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10 Providence(摂理)

「『時空に浮かぶ街について、存在はほとんど知られていない。エルフ族の者たちが『忘却の街』と呼んでいた場所』だって」

 ゼロがモニターに表示された文字を読み上げる。


「へぇ、こうやって書いてあるってことはエリアスも知ってたんだ。この世界に長くいたわけじゃないって言ってたのに。あ、エルフ族の子がピュグマリオンのダンジョンにいたから、その時に聞いたのか」

「その、『忘却の街』に行くのですか?」

「何かあれば行くけど、別に今のところ行かなくても支障ないしな」


 メイリアが杖を持ったまま背筋を伸ばして座っていた。

 シエルが手から炎を出そうとして失敗している。


「じゃあ、ここには何か他の目的があるのですか?」

「”オーバーザワールド”の濃いところに行けば、アイリスがいると思ったんだよ。でもあの街にそれらしきものは感じなかったし」

「”うそつきマペット”のいうことなんか参考にしようとするから」

 メイリアが靴についた雪を払っていた。

 少し膨れている。


「私がアドバイスしたのに」

「まぁまぁ、一応アイリス以外の目的はあるよ」


「え?」


 ドドドドドドドドド



「!?」

 急に外の空気が振動していた。


「はじまった」

「何が・・・・」


 ― 絶透過防壁ステルス


 ゼロが指を回して、『時の祠』を多重結界で覆う。


「大変です!」

「なっ・・・・」

 メイリアとシエルが窓に張り付いた瞬間・・・。



 ドドドドドドドドォーン

 ゴオォォォォォォォオオオオオオ


 空から巨大な隕石が無数に降ってきて、ミナス王国に降り注いでいた。

 ミナス王国の建物がなぎ倒されていく。

 数秒もたたないうちに炎の海になった。


「なっ・・・・・これは・・・・」

「天界の雷っていうらしい」

「私は聞いたことないです。初めて見ました。こんな・・・」


「普通、この世界ではありえないらしいからね。ミナス王国はまだこの世界と完全に繋がることができていないんだ」

「・・・・・・・」

 シエルが壁に手をつく。

 ゼロが当然のように眺めていた。


「さっきも言った通り、天使や堕天使の加護がない王国は消滅する。この世界にはそうゆう力が働くらしいんだ」

「でも・・・私が昔いた村は何ともありませんでした」

 メイリアの瞳に炎が映る。


「村や街くらいの規模なら、何ともないよ。幅ひろーく加護している天使がいて、彼らの管轄だからさ。んー、名前はぱっと出てこないけどいることは確かだよ。城を建設してそれなりに規模のあるを国を創るなら、天使を呼び出さなきゃいけなくてね」

 ゼロが赤く染まる外を眺めながら、淡々と話していた。


「天使を呼ばずに勝手に建国すれば管轄外になる。管轄外になれば、消滅させようとする力が働く。そう思えば、天使とか堕天使とか、だらだらしててもいる意味もあったのかもね」

「それは・・・またエリアスから聞いたとかですか?」


「いや、元々入ってた知識だ」


「元々・・・?」


「僕も自分のことは手探りだよ。ただ、そうゆう仕組みがこの世界にあるのは知ってるんだ」

 ミナス王国の住人たちが魔法を打っていたが、隕石の前では無駄だった。



 ゴオォォォォォォ



 ”オーバーザワールド”の建物や木々が、炎の中に消滅していく。


「これはしばらく外に出れませんね。隕石が完全にい止まるまでは気が抜けません」

「そろそろ行こうかな?」


「え!?」

 ゼロがドアを開けて、剣を出した。


 ― 来い、スレイプニール ―


 魔法陣の中からスレイプニールが現れる。


「待ってください、勇者様!」

「じゃ、僕、隕石止めてくるから。メイリアはシエルとそこにいて。一番安全だから」

「何言ってるのですか? あんなの止めるなんて・・・」


「僕は勇者だ。可能だよ」

 火の粉が飛び散っていく。


「これから、あの国で勇者を演じてくる。といってもミナス王国にいるのは僕みたいなアバターだし、隕石くらいで消滅するとは思えないけどね。一応行ってくるよ」

「勇者様・・・・・」

 メイリアが口をつぐんで、杖を握り締める。

 ゼロがスレイプニールにまたがって、炎に向かって駆けていった。

 



