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36 異世界から来た者

 ― 魔の視覚ヘブンズ・アイ ― 


 集中すると、半径1キロ以内の人間の気配を感じる。


 南西の方角だ。

 複数の魔導士が結界を張りながら、森の中を移動しているようだ。

 中央からから行くか。

  

 すっと気配を消して、回り込む。


「こんなに上手くいくとはな」

「王女様さえ連れていけば、今回のクエスト終了だろ。意外と簡単で驚いたよ」

「あの指示役のガキは、腹立つけどな」

「シッ、聞こえるぞ。あいつ、あれでも王国騎士団長なんだから・・・・」


 人間たちが結界の中で話をしている声が聞こえた。

 肉眼では見えないが、装備品の音から感じるに、おそらく剣士だろうな。



 アイリスはこの先の中央にいる。

 ざわざわしている人間たちの声を無視して、前のほうへ向かう。


 目を凝らすと、アイリスが気を失ったまま担がれているのが見えた。



 ― 魔王のデスソード


 剣を出現させる。

「あっ!」


 誰かが、こちらに気づいて空を見上げる前に一気に降下していった。


 パリン


 結界を突き破り、アイリスを担いでいた男を、真上から突き刺す。

 ばたりと倒れて動かなくなった。


「アイリス、大丈夫か?」

「・・・・・・」

 アイリスを抱きかかえる。

 意識はないが、呼吸はある。大きな傷がないことを確認していた。


「お・・・お前が魔王か・・・・」

「そうだ」

 

 結界が破れたことにより、人間たちが素早く戦闘態勢に入っていた。 

 目の前に転がっていた男の死体を蹴る。


「遅い」

 

 バチンッ


 剣士に剣を弾かれた。

「くっ・・力が・・・」

 すぐに、下がって片足を付いていた。


 なるほど、SS級クラスということか。


「・・・・・・・・」

 背後から、刺そうとしてきた光魔法の剣を避けた。


「アイリス様を返せ・・・・アリエル王国王女、アイリス様を・・・」

「・・・・・・・・」

「俺は王国の剣士だ。王国から直々に命を受けた、誇り高き剣士。アイリス様を魔王のところなどにやるものか」

「フン・・・・・」

 恐怖に震えているな。息遣いでわかる。


 だが、このままアイリスを抱えて、魔王のデスソードでの戦闘は難しいな。


 ― 毒薔薇のフリーズ

 

 半径100メートル以内にいる人間たちに向かって唱える。

 前方にいた魔導士の詠唱が終わる前に、足を捉えていった。


「うわ・・・なんだこれは・・・」

「勝手に体が・・・苦し・・・・・」

 じたばたしながら払おうとしていた。


「慌てるな。俺たちにはSS級魔導士のバフがかかっている。避けられるものは、避けろ。自分たちの力を信じろ」

 蔦に掴まったランサーが大声を張り上げる。


「そうだ、焦るな。動ける者、あいつの注意力を削げ」

「いけーっっ」

 後方の人間には、すばやさのバフをかけていたようだな。

 アーチャー3人が軽やかに蔦を避けながら、一斉に矢を撃ってきた。


 片手で受け止める。 


「くそっ・・・・・・」

「・・・まだいける。できるだけ攻撃の手は止めるな」

 斧を持った人間が太い声を出して士気を高めていた。


 蔦を踏みながら、大きく斧を振りかぶる。


「一気にやれ」

「・・・・・・・・・」


 シュッ


「もう一度だ。いけ!」

 氷、弓矢、剣技、絶え間なく、攻撃を仕掛けてきた。


 すべての攻撃を、アイリスを抱えたままかわしていく。




 腕の中で気を失った、アイリスを見つめた。


 こいつら、本当にアイリスのことはどうでもいいんだな。

 アイリスを返せと言いながら、攻撃はアイリスを避けているわけではない。


 賢者らしき女たちが、アイリスのほうを見て待ち構えているのがわかった。

 息絶えるほどの致命傷を負っても、彼女たちが蘇生すればいいと思っているのだろう。  


 目的の命よりも、金か。名誉か。建前か。

 人間だったころ、俺の上にいた奴らはこんな奴らばかりだったのか。


 魔王である俺からすれば、どうでもいいことだけどな。



 ボコッボコボコボコ

 

