25 双竜の今後
双竜が大きく翼を動かして、上昇していく。
「魔王ヴィル様・・・・」
「ん?」
「そろそろ、目を開けてもいい?」
「あぁ、そうだな。いいよ」
地面に死体がないことを確認してから、アイリスからマントを取った。
「わぁ、すごいね。ギルバート、グレイ」
クォーン オォーン
気持ちよさそうに鳴いていた。
「封印されていたとは思えないくらい、のびのびと飛ぶな」
「きっと、シンジュク様がお世話していたおかげね」
バサッと翼を伸ばして、雲の上を悠々と飛んでいた。
ギルバートとグレイの背に乗ったまま、魔王城の扉から入っていく。
ププとウルがこちらに気づいて、真っ先に飛んできた。
「お帰りなさいませ、魔王ヴィル様!」
「おぉ、双竜の封印も解けたのですね!!」
「あぁ。ギルバートもグレイも元気だ」
ギルバートとグレイが翼を畳んで身を屈めると、赤い絨毯の上に滑るようにして降りた。
「ギルバート、グレイ、久しいな。よく戻ってきたぞ」
ウルが撫でると、双竜が静かに頭を下げていた。
廊下を歩いていたゴリアテが駆け寄ってくる。
「双竜じゃねぇか。グリモアが殺されて、お前が封印されたと聞いたときは頭に血が上ったもんだが、こうして会えてよかった。今度、酒でも飲むか?」
「双竜は酒が苦手だっただろ?」
「ガハハハ、そうだな。悪い悪い」
ゴリアテが大きく口を開けて笑っていた。
段差のほうへ歩いていき、魔王の椅子に座る。
上位魔族が跪いた。
「5つのダンジョンは魔族のものとなった。位置の確認を頼む」
「かしこまりました」
ププが地図を広げながら位置を確認していた。
「この〇で囲んだ5か所は魔族のダンジョンになりました」
「おぉ!」
魔族が感嘆の声を上げていた。
「まだ先は長い。人間たちの動きも変わってきてる。油断するなよ」
「もちろんでございます」
カマエルがメガネを上げる。
「あと、今回のダンジョンだが、人間が待ち伏せしていた」
「なんと・・・」
「1回目は1人、戦闘能力のない村の者だ。2回目は約50人ほど・・・中途半端なクエスト挑戦者の寄せ集めだ。ダンジョンから出てきた者を殺せば懸賞金が出ると言われていたらしい」
「つくづく金で動く奴らだな。人間ってやつは」
「不思議な奴らですね。私たちにはあんな紙切れですが、人間どもには命をかけるほど大事なもののようです」
ゴリアテとププが言う。
「人間たちにとって、金があれば叶えられることが多いからな」
足を組んで、魔族が持ってきたハーブティーに口を付ける。
足を引っ張った俺は、どんなに頑張っても金貨一枚しか貰えなかった。
他のギルドの奴らがどんなに報酬を得ていてもな。
「今は、1つのダンジョンに群がる傾向があるようだ。おそらく・・・」
「なるほど。私たち、上位魔族をおびき出しているのですね」
「・・・・・」
カマエルが嬉しそうに口角を上げていた。
「うれしい限りです」
「俺だって大歓迎だ。人間を一網打尽にできるんだからな」
ゴリアテが地面を踏み鳴らした。
「ププウル、今魔族の持っているダンジョンに何か変化はあったか?」
「えと・・・・一つ人間どもが集まっていたので、サリーが対応に行きました」
「人数は?」
「20人くらいでしょうか? 前ほど大規模ではありません。魔王ヴィル様の言う通り、5人くらいで魔族のダンジョンに来るものはいなくなったようです」
ウルが牙を見せて話していた。
「・・・・・・・・・」
さすがに、たった2日3日では目立った変化はないか。
ジャヒーのいた南西のほうも、人間が寄り付かなくなっていると聞いている。
ギルドと城の兵力は、作戦会議中といったところだろうか。
情報を集めている途中だろう。
「・・・・わかった。引き続き、ダンジョンを頼む」
「はい。お任せください」
ププウルが鼻息を荒くして同時に頷いていた。
「そうだ。今回取り返したダンジョンだけど・・・1つは人間どもの死体が転がっている。処理を頼む」
「私の部下が参りますのでお任せください」
カマエルが誰よりも早く声を上げる。
乗り遅れた、ゴリアテが小さく舌打ちしていた。
