5 Lost Power(力を失った)
「アリエル王国の勇者様に助けてもらったんだ」
「感謝してもしきれないよ。あのままじゃ、死んでた」
「ありがとうございます。勇者様」
回復して歩けるようになったリバルトが礼を言う。
ペペが隣で深々と頭を下げていた。
「いや・・・当然のことをしたというか・・・」
ゼロたちがラファエル王国に入ると、真っ先にギルドの建物から人間が出てきた。
いつの間にか多くの人に囲まれていた。
「それに、2人を治癒したのはメイリアです。礼ならメイリアに」
「でも、私は勇者様の命令に従っただけなので」
「メイリア、ここは素直に私が治したって言ったほうがポイント高いぞ」
「はぁ・・・ポイントですか。重要ですね。次からそのように言います。人間の会話は難しいんですよね。慣れないと・・・」
メイリアが杖を持ったまま、困ったような表情を浮かべた。
「はははは、勇者様一行は変わってるな」
周囲の人間たちが、緊張感が抜けたように笑っていた。
「・・・・・・・」
「? どうしましたか?」
ペペが無言でメイリアの服を引っ張る。
「あぁ、ペペは言葉が苦手でね。ギルドの酒場で休息していかないかって話してるんだ。ほら、服が汚れてしまってるって」
「あ、気づきませんでした」
メイリアのスカートには泥がついていた。
リバルトが言うと、ペペがギルドの建物を指して何度も頷いていた。
「そうだ。アリエル王国の勇者様、是非、俺たちのギルドに立ち寄ってくれ。服の汚れを落とす魔法が得意な者もいる」
ギルドから20代くらいの青年が出てくる。
「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺は、ラファエル王国のギルドマスターのジタンだ。よろしくね」
ギルドのマスターは背が高く、屈強な体を持っていた。
細い目で、じっとゼロとメイリアを見つめる。
「マスター? 貴方が・・・」
「あぁ、うちのギルドの者が世話になったようだね。心から感謝するよ」
胸に手を当てて、頭を下げる。
「いや、たまたま通りかかっただけで」
「あの! グスタフ様はいらっしゃいますか?」
メイリアが慌てて、前に出た。
「手紙を、ガフお爺さんから、手紙をお預かりしているんです! グスタフ様は・・・」
「俺、俺がグスタフだよ」
リバルトとぺぺと一緒にいた剣士が前に出てきた。
「え?」
「ガフ爺さん知ってるの?」
「・・・・はい。これを、この手紙を預かってきました」
メイリアが少し緊張しながら、鞄から手紙を差し出す。
グスタフが受け取ると同時に、ギルドマスターのジタンがゼロに近づいた。
「勇者様はどこか急いでいるのかい?」
「いや、目的はあるけど、今みたいにのびのび旅してますね。ギルド、そう、ラファエル王国のギルドの者に会ってみたかったんですよね。巨大ギルドがあるって聞いてるので」
ゼロがラファエル城を見ながら言う。
「そうか。勇者様はギルドに入っていないのか?」
「入ってませんね、勇者になるためにギルドに入らなきゃいけないって条件もなかったので。そういえば、ラファエル王国にも勇者っているんですか? 各国に勇者がいると聞いているんですけど」
「・・・・・・・」
ゼロが軽く聞くと、ジタンが顔をしかめた。
ペペが手を伸ばして、グスタフへの手紙を読みたいと主張している。
「ラファエル王国の勇者は確かにいたが、行方不明だ。おそらく、悪魔に殺されたんじゃないかと・・・ま、噂だが」
「契約を破ったんですね」
ゼロがマントを直しながら言う。
「契約は絶対ですから。破って殺されるのは仕方ないことです」
「・・・・・・・」
「ん? どうしましたか?」
周囲がピリついているにもかかわらず、ゼロが首を傾げていた。
メイリアもよくわかっていないようで、ジタンの魔力の高まりを感じて、杖を握り直していた。
「・・・・まぁいい、アリエル王国の勇者様にも勇者としての覚悟があるんだろう。とにかく今起こってる異変について聞きたいんだ」
ジタンがリバルトとペペのほうを見る。
「どこの世界の者かわからない者たちが、ラファエル王国周辺をうろつくようになった。グスタフ、リバルト、ペペはうちのギルドの中でもSS級だ。3人が負けるなんて考えられない・・・」
「なるほど」
勇者が口に手を当てて、ジタンの仕草から何に怯えているのか読み取ろうとしていた。
「勇者様、少し時間をもらえるかな?」
「もちろんです。急いでる旅ではないので、僕の知ってることをお話しします。あと、料理ってありますか? 人間ってすぐお腹すくんですよね」
