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301 雛菊アオイの配信部屋

「・・・ワーム、ここはいったん引く。”ウルビト”は一人も欠けたらいけない。ミイル様含めて、今の状況を伝えて、戦力を増強してもらおう」

「あっ・・・待っ」


 ジジジジ・・・シュンッ


 アイリスが手をかざした瞬間、グルムとワームが消えた。

 ハデスの剣を仕舞う。


「逃げられたな。まぁ、どんなに戦力を増強したって、俺とアイリスには敵わないだろう」

「そ、そうだけど・・・」

 冥界の誘いのあった場所を見つめながら言う。


「ミイル、私のこと何か言ってた?」


「アイリスに謝っていたよ。ハナと一緒に地獄へ行ったんだ。魂を浄化して、もう一度天使になるんだと。やり直すことはそんなに甘くはないと思うけどな」


「ハナが?」

「そうだ。天界はいいところだと言っていた。ミイルが天使に戻ったら、ミハイル王国を天界のような国にすると話していたな」


「・・・・・そっか。よかった」

 アイリスがぼうっとしながら、ミイルが消えた場所を見つめていた。


「成樹、おーい。駄目だ、完全に気絶してる。ナーダ、手伝ってくれ」

「仕方ないな。借りだ」

「あたしじゃなくて、成樹にな」

 りりるらとナーダがナルキッソスを引きずりながら、近づいてくる。



 息をついた。


 ミイルとハナはどうにもならないことだった。

 ミイルがアイリスを恨むのも、な。


 この塔はろくなことがない。


「お前らが癒しだよ」


「は? 急に何言ってるんだよ。頭大丈夫か?」

『今・・・ヴィルが俺無しでは生きて・・・』

「そこまでは言ってない」

 ナルキッソスのうわ言を制止する。

 りりるらがナルキッソスの手を離しそうになっていた。


「魔王ヴィル様、私は?」

 アイリスがこちらをのぞき込む。


「わかってる。アイリスには感謝してるって」

「うん。私、ちゃんと役に立ててる。よかった」


「・・・・・・」

「ヴィル様、この部屋には隠し通路があるみたいなのです。サンドラは見つけてしまったのです」

 サンドラが駆け寄ってきた。


「サンドラ、お前さっきからどこに・・・」

 りりるらが尻尾を回した。


「私はアイリスほど強いわけじゃないので、この塔を調べてました。『ウルリア』の中心となるVtuberが3人もいるなら、痕跡辿れるんじゃないかって。ずっと探してたのです」


 サンドラが目の前にモニターを出す。

 画面には、さっきアイリスがいたライブ会場が映っていた。


「え、これ、私のライブ映像・・・・」

 アイリスが顔を赤らめる。


「俺は別に何度見てもいいけどな」

「魔王ヴィル様、もう忘れてって。私、どうかしてた。たぶん、不具合だったから」

「不具合って・・・終わった後も楽しそうに語ってただろ?」

「それも含めて不具合!」

 アイリスが動揺しながら、頬を手で隠した。


「話してもいいですかー?」

 サンドラが割って入ってくる。


「あぁ・・・」

「見てください」

「ん?」


「ここにいるのが雛菊アオイです」


「!?」

 モニターを拡大すると、観客席に雛菊アオイらしき姿が映っていた。

 深々とローブを羽織って、身を隠していた。周囲のVtuberたちは気づいていなかいように見える。


「雛菊アオイはアイリスの後を追っていたみたいです。ここから、行動履歴を調べたら、ちょうど私たちが終焉の塔に入ったとき、雛菊アオイも一緒に入っていたんです」

「私?」

「マジかよ?」

 りりるらがナルキッソスから離れる。


「全然、気づかなかった。魔王ヴィル様、わかってた?」

「いや・・・でも、アイリスがステージ上であんなに目立ったら、普通に見つかるだろうな」

「そりゃそうだ」

「同意」

 ナーダが画面とアイリスを交互に見ながら言う。


「っ・・・その時の私は思考能力が低下してて・・・」

 髪で頬を隠していた。


「サンドラが探った情報によると、雛菊アオイはステルス機能を使っていたみたいです。この塔に入ってからすぐに、別のルートの階段を上っていったと記録に残ってました。そっちから行ったほうがいいと思います」

