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381 魔女

「マキア・・・しばらく席を外してもらえるか?」

「は、はい」

 マキアが失礼しますと言って、部屋から出ていった。


 幼少型のアイリスがマキアを目で追っていく。


「マキア・・・別にいてもいいのに。吸血鬼族の子、アイリスの本体と仲良かったんでしょ? じゃあ、私も仲良くできるよ。ちゃんと記憶にある」

「お前のことを信用してないからな」


「姿は違うけど、私、アイリスだよ。アイリスはこの世界に入るとき少女型と幼少型を持ってきた。少女型は天使、幼少型は悪魔、そうゆう契約で転移してきた」

「悪魔ってことは、魔族じゃないの?」

 サタニアが戸惑いながら聞いてくる。


「こいつは魔族じゃない。堕天使でもない。ただ・・・」

「女神の使いってこと」


「女神の使い?」

「そう。私は悪魔と呼ばれる存在。普段は表に出ない。表で動くのは、聖女のほうのアイリスの役割だった」

 幼少型のアイリスがスカートを直しながら口を挟む。


「・・・・・・・」

 孤児院で聞いた話の中に、悪魔が出てきた。

 マリアじゃない。名前も忘れた別のシスターが書いた絵には・・・。

 確かこいつとそっくりな悪魔が描かれていたな。


 偶然とは思えなかった。


「女神との契約に反した者を罰していく。具体的には殺すことが多い、私はあまり呪ったりしない」

 十戒軍を殲滅させたのは、幼少期のアイリスだと言ってた。

 こいつのことで間違いないようだ。


「協力を仰ぐって、具体的にどうゆうことだ?」

「メイフェアは知ってる?」

「あぁ、各国の祭りだな」


「そうなの?」

「豊穣を願う祭りで、どこの国でもやっている。つか、知らなかったのか?」

「だって・・・私、転移してきたし・・・魔族だし」

 サタニアが口をもごもごさせた。


「メイフィアの前夜、”ワルプルギスの夜”があるの。月の女神を召喚する魔女の祭典。魔女以外の者たちは、基本的に知ることはない。結界を張るから、見えないの」

「勇者を選ぶってやつか?」


「そう。そこにゼロも来るはず。勇者の加護を得るために」


「・・・・・・・・・」

「『ウルリア』はまだ力を溜めている。彼らがいるのはよくない。神の管轄を超えているのに、消滅させることもできない」

 幼少型のアイリスがふわっと自分の翼をしまう。 


「ゼロを止めて」

「勇者の加護ってなんだ?」


「それは・・・今はまだ言えない。魔王様なら、行けばわかる」

 幼少型のアイリスが視線を逸らす。


 腕を組んで、棚に寄りかかった。


「ねぇ、そのワルプルギスの夜を開催しなければいいんじゃないの? 魔女が集まらなければいいんでしょ?」

「魔女は強制的に集められる。そうゆう運命になってる」


「私も魔女なんでしょ? 私はそんなの・・・・・」

「サタニアは行かないと、魔力が無くなっちゃうよ。実際、今、薄れてるんでしょ?」


「!?」

 サタニアが驚いたような表情をする。


「そうなのか?」

「私もププウルも疲れてるからって・・・」

 サタニアが自分の手を見つめながら言う。


「3人とも魔女。ププウルは魔王様の召喚陣を組んだ魔女だから、ちゃんとわかってるはず。言ってないだけ」

「・・・・・・」


「サタニアの力が落ちてるのは、堕天使の呪いのせいでも、月が欠けているせいでもない。ワルプルギスの夜が近づいているから魔女は力が薄れる。月の女神がそうさせてる」

「何のために?」

「信仰のため。じゃなきゃ、魔女が集まらないでしょ」

 幼少型のアイリスが、ピンクの髪を撫でる。


「信仰・・・」

「魔女が使う召喚用の魔法陣も、知識も、魔力も、月の女神が与えた。魔女にはね」

 マーリンからは聞いたことがなかった。

 オーディンが言わないようにしていたのか?



