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397 堕天

「異世界の者、そこをよけろ! 人が死んだんだ」

「魔王一行だな? サンフォルン王国をどうするつもりだ?」

 ユイナが必死に首を振る。


「違う。わ・・・私、体がいうことをきかなくて。魔神アストライア? 何なの?」 

『覚えておらぬか?』

 アストライアがユイナを見ながら言う。


『我はお前と契約してただろうが』

「契約って・・・召喚・・・ま、まさか、”ユグドラシル”の?」


『そうだ。我の体は、この世界にはまだ馴染んでおらぬようだが・・・・まぁそこそこの力は使えるようだ。あいつらの中に、お前を殺そうとしている者がいた。だから、契約によりオートモードで、我が召喚された』


「そうって。契約したのはゲームの世界で・・・まさか、リュウジが・・?」

『契約は契約』

 アストライアが天秤を剣に変える。


『我が呼ばれたということには変わりない。あと、ほかに敵がいないようだな。天秤が反応しなかったからな』

「あ・・・動けるようになった」

 ユイナが地面に足をつける。

 人間たちに警戒しながら、どうしたらいいかわからず硬直していた。



 ― ハデスの剣 ―


 剣を出して、ユイナに駆け寄る。

 アストライアは、俺らには全く敵意がないように見えた。


「ユイナ、大丈夫か?」

「はい・・・私は何ともありません」

 ユイナが自分の手を見つめながらうなずいた。


「でも、どうして魔神アストライアがこんなところに? だって、世界が違う。違うゲームなのに。ここに来る途中現れた敵も、どうして急に現れたの?」


『知らぬ。魔女の使い魔を名乗る者から説明は受けた。お前はここにアバターで転移し、魔女になったと。我を呼び出せるだけの力もある、だから召喚された』

「・・・使い魔が・・・?」

 ユイナがきょろきょろと周りを見渡す。

 使い魔なんて、どこにもいないように見えるけどな。


「異世界住人があんな恐ろしい魔神を召喚するなんて・・・魔王様はいったい何を・・・・どちらの味方なんだ?」

「でも、魔王は世界を救ったんだろ? この国だけ潰そうとしているとは思えない」

 人間たちがざわつく。


「戴冠式は中止すべきだ!」

「そうだ。呪われてる、呪われてるんだ!」

「でも、今死んだ奴らはクーデターを起こそうとした者たちだ。正当防衛なんじゃないか?」

「現に俺たちは祝福を受けてる」


「そ・・・だとしても、あの前で戴冠式が行われるのか? この国は呪われてしまうぞ」

 民衆の混乱は広がっていくばかりだった。

 魔神アストライアが睨みを利かせてるのもあるかもしれないけどな。



「いかがいたしましょうか? このまま続けますか?」

 大臣らしき者が、神官に小声で聞く。


「続ける。神聖な儀式だ。本日まで王がいないこと自体、大変危険なことなのだ。この国の存続のために、今、止めるわけにはいかない」

 神官が震える手で、王冠を持っていた。

 巫女が宝玉を持ったままうつむいている。



「天使が許さないだろう」

「・・・かしこまりました。式は続行する! 静粛に!」


「私・・・こんなことになってまで・・・・女王になんてなりたくない」

「ピュイア様・・・でも・・・・」

「いや・・・だって、民が死んだの。この神聖な式で・・・やっぱり私が女王になるなんて許されていなくて・・・・」

 ピュイアが一歩ずつ下がりながら、首を振る。


「お願い! もうやめて。今すぐこの式を・・・」

「駄目だよ」


「!」

 サンフォルンがピュイアの首に剣を突き付ける。


「認めない。式を続けるって、神官と巫女に言って」

 強い口調で言う。


「え・・・」

「君はサンフォルン王国の王族の血を引いていない。王族がいなくなれば、天使はいなくなる。天使がいなくなれば、民は路頭に迷う。どんな理由があれ、続けて。嫌というなら、仕方ない。ここで、あの魔女と、君を殺す。式をつぶした罪だ」


「でもっ・・・・・」

「嫌なら君が女王となり、新たな王家の血を継いでいくしかない。僕が、ここを更地にしてもいいの? 民を見捨てる気? それはすべて、君が逃げた罪となる。別に構わないけど」


