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355 アリエル王国防衛戦⑦

 凍らせた花の上空を通過していく。


 ― アイスストリーム ―


 ― ウィンドウシュート ―


 ラファエル王国の魔導士が、子供型に向かって魔法を打つ。 

 風と氷が竜巻のようになり、氷の雨が降り注ぐ。


 ザザザザザザアァァァァァァァァ


「はぁ、はぁ・・・・やった」

 一気に数十体の子供型が消えていった。


「すごいじゃないか。お前ら」

「違う・・・弱くなったんだ。子供型が・・・」

「ん・・・?」


「確かに、急に弱くなった気がするな。さっきまで、俺たちの攻撃を簡単に弾いてたのに」

 戦闘していた人間たちの、戸惑う声が聞こえた。



 タン


「魔王・・・・」

 腕を負傷しながら最前にいた、ハニエル王国のシュタインの横に降り立つ。

 ガブリエル王国騎士団長のヴァルガが子供型を斬って、駆け寄ってきた。


「どうゆうことだ? 魔王ヴィル」

「終末の花の心臓は冥界に行った。本体がいなくなったから、ここも落ち着いてくる」

 バイデントをハデスの剣に変える。


「冥界にって・・・・本体を見つけたのか?」

「まぁな。終末の花の魔力も弱くなっているのがわかるだろ。今はまだ出てきてるけど、子供型も弱体化して、次第に消えていくはずだ」

「・・・・そ、そうか」

 終末の花の蔦も力を失くしていた。


『きゃはっははははは』

 花から出てきていた子供型は自分たちが弱くなっていることに気づかないまま、武器を振り回している。


 本体は消えた。

 子供型が消滅していくのも時間の問題だろう。


「俺は反対側に行く。後始末を頼めるか?」

「もちろんだ」

「それくらいなんてことない。俺たちだって、数々の戦闘をこなしてきているんだ」

 ヴァルガが剣を持ち直した。


「怪我人を後方へ! 無理はさせるな! 残りをとっとと片付けるぞ!」

 ガブリエル王国の兵士が大声で叫んでいた。

 地面を蹴って、凍り付いていた終末の花から離れていく。



『魔王ヴィル様、魔王ヴィル様』

 イヤホンからアイリスの声が聞こえた。


「あぁ、どうした?」

『急に途切れたから、何かあったのかなって。もしかして冥界に行ってたの?』

「まぁな。これから反対側に向かう」

 話しながら、アリエル王国の敷地内を飛んでいた。

 負傷者が集められて、十戒軍やギルドの連中が手当てをしているのが見える。


死霊バグの軍団はまだ戦闘してる。今はナナミカが先頭に立って指揮を執ってるみたい。ゲームが得意なVtuberも到着していて・・・あ、北西に火属性が集中してる。防御を固めないと・・・』

「エヴァンとリョクはどうした?」

 アイリスが一瞬間を置いた。


『・・・決着がついたよ』

「そうか。エヴァンに伝えることがある。アイリスはこのまま、サタニアたちをサポートしてくれ」

『うん』

 死霊バグの軍団は黒い雲のように、次々と襲い掛かってきていた。


 ― 悪魔の円舞曲ワルツ ―


 ドンッ


 赤い刃が空を切る。

 サリーが巨大な刃を振り回して、死霊バグの軍団を蹴散らしていた。


「!?」

「あれが、上位魔族・・・」

 あまりの勢いに、異世界住人が圧倒されているのが伝わってくる。

 前から強かったが、さらに腕を上げたみたいだな。

 しばらくは、持つだろう。





 ふと、見下ろすと、アリエル王国を囲む木の下に、エヴァンがいた。

 戦闘の死角になるような場所に、薄いバリアを張っていた。


 翼の無くなったリョクを寝かせている。


「あぁ、ヴィル」

「エヴァン、リョクは・・・」


「急に動かなくなったんだ。俺に攻撃を放った後、そのまま倒れて、何もかも停止した。俺が倒したんじゃない、むしろ、俺は負けそうだった」

 エヴァンの額からは血が流れていた。

 呼吸も魔力もかなり乱れている。


 本人に自覚は無さそうだけど、立っているのがやっとのようだ。


「覚悟はできてたんだけど、びっくりしてさ。終末の花にリョクが現れたんだろ? ヴィルが本体を冥界に送ったの?」

「正確には違うな。リョクは2人いたんだ」


「え?」

「もう一人のリョクが、冥界で待っていた。花を咲かないようにしてた。彼女が、リョクを冥界に連れて行ったんだ」


 ドドドドッドドドッドドドドドド

 バチン ガンッ


 空中では戦闘の音が聞こえていた。


「もう一人のリョク?」

「あぁ、バックアップとして存在していたらしい。アイリスでいうところの”名無し”みたいな存在か・・・望月りくの記憶が消去されそうになったときに、りくの記憶を戻して、自分自身を消去したと聞いてる」

