33 城の駒
「魔王ヴィル様・・・私、ごめんなさい。寝ちゃったみたいで」
「あぁ」
アイリスがドアを開けて出てきた。
「でも、たくさん寝たらすっきりしちゃった」
「そうか、よかったな。酔ってる間の記憶あるか?」
「ううん、でもなんかいろんな夢見てた気がする。全部忘れちゃったけど・・・どんなのだったかな?」
「・・・・・・・・」
酒は人間にとって毒だな。
『アイリスよ、異世界クエストに挑戦してくれるか?』
「もちろん、頑張ってきます。”シンブンシ”と異世界の”ジショ”でしたよね?」
『そうだそうだ』
ユウラクチョウが頭をカクカク動かして頷いていた。
「任せてください!」
アイリスが腕を軽く動かしながら言う。
「気をつけろよ。明後日、迎えに来る。俺がここに来るまで、絶対にダンジョンを出るな。わかったな」
「はーい。じゃあ、行ってくるね。シンバシ様、異世界への道を開いてくださいますか?」
髪を一つに束ねて、気合を入れていた。
『あぁ、ここだ』
壁に張り付いていたシンバシの顔がぐぐっと伸びる。
祭壇の下をいじると、真っ暗な通路が現れる。
『アイリス、頼んだぞ』
「はい!」
シュンッ
シンバシが言うと、アイリスが穴の中に吸い込まれていった。
「じゃあ、俺は魔王城に戻る」
『明後日来るのだな?』
「あぁ。上にある死体と外に出してもらえるか? 魔族に片づけさせる」
『わかった。1日置いただけでも臭くてしょうがない』
ユウラクチョウがふわっと浮いて、肩に触れる。
シュッ
瞬きすると、ダンジョンの入り口前の、草原に着いていた。
足元には、ダンジョン内で殺した男の死体が転がっている。
「魔王ヴィル様、おかえりなさいませ」
アモンと、双竜が寄ってきた。
「あぁ、アモン。こいつはダンジョンの中にいた人間だ。処理しておいてもらえるか?」
「もちろんですが・・・それよりも、この死体。ダンジョンの中に人がいたのですか?」
「あぁ、俺を待ち伏せしていたらしいな」
ギルバートとグレイを撫でながら言う。
「なんと、大変申し訳ございません。ダンジョンへの侵入、気付きませんでした」
アモン深々と頭を下げた。
「別に気にすることはない。ここは今、人間のダンジョンなのだから、人間がいるのは当然だろう。でも、もうじき魔族のダンジョンになる」
「はっ・・・」
アモンがぴしっと身を引き締めていた。
「ん・・・・・?」
ポケットに入れていたオブシディアンに熱が走った。
上位魔族からの信号だな。
何かあったようだな。
「俺は魔王城に戻る。ギルバートとグレイを頼んでいいか?」
クォーン
「もちろんです」
「頼んだ」
草を蹴って浮き上がり、空から地上を見下ろす。
来たときのように、特に人間の気配はないようだな。
本当に、あの雑魚どもだけだったのか。
スピードを上げて、魔王城のほうへ向かう。
「魔王ヴィル様、おかえりなさいませ。お待ちしておりました」
赤い絨毯の上に降りると、サリーとジャヒーが近づいてきた。
後ろからププとウルも追いかけてくる。
「オブシディアンが反応した。何かあったのか?」
「はい、カマエルが人間を」
2人の剣士と1人の魔法使いが、両手両足を魔法で縛られたまま座っていた。
ぱっと見た感じ、装備品が良いものだな。
ギルド内では流れてこないものだろう。
「魔王ヴィル様、魔王城をうろうろしていた人間を連れてまいりましたので、ご報告をと思いまして」
「ふうん・・・・魔王城を、か。よくやったな。カマエル」
「ありがとうございます。お役に立てて光栄でございます!」
カマエルがくいっと眼鏡を上げて、誇らしげに言う。
「ギャーギャーうるさいので手荒く縛っておきました」
「もちろん、殺さない程度にです」
ププとウルが近づいてくる。
魔王の椅子への階段を上る。
「お・・・お前が、魔王ヴィル・・・・?」
剣士の男が顔を上げた。
― 奪牙鎖―
「うぐっ・・・・・・」
ププウルの魔法に被せて、三人を縛る。
「魔王城に来るとはいい度胸だな」
魔王の椅子に座りながら、見下ろした。
「ヴィル・・・魔王ヴィル・・・・」
女魔導士が震えながらこちらを向く。
「・・・・アイリス様を返せ・・・・・」
