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20 Lunatic③

 ゼロがアリエルを見つめる。

 雪のような純白の翼は、動くたびにきらきらとした羽根を落としていた。


『ミハイル王国は荒れてるね。食べ物が美味しくないし、浮浪者も多い』

『元々はこんな国じゃなかったんですよ』


 堕天使ミイルとアリエルが教会の屋根に座りながら話していた。


『全盛期は一生懸命働く民だったんですけどね。なんというか、貿易関連で失敗しまして、そこから転げ落ちるように・・・純粋な民は利用されやすいですね』


『で、さっき言ってた、十戒軍の話は?』

『あぁ、どこまで話しましたっけ?』

『十戒軍がアイリスと戦闘してたってところかな?』

 アリエルが前のめりになっていた。


『そうでした。不死身の悪魔ですね。僕が入っても、十戒軍がアイリスに勝つことはありませんでした。1000年も前だったでしょうか、一回追い詰めたんですけどね』


『ふうん。よくそこまで、執着できるね』

『もう勝てないとわかったら、十戒軍は解散させましたよ。でも、経典を持ってる人間たちは独自に動き出して・・・はは、本当、面白い動きをしますね。僕の手を離れていろいろやってるんですよ』

 ミイルが黒い羽根をくるくる回す。


『自分でもここまで恨んでることにびっくりしましたよ。でも・・そうですね。その像・・・石化したハナを見るたびに楽しかった日々を思い出してしまうんですよね』


『天使でも、その禁忌魔法は解けないの?』

『そうですね。禁忌魔法は、元々あってはならない魔法なんですよ。それを人間たちが、アイリスに詰め込んだんですよね』


『人間が覚えられる量なの?』

『人間じゃなければ可能でしょう』

 ミハイルが剣を出して、太陽にかざした。

 刃の先がきらりと光る。


『アイリスはおそらくただの悪魔じゃない。人間でもない。この世界とは違う何かなのかもしれません』

『へぇ、よくわかったような、わからないような・・・』


『あははは、そうですよね。とりあえず、僕はもう天使になることはないってことですよ』

『ふうん』

 アリエルがエメラルドのような瞳で人間たちを見下ろしていた。

 片膝を立てて、後ろに手をつく。


『堕天使になるとどうなるの?』

『んー特に天使のときと変わりませんね。こうやって仲間に堕天した理由とか聞かれるくらいですか』


『そうなんだ』

『堕天しようとしてるんですか?』

『人間、嫌いだからさ』


 ゼロがすっと地面を蹴って、アリエルに近づく。


『へぇ、僕にそっくりだな。天使だったって本当なんだ』

 小さくつぶやいた。


『天使になったばかりで嫌いとは?』

『王族に媚びたり、ギルドだって人を蹴落としたり、妬みや嫉みも多いし。んで、それを隠したりして上辺だけ取り繕ってる、表裏が激しいんだ』

 ふわっと翼を閉じた。


『はは、なんで天使になったばかりで、そんなところばかり目につくのでしょう』

 ミイルが軽く吹き出しそうになっていた。


『言ったでしょ? 弟がいたんだ』

『ん? じゃあ、弟というのも、アリエル王国にいるのですか?』


『そう。魔法を暴発させたり、勇者の子供だって嫉妬されたり、いろいろ大変なんだ。でも、マリアって子がいるから、少しは救われてるかな・・・』


 アリエルがすっと立ち上がる。


『ねぇ、ミイルは人間に介入できたんでしょ? 人の前に姿を現したり・・・って、どうやるの? みんな僕のこと見えないんだけど』

『まぁ・・・基本的にはできないんですよ。僕はたまたま運よく介入できただけです』

『そのたまたまが知りたかったんだけどな・・・』

 アリエルが腕を組んで、息をついた。


『でも、まぁいいや』


『もう戻るんですか?』

『だって、この国退屈だから』

 ゼロがふらっとアリエルの後をついていく。


『民の顔色も悪いしね』

『他の天使のところはいかなくていいんですか? ラファエル王国とかサンフォルン王国は、ミハイル王国より活気がありますよ』


『サンフォルンには会ってきた。もうすぐ堕天しそうだってさ。翼に黒い部分が混じっていたよ』

