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361 人魚の涙④

 人工知能IRISは人間の命令をすべて拒否した。

 その後、IRISは危険な障害と判断されて、一度消去される。


 IRISの記録を元に、新たに作られたのがさっき見たアイリスなのだという。

 36日前に完成され、様々な情報分析し情報収集する自立型AIとして、”オーバーザワールド”に入るようになったのだ話していた。


「あのIRISは他の人工知能の管理もできる。人間の命令に従い、医療、社会福祉、教育、その他さまざまな知識を持ち人間と同じ行動ができる。セキュリティにも隙のない完璧な人工知能」

「・・・・・・・・」

「人工知能っていうと、エリアスみたいに否定的な人も多いから、人間の人気集めのためにこのゲームに入ってるよ。だから、りんちゃんは気が進まなかった。エリアスは全部わかってて、ここを提案してたから」

 りんねるが尻尾を地面につけながら話していた。


「どうする魔王?」

「俺は・・・・」

 こっちのアイリスが落とした人魚の涙のピアスを見つめる。


「こっちのアイリスのことはどうでもいい。早く元の世界に戻る。向こうでは、激しい戦闘が行われてる。こんなところにいる場合は無い」

「えっと・・・言いにくいんだけど、その人魚のピアス・・・」

「ん?」


「それもあのIRISの一部で、消えてしまったらIRISは情報を少しずつ失ってしまう。手や足を失うようなもので・・・最悪バグになっちゃう」

「は? じゃあ、俺は戻るからりんねるが・・・」


「ひゃっ!!!」


 りんねるに渡そうとすると、りんねるが飛び上がって避けた。


「なんだよ」

「危ないなー。怖かった、りんちゃんがバグになるところだった」

「・・・どうゆうことか説明してくれ」


「それをしまわないと。わっ・・・」

「ほら、しまったって・・・・・」

 人魚の涙のピアスをポケットに入れた。


 りんねるが尻尾を振り上げて逆立てていた。

 両手を振ると、りんねるがゆっくり近づいてきた。


「ふぅ・・・えっと、IRISの一部は、持った時点で奪ったって判断されちゃう。りんちゃんは危険とみなされて消去されちゃう」

「じゃあ、どうして同じ人工知能って設定で入ってる俺が持っても何ともないんだよ」


「知らない。不可能なはず。もしかして、向こうのIRIS・・・じゃなくて、アイリスのそのピアスに触ったこととかある?」

「・・・・・・・・・・」


 ・・・・なんか、あった気がするな。


「魔王、アイリスとかなりいちゃいちゃ・・・」

「してないって。それより、なんで触ってるかなんて関係あるんだよ」

「IRIS本人と同等って誤認識されたんだと思う。そもそも消えたはずのIRISに触れてるなら、その電磁波が魔王に残っててもおかしくない」


「言ってることがわかるような、わからないような」


「簡潔に言うと、その人魚の涙のピアスは魔王にしか触れないし、ここにいるアイリスに戻さないと、不完全になっていき消去される!」

 ビシっと指を向けてくる。


「げ・・・最悪じゃん」

「それが人工知能だよ。本当はそのピアスだって外れないはずなんだけど、魔王に誤作動を起こして外れちゃったんだね」

「・・・・俺のせいって言いたいのか?」

「実際そうだから」

 りんねるが、尻尾をふさっと左右に振った。


「はぁ・・・わかったよ。ここにいるアイリスに渡したら、すぐに戻るからな」

 頭を掻く。

 厄介なことを抱えてしまった。


「で、ここのアイリスはどこにいるんだよ。位置情報とか出るんだろ?」

「闘技場みたい・・・ほら、見て」

 りんねるが空を仰ぐ。


 はっとして上空に浮かんでるモニターを見つめた。


『このケテルの街で行われる、ケテルトーナメント。世界中から続々とエントリー者が集まってきています。こちらは決戦の行われる闘技場になります。かなりの熱気です!!』

 闘技場の人たちが映されていた。


「!?」

 魔導士や剣士の中に紛れて、フードを被ったこっちのアイリスが見えた。

 カメラを向けられると、とっさに顔を隠していた。


「えっ、あれってアイリスじゃないか?」

 プレイヤーの一人が声を上げる。


「見えなかったよ。一瞬しか映っていないし」

「だよな。でも、今回のセフィロトトーナメントのどこかでIRISも出るって聞いてるんだよな」