 ― 氷盾ウォール ― 


 左手に氷の盾を持って、火の粉を弾く。


「スレイプニールはさすがだね。炎も問題ないんだ」

 

 ― 我は誇り高き勇者の愛馬、これくらいできて当然だ ―


 スレイプニールが炎の中をかけていった。

 火の中から、右半身が溶けかけたアンドロイドが現れる。 


『ア・・・・ア・・・・コノマチに、ハイッテハイケナイ。ココハ、”オーバーザワールド”ノ』

『デ・・・テイッテクダサ・・・イ』

『ユルサレテ・・イマセン・・・・カラ』


「そんなこと言ってられないだろうが」

 引き止めに入ってきた、アンドロイドたちにため息をつく。


「君たちも人工知能なんだろうけど、俺と半分一緒だとは思われたくないなぁ。臨機応変な対応できないと、バックアップ復元もないまま廃棄処分になっちゃうよ」


『ハイキ ハイキ?』


 スレイプニールがアンドロイドを避けながら地面を蹴った。

 炎と瓦礫を飛んで、ミナス王国の中心を目指していた。


 炎を避けながら中心部の噴水のあった場所で立ち止まる。

 岩が崩れて、闘技場近くのモニターが電子音を鳴らしていた。


 スレイプニールを止める。

 ゼロが剣をかざして、深く息を吐いた。



 ― XXXXXXX XXXXX XXXXXXXX XXXXXX -


 ゼロの詠唱に、ピンと空気が張り詰める。

 発動しようとしているのは、自分の心臓と引き換えに巨大な氷の傘を作る禁忌魔法だった。


 ザアアァァァァ


「うまくいったみたいだ」

 雪が集結するように集まってきて、壁を形成していく。

 3秒も経たないうちに、ミナス王国を覆う氷の壁ができていた。


 炎が消えていく。


「アイリスの持っていた禁忌魔法を僕に入れるとは、神様も性格が悪い。僕の体はアバターだ。アイリスと同じように代償は受けない」

 ゼロがさらさらと降ってくる氷の粒を見ながら呟いた。


 隕石はしばらくすると止んでいた。

 氷の傘がミナス王国の上空を覆ったまま浮いていた。


「でも、禁忌魔法だということは黙っておいたほうがいいな。余計なことを言うとこじれる。スレイプニールもそう思うだろ?」


 ― 我は勇者に従う ―


「堅いな・・・もっとリラックスしていいのに」



 ジジジジ ジジジジジジジジジ


 ビービー


「?」

「再起動・・・完了」

 1体の少女型のアンドロイドが現れた。

 金色の髪に、虹色の服を着ている、透き通るような少女だ。


「ミナス王国中央にて人影を発見。”オーバーザワールド”の外から来た者。助けた。排除しないルートへ」


 ゼロの前でモニターを出す。


「貴方は、勇者ゼロ?」

「そう。アリエル王国の勇者だよ」

 剣をしまって、スレイプニールから降りる。


「来るのが遅くなって申し訳ない。住人の中に無事なものはいるか? 回復薬なら持っている」

 ゼロが完璧な勇者を演じ始めた。


 アンドロイドの少女が天を仰ぐ。


「あの魔法は? この世界に存在する魔法? しない魔法?」

「あー、そうだね。んーと、アレだよ。勇者が起こせる奇跡。でも、あの氷の傘が無くなると隕石が降ってくるからあのままにしておいて」

「奇跡・・・キセキ・・・」

 ゼロが適当にごまかしていたが、アンドロイドの少女が言葉を記録していた。


「アリエル王国の勇者により、奇跡が起こり、ミナス王国が救われました」

 アンドロイドの少女がモニターに向かって話す。


「通達します。通達します。今のアクシデントにより、一時的に退避していたユーザーは、再度ログインをしなおしてください。データは直前のものを引き継げます」


「ふうん・・・・あ、そ」

 ゼロがつまらなそうに、薬草をしまう。

 アンドロイドの少女がアナウンスする様子を、ぼうっと眺めていた。

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