」

 ダスティアが死霊を呼び寄せようとしていた。


「この蔦の魔力を分析するに、力を奪っていくのね。拷問用なんだって? 私に何か吐かせるつもりだったのかしら? でも、こうやって死を与えてしまえば・・・」

「なんで、俺がわざわざ拷問すると思ったの?」


「え・・・・?」


 ズン


 ゼロが鏡花水月を回して、素早くダスティアの胸を貫く。

 刺した部分から、穴が開くように光の粒になっていった。


「は? これは・・・・」

「色々、テストできたからもういいよ。用済みだ」


「・・・私が負ける? 噓でしょ。この闇の王に仕える立場である私が・・・・? こんなにあっけなく・・・・だって、痛みが・・・・」


「鏡花水月(この剣)は自覚のない死を与える。ゲーム終盤で手に入るレアな剣らしいよ。アバターに苦しみを与えないから、天使の剣ともいわれてるんだって。ま、何のゲームかは俺も知らないけどね」


「・・・・・・」

 毒薔薇のチェーンを解くと、ダスティアが宙に浮いたまま消えていく。


「そんなはずはない! だって、私は・・・・どうして・・・消える?」

 自分の体を見ながら言う。


「君の仕えてる闇の王が何者かは知らないけど、この世界には魔王がいる。キャラが被ったら邪魔なんじゃないかな」

「どう・・・ゆう・・・意味?」

 声を絞り出す。


「消えゆく君には関係ないよ」


「あ・・・・・・闇の王・・・様」

 ゼロがひんやりとした視線を向ける。

 ダスティアが完全に消滅したのを確認して、鏡花水月を解いていた。

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