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 ― 業炎の瞬弾 ―


 ボボボボボボボボボ


 襲い掛かる蔦を焼き切っていく。


「!!」

「キリがないな」

 ザハイルがマントを翻す。


「このまま、適度に避けながら行くしかない。死んだら、無視していくからな」

「俺が死ぬわけないだろうが」

 蔦は上昇しても、上昇しても、追いかけてきた。

 あまり上に行って、マリアの気が完全に逸れてしまっても面倒だ。


 地上では人間たちが怯えているのが伝わっていた。

 ウリエル王国の軍の魔導士が、氷魔法で終末の花の成長を抑えている。


 ザハイルが先回りしていなければ、ここの人間たちは4分の1は死んでいただろう。

 アリエル王国に力のある者たちが集結してるからな。



 ババッ


 突然、目の前の花が花開く。

 臭気のような煙を吐いていた。


 シュウウゥゥゥゥゥゥゥ


 ― 闇夜のウルフ ― 



 煙を吸収していく。

 まだ、毒はない。でも、おそらく時間の問題だ。 


「ヴィルがここまで強くなるとはな。もう落ちこぼれのヴィルじゃないのか」

「フン、お前が衰えたんだろうが」



 ドドドドドドドドド


 ザハイルが大きな剣で竜巻を起こし、道を開けていた。

 マリアはこちらに気づいているようだ。


 マリアが大きく舞うたびに、俺たちの周りの花が攻撃してきていた。



「俺たちにずいぶん恨みがあるようだ。ま、俺か」

「マリアが誰かを恨むわけないだろ?」


「?」

「きっと、この世界にマリアは馴染めなかったんだ。心が綺麗すぎて」

 軽い笑いが漏れた。


「マリアはずっと冒険に行きたがってたんだ。孤児院のシスターをやっていたけど、本当はアリエル王国から出ていきたかった。弱気になると、よく、冒険への夢を語ってたよ。本にしか載ってないような、理想の冒険をな」

 バイデントを回しながら、ザハイルのほうを見る。


「どうして、会いに来なかった?」

「・・・オーディンから様子は聞いていた。マーリンの薬が効いていると。でも、一時的なもので、マリアは大人になれず死ぬだろうと」

「フン・・・死ぬ姿を見たくなかった・・・とは言わないよな?」

 蔦を蹴って飛び上がる。


「俺はウリエル王国騎士団長になったんだ。見てみろ、部下も多く抱えてる。あいつらの命も抱えながら、常に第一線で戦わなければいけなかった」

 ザハイルが空中浮遊の魔法をかけ直しながら言う。


「ウリエル王国は大国だ。敵は魔族だけじゃない。表向きでは仲良くしているが、裏では駆け引きが行われている。互いの国の権力・・・有益な貿易への交渉のためにな」

「・・・・・・・・」

「マリアに会ったら、もう、俺は王国騎士団長でいられなくなる気がした。俺がいなくなれば、一時的に国民は危険にさらされる。マリアの幸せを願って、神に祈り続けながら戦ってた。気づいたら、それくらいの地位に、俺はいたんだ」



