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291 『ウルリア』

「僕たちのダンスパフォーマンス見て行かない?」

「私は絵が得意なの。なんでもお題を出したら描けるよ。遊んで行って」

「私たちが作ったお菓子食べていきませんか?」

「ここは中華の店アル。美味しいお店の紹介などをしていた、味は一流」


「あ、急いでるから」

「アイリス、早くいくぞ」

「うん」

 Vtuberにはいろんな特技があるらしい。


 歩いていると、キラキラした表情で声をかけてきた。

 道は遺跡のような場所だったかと思えば、花に囲まれたり、お菓子の家のような場所になることもあった。ほんの数メートル先が、違う世界のように見えるところだ。


 りりるらがいた場所では当たり前なのだという。


「歩きにくいとは思うが、みんなただ自由にやってるだけだ。悪気はねぇ」

 りりるらが声を掛けられすぎて、目元に仮面をつけていた。


「りりるら、その仮面似合うね」

「さんきゅー」

「私も欲しいな。一応、有名っぽいし」


「ステージであれだけ顔をさらしておいて、今更仮面はないだろ」

「あれは代理だよ。それに、むーちゃんにものすごく褒められたんだ。またライブに参加してほしいって」

 アイリスが嬉しそうに言う。すぐにその気になるんだよな。


「ライブってあんなに楽しいんだね。ステージに立つって、王女としての振舞とも違うし、こう、自由に表現するっていうのかな? 楽しかったな」

 さっきからずっと同じことを言っている。


「も、もしかして、魔王ヴィル様もやってみたかった?」

「んなわけないだろ。お前の能天気さが現在で驚いてるだけだ」

「あはは、お前ら面白いな」

 りりるらが腹を抱えて笑っていた。マントを翻して、息をつく。


 ボウン


「!?」

 突然、目の前に木造のピンク色の建物が現れた。

 下がって避ける。


「・・・どうなってるんだよ。『ウルリア』は」

「これが『ウルリア』だ。Vtuberの想像力のまま広がってるんだから、早く行かねぇと、どんどん終焉の塔までの道が伸びていくぞ」


「厄介だな」

「ま、あたしもここまでとは想定外だ。どんな理由で海底に沈んだんだろうな。『ウルリア』は」


「・・・・・・・・・・」

 アイリスが目を細める。


 バタン


「こんにちはー!」

 ピンク色のドアから、エプロンを着た少女が出てくる。


「原宿のお店で作られていたお菓子をそのままこちらの世界に持ってきました。ぜひ、中に入って食べていきませんか? とってもとっても美味しいのですよ」

 ぐぐっとこちらに寄って来る。


「新人Vtuberさんですね。ぜひぜひ入ってみてください」

「いや、俺は・・・」

「いい匂い。ちょっとだけ・・・・」

「アイ・・・・」

「冗談だよ。冗談だってば。ごめんなさい、えっと私・・・」

 アイリスがぱっと手を放して、丁寧に断っていた。

 全然、冗談に見えないんだが。


 少女が少し残念そうに離れていった。


「キリがないな。これじゃ、終焉の塔にたどり着けない」

「魔王ヴィル様、魔法、使っちゃう?」

「そうだな」

 指先に魔力を溜めようとしたときだった。


 トン


 りりるらが杖を出して止める。


「早まるなって、『ウルリア』はVtuberの想像だって言っただろう。想像できるものは何でも実現しちまう。今は、敵だと思われないほうがいい」

「・・・・・・・・・・」

「あたしがどうにか、道を切り開いてやる」

 りりるらが角を触りながら、さっきの少女に近づいていった。

 仮面を外してからモニターを出して、何か話している。



「りりるらって、まだあまり話したことないけど、なんで私たちにこんなに協力してくれるのかな?」

 アイリスがりりるらのほうを見つめながら言う。


「悪魔なのに優しいなんて、なんだか私たちの世界の魔族を見てるようで・・・」

「アイリス」

「ん?」


「どうして一人で『ウルリア』に乗り込んだんだよ」

「あーえーっと・・・」

「とぼけるなって。単独で『ウルリア』に乗り込んでいったんだろうが。しかも、自分でVtuberアバターに擬態して」

 アイリスの目を見る。


「・・・私はこの世界の禁忌魔法を全て、覚えてるんだよ。たまに記憶を失っちゃうこともあったけど、私、そもそも強いの。最強かもしれない」

 掌を見つめながら言う。


「彷徨っていた期間、過去に戻っていた期間、色々あったけど何をやっても死ぬことは無かった。心臓を貫かれたって死なない。だから、『ウルリア』に来てもどうにかなると思って」

