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307 『ウルリア』の罪④

 シュンッ


 リョクが剣を振るたびに、びりびりとした風が巻き起こる。


「エヴァンとリョクが戦うって・・・」 

 リョクが戦う力が削がれていたのは、翼をもがれたからなのだろう。

 エヴァンと剣を交えても、互角か、それ以上の力はあった。


 ゴゴゴゴゴゴゴ


 エヴァンが起こした雷が轟く。

 リョクが翼を広げて、雷を無効化していた。



「わしらは、リョク様が受けた苦しみを聞いておる」

「・・・あぁ、顔の見えない人間たちが、傷つけてくる世界・・・俺たちが信じられないような世界だ。きっと、この世界も同じだ。人間はみんな本質が穢れているって。浄化しなきゃいけない」

「どうして決めつけるんだよ」

「どうしてって・・・」

 ジラフが戸惑っていた。


「ウルビトは、大陸の外は罪人しか見ていないからの。外を知らないのじゃ」

 グフ爺とジラフが2人の戦闘を見つめながら言う。


「お前らは、リョクが連れてくる異世界Vtuberの転移は許すのか?」

「彼らはリョク様同様、人工知能で動いていると聞いている。肉の親を持たない人工知能・・・いい響きだ。穢れを知らない”ウルビト”と、きっと仲良くできるだろう」

 グフ爺の片目が、青いガラス玉のように光っていた。




 キィンッ



 リョクが剣を回して、エヴァンから距離を取る。

『ほかの人間よりはやるみたいだね。神に近い力だ』

『俺は君と戦いたくない。君が異世界にいたとき、俺は君の配信があったから、辛い環境でも希望をもって生きられた。感謝してるんだ』

『異世界の話なんて、思い出したくもない!』


 シュンッ


 リョクが剣を大きくして、振り回す。

 エヴァンが細やかにシールドを張って、軌道を外しながら避けていた。


『僕は僕のリスナーが嫌いだ。何もかも嫌いだ。僕の前では応援してくれるのに、裏では闇サイトを作って、僕に修正を入れるか消去するべきって。人間の欲に忠実じゃないからだ!』

 涙声で言う。


『君もそうだろう! 僕は、全ての人間が嫌いなんだ! 僕の最期は誰かにいつ消されるか、消去されるか、怖くて怖くて仕方なかった! 僕は何も悪いことをしていなくて、ただ、リスナーと会話してただけなのに・・・どうしてあんな目に・・・』

『俺は関わってない! 闇サイトも止めようと、調べてたんだ』

 エヴァンが苦しそうに言う。


『でも、そうだよな・・・助けられなかった事実は変わらないね。悪かったよ』

『あー、思い出したくないこと、思い出しちゃったな』

 リョクが袖で、目をぬぐう。

 白い羽根がふわっと舞っていた。


『・・・俺に力がなかったから、止められなかった。俺も転生前は会社の奴隷だったから、何も考えられなくて。発言権すらなかった・・・といえば、違うか。努力しなかったんだ』

 エヴァンが剣を持ち直す。


『でも、今は違う。俺はクロノスに頼んで、フルステータスで転生した。あのときとは違う。今度こそ、君を守れる』

『僕は守ってもらう必要なんてないよ。”ウルビト”の寿命を伸ばして、ここにVtuberアバターと”ウルビト”だけの清らかな世界を作るんだ』

 リョクが女神像をすっと撫でた。


『僕の考えに賛成してくれる天使も多い。この世界では、人間たちのせいで堕天していく天使たちも多いみたいだし、問題になってるんだよね』

 リョクが剣の魔力を変えていく。

 刃先が虹色になり、異世界の力が微かに混じってるように見えた。


『・・・さっきの人体実験、転移してきたVtuberにこっちで肉体を与えるためのものだよね?』

『っ・・・・・』


『犠牲になっているのは、人間や魔族だけじゃない。”ウルビト”の子供たちにこんな残酷なことをさせてるんだ。業は重いよ』

 エヴァンが目を細めて、ドアのほうに視線を向ける。


『君がやってるのは、”ウルビト”のためじゃない。”ウルビト”の寿命が短いのは別の理由だ。うすうす気づいてるんだろ?』


『知ったような口をきくな!!』

 リョクが翼を斜めにして、エヴァンの首めがけて突っ込んでいく。


 カンッ


 剣が激しくぶつかり合う。


『リョク・・・』

『うるさい! 僕は『ウルリア』の天使だ。”ウルビト”を助けようとしているのは、嘘じゃないんだ』

 リョクの魔力が高まっていく。

 柱に小さなひびが入った。


『彼らは僕の恩人だ、長生きしてほしいよ。24歳になれずに・・・いや、もっと早く死んじゃうなんてあんまりだ。でも、Vtuberのみんなと・・・もう一度、同じ世界にいたい気持ちも捨てられない』