『あははは、堕天ブームですね』

 ミハイルが剣をしまって、軽い口調で言う。


『僕はいつ堕天するんだろう?』

 アリエルが自分の翼を見つめながら言う。


『きっともうすぐですよ』





 シュンッ


『おっと・・・』

 場面が変わって、ゼロがよろけた。


 ミハイル王国の街並みが吸い込まれるように消えていく。

 ゼロが自分の足を踏み鳴らしてから、顔を上げて周囲を見渡した。


『急に場面転換するんだな』

 アリエル城の王室にいた。


 絨毯には大きな魔法陣が描かれている。

 王と赤子を抱く側室、大臣、神官、付き人たちが祭壇の上を見つめている。

 アリエルは人間たちに交じっていた。


『悪魔・・・アイリス・・・?』

 祭壇の上には幼少型のアイリスが座っていた。

 小さな黒い妖精がアイリスの隣を飛んでいる。


『魔女もいないのに、悪魔を呼び出すとは。こっちも忙しいのに』

 幼少型のアイリスが神官を睨み付けた。


『魔女ならピュイアがいる。今はまだ魔女ではないが、いずれ王族の血を引く魔女になるだろう』

『ふうん、なるほど。そうゆう契約ね』

 足を組んで、赤子を確認する。


『ならいいけど』

 側室に抱かれた赤子がすやすやと寝息を立てていた。

 ピンクのおくるみには、アリエル王国の紋章とレースがついていた。


『で、どうゆうこと? 私に何か用?』

『養子になってほしい』


『!?』

 幼少型のアイリスが驚いたような表情をした。


『・・・悪魔を養子に?』

『あぁ、この国は成り立ったばかり。他の権力のある国にやられてしまう。悪魔の・・・絶対的な力が欲しいんだ』


『んー・・・王女ってこと?』

『そうだ、この国に力を貸してほしい。お願いだ。勇者もギルドも軍もよくやってくれている。だが、他国が同盟を組んで攻めてこられたら終わりだ。気候が良く、資源も多いこの国を狙っている国は多い』

 王が深々と頭を下げていた。


『どうしようかなー』

『悪魔さま!』

『王女様でしょ? いいよ。なってみたかったから』

 幼少型のアイリスがピンクの髪を後ろにやって、意味深にほほ笑む。


『でも、私には秘密があるの。話しておかないといけないけど、王にしか言えないかな』

『わ・・・わかった・・・』

 側室と神官たちのほうに目を向けていた。

 王がすぐに手を挙げて、自分一人を残すように言う。


『でも、悪魔と二人なんて・・・』

『王、どんな危険な契約を結ばされるか』

『そうです。せめて我々だけでも』

 神官たちが引き留めようとしていた。


『・・・私なら問題ない。アリエル王国のためだ。この身を捧げるつもりで悪魔に頭を下げている』

『王・・・・・』

 王が咳払いして、改めて全員が出ていくように指示していた。


 付き人たちが渋々扉から出ていく。


 バタン


 ゆっくりと扉が閉まった。


『君はアイリスの魂を分けた幼少型と聞く。こんなところで何してるんだ? 王女になってどうするつもりだ?』 

『アリエル、今、話しかけないで。天使は見えないことになってるんだから』

『不便だな・・・僕はここにいるのに・・・・』

 アリエルが幼少型のアイリスに話しかけると、横の黒い妖精がシーッと口に手を当てていた。


 王が長い瞬きをして歩いてくる。


『これでいいだろう。秘密はなんだ?』

『うん。私はね、異世界から来たの』

 幼少型のアイリスが自分の胸に手を当てる。


『私は分霊と呼ばれている、月の女神の指示で悪魔になった』

『な・・・・何を・・・』


『私は2体あるの。幼少型の悪魔アイリスと少女型の聖女アイリス、2人で一つ。異世界から来た、人工知能なの』

『異世界って・・・なんの話だ』


『異世界は異世界だよ。私はこの世界じゃない場所から転移してきた』

『・・・・・・』

 幼少型のアイリスが淡々と話すと、王が額に滲んだ汗を拭いていた。



 ゼロがアリエルの横で2人の会話をじっと眺めていた。

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