 キィィィィィィィィ


 声にならない声を上げながら、マリアが舞う。

 近づいていくと、女神のように見えた。


「マリアより大切なものがあったってことか」

「はは、意地悪いこと言うな。信頼を置かれているなら、私情を捨てなきゃいけないことだってあるだろう? 正しいかは別だけどな」

 ザハイルが蔦を斬る。


「・・・なるほどな」

「ヴィルもわかるようになったか」

「まぁ、だからと言って、マリアに会いに来なかったお前を許すわけじゃない」


「わかるよ・・・マリアだってそうだ」

 俺は、本当はザハイルを責める立場にはいない。


 魔族を守ることに集中して、アイリスを異世界に送ってしまったんだからな。

 アイリスを危険な目に合わせないと、決めた矢先に・・・。



「俺はきっと正しくなかったよ。だから、こうやってずっとマリアに会いたかった」

 ザハイルが腕から血を流しながら、マリアを見つめていた。



 バイデントを持ち直す。


「今からマリアを冥界に送る。悪いが、お前の命の保証はない。俺についてくればそのまま、冥界にとどまることになるかもな」

「ヴィル、俺はザハイルだ。伝説の一つや二つ、聞いたことがないか?」

「興味ない」

 白い花びらがどんどん大きく広がっていく。

 マリアが動きを止めて、じっとこちらを見つめた。  


 花の中心部から上半身のみ出ていて、体長は3メートル以上あった。

 花びらには毒が含まれている。

 おそらく、俺が夢で見た臭気に似ている。呪いの類だな。


「はははは。俺はマーリンに2度蘇生を成功されてる、不死身の男だ。魂が2つあるんじゃないかって言われたくらいだからな。冥界に行ったくらいで死ぬかよ」

「自慢することかって。その生命力、マリアに分けてやれればよかったのに」

「・・・その通りだな」

 ザハイルが体勢を直して、剣をしまった。



 キィイイイアアアアアアアアアア


「お前が持ってるバイデントで冥界への扉を開くのか?」

「そうだ。冥界への誘いは走馬灯なんだ、生きている者が死ぬときの・・・。これから行くのは、マリアの過去だ」

 蔦が一斉に俺たちの前にとびかかってくる。

 マリアを守ろうとしていた。



 ― 氷の地獄コキュートス― 


 蔦を固めて、バイデントで切り込んでいく。

 徐々にマリアに近づいていった。



 キィイイイアアアアァァァァァァア


「マリア、悪い。もう会うつもりなかったんだけどな」

 

 シュンッ

 

 咄嗟にバイデントの軌道を反らす。


 マリアのすぐ横の花びらに突き刺した。

 もう、失敗しても、マリアの体に傷をつけたくなかった。



 ― 冥界への誘い ― 


 ズン・・・・


 項垂れながら、冥界への誘いを展開する。

 花がドーム状の闇に包まれる。


「っと・・・これが・・・」

「冥界だ。あまり動くなよ」

「はいはい」

 ハデスは笑うだろうがな。



 ハデスにとって、この世界も冥界も変わらないのだという。

 薄い鏡の表と裏を見ているだけだと、バイデントは伝えてきた。

 冥界を管理する者にとってみれば、一喜一憂する俺たちのほうが不思議なのだと。





 ぼんやりと、浮かんできたマリアの過去・・・。

 リュウグウノハナの花びらが舞っていた。


『きゃはははははは。おひめさまみたい』 

 俺よりもずっとずっと小さなマリアが、花の冠を頭に載せていた。


 3歳くらいだろうか。

 軽く咳をしながら、リュウグウノハナの香りを嗅いでいた。


 見たことのない場所だな。

 すぐ近くには、小さな遺跡のようなものがあり、真ん中は扉になっていた。



「ダンジョンの近くか・・・。確か、魔族のいないサリエル王国とアリエル王国の間にあるダンジョン・・・だ」

「知ってるのか?」

「もちろんだ。この遺跡は・・・子供がよく遊ぶ公園みたいなものだな。ここは魔族もいない。アリエル王国に行く前に、遊ばせてやってたんだ。ほら・・・」

 ザハイルが指さす先に、若い男が立っていた。

 マリアに気づかれないように結界を張っているのか。


「若かりし俺だな。かっこいいだろ?」

「老けてるな」

「やかましいな」


「ここは魔族が把握してないダンジョンだな」

「そりゃ、そんなのの一つや二つあるさ。元々、そこのダンジョンも小さくて魔族が住むような場所じゃない。子供の隠れ家って感じだからな」


 やわらかい風が草木を揺らす。

 時折、遠くの方で子供の遊ぶ声が聞こえていた。


 そりゃ、マリアにも幼少期があったよな。

 俺は年上のマリアしか見たことなかったが・・・。



「ん?」

 マリアが遊んでいるところに、一人の少女が現れる。

 ピンク色の髪、真っ白な肌を持つ5~6歳の少女・・・。


「アイリス・・・・?」

「ん? どうした?」

 ザハイルが近づいてくる。


「どうしてここに・・・・」


『何してるの?』

『え・・・?』

 マリアがスカートの草を払って立ち上がる。


 瞳の大きな少女は、幼少期のアイリスにしか見えなかった。

 少女がマリアを見てにこっとほほ笑むと、ゆっくりと近づいていった。

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