「お前は誰の命で来た?」
「そんなの答えるもの・・うぅ・・」
指先で奪牙鎖をいじる。
女の口が動き出した。
「王国からギルドに、アリエル王国王女アイリスがまだ生きているかどうかを確認するよう指示があった・・・あ、口が勝手に・・なぜ、私は効果無効化の魔法をかけているはずなのに」
「俺に対して、お前が弱すぎるからだ」
「・・・・・・・・」
女が俯きながら青ざめていた。
頬杖をついて、女を見下ろす。
「続きを話せ」
「・・・アイリス様の安否を証明するものを持っていけば、多額の懸賞金が手に入る・・・その懸賞金で私は余生を悠々自適に暮らすためにこのクエストを」
「お前、やっぱり懸賞金目当てで受けたんじゃないか。王国に仕える魔導士としてアイリス様の安否がとか言っておきながら」
「あ・・当たり前じゃない。じゃなきゃ、こんな危ない依頼受けるわけないでしょ。あんただって」
「ぐだぐだとしゃべるな」
手をかざして、強度を上げる。
うわあああ・・・あ・・あ・・・・
剣士と魔導士が上を向いたまま口を開ける。
女の体がびくんびくんと動いていた。
恐怖のあまり、声さえも失ったか。
「あ・・・アイリス様はここにいるんだろう? 魔王ヴィルが王国からさらっていくのを、俺もこの目で見た」
剣士が汗を垂らしながら、息も絶え絶えに、こちらを睨みつけていた。
「だったら、どうした?」
「はぁ・・・はぁ、アイリス様は王国にとって重要な方。魔族の城なんかにいてはいけない方だ」
虚ろになりながら言う。
「お前、城の剣士か?」
「そうだ。俺は誇り高きアリエル王国の剣士だ。魔王城に潜入するためにギルドの者たちとパーティーを組ませてもらった」
剣には王国の紋章が刻まれている。
「アイリス様を返せ。俺はどんな拷問を受けようと、我が国の命に従う。俺の命がなくなったとしても構わない。国の兵士が虎視眈々と魔王ヴィル、お前の命を狙うだろう。全てはアリエル王国のために」
声高らかに言った。
「この身が朽ちるまで言ってやる。アイリス様を返せ。今すぐに王国に・・・」
「アイリスは自ら俺の奴隷となった」
「あ・・・・・?」
「ククク・・・そうでしたねぇ」
カマエルが嬉しそうに笑っていた。
「王国はなぜそんなにアイリスに執着する?」
「王女がさらわれれば当然・・・いや、それは・・・わからない。そんな・・アイリス様が自ら? どうして? ありえない、なぜ・・・・?」
汗をだらだら流しながら、混乱して、うわごとのように呟いていた。
「ん? わからないのに、アイリスを返せと言っていたのか」
「そうだ」
頬杖を付く。
こいつに、奪牙鎖を弾く能力は無いはずだ。
本当にわからないようだな。
何も知らされず、国の命令とやらで動かされていたか・・・・。
こうなると、こいつも奴隷のようなものだな。
― 魔王の剣―
「か・・・関係ない。アイリス様を返せ。城に、返せ・・・アイリス様を」
「アイリスは渡さない。俺の奴隷だ」
ああ・・・ああああ・・・あ
魔王の椅子から立ち上がる。
高く飛び降りて、上から三人まとめて魔王の剣を刺した。
バタッ・・・
魂の抜かれた三人の肉体が床に落ちる。
カマエルが感嘆の声を漏らしながら近づいてくる。
「クククク、あの奴隷の女を連れ去ってから、この人間どもの行動まで、全ては魔王ヴィル様の計画通りでございますね」
「あぁ・・・」
「さすが魔王ヴィル様でございます」
魔族の持ってきた、水に口を付ける。
「あの女、目障りだと思っていましたが、このような役割があるとは」
「魔王ヴィル様がただで人間の女など傍に置くわけないでしょう? サリーは本当に魔王ヴィル様のことわかってないのね」
ジャヒーが意地の悪い目でサリーを見る。
「何媚びてるのよ。ジャヒー」
「私は魔王ヴィル様のことがわかるだけよ」
「フン、ずっとあのまま寝てればよかったのに」
「なんですって」
サリーとジャヒーが言い争っていた。
カマエルが呆れながら止めに入っている。
ププとウルが下位魔族に、死体を持っていくよう指示をしていた。
足を組みなおす。
アイリスは使える。今更、人間のもとへ返すものか。