「・・・・っと」

 エヴァンがリョクの横に剣を立てかけた。

 ふらついて、木に寄りかかる。


「とりあえず、応急処置でもいいから自己回復しろ。このままじゃ、数分で気を失うぞ」

「あ、あぁ、そうだ。死ぬところだったんだ。俺、重症でさ・・・・」

「・・・・・・・」

 思いついたように言う。

 息を切らしながら、腹を治癒していた。


「・・・そうか、だから配信してた時、途中で一人称が僕になって口調も変わったのか。どっちの望月りくも、推してたけどさ」

 エヴァンが呆然としながら話す。

 心がここにないような感覚だ。


「途中からなんで俺、推しと戦ってるんだろうって」

「・・・・・」

「わからなくなってさ。でも、俺強いから打ち返しちゃうし。本当、意味わかんないよ」

 額の血を拭う。


「リョクが望んだからだ。お前はリョクにとって特別だったんだよ」

「はは・・・そんなの、本人の口から聞きたかったね」

 エヴァンがリョクを見つめながら言う。


「でも、どうしてバックアップ・・・もう一人のリョクはリョクを冥界に連れて行ったんだ? リョクはここで生きたかったんじゃないのか?」

「もう一人のリョクは、リョクが無理して、苦しんでるのをわかってた」

 電子界で見た光景が思い浮かぶ。


「リョクは止めたかったんだ。でも、現実的に止められなかった。ここまでやったからな」


「・・・・・・」

 上空に広がる戦闘の火花を眺めながら言う。

 エヴァンのかけたバリアで、薄い霧がかかっているように見えた。


「あと、リョクは転生するらしい。お前みたいにな」

「!?」

「だから、早く冥界に連れていきたかったんだ。交渉済みだって」

 エヴァンが目を丸くする。


「え・・・それって、確定?」

「冥界の王ハデスが認めたんだから間違いないだろう」

「マジか・・・」

 剣を持ち直して、リョクに近づく。


「じゃあ、転生先も決まってるってこと?」

「そうらしいな。リョクが転生したらそのギベオン隕石に、リョクの転生先が刻まれるって。リョクは最初からお前に見つけてほしかったんだ」


「・・・リョクが・・・・なんで?」

「自分で考えろよ」

 エヴァンが腕輪をなぞる。

 埋め込まれたギベオン隕石には、まだ何の変化もなかった。


「はぁ・・・どこまでいっても、俺は追う立場か。いよいよ、ストーカーみたいになってきたな」

 エヴァンが自虐的に言って、肩を落としていた。


「そうでもないだろ」

「ん?」

「いや、独り言だ」


「・・・ねぇ、こっちは傷心なんだけど。心のケアとかないの? 嘘でもいいからさ。部下は大切にしたほうがいいと思うよ」


「いつもの仕返しだ」

「・・・俺、ヴィルには変なこと言ってないと思うけど」

「・・・・・」

 リョクはエヴァンに会いたいから転生するのだという。

 口止めされたから、エヴァンには言えないけどな。


 転生したら、自分の口で伝えたいのだという。


 もう一人のリョクは希望に満ちていた。

 きっと、目の前にいるリョクも・・・。


「もう一人のリョクが、生まれ変わってもまた人工知能かもしれないって心配してたよ。転生する、種族までは指定できなかったらしい」

「人工知能だろうが、人間だろうが関係ないって」

 エヴァンがかがんでリョクの髪を撫でる。


 新緑のようにさらさらと輝いていた。


「絶対見つけるよ。安心して」


 さあぁぁぁぁぁ


「!!」

 リョクが光の粒になって消えていった。


「じゃあ、俺はサタニアたちのところへ行く」


「ヴィル、俺は・・・」

「お前はいったん戦力外だ。内臓もそこそこ傷ついてるんだろ? ゆっくり自己回復してろ」

「・・・うん。さんきゅ」

 エヴァンがその場に座り込んでいた。


 地面を蹴って、サタニアのいるほうへ飛んでいく。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 一気に、戦闘の音が近くなった。 

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