「悪いな。弱すぎて力のコントロールができなかった。処理が面倒だから、ダンジョンの周りに死体を残したくなかったんだけどな」
手を握り締めて、魔力の流れを確認する。
まさか、ほとんどが死ぬとはな。
「魔王ヴィル様の魔力は強大なもの。当然でございます」
「残り4つのダンジョンも早めに魔族を配属させてくれ・・・あとは、ダンジョンの精霊が、ダンジョンは綺麗に扱ってくれとのことだ」
「ん・・・・・綺麗にとは・・・?」
「精霊から・・・綺麗に・・・とのことですか?」
上位魔族がぼうっとして首を傾げていた。
「ダンジョンの精霊との契約だ。精霊と良好な関係を築けなければ、いざというときに力が使いこなせないだろう」
「・・・・・・・・」
魔族に綺麗に使えというのは、ハードルが高いだろうな。
でも、ダンジョンの精霊とも約束したことだし、仕方がない。
「なるほど。一瞬、人間みたいな考えのように思えてしまい、大変失礼しました。ダンジョンの精霊と良好な関係を築く、すなわち、ダンジョンの精霊すらも魔族が利用するべきだということですね」
カマエルが自信ありげに言うと、周囲が納得して頷いていた。
「ま、まぁ、俺だって魔王ヴィル様の意図はすぐに分かったけどな」
「嘘をつけ。ゴリアテにそんな頭の回転はないだろう」
ププが言うと、ゴリアテの目がつり上がった。
「そうゆうことだ。頼んだぞ」
「承知いたしました」
「魔族の手配は私たちにお任せください」
カマエルとププウルが、すぐにダンジョンに配属する魔族について話していた。
魔王の椅子から離れて、アイリスと双竜のほうへ歩いていく。
ウルがふらっとついてきた。
「魔王ヴィル様、いかがいたしましょうか? ギルバートとグレイは」
「それを考えていたんだが・・・・」
腕を組んで、ギルバートとグレイの目を見つめた。
「お前らはどうしたい?」
クォーン クォーン
二頭が声を合わせるように主張していた。
「はっ!? なんと!?」
ウルには伝わったようだ。
「何と言ってる?」
「え・・・と、その・・・・」
少し戸惑いながら、言いにくそうに何度もギルバートとグレイのほうを見ていた。
「ん?」
「・・・・その人間の女の・・・召喚獣になりたいと言っております」
「え!?」
ギルバートが鼻息でアイリスの髪を吹き飛ばしていた。
「ギルバートとグレイは元々魔族の召喚獣でしたが、その召喚者の魔族が人間に殺されてしまったのです」
ウルがグレイの首に触れる。
「人間の召喚獣になるなど・・・と個人的に思うのですが、魔王ヴィル様の奴隷の召喚獣とあれば、ギルバートとグレイにとってもいいのかもしれません・・・」
納得のいかない表情を必死で隠していた。
「・・・・・・・・」
アイリスのほうを見る。
最近、やっと『ヒール』覚えたばかりのアイリスが、召喚獣を出せるなんて思えない。
「とにかく、ありがとな。ウル、正直に教えてくれて」
「ふぁ・・・魔王ヴィル様・・・」
「お前のことはいつも頼りにしてる」
ウルの頭をぽんと叩くと、ほわっと嬉しそうな表情になった。
「い・・いえ、当然のことをしたまでです。私もギルバートとグレイの思うようにするのがいいと思います。し、失礼します」
「ほら、ウル、行くよ」
ウルがププに引きずられていた。
「魔王ヴィル様」
アイリスがじっとりとした視線を向けてくる。
「ん?」
「女魔族と仲いい・・・」
じとーっとした目で睨んでくる。
「私にはギルバートとグレイがいるからいいけど」
「・・・何怒ってるか知らんが、先行ってるぞ」
「怒ってる? 怒ってる、これは怒ってる感情・・・」
「はぁ・・・・本当、変わった奴だな」
アイリスが胸に手を当てて、話していた。
「ねぇ、ギルバート、グレイ・・・私もギルバートとグレイの言葉をわかるようになりたいな」
クォーン クォーン
「くすぐったいってばー」
アイリスが双竜と楽しそうにはしゃいでいた。
まぁ、ギルバートとグレイが味方になれば、アイリスを魔王城で1人にしても問題ないだろう。
マントを翻して、扉のほうに歩いていく。
ギルバートとグレイの鳴き声が廊下まで響いていた。




