6 Folk tale (昔話)
「メイリア、その子魔族なんだろ? どうしたんだ?」
「ものすごく可愛いから、一緒に連れて行こうと思いました」
「人さらいみたいなことを・・・」
ゼロが呆れながら言う。
向かい側に座っていた、ギルドマスターのジタンが笑っていた。
「シエルは確かに可愛いな。うちのギルドにわざわざ見に来る城の者がいるくらいだ」
「可愛いけど、僕はもう少しミステリアスな子が好みかな。あと、少し強がりで優しかったり、あと、髪は長くてさらさらしてる子」
「随分、具体的だな」
「んー、そうかな?」
ゼロたちは夜更けまで他愛もない話をして、すっかりギルドに馴染んでいた。
「っ・・・私が、異世界アバターなんかに捕まるなんて」
「だって、すごく弱いから」
メイリアが透明な縄でシエルの両手を縛っていた。
ゼロが椅子に座りなおして、頬杖をつく。
「でも、この子どこかで見覚えあるんだ。魂の記憶ってやつかな?」
じっとシエルを見つめる。
「魔王城、うーん、魔王城にいたのを見たのかもしれない・・・」
「私は貴方に会ったことありません。勇者が魔王城に現れたことなんてありませんから。我々、上位魔族が許しません」
「上位魔族? 私の仲間を殺した奴らがこんな弱いわけない」
「本当です。魔王ヴィル様がいれば、私は上位魔族最強なのです」
「嘘、ついてない? ん? やっぱり私、エラーかな?」
メイリアが首を傾げた。
シエルが奥歯を噛む。
「メイリア、別に自由に動いていいけど、あまり面倒な問題を起こさないでくれよ」
「でも、シエルは連れていきたいです。憎い魔族でも、可愛いので別です。可愛いは世界平和です」
「よくわからないし、わがままだな」
「・・・離してください・・・・・」
「いや。もう少しこうしてる」
メイリアがシエルの服をつまんでいた。
「まぁ、いいじゃねぇか。勇者のパーティーってのは大体4,5人いて、賑やかなものだろ」
「そうなの?」
「そりゃそうだ。偉大な何かを成し遂げるためには信頼できる仲間が必要だろうが。アリエル王国の元勇者オーディンだって仲間がいた」
「なんか聞いた話だね」
ゼロがアイスティーのストローをいじりながら、シエルを見つめる。
「で、昨日の話の続きだ。どこまで話したかな」
「僕の出自とか勇者になった経緯とか? あ、聞きたいのは”オーバーザワールド”のことだったね」
「そうだ。今朝も話したように、突然城の周りに現れるようになったんだ。君ら『ウルリア』と同じ種族なのか?」
ジタンが少し警戒しながら話す。
「違うよ。でも、メイリアは近いかな?」
「ちょっとだけ近いだけです。私は自分の意志で、望月りくについて、この世界に来ましたから」
メイリアがツンとしながら言った。
「どうゆうことだ?」
「”オーバーザワールド”は異世界のオンラインゲームだ。異世界住人のことは話したよね?」
「・・・あぁ、アリエル王国に来た別世界に肉体を持つ存在・・・だったね」
「そう、それと似てると思ってくれていい。”オーバーザワールド”の世界の延長線上、もしくは重なってこの世界が存在してるんだ」
コップの氷を、ストローでかき混ぜながら話す。
「”オーバーザワールド”には3パターンの種族が存在する。異世界住人と同じように別の世界に肉体があってアバターでログインしてる者、ゲームの中の住人として存在してる者、人工知能が自身を売り込むためにゲームにログインしている者」
「ま・・・待ってくれ。理解が追い付かない」
ジタンが頭を抱える。
「ログイン? ゲームの中の住人? 人工知能? 売り込む? さっぱりだ」
「当然だよ。僕だって初めて聞いたら混乱する」
「なんで、そんなことが起こった?」
ペペが近づいてきて、口を開く。
「ペペ・・・」
「別の世界がくっついた? どうして?」
「別にすべてを理解しなくていいと思うよ。徐々にわかってくる」
「・・・・・・」
ゼロが柔らかい口調で、回答をぼかした。
ペペが何かを察して口つぐむ。
「ペペたちが遭遇したレベルの者がごろごろいるのか?」
「全員が全員、強いわけじゃない。遭遇率は割り出せてない。まぁ、運だね。これが敵だ」
ゼロが指を動かしてモニターを出す。
”うそつきマペット”との戦闘の様子を映していた。
「・・・・・・・」
ペペがジタンのマントを引っ張る。
「あ・・・あぁ、ギルドメンバーには話す。でも、どう動けばいいかまだ分からない。まとめてから俺の口から話そう」
「わかった。人間は回りくどくて大変だね」
ゼロが”うそつきマペット”を目で追っていた。
「ある程度機械的に情報処理していったほうが、楽だと思うよ。彼らみたいに」
「こ・・・・こんなことが起こるなんて」