「そうだな。塔の最上階への近道なのかもしれない」

「うん」


「よかったです。サンドラも、ヴィル様のお役に立てるのです」

 サンドラが得意げに話してから、こちらを見上げた。


「すごいじゃねぇか。サンドラ」

「へへへ、ヴィル様も褒めてほしいのです」

 りりるらの手をすり抜けて、腕を掴んで来ようとした。


「あたしは無視かよ。ま、いいけどな」

「ヴィル様ー」

「お前な・・・」

 抱き着こうとしてきたサンドラを避ける。


「ごほん!」

 アイリスが素早く間に入った。


「それで、りりるら、隠し通路は?」

「むぅ、ヴィル様といい雰囲気だったのに」

「魔王ヴィル様は有益な情報を聞いてただけ。いい雰囲気の定義に当てはまるものは無かった」

「・・・・・・」

 アイリスとサンドラがにらみ合っている。


「ここで揉めるなよ。サンドラ、その隠し通路とやらはどこにあるんだ?」

「この壁の向こうです。待っててくださいね」

 サンドラが入り口のそばの、柱に駆け寄っていく。


「よいしょっと」

 背伸びをしながら、出っ張った部分をぐっと押し込んだ。


 ゴゴゴゴゴゴゴ・・・ゴゴゴゴゴゴ


 壁が音を立てて地面に沈んでいく。砂埃が立って、りりるらが咳き込んでいた。



「!!」

「・・・え・・・・・」

 ピンクの壁紙にソファーの置かれた、塔の中とは思えない普通の部屋が現れた。

 本棚には本がぎっしりと詰まっていて、ところどころ人形のようなものが置かれている。

 見覚えのある部屋だった。


「今までの雰囲気とだいぶ違うね」

「なんだか、拍子抜けするな・・・つか、どっかで見たような・・・」

 りりるらがナルキッソスを掴んだまま、倒れた柱の上に立つ。


「んー異世界の配信部屋っぽいんだが」

「雛菊アオイが配信で使っていた部屋か?」


「確かに、そうだったような・・・でも、ヴィルがどうしてわかったんだ?」

「異世界に転移したときに見たんだ。画面越しにな」


 雛菊アオイのアバターが着ていた服が、ハンガーにかかっていた。


「その部屋のドアの向こうが隠し通路なのです」

 サンドラがモニターを消して、指をさす。


「おぉ、なるほど」

「ナーダ!」

 ナーダがふわっと飛んで、部屋の中に入っていった。


「ふぅ、雛菊アオイの匂いがする」

 ソファーのクッションを手に取って匂いを嗅いでいた。


「ナーダ、何かの罠かもしれないだろうが」

「問題ない・・・この匂いは本物」 



 スッ・・・・


「変な匂いがするとたら、魔王が来てたんだ。導きの聖女も一緒。エムリスはいない、か」

 雛菊アオイが現れる。


「これは私の」

「わっ」

 ソファーに座ってナーダからクッションを取り上げていた。


「雛菊アオイ」

「りりるら、貴女もいたんだ。久しぶり」

 青い髪をかき上げて、あっさりとしした口調で言う。

 異世界で画面越しで見ていた印象より、クールなイメージだった。


 これが、元の姿なのか。


「久しぶりって、お前、こんなところで何を・・・」

「望月りくから『ウルリア』のVtuberに向けて配信するように言われたんだけど、面倒臭くてしていない。配信、嫌いだから」

 ナーダの頭を撫でながら言う。


「そこにいるの、もしかしてクリエイターの成樹? ものすごく趣味悪い服着てるんだけど、何者になったの?」

「おう・・・えっと、自称、魔王だそうだ。若干、気絶してるが、異常はない」

 りりるらがナルキッソスを引き摺っていた。

 

「うわ・・・悪趣味」

「・・・これでもマシになったんだぜ」

 雛菊アオイが心底引いた顔をした。


 アイリスが少し戸惑いながら、こちらを見る。


「サンドラから、ここに隠し通路があると聞いた。こっちも時間がない。邪魔するなら、悪いが殺す」

「サンドラ?」


「私、私。ピュグマリオンが作ったの。ヴィル様を愛するようにって」

 サンドラが前のめりになりながら、雛菊アオイに近づいていく。


「ピュグマリオンが・・・・この場所、上手く隠れられたと思ったのに、見つかっちゃったのね」

「隠れるって?」

「私は戦うつもり無い。戦いたくない」

 両手を上げて、ひらひらと手を振った。

 ナーダが、雛菊アオイの膝の上で横になる。


「おい、ナーダ!」

「雛菊アオイの言ってることに嘘、ない。戦意、感じない。良い匂い。好き」

 ナーダがゴロンとしながらこちらを見る。


「ナーダがここに来るとはね。ゲームでは相変わらず無双してたんでしょ?」

「みんな、ライブとかに夢中でゲームゾーンに来ない。暇だった」

「そりゃそう。みんな歌とかダンスとか、ゲーム以外の特技たくさんあるから」

 雛菊アオイがクッションを元に戻していた。

 よく見たら、壁にはVtuberらしき少女の絵が描かれている。


「・・・・・・・・・」

 アイリスと顔を見合わせる。


 異様な光景ではあったが、確かに、雛菊アオイからは戦意を感じられなかった。

 アイリスが後ろで指を動かしながら、部屋の魔力を確認していたが、特に変わったところはないと、首を振っていた。信じがたいが、罠ではないようだな。


「警戒しないで。私は、もうよくなったから」

「どうゆう意味だ?」

「望月りく、ナナミカのグループからは抜ける。最初は本当にVtuberだけの都市を作りたいって飛び込んできたんだけど、もう嫌になったの。戻れるなら、元居た世界に戻りたい」

 雛菊アオイがため息交じりにソファーに手をついた。


「・・・この『ウルリア』のほうが呪われてる」

 雛菊アオイが小さく呟く。

 サンドラが顔をしかめていた。

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