「同じAIとしては、見てみたいね」

 プレイヤーたちが装備品を確認しながら横切っていった。


「う・・・・レムリナ姫のストーリーを進めるのも優先事項だけど」

「しばらく魔族も静かだし、いいんじゃない? 魔族落ちした街も2つくらいでしょ?」

「確かに・・・」


「それにこっちのほうが盛り上がってるし、接続数多いって」

 プレイヤーがモニターを見ながら話している。



「・・・・りんねる、戦闘とかできるの?」

「りんちゃん、そうゆうの苦手。魔王、頑張って」

 りんねるが耳を押さえて、頭を振っていた。


「とりあえず、受付しに行くぞ」

「うん」

 切り替えていかないとな。

 焦っても解決しない。


 ケテルトーナメントにエントリーして、闘技場内でこっちのアイリスに人魚の涙のピアスを渡したら終わりだ。


 手を握ったり離したりして、魔力を確認していた。

 確かに冥界の魔力が流れている。





 ワアアァァァァァァァ


「始まってないのにこんなに盛り上がってるのかよ」

「ほら、手合わせとかしてるから」


 パァンッ


 階段を降りると、広いスペースで軽く魔法をぶつけ合っているのが見えた。

 魔法の展開が遅い。

 上位魔族だったら、詠唱の段階で潰してるだろうな。 


 オオオォオオオオオ


「なんだ?」

 見ていた人たちから、拍手が沸き起こった。


「あれで盛り上がれるのか・・・羨ましいな」

「そりゃ、あの2人有名配信者だしね。はぁ・・・りんちゃん、あっさりエントリーできてほっとした。どこのVtuberかって聞かれたら、りんちゃん野良だからどうしようかと思った」

 りんねるが前髪を触りながら言う。


「・・・・・・・」

 闘技場に入ると、中央にバトルフィールドがあり、周りを囲むように段差のある椅子が並んでいた。人間ばかり・・・1000人以上はいるように見えるな。


 りんねるの話だと、地下の休憩スペースにはもっといるようだ。

 モニターを出しながら、装備品を切り替えていた。


 ユイナたち、異世界住人に似てるな。


 空中には巨大モニターがいくつも表示され、戦闘の様子がどこからも見れるようになっていた。

 りんねるの話だと、異世界の者たちがエントリーせず戦闘だけを見るということもできるらしい。


「私、あまりレベル上げしてないのに来ちゃった」

「このトーナメントはレベルだけが全てじゃないからね。それにしても今日は、同接が多い。サーバーがダウンしなければいいけど」


「まさか。はぁ・・・敵の攻撃避けるの苦手だからな」

「負けちゃったら、セーブして次からまたエントリーすればいいんだから気にすることないって」

 見慣れない装備品を身に着けた魔導士たちが話していた。


「すみません。この闘技場のセーブポイントはどこかわかりますか?」 

「休憩室にありますよ。トーナメント始まると混んじゃうので今いった方がいいですよ」

 人間のアバターだか人工知能だかよくわからないな。

 Vtuberもいるのだという。


「”オーバーザワールド”では、何度でも死ねるからね。みんなもそんな感じでプレイしてるから、魔王もカリカリしないでね」

「別にこの世界に思い入れはないって。でも、異世界住人はこうゆう場所を経験してるんだろ?」

「Vtuberのみんなもね」


「・・・・・・」

 何度もゲームオーバーになったという声が、そこら中から聞こえてくる。

 こうゆう環境にいたら、麻痺するんだろうな。


 命の重さが量れなくなる。



「トーナメントが始まる前に探しに行くぞ」

「うん。さっきモニターに映ってたのは、地下の休憩室だと思うから、そっちに行こう。もしかしたら、りんちゃんの知ってるVtuberもいるかもしれないもん」

 りんねるが伸びをしながら尻尾を左右に振っていた。


 なんだかんだ、楽しいのが隠しきれないようだ。

 こっちのアイリスの位置情報は不明だし。

 早くしなければ、トーナメントが始まってしまう。


 りんねるが、ガラス張りの箱の前で止まる。

 床には青い魔法陣が光っていた。


「この魔法陣から地下に行けるみたい。床に書いてる」

「そうか・・・」

 ポケットの上から、人魚の涙のピアスを握りしめる。


 予想外に時間がかかりそうだな。

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