「っ・・・・そんな・・・」

「天使は、時に残酷なんだ。純粋がゆえにね」

 ピュイアが硬直して、ユイナのほうを見つめる。


「わ、わかった。続けて。この式をこのまま戴冠式を・・・」

「ピュイア様・・・かしこまりました」


「お待ちください。あ、あの魔神はここにいるのですか?」

「えっと・・・・」

 サンフォルンが剣をピュイアから離す。



「ユイナ、今はその魔神アストライアを戻したほうがいいんじゃない? ねぇ、今、ユイナに敵意を持っている者はいないでしょ? 怯えてる感じだ」

『ん?』

「魔神アストライア、今はこの場から消えてもらいたい。ユイナは魔王と俺が必ず守る。君がいると、いろいろと面倒なんだ。民衆が俺らにこれ以上警戒心を持ってくるととややこしくなるんだよね」

 エヴァンが魔神アストライアに向かって話す。


『お前は・・・・』


「あー、俺は君のいるゲームやったことないから面識ない。というか、そのゲームにいるはずの魔神がここにきてること自体、大問題なんだけど」

 俺もエヴァンもいつでも攻撃できる体勢を取っていた。


「魔神アストライア・・・」

『我が主よ、命令とあれば我は消えるが?』

「じゃあ、もういいから! 戻って!」

『承知した』

 魔神アストライアが手をかざして魔法陣を展開し、消えていった。



「魔神アストライアが出てくるなんて・・・」

 ユイナがぺたんとその場に座り込む。


「ど、どうしてこんなことが・・・今までどうして気づけなかったの・・・?」

「ユイナ、とりあえずこっちに来い。ピュイア、いいだろ? 戴冠式を続けろ」



「・・・・わかったわ」

 ピュイアがうなずく。

 気の抜けたユイナの腕を無理やり引っ張って、席についた。


 民衆が少しずつ静かになっていく。


「マジで”オーバーザワールド”がどこから侵食してきてるかわからないね」

「このままアイリスも戻ってくればいいんだけどな。そう、都合よくもいかないだろう」

「だよねー」


「私も自分で自分が怖いです」

 ユイナが腕をぐっと握り締めていた。

 

「気にするな。エヴァン、今のは味方だったが、次はわからない。分析はあとだ」

「了解。敵が現れたら、とりあえず戦うよ」

 エヴァンが剣に雷を流す。


「レナは戦いなんて嫌なのです・・・」

「じゃあ、端っこのほうにいろって」

「い、言ってみただけですよ。レナはここにいます。もしかしたら、レナも必要かもしれないので」

 レナが口をもごもごさせながら立ち上がる。


「レナもいます。エルフ族の巫女ですから」

 ヴァルハルの舞で使っていた杖を出していた。




「ごほん、では仕切り直して、女王の戴冠式を行います。ピュイア様こちらへ」

「はい」

 ピュイアが緊張した面持ちで、赤いカーペットの階段を上がっていく。

 ベロア生地のマントがゆったりとなびいていた。


 音楽隊が座りなおすと同時に、民衆も静かになっていった。

 女王の王冠が、ステンドグラスの光を浴びて金色に輝く。


「ピュイア=リエルト、神官ガイルの名のもとに、天使に代わって、貴女をサンフォルン王国の女王とします」

「はい」

 サンフォルンが神官の手に添えて、王冠をピュイアの頭に載せていた。

 ピュイアが宝玉を手に取る。


「ピュイア女王、誓いを」


「私はこの国に尽くします。全身全霊をかけて、民を愛します」


 祈るように言う。清らかな声だった。

 目を閉じたピュイアのまつ毛はしっとりと濡れている。


「ここに、サンフォルン王国の女王が誕生した」

 

 ピュイアが民衆を見下ろして、宝玉を掲げた。


 パチパチパチパチ


「ピュイア王女!」

「おめでとうございます」

 ファンファーレが鳴り響く。



 サンフォルンが黄金の髪をふわっとさせて、地面を蹴った 


「ん? 僕が・・・堕天?」

 純白だったサンフォルンの翼が黒くなっていく。

 ふわっと飛び上がると、ステンドグラスに漆黒の羽根が照らされていた。 

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