「言っておくけど、もう二度とお前を過去に送り込むつもりはないからな」


「魔王ヴィル様・・・・」

「お前は強いって言ってたけど、俺だって強いからな。勝手に魔族を守ろうとするなよ。俺が魔族の王だ」

「・・・・ありがと」

 腕を組む。


 アイリスが髪を耳にかけて、ほほ笑んでいた。

 この表情を、俺は何度も見たことがある。


 何かを誤魔化すときの笑顔だ。


「魔王ヴィル様。魔王ヴィル様はやっぱり優しいね」

「優しいわけではない。効率よくいきたいだけだ」

 肩についた葉を払う。


「それに、アイリスはいつまで導きの聖女名乗ってるんだよ。アイリス王国の王女でもない、導きの聖女でもない、ただのアイリスでいいだろ」

「・・・私は、ずっと導きの聖女だよ。ずっと前から」


「ん?」

 少し俯きながら、スカートのすそをひらっとさせる。

 聞き返そうとしたとき、りりるらが戻ってきた。


「・・・・・」

「どうした? お前ら」

「いや、何かいい案は見つかったのか?」

「あ、あぁ・・・まぁな」

 りりるらがアイリスのほうを少し気にしながらモニターを大きくした。


「あの子はリリーっていうVtuberで、もともと自動アプリ生成したりしてたんだ」

「自動アプリ?」


「まぁ、この世界で言えば・・・んー大工とかがあてはまるのか?」

「大工って・・・そうは見えないけど・・・」

 リリーが他のVtuberに声をかけて、お菓子を配っていた。

 3人くらいの女の子たちが、はしゃぎながら建物の中に入っていくのが見える。


「大工がお菓子屋か・・・」

「特技はあくまで、人間が作った設定だからな。リリーみたいに全く違うことを好む奴もいるのさ。とにかく、前に作成してたアプリをインストールして『ウルリア』の地図をもらってきた。中央にあるのが終焉の塔・・・・」

 『ウルリア』は丸い地形をしていた。指を動かして拡大する。


「ほら、この建物の間、あたしたちはちょうどここにいる」

「あれ? ねぇ、今ここに何もなかったのに・・・」


「そこは、たった今、公園ができたな。ここはさっきまで建物があったんだが、消えて橋になっている」

「めちゃくちゃだな」

「そうだ。めちゃくちゃなのが『ウルリア』だ。こんなの地図が無きゃ進めねぇよ。幸いなのは、戦闘力のあるVtuberは少ないことだ。今のところは、だがな・・・」

 りりるらが角を触りながら言う。


「空から行かないと埒が空かない。あたしが行きたいのはここから外側にいった、ゲームゾーンだ」

「ゲーム・・・」


「終焉の塔から離れるのか?」

「ここにはドラゴンがいる。そいつなら、空から終焉の塔に向かうことができるはずだ。同じくゲームから転移してきたドラゴンだからな」


「魔王ヴィル様、どうする?」

「・・・地上から行くのは時間がかかりそうだ。りりるらの案にのったほうがよさそうだな」

「おう。お前らが柔軟な対応できる奴で良かった」

 遠くのほうで、煙を上げて小さな塔が現れるのが見えた。


 こんなめちゃくちゃな都市で、エヴァンはどうやって終焉の塔に向かおうとしているのだろう。

 何か策を見つけたのだろうか。


「ふふ・・・」

「何がおかしいんだよ」

「なんだかこうやって魔王ヴィル様と冒険するの久しぶり。ワクワクするって感情が出てきた」

 アイリスが腕を伸ばして、りりるらの横に並ぶ。


「よろしくね。りりるら」

「任せろ。あたしはVtuberアバターの古株だ。お前らは絶対に終焉の塔に送り込んでやる。だから、ナナミカを・・・」

「って、え!? りりるら、その、その服。露出が」

 突然、アイリスが口を押える。


「だって、胸がほとんど見えていて、え、え? いつから?」

「もともとだぞ」

「今気づいたのかよ」


「もしかして、魔王ヴィル様がこうゆうの好きで連れてきた? 思い返してみれば、女魔族は99パーセント露出が高い・・・はっ、ラッキースケベ属性の効果が・・・」

「違うって。それに、魔族は俺が王になる前から、あんな服装だ」

「ふうん」

 じとーっとした目で、こちらを睨んでくる。

 なんで俺が・・・。りりるらが軽く咳ばらいをした。


「・・・りりるら、さっきから楽しそうだな」

「別に。アイリスが加わってから一気に空気が変わったなって思ってな。さ、行くぞ。ぼうっとしてると、またなんか出てくるからな」

 りりるらが地図を映したまま、前を歩く。

 風が吹くと、さっきの建物から甘いお菓子の香りