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295 魔王への偏愛

「ふぅ」

 マグマのフィールドを抜けて、りりるらが魔法を解く。

 氷が割れて、空中が煌めいた。


「お疲れ様。ありがとう」

「上手くいってよかったぜ」

 りりるらが額の汗をぬぐった。


「そういや、ナナミカが各々が戦闘能力を高めておくように呼び掛けていたわりには、Vtuberって自由にやってたな」

「確かに。ここに来るまで、攻撃してきたのは最初だけだったし。ちらほら戦士はいたけどあまり攻撃魔法は見てないような・・・」


『まだここに来て間もないから、みんな遊びたい。普通の考え』

 ナーダが翼をばさっとさせて言う。


「はっ、私、ライブにまで参加しちゃったんだった。今思うと、なんで参加しちゃったんだろう」

「俺だって聞きたいよ」


「もしかして、私、何かの魔力に飲まれてたのかもしれない・・・私でも見破れない幻覚に・・・・?」

 アイリスが両手で頬を押さえながら言う。


「いつものアイリスが、はしゃいでただけに見えたけどな。まず、今のお前は幻覚にかからないだろ」

「うっ・・・・」

 アイリスの耳が赤くなった。


「いや、あれはそうゆうのじゃねぇから。ライブってそうゆうものだからな。何かの魔力というか、ライブのノリに吞まれたんだ。普通のことだぜ」

「・・・・あ、そうなの。普通のことなのね」

 りりるらが冷静に言うと、アイリスが頬を仰いでいた。


「でも、あの場の想像力の勢いは、いつでも攻撃力に変換できるってことだ。気を付けるに越したことはねぇよ」

「そうだな」


『着いた。ここで降りる』

 薄い雲を抜けると、ナーダが翼を斜めにした。


 ぶわっとマントがなびく。

 終焉の塔の入り口から少し離れたところに向かって、ナーダが降下していった。




「入り口にも兵がいなんて・・・」

「戦力あるVtuberは中にいるのかもな。それにしても、あいつら不気味すぎるだろ」

 りりるらが、ナーダから降りて、天を仰いだ。

 天使たちは霧のかかった終焉の塔の上のほうを飛んでいる。


『目が合ったときはびっくりしたけど、何もしてこなかった』


「油断している一瞬を狙ってるとかか? そうなりゃあたしじゃ対抗できないぜ」

「そのときは当然、魔法を使う」

 こちらには確実に気づいているようだったが、何も行動を起こさなかった。


 アイリスが髪を耳にかけて、草の上に落ちていた堕天使の羽根を拾う。


「あの天使と堕天使は、私たちに直接的な攻撃ができないだけだと思う。終焉の塔にいるウルビトに協力してるのは確か・・・」

「俺がハデスの剣を受け取ったのと、似たようなものか」


「うん。『ウルリア』は、もう2つの心臓を半分ずつ贄に動いてる。天使と堕天使は傍観することしかできないのね」

 アイリスが天を仰ぎながら、息をついた。



 サアァァァァ


「!?」

 草原が風になびく。終焉の塔の入り口から人影が・・・。


「ヴィル様ー!!」

 いきなりサンドラが駆け寄ってきて、勢いよく抱きついてきた。


「はぁ、会いたかったのです」

「サンドラ・・・どうして」


「ま、魔王ヴィル様、この子は何?」

 アイリスが瞼を重くした。


「ピュグマリオンが作ったVtuberアバターらしい」

「アイリス・・・ふ、ふうん。確かに可愛いけど、サンドラも可愛いですから」


「魔王ヴィル様、ちょっといい?」

「っと」

 アイリスが咳払いして、腕を引っ張ってくる。


「あの子に何もしてない?」

「してないって」

「なんかもやもやする感情。しばらくなかったのに。魔王ヴィル様のラッキースケベ属性って、私と相性悪いのかもしれない・・・」

 頬を膨らませていた。


「サンドラはヴィル様に会いたかったのです」

 サンドラが隣に並んでくっついてきた。

 アイリスの殺気が魔力に変わって、溢れているように見える。


「あ・・・アイリス、終焉の塔に入るまでは魔法を使うなよ」

「もちろん。すぐそこだし」

 ツンとしながら言う。


「お、修羅場か? あたしそうゆうの好きだぜ」

 りりるらが軽く飛んで、尻尾を触っていた。

 ここ一番の意地の悪い顔で笑っている。


「サンドラ、どうしてここにいるんだ?」


「ナルキッソスに連れてきてもらったのです」

「ナルキッソスって・・・」

 サンドラの後ろから、ナルキッソスが歩いてくるのが見えた。


「魔王ヴィル様の、し、知り合い?」


「一応、ダンジョンの精霊だ」

「・・・・・」

 趣味の悪い毛皮のマントを羽織って、首から小さな髑髏をぶら下げている。

 なぜか胸元が避けて、肌を露出させている。

 顔もメイクをしているのか、瞼に青い何かがキラキラしていた。


『はははははははは』


 両手を広げて近づいてくる。思わず、一歩ずつ下がった。


『遅かったじゃないか。魔王ヴィル。ずっと待ってたんだよ』


「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 声も出ない俺とアイリスを見かねて、りりるらが前に出る。


「成樹、いろいろつっこみたいことがあるんだが・・・」

『ダンジョンの精霊がここに来ていいのかってことか? それなら大丈夫だ。あのダンジョンは願いが叶って、魔力に満ちている。ダンジョンの精霊がちょっといなくなったくらいじゃ何ともない』


「あぁ、それならいい。って、そうじゃなくて、どうしてあたしたちがここにいるってわかったんだよ。終焉の塔の存在を知っているなら、早く言えよ」

 りりるらが腕を組んで、尻尾をぴんと伸ばす。


「あたしたちがここまで来るのにどんなに苦労したと思って・・・」

『いや、知らなかったよ』

 ナルキッソスの視線が、こちらに向く。勢いに負けて、二歩下がった。 


『魔王ヴィルの位置情報を検索できるようにしてたんだ。いつでも会いに来れるように』

「え・・・・」


『そして、会いたくてたまらなくなって、来てしまった』


「は・・・?」


『はぁ・・・もう、これは恋、そう、魔王ヴィルの魅力にとらわれて、恋をしてしまったのかもしれない』

 悶えるように言う。


「恋!?」

 アイリスと声が被った。

 背筋がぞくっとする。



「そうです。それは紛れもない恋なのです。でも、サンドラもヴィル様が好きなので、気持ちはわかります。独り占めは許しません」

「・・・・・・・・」

 サンドラの言葉に反応できないほど硬直していた。


『はははははは、わかってるよ。魔王ヴィルの役に立てるだけで幸せなんだ』

「おいおいお前・・・」

 りりるらが青ざめていた。


『離れてから気づいてしまった。もっと魔王を知りたかったんだ。何をしても、退屈で、この心の穴はきっと魔王ヴィルにしか埋められない。たぶん・・・』

「っと、頼むからその辺にしてくれ。なんか胸焼けしそうだ」

 りりるらが手を口に当てて、ナルキッソスが言いかけた言葉を止めていた。


「魔王ヴィル様・・・ここ数日で変わった趣味を」

「違うって!」

 頭を掻く。


 趣味の悪さがパワーアップしたものを押し付けられているような感覚だ。

 正直、あのダンジョンが歩いていると言っても過言ではない。



「気持ち悪い」

 ナーダが人の姿に戻って、バッサリと言った。


『どこが・・・』

「その趣味の悪い服は何? なんの儀式の服? 謎の髑髏までつけて、このチェーンもおもちゃなんでしょ? 靴にはとげがあって、雪山で歩く時の靴みたい」


『す、全て魔王をイメージしたものだよ。自分が魔王になることはできない、だからせめて、魔王ヴィルに近づきたい。よく見ればわかるだろ?』

「全然似てないけど」

『ちなみにポイントはこの髑髏だ』

 ナルキッソスが指を当てると、髑髏の目がうっすら緑に光った。


「い・・・意外と容赦ないのね。ナーダって」

「ドラゴンはみんなそうじゃないのか?」

 りりるらが尻尾をくるんと回す。


「双竜は・・・というかこうゆう奴を見たのは初めてなんだが」


『魔王ヴィルのはじめてになれてうれしいよ』

「・・・・・・・・・!?」

 鳥肌が全身を駆け巡った。


 どうやってもおかしな方向に行く。


「この趣味で、ナナミカとりりるら、よく美女にできた。奇跡だと思う」


『商用だからね。自分の趣味は極力抑え込んだよ』

「仕方ねぇな。一緒に行くなら、せめてその装備品だけでもどうにかしてくれ。ヴィルが困ってるだろうが」

『そうか・・・・じゃあ、仕方ないな・・・・』


 この場の勢いについていけていないのは、アイリスも同じようだ。

 さっきからオーバーフローがどうとか、呟いている。

 

 りりるらがため息をつきながら、ナルキッソスの装備品にアドバイスをしていた。

 サンドラが髑髏の首飾りに、面白がって指を当てている。



「魔王ヴィル様、なんか新しい扉を開いてた。BL? っていうジャンル」

「開いてないって。どう見たらそう見えるんだよ」


「でも・・・こうゆうのは止められないものだし・・・・はっ、でもライバルが増えたってこと・・・・負けないようにしないと」

「ん?」


「ライバル?」

 アイリスが自分で言いながら、口に指を当てて、首をかしげていた。


『さぁ、準備はできた。行こう!』

「あ、あぁ」

 ナルキッソスが来てから、今まで感じたことのない、謎の悪寒が止まらなかった。

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