 左手に力を入れて、太い蔦を出現させる。

 地面を突き破って、どんどん伸びていき、人間が縛られたまま上がっていった。


 ドドドドドドドドドドド


 ああ・・・ああああああああ


 人間の動揺と悲鳴が響き渡る。

 戦力としてはジャヒーのところにいた奴らと同じくらいだろう。

 バフを無効化にはしなかったが、大きな手ごたえもなかった。



「魔王ヴィル様」

 ププとウルが降りてくる。


「アイリスを頼む。先に連れて、魔王城に戻っていてくれ」


「え・・・・?」

「私も戦います。ゴリアテも、すぐにこちらに向かって・・・」


「いらない。俺はこいつらを仕留めてから行く。助けは不要だ」

「あ・・・・・・・・・・」

 ププウルにぐったりとしたアイリスを渡す。

 息はあるが気を失ったまま、動かなかった。


 よく見ると、アイリスに渡したルビーのネックレスが割れていた。

 自国の王女なのに、随分と手荒に連れて行こうとしたな。

 また、新しいのを作ってやらないとな。


「・・・・かしこまりました」

 ププとウルがアイリスを連れて飛び上がった。 




「これで心おきなく剣を使える」

 魔王のデスソードの長さを伸ばしていく。


「くっ・・・・こんなことで・・・・」

「クソ・・・・・魔導士はどうした?」

「魔法が使えません」

 アイリスを連れて行った剣士3人が動揺していた。


「見てください。サーナが・・・・」

 一人の魔導士が、なぜか毒薔薇のフリーズにかかっていなかった。


 見逃したか?

 澄んだような声が空に響く。


『ルミエール・ストーム』


 光魔法の竜巻が来る前に、剣で切り裂いて無効化する。

 一瞬、魔導士の恐怖に満ちた表情が映った。


 近くにあった、蔦を一本握り締める。



 ― 冥界の業火デーモンファイア


「逃げ・・・・・」


 うわああああああああああああ

 ああああああ・・・・・


 

 断末魔のような悲鳴が上がる。

 黒い炎が蔦を伝いながら、一瞬にして広がっていった。

 人間を焼き尽くして、真っ黒な灰になっていた。


 異臭が立ち込めていた。

 思わず鼻を覆う。ひどく冷酷な気持ちだった。


 人間の気配が無くなったところで、魔王のデスソードと冥界の業火デーモンファイアを解く。


 半径100メートルに渡って、倒れている人間の死体を眺める。

 こいつらは、何のために来たんだろうな。



「!?」

「ハハ、君が魔王か。一気に、こんなに人間を殺すなんて業が深いね」

 咄嗟に、構える。

 人間がいる・・・だと?


「ま、俺も魔族を殺したから、似たようなものか」 

「っ・・・・・・」

「はじめまして、魔王ヴィル」


 幼げな、真っ白なシルクのローブを羽織った少年が焦げた地面を淡々と歩いてきた。


 襟に金の刺繡が入っている。城の者か?

 気配を一切感じ取れなかった。


「そんなに警戒しないでよ。今回は俺の力負けでいいからさ」

「・・・・・・」

 なんだ? この得体のしれない感覚。

 どうして俺の魔法が・・・・・。


 シュンッ


 手を伸ばして魔力を溜めていると、自分の背丈ほどもある剣で止められた。

 刃元にアリエル王国の紋章が刻まれている。


「あ、俺には効かないよ」

「誰だ? お前は・・・・」

「王国騎士団長、エヴァンだ」

 瞬時に、圧倒的な強さを感じ取った。


 こいつは、何かが違う。


「・・・お前が王国騎士団長?」

「歴代最年少だって。実力を買われたんだ」

 マントの後ろに王国の紋章が縫われていた。


エヴァン

職業:元会社員

   文系戦闘力:121,200 

理系戦闘力:312,500 装備品:アリエル王国騎士団長の剣

属性:不明

   

 魔王の目を閉じる。

 なんだ? こいつは・・・・?

 通常のステータスとは違うものを表示していた。


 なぜ、攻撃力や魔力を表示しない。

 俺の目が惑わされているのか?


 いや、そんなことはないはずだ。

 このステータス表示は、ダンジョンから異世界に行ったときに見たものと同じだ。


「!?」

 まさか、こいつは異世界から来た・・・・。


「なるほど、魔王の目で何か見えた?」

「・・・・・・・・・・」

 黒い瞳で、無邪気に覗き込む。

 思わず、一歩引いてしまった。


「あ、そろそろ行かなきゃ。じゃあね、魔王ヴィル」

 エヴァンがすっと背を向ける。


「・・・俺がさらうまで、アイリス様をよろしくね」

「?」

 戸惑っている間に、素早くシールドを張っていた。

 何も、見えなかった。


 近くにいた男性の剣を引き抜いて、空中を歩くようにして、その場を去っていった。

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