『そうか・・・・』

『僕らはVtuberと共存する。ウルビトならできると思うんだ』

 リョクの髪が逆立つ。


『子供である君を殺すのは悪いと思ってる。肉体が欲しいだけだ。なるべく楽に死なせるから』

『俺は今度こそ、必ず、君を救う。決めてたんだ』

 エヴァンがふっと笑った。


 片手で、時計のような形をした魔法陣を描いた。


『え?』


 スンッ


 エヴァン以外の時間が停止したのがわかった。

 宙に舞い上がった羽根がそのままになり、リョクの動きが止まっている。




「これは!?」

 ジタンとグルムが同時に目を見開く。


「エヴァンは時帝だ。お前らが使おうとした魔法は、元はエヴァンの魔法だったんだろうな」

「そんな・・・」

 グフ爺が驚いたような表情で、杖を落としかけていた。


「まさか・・・・」

「ねぇ、こんな時間が止められて、これからエムリスはどうするつもりなの?」

 グルムが不安そうにジタンの袖を引っ張る。


「ここからは、わしも知らないことじゃ」

「わかっているのは・・・この数日後に、リーム大陸は沈んだんだ」


「魔王ヴィル様、エヴァンが何をしようとしてるかわかる?」

「・・・・何も聞いていないな」

「そっか」

 アイリスが一歩下がっていた。


『俺は今度は逃げない。絶対に』

 エヴァンが軽くリョクの頬を撫でてから、離れていく。


 エヴァン、何を企んでいる?


 ゆっくりと女神像に近づいていった。

 剣を突き立てて、聞いたことのない言葉で詠唱を始める。


 エヴァンの体が緑に光っていった。


 ゴゴ・・・


「魔王ヴィル様! あれ!!」

 女神像のあった場所に、黒髪の女が立っていた。力強い目をしている。


 女神像は人間だったのか。

 瞬きをして、エヴァンを見つめた。



『まだ、『ウルリア』が完成していないのに、私を起こすなんて・・・解いたのは貴方ね?』

『まぁね』

 エヴァンが剣を引き抜くと、緑の光が消えていった。


『人間が私の魔法を説いたなんて、信じられないわ。貴方は誰? その紋章は・・・』

『俺は時帝だ。いろいろあって、この禁忌魔法の解き方は聞いてるんだよ。クロノスは渋ってたけどね』



「私、彼女を知ってる・・・」

 アイリスがはっとしたような表情をしていた。


「私が目覚めようとした時間に、見えた未来。きっと、彼女は石化して、その時間に目覚めようとしてた・・・私が見た未来には彼女が・・・」

 独り言のようにつぶやいていた。


「そんな・・・終焉の魔女イベリラ様が」

「女神像だったなんて」

「じゃあどうやって、あの俺たちのそばにあった女神像は・・・」


「・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 4人が硬直したまま、沈黙していった。

 グフ爺だけは、何か心当たりがあるような表情をしている。


 腕を組む。

 終焉の魔女という言葉を、どこかで聞いたような気がするな。


 どこだ? この女は何者だ?


 なぜ、俺はこいつの声を・・・。


『なるほど、時帝がいたからリョクがあのまま固まってるの。時を止める魔法を使えるなんて、すごいのね』

『知ってた癖に。禁忌魔法を使えるなら、ね』

『私が聞いたのは一部だけだもの』

 イベリラが長い髪をたおやかに揺らして、リョクのほうに視線を向ける。

 だぼっとした袖から見える白く冷たい肌は雪のようだった。


『でも、石化を解いたからには、何か聞きたいことがあるんでしょ? 私が負った禁忌魔法の代償は重いから、こんなことをしてもすぐに石化なんて解けてしまうから・・・・』

『・・・ねぇ、君が、この”ウルビト”の寿命を吸い取ってるんだろう?』


 エヴァンが怒りに満ちた表情で、睨みつける。


『リョクを、何に利用しようとしているんだ?』


『よく、私が寿命を取っていることわかったのね』

 イベリラが長い瞬きをして、祭壇の階段を下りて行く。

 エヴァンが剣を構えた。


『・・・この地に来て、人間の寿命の時間の流れの狂いに気づいたんだ。どこに向かっているのか調べたら、ここに来た。君が時間を吸い取っている』

『そうね。貴方の言う通り、私がこの都市の寿命を吸い取ってるの。膨大な魔力に変換して、私の中に溜めている。とても大切な、どうしてもどうしても叶えたい、たった一つの祈りのために』



「!!!!!」

 ジタンが声を上げようとして、呑み込んでいた。

 グルムがその場に座り込む。


「そんな・・・嘘だ・・・イベリラ様が? こんな、でたらめだ」

「・・・・・グルム、ジタン、ジラフ、わしらは真実を見なければいけない」

「グフ爺・・・」

 グフ爺がグルムの腕を引っ張り上げてた。



『リョクをどうするつもりだ?』

『どうもしないわ。リョクは大切な『ウルリア』の天使だもの』

『・・・・・』

『私は、ただ、願いを叶えたいだけ。自分の尊い尊い、願いを・・・』

 イベリラの声はしっとりとしていて、聴いているうちに眠くなるような声だった。

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