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396 回りだす

 天使は必ず国を持つのだという。

 国のない天使は、滅ぼされたか、統合されたか、長い歴史の中で国を失い、リーム大陸に新天地を求めていたそうだ。


「この世界の王家の血は国生みの力が入ってる。天使を呼び、国を創る。アリエル王国の王と王妃は、アリエル王国を捨てて、どこかに行ったんだった。異世界の拠点にするなんて、そりゃ怖いよね」

 サンフォルンが軽い口調で話していた。


 人間たちには、サンフォルンの姿が見えていないようだ。


「この国はよく続いてるよ。運なのかなー?」


「んなことより、どうして俺らまで参列席にいるんだよ」

「魔族の王が参列したほうが、何かといいでしょ。世界を救った魔王だし。ほら、民衆の注目も集まってる」

「レナはなんだか緊張するのです」

「レナが緊張する必要ないだろ。俺は長すぎて寝そうなんだけど。つか、ヴィル、本読んでるの?」


「当たり前だろ。暇なんだから」

「本の精霊とかに取りつかれてない? 大丈夫?」


「ほ、本に精霊なんているのですか?」

「冗談で言ったんだよ。レナはなんでも本気にするな。いつか悪い男にだまされるぞ」

「わ、悪い男・・・・」

 コノハからもらった異世界の本を数冊持ってきていた。

 こいつらが騒がしくて、あまり集中できないけどな。


「いいねぇ。噂に聞いた通り、魔王一行は自由だ」

「そりゃどうも」

 読みながら、サンフォルンの話を聞いていた。


 ピュイアの定款式の式典はゆったりと進んでいた。

 音楽隊が楽器を奏でる。


 ピュイアが緊張した面持ちで、国民を見下ろしている。


「サンフォルン王国の王家は全滅したんだろ?」

「そうそう。でも、ほら。ピュイアが王家を継ぐし、サンフォルン王国は問題なく存続していくよ」

「軽いなー。ミハイルはもっと執念深かったけど」

 エヴァンがあくびをしながら言う。


「レナは一人でも死んだら立ち直れないのです」

「んー、僕はそこのところの感情が薄いからわからないな。死んじゃったものはしょうがないし、冥界の王が何とかしてくれるでしょ」

 サンフォルンが音に合わせて、指を動かす。


「国民は腹に何か溜めてる雰囲気だな。当然か」

 人間たちの様子はどこか影のようなものを感じた。


「クーデターとか起きないの? 起きたとしても俺たち傍観してるよ」

「はははは、それならその時だよ」

 前方にいた軍の者たちが民衆を見張っていた。

 殺気立ってる者たちも大勢いる。


 ピュイアは気づいているのか、表情がこわばっていた。


「でも、魔王がこの参列席にいたら何もできないんじゃないかな? どうだろう、僕は人間がよくわからないから」

「利用する気か?」


「いや、運命がここに魔王を座らせたんだよ」

 サンフォルンが白い翼を広げて、目の前に降り立つ。


「魔女が女王になる。いいか悪いかは別にして、歯車が逆に回りだしたんだ」

「・・・・・・・・」

「世界が変わっていく。僕はどこまでついていけるかな。正直、自信ないなー」

 サンフォルンがピュイアのほうを見つめながら言う。


「お前はアエルのこと、どれくらい知ってる?」

「実は結構知ってるんだ。近いところにある国だからね」


 音楽が鳴りやみ、祈りの歌が捧げられる。

 神官のもとにピュイアの王冠が届けられ、式の準備が始まっていた。


「純粋な魂を持つ赤子が召し上げられた。すぐに堕天したけどね。いつも楽しそうにしてたな」

「ゼロという勇者になったよ」


「え?」

 サンフォルンが大きく目を見開く。


「どうゆうこと?」

「やっぱり知らなかったか。勇者ゼロはアエルなんだよ」

「ありえない・・・天使が人間に生まれ変わったってことか? いや、そうだとしても時間が・・・」

「『ウルリア』でアバターに魂を入れられたんだ。終焉の魔女イベリラが仕組んだこと・・・・・」


「ヴィル様!」

 話の途中でユイナが割って入ってきた。


「す、すみません。モニターが映らなくなりまして、ここの通信がぶれてきてるんだと思います。今のところアバターには異変がありませんが」

「見た感じ、ユイナに何か異変があるわけでもなさそうだけどな」

「はい・・・でも、やっぱりさっきの”オーバーザワールド”の敵が関係してるのかと。胸騒ぎがします」


「ふむ・・・何か、おかしい」

 サンフォルンが剣を出した。


「僕は女王の傍にいる。たぶん、何かが起こる。君らもそれなりに準備しておいたほうがいい」

「おい・・・・」


「・・・・・」

 すぐにふわっと飛んで、ピュイアの隣に立っていた。

 白い羽根が落ちてくる。




「準備って、また戦闘かよ。小説が2章に入っていいところなんだが」

 本にしおりを挟んで、しまった。


「上位魔族なら喜ぶんだろうな。最近、戦闘がないって落ち込んでたから」

「えー、戦闘がおこるなら帰りたいのですけど」

「退席するのはいいんじゃない? どこに敵が現れるかわからないけどね」

「うぅっ・・・じゃあ、エヴァン、一緒に逃げましょう」


「エルフ族の回復の巫女なんだろ? けが人が出るかもしれないだろうが」

「確かに・・・でも、戦闘はもう嫌なのです」

 レナが両手を握り締めて首を振った。


「あ・・・・・・・・」

 ユイナが急に立ち上がる。


「ユイナ・・・?」

「体が勝手に・・・」

 ユイナの体が浮き上がる。

 周囲に3つの魔法陣が展開され、服装と武器が切り替わっていった。


「ヴィル様! 私何をするかわかりません! と止めてくだ・・・・」

 剣を握り締めて、天を仰ぎながら詠唱していた。

 知らない言葉だ。


 飛び上がってユイナの腕をつかむ。


 ― 奪牙鎖フリーズ― 


「!!」

 両手を縛ろうとしたが、鎖がユイナに触れると解けてしまった。


 俺の魔法を弾いた?



 うおぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお 


 一部の人間たちが一斉に動きだす。


「俺たちはピュイアが女王になるなんて認めてない!!!」

「王家殺人殺しめ!!!」

「やっぱりこうなるよね。どこの国も、文句は溜め込んでるんだよ。どうするんだろ。ねぇ、ヴィル、あの軍の奴ら、止める気あると思う?」

 エヴァンが他人事のように眺めていた。


「こっちはそれどころじゃない」

「ん?」

 ユイナが見慣れない杖を持って、浮いていた。


「皆様、は、離れてたほうがいいかもしれません。何をするのか・・・」

「え? ユイナどうしたの?」

「体が勝手に動くんです。きゃっ」

 ユイナが引っ張られるように飛んで、ピュイアの前に立つ。



「ユイナ!」


「ちょっと待って。ユイナに支障はないようだ」

 エヴァンが引き留める。


 ― XXXXXXX XXXXXXXXX XXXXXXXX -


 ユイナが何かを唱えると、地面に魔法陣が展開される。

 召喚魔法?


 ― 魔神アストライア - 


 杖をつくと天秤を持つ大きな女神が現れた。

 クーデターを起こそうとしていた人間たちがぴたりと足を止める。


「な!?」

 魔神アストライアが杖を構える。



 ― 星の裁きを、グランディアス ―



「!?!?」


 サアァァァァァァァアアアアアア


 サンフォルン王国全体に星々が降り注いだ。


「こ・・・この魔法は・・・・・”ユグドラシル”の・・・」

 ユイナが震えながら小さく呟いた。


「心が透き通るような感覚になります」

 近くにいた神官や巫女たちが手のひらに星を乗せる。

 ぱっと消えて無くなっていった。


 攻撃性はない?

 降り注ぐ星は、柔らかい風が吹く感覚に似ていた。


 俺はこの星をどこかで・・・。


「レナは体力魔力がアップした気がするのです。今なら、ヴァルハルの舞も踊れそうですよ」

 レナが立ち上がってくるっと回ってみせる。

 踏んだ場所が、七色に輝いていた。


「女神の祝福か?」

「そうでもないみたいだよ」

 エヴァンが民衆のほうへ視線を向ける。 


 バタン


「レルフ!! きゃああぁぁぁぁぁぁ」

 女性の悲鳴が上がる。


 バタン バタン 


 一部の人間たちが倒れて、混乱していく民衆を見つめていた。

 歯車が逆方向に回ったからなのだろうか?


「クーデータを行おうとした者の息の根を止めたみたいだ」

「なるほどな・・・あくまでも魔神の祝福か」


「どうして急にユイナがそんなことを」 

「さぁな。誰かに身体を操られているのか・・・」

「誰に?」


「皆さん! 静粛に!!」

「落ち着いてください。状況を確認しますから!!!」

 軍の兵士たちが、パニック状態の人間を止めている。


「の・・・呪いだ。これは・・・呪いだ!」

 誰かの叫び声が響く。


 魔神アストライアは、傾いた天秤を見つめていた。


「私・・・・どうして・・・・こんな魔法をここで・・・?」

 ユイナが震えながら、民衆を見下ろす。

 サンフォルンが腕を組んで、魔神を見上げていた。 

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