ジタンがモニターを見ながら、呆然としていた。
「なんだ? その魔法は」
ギルドのメンバーが、モニターを見てジタンに近づいてきた。
「僕のモニターだよ。好きにみていいよ。ここが巻き戻しボタンだから」
「これが異世界の・・・・」
「初めて見た。投影魔法に似てるが・・・」
周囲にいたギルドメンバーが、モニターの前に集まってきた。
「僕の知ってる情報はこんなところ。メイリア、なんか補足ある?」
「ありません」
「じゃあ、僕たちはそろそろ出るよ。ラファエル王国での用事も終わったし」
「はい。ガフお爺さんのお手紙渡せましたから」
メイリアが鞄を抱きしめて、満足げに頷いていた。
「これから、ど、どこに行くんだい?」
ジタンが思わず立ち上がる。
「君たちは”オーバーザワールド”の敵が集結してる場所を知ってるのか?」
「んー、実はあてがないんだよね。境目の濃い場所はあるはずなんだけど、エリアスも教えてくれなかったしな。メイリア、どうしようか。『ウルリア』にでも戻る?」
「勇者様の目的がそこにあるなら」
「ないんだよな。手ぶらで『ウルリア』に入ってもぐだぐだするだけだし。そうゆうのもアリかな」
「・・・・・・」
メイリアが一瞬、シエルのほうを見る。
「では、勇者様、魔王城に行きましょうか。魔王を・・・」
「北の果て・・・・」
シエルがツインテールを触りながら呟く。
「北の果てに行きたいのです」
「どうして?」
「魔王ヴィル様の生まれ故郷だから・・・ずっと行ってみたかったのです」
「魔王が魔王城にいるなら、魔王城に行ったほうがいいんじゃないんですか?」
メイリアが口をはさむ。
「・・・メイリアは魔王ヴィル様・・・この世界の魔王様のことをわかってないのです」
シエルが力なく笑う。
「当たり前です。私は魔王に興味はない。倒したいだけ」
「魔王ヴィル様はほとんど魔王城にいないのです。ダンジョン攻略や、異世界住人のこと、ミハイル王国のこと・・・全部、魔王ヴィル様が自ら足を運び、情報を得て成し遂げてきたのですよ」
― 絶対強制解除 ―
「!!」
「こほっ・・・・はぁ、はぁ・・・・ふぅ・・・・やっと解けました」
突然、シエルが強引に縄を解いて、息を切らしていた。
「もう一度、同じ魔法をかけます。今度こそ解けないように」
「メイリア、いいって。勝手なことはしない約束だ」
「・・・・わかりました」
ゼロが手を挙げると、メイリアが杖を降ろした。
「ねぇ、メイリア、ちょっといいかな?」
「ここ、ここで使った魔法を説明してほしいんだ」
「はい?」
メイリアがモニターに映っていた戦闘について聞かれて、ジタンのいるほうへ駆け寄っていった。
「君は上位魔族だったんだろ? どうして魔王城に戻らないの?」
「魔王城に行っても魔王ヴィル様はいません。待つのも悪くないのですが、上位魔族としての魔力を保てなくなった今、私が戻っても邪魔になるだけ」
シエルがゼロのほうを真っすぐ見る。
「北の果てに行くなら私も行きたいのです」
「どうしてそんなに行きたい? 何かあるのか?」
「魔王ヴィル様の生まれた地を見てみたいんです」
「ふうん・・・・・・・」
ゼロが床に落ちていた鳥の羽をくるくる回す。
「じゃあ、他をあたってくれ。僕らは”オーバーザワールド”が濃く繋がってる場所を探してるんだ」
「ゼロ、貴方はどうして魔王ヴィル様に似てるのですか?」
「兄弟だからだよ」
ゼロが当然のことのように話す。
「兄弟・・・」
「そう、僕は生まれてすぐ死んだ魔王の兄だよ。全く記憶がないんだけどね。色々あってこのアバターに入ってる。別に、魔王に対して憎しみも友愛もない。関心がないんだよ」
エメラルドのような瞳で遠くを見つめる。
「じゃあ、貴方の生まれた場所も北の果てのはずです」
「・・・ん?」
「魔王ヴィル様が言っていたのです。自分の兄は北の果てで生まれて死に、自分は数年後に生まれたって。私はどこまでも真っ白な景色というものを見てみたかったのです。魔王ヴィル様が懐かしむように、どこか寂しそうにお話しされていたので」
「魔王が・・・・・」
ゼロが椅子に座り直す。
「行き先が北の果てじゃなければ、私はここに残ります。魔王ヴィル様はどこにいてもきっと迎えに来てくれる。そう信じていますから」
「真っ白な景色か。それは興味があるな」
にやっと笑って、伸びをする。
「僕はいろんな景色を見てみたいんだ。”うそつきマペット”も北の果てと南の果てが云々言ってたし。北の果てに行くのも悪くない。行ってみるよ。ついてくるかい?」
「は、はい!」
シエルが満面の笑みで頷いた。
メイリアがゼロとシエルをちらっと見てから、ギルドの者たちに、”うそつきマペット”との戦闘方法を説明していた。