「うちのギルドのご飯は美味しいぞ。料理上手な者が多いからな」
「へぇ!!」
ジタンが笑いながら言うと、ゼロがお腹をさすって目を輝かせた。
「勇者様、暴飲暴食はよくないです。さっき食べたじゃないですか」
「新しい料理は別腹だ。メイリアだって食べてみたいだろ。さっきから甘い、いい香りがするんだから」
「それは・・・そうですけど・・・」
バタン
「魔王ヴィル様・・・!?」
ギルドの建物から白銀の髪を二つに結んだ少女が飛び出てくる。
「ん? 魔王ヴィル? いやいや、俺は勇者だよ」
「そ・・・・そうですよね。遠くから見た姿があまりにも似ていたので」
「んー、ま、そりゃそうか」
ゼロが聞こえないような声でつぶやいた。
「失礼しました」
少女が俯きながら、一歩下がる。
「この子は?」
「彼女はシエル。元々魔族だったらしいんだけど、途中で力を失くして、魔王城やダンジョンに帰れなくなったらしい」
「・・・・・・・・」
ジタンが説明すると、シエルが悔しそうに両手を握り締めていた。
「魔族・・・でも、魔族のような魔力はない」
「・・・な・・・なんですか・・・?」
メイリアが近づいて、まじまじとシエルを見つめる。
「美しい顔、おとぎ話の妖精みたい」
「はははは、そうだね。シエルはうちのギルドでも人気者だよ、ひそかな恋心を抱いている者もいっぱいいるんだぞ」
リバルトと隣にいた少年がびくっとして顔を背けていた。
「恋心・・・・?」
「そ、それより、マスター。早く中へ」
「そうです。ここで騒ぐと、また住民に苦情を入れられてしまいますよ」
リバルトが動揺を隠すように言う。
「是非、中に入ってくれ。立ち話だと疲れるからな。酒は飲めるか?」
「私は一応、未成年設定なのでNGです」
「僕は、その辺のコントロールには自信があります」
「コントロール・・・?」
メイリアが不思議そうにゼロを見ていた。
「なるほどなるほど・・・本当に勇者様たちは変わってるな。ラファエル王国はブドウが有名で、ブドウで造る酒がうまいんだ。是非、飲んでみてくれ」
「はい! ありがとうございます」
ゼロが満面の笑みで体を伸ばした。
ゼロは人の話に合わせるのが上手かった。
ラファエル王国のギルドにはいろんな出自の者がいた。
ゼロのどこか掴みどころのない雰囲気も、親近感につながり、夜が更けるまで話は盛り上がっていた。
「勇者様の適応能力は高い。私も合わせるようにならないと。さっきの会話を取得、ルートに追加・・・」
メイリアが屋根に上って、モニターを出していた。
ふと、月明かりを見つめる少女が視界に入る。
手を伸ばして、魔法陣を描こうといていたが、すぐに消えてしまっていた。
「シエル?」
「貴女は・・・勇者といたメイリアですね」
シエルが膝を抱えて座りなおす。
「聞きたいことがあります」
メイリアがモニターを操作しながら、近づいていった。
「何ですか?」
「どうして魔族の力を失ったのですか? シエルの持っている魔力は戦えるほどの力はない」
「そんなことまで見えるのですね」
「改良に改良を重ねて強くなろうとしているんです。今の私にできることはそれしかありませんから」
「異世界住人ですか?」
「違います。彼らとは全く別の種族です」
メイリアがきっぱり言って、シエルの隣に座る。
「私に何か異常があって間違っているのか、シエルに魔力を失うような何か起こったのか聞きたかったんです。魔族の力を失ったのですか?」
「貴女は間違ってません・・・偵察に来ていたのです。人間と魔族が仲良くなったとはいえ、この目で見るまでは信じられなくて・・・でも、途中でなぜか全く魔力を練れなくなってしまったのです」
シエルが自分の手を見つめながら言う。
「魔王ヴィル様がいないからかもしれません」
「どうして?」
「・・・私、魔王ヴィル様に会いたくて・・・どうしたらいいのかわからないのです。このままだと上位魔族としていられなくなります・・・魔王ヴィル様がいれば・・・」
「魔王?」
「そうです。魔王ヴィル様は優しい方なのです。元々弱かった私を見捨てないで力を与えてくれて・・・優しすぎる方・・・。だから、こうしている間も無理していないか心配なのです」
「ふうん・・・・・」
メイリアがモニターのメンテナンスをしながら聞いていた。
「どうして、どうして、こんなに簡単な魔法も使えないのか。私、強いはずだったのに・・・どうして・・・・っく、魔王城にも戻れないなんて・・・情けなくて」
シエルがぼろぼろと涙を流しながら、地面に小さな魔法陣を描いていた。