 タタタタタ タンッ


「あの! す、すみません! 私、いきなりステータスが全く表示されなくなってしまって、セイレーンとの連絡手段が・・・ってあれ?」

 ユイナが部屋に入ってこようとして、立ち止まる。


「この子は・・・・」

「ユイナも魔女なの」


 幼少型のアイリスが、一瞬でユイナの前に移動する。


「だから、異世界から持ってきた力を少しずつ奪われてる」

「え? なんの話ですか? あ・・・え・・・」

 ユイナの体をペタペタ触っていた。


「本当、情報通りアバターってちゃんと形を持ってる。私と変わらない。臓器もコピーされてる。アイリスの本体も本当は不思議がってたから」

「く、くすぐったいです」

「異世界住人が魔女になることなんてありえるのか?」

 幼少型のアイリスがぱっと手を放して、一歩下がる。


「そもそも、こいつは向こうに肉体がある。関係ないんじゃないか?」

「異世界からこの世界に来れる少女は、魔女だけ。男ばかり転移できるのに、おかしいと思わなかった? こっちの世界に来れたのは、ユイナとコノハだけでしょ?」

「・・・・・・・・」


「月の女神が魔女しか選ばなかったの。魔女である少女しか、転移を許さなかっただけ」



 サアァァァァァ


 シュンッ


 窓から勢いよく、青年が入ってきた。

 天使のような翼と、雪のような白い肌を持つ男だった。



「トール、今大事な話をしてるんだけど?」

「やぁ、アルクス。こんなところにいたのか」


「アルクス?」

「私の別の名前。天使たちがそう呼ぶの」

 幼少型のアイリスが息をついて、自分の身長と同じくらいの剣を出した。


「アイリスが2人いると、混乱するからさ」

「何の用? 私との接触は禁止されてるでしょ?」

「アイリスの本体がいなくなったんだろ? 悪魔のほうはさぞかし困ってるだろうと思ってね。様子を確認しに来たんだよ」

「そう」

 

 キィンッ


 幼少型のアイリスが、瞬時にトールの剣を受け止める。


 ザアアァァァァ


 風が巻き起こって、テーブルにあった地図が落ちていった。

 幼少型のアイリスの剣は黒曜石のように輝いている。


 力の差は歴然だった。

 幼少型のアイリスは圧倒的に強い。


「強さは変わってない、か。むしろ強くなってる?」

「秩序に反するでしょ? 天使がこんなことしていいと思ってるの?」

「ちょっとした戯れだから、いいでしょ。神は見てない」


「神は見てなくても、悪魔が見てるから」


 スッ・・・


 幼少型のアイリスが片手を出すと、トールがふわっと離れた。


「悪魔と戯れること自体に、罪はないだろ? コミュニケーションだよ」

「次やったら、本気で殺すから」

「了解、しばらくは辞めとくよ。光と闇のバランスが崩れてるし本体もいない、今がチャンスだと思ったんだけどな。もう少し、時間が必要か・・・」


「好きにすればいい。私は行動するだけ」

 トールが剣を消して、両手を上げていた。


 ちらっとこちらを見てから、窓の前に立つ。


「魔族の王か。アルクスが守るなら最強だね」

「とっとと出て行って」

「はいはい」

 生暖かい風が吹くと同時に、トールがいなくなっていた。

 カーテンが大きく膨らむ。



「人の部屋で二度と戦闘するなよ」

「天使はいつ来るかわからない。でも、今のでしばらく来ないでしょ」

 落ちた地図を拾って机の上に戻す。

 サタニアが遠くまで散らばってしまった資料を集めていた。


「本体がいなくなって分霊の私しかいないから、天使の中には今のうちに殺そうと狙ってくる奴もいる。私は女神の使いとして多くの力と情報を与えられたから、面白くないみたい」

「へぇ・・・」


「この世界は、天使や堕天使は国を持ってる。私と役割が違うから、与えられるものも違って当然なのに・・・・きっと、そんな感じだから『ウルリア』に加担する天使なんて出てきちゃう」


 幼少型のアイリスが剣をしまっていた。   

 すっと、顔を上げて窓の外を見つめる。


「私は、普通でよかったんだけどな・・・たくさんの能力なんていらなくて、普通の女の子で・・・」

「・・・・・・・?」


 不思議と、アイリスが話している姿と重なった。

 目を細めると、真っ白な翼が一枚落ちてくるのが見えた。

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