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28 人間嫌い

 ププとウルが部屋の机に地図を広げて説明していた。


「ここのダンジョンは、魔王城から近いです」

「周辺魔族の強さは?」


「ふむ・・・中の下といったところでしょうか。南のほうの魔族よりは強いですけど・・・」

「できれば、魔族の力が強いところにしたいな」

「んーと、では、こちら、魔王城から西にまっすぐ行ったダンジョンなどはどうでしょう?」


「この前のダンジョンから、先に行ったところか・・・」

「そうです。手前周辺の5つのダンジョンは魔族のものとなりましたが、その先にあるところです」

 ププが身を乗り出して言う。


「そこにしよう。何か目印になるようなものはあるか?」

「はい。丘を下ったところにある、大きな岩の近くにダンジョンがあります。岩は顔のような形をして、目立つのですぐにわかるかと思います。距離は・・・この前のダンジョンの約3倍ですね」

 ウルが定規で距離を測っていた。


「でも、どうして魔族の力が強いところにするのですか? ここは少し、魔王城から遠いのですが・・・」

「上位魔族に匹敵する強さの魔族を探したいと思ってる。行くついでにな」

「なるほどです」

 ププウルが同時に足をパタパタさせる。



 南のほうの管轄に、上位魔族を増やしたいと思っていた。

 パワーバランスは均衡に保っていた方が、俺も動きやすい。


 ププが密着するようににじり寄ってくる。


「ん? どうした?」

「また、あの人間の女と行くのですか?」

「あぁ」

 長いまつげをしぱしぱさせながら、こちらを見上げる。


「・・・私も魔王ヴィル様といたいのに」

「それなら私だって」

 ウルも机に乗って、近づいてきた。


「魔王ヴィル様は・・・本当は・・・その、本当は、人間が好きなのですか?」

「そんなわけないだろう」

「だって・・・魔王ヴィル様いつも人間の女といます」

 ププが口をもごもごさせながら言う。


「人間は嫌いだ」

「え?」

「・・・人間など追い詰めれば追い詰めるほど、薄汚い本性を現す生き物だからな」


「魔王ヴィル様・・・」

 人間だった頃を思い返しても、魔族になってから人間を見ても、嫌悪感しかなかった。

 金、金、金、金、金とプライドのためなら、何でも行動を起こそうとする。


 孤児院でのことが過る。

 綺麗ごとばかり並べて、自己肯定感を強め、都合が悪くなれば敵を作る。

 人間は弱い者を見つけるのが得意だった。


 俺だけではなく・・・・。


 ズズ・・・。


 机がカタカタ揺れる。


「!!」

 ウルがびっくりして飛び降りた。


「す、すみません。魔王ヴィル様」

「そうですよね。変なことを言ってしまい、申し訳ございません!」

 ププとウルが小さな体をきゅっとさせていた。


「ププウルにはいつも感謝している。ありがとうな」

 ププの頭に手を置く。


「ふわぁー、魔王ヴィル様の手あったかいです」

「そうか?」

「はわわぁー」

「ププ! するいんだから」

 翼をぺたんとさせて喜んでいた。ウルがププを引っ張って怒っていた。


「これから、ダンジョンへ向かう」

「か・・・・かしこまりました」

 きゅっと地図を畳んで、机の前に並んだ。


「何かありましたら、お申し付けください。では、失礼いたします」

「魔王ヴィル様、あっ・・・」

「早く行くよ。ププ、魔王ヴィル様の邪魔になるでしょ」

 ぽうっとしたププを引き摺るようにして、ウルが部屋から出て行った。




 遠くのソファーでちょこんと座っていたアイリスのほうへ歩いていく。

 こいつも人間なんだけどな。


「アイリス、ダンジョンへ行くぞ」

「魔王ヴィル様・・・ププウル様は魔王ヴィル様の中で大人の女性なの?」

 アイリスが首をかしげて、一冊の本に栞を挟んでいた。


「ん?」

「私よりも大人扱いしている気がする」

「当然だろ、ププウルのほうが年上だしな」

「ううん。年齢を明確に定義するなら、私の方が上」


「何張り合ってるんだよ・・・・」

 頭を掻く。

 相変わらず、よくわからない奴だな。


「とにかく・・・・私は、これからなの。そのうち、魔王ヴィル様がびっくりするくらい強くてかっこいい女性になるから」

「あ、そ・・・」

 アイリスが本の表紙をなぞって頷いていた。


「・・・・・」

 まぁ、アイリスに何かあるのは確かだな。


 魔王の目では見えない何か、異質なものを感じる瞬間があった。


「どうしたの?」

「いや・・・・」

 マントを後ろにやって、手をかざす。


「ギルバート、グレイ、姿を現せ」


 ギルバートとグレイが現れる。

 もぐもぐ口を動かしていた。

 アイリスがぱっと表情を変えて、双竜のほうへ駆け寄っていった。


「ギルバート、グレイ!」

 アイリスが撫でると甘えたような声で鳴いていた。


「ふふ、もぐもぐしてる。お食事中だった?」

「そうかもな。すまないが、こっちも急いでる。乗せてくれるか?」


 クォーン クォーン


 誇らしげに羽を広げて、体勢を低くする。

 首に掴まって、ひょいっと背中に乗った。


 アイリスがグレイの首に掴まってよじ登ろうとしていた。

 スカートがずり上がっているのに気づかないほど必死だ。

 相変わらずというか、なんというか。


 黒いショーツが丸見えなんだが・・・。城はどうゆう育て方をしたんだ?


「よいしょっと、わわっ・・・・」

 落ちそうになったアイリスを引き上げる。


「落ちないようにな」

「ありがと、魔王ヴィル様」

 後ろに乗せる。


「いつでも出発していいよ!」

「え?」 

 後ろから手をまわして抱きついてきた。

 ぎゅうっと力を入れてくる。


「マントを掴めって・・・」

「あ、そ・・そうよね。ごめん」

 アイリスがハッとして、少し離れてからマントを握っていた。


 クォーン クォーン


 ギルバートとグレイが部屋に響くような声で鳴くと、バサッと翼を広げた。


「わっと・・・」

 翼を畳んで、空いた窓から、するりと抜けて上昇していく。

 魔王城が小さくなっていった。



「ギルバートグレイ、西のほうに行ってくれ。前のダンジョンのあった場所からずっと先に行ったところだ。わかるか?」


 クォーン オォーン オォーン


 どんどんスピードを上げて飛んでいく。

 さすが、魔族の召喚獣だ。

 人間に飼いならされたような召喚獣ではなく、野性的な勢いと力を感じていた。


「すごい、ギルバートとグレイは賢いのね。それに・・・前よりもずっと速い」

 アイリスの声が風に途切れていた。

 これが双竜の本来の速さか。


「振り落とされるなよ」

「もちろん!」

 風が頬に当たる。



 しばらくすると、前行ったシンジュクのいるダンジョンの上を通過していた。


 動かない人間が、崖下にまだちらほらいるようだ。

 逃げることのできた人間もいたようだが、助けも来ないってことは、見捨てられた人間たちか。

 リーダーらしき男は、あれだけ絆だとか、信頼だとか吠えていたのにな。

 後方の人間には、それほどの義理も無かったのだろう。


 結局は、我が身が大事だ。

 人間はなぜか隠したがるが、な。


 じきにカマエルが手配した魔族がくる。

 処分するのは手間がかかるし面倒だが、任せるしかないな。


「魔王ヴィル様、今はどこを通ってる?」

「ずっと西だ。お前は下を見るな。落ちるかもしれないからな」

「はーい。風が冷たい」


 雲を突き抜ける。

 正面に、ウルが地図で説明したような地形の場所が見えてきた。




「ギルバート、グレイ、速度を緩めろ」

「どうしたの?」

「あの岩がダンジョンの目印だ」

「そっか。もうついちゃった」

 双竜が徐々に速度を落としていく。


 丘を下ったところに顔のような岩があった。

 ププの言っていた通り、すぐに見つけることができた。


 だが、どこからか人間の気配がするな。

 攻略されたダンジョンの近くに、なぜいるんだ?


 ぱっと感じた様子だと、複数ではない・・・。


 探るか。

 ギルバートとグレイに、上昇して大きく旋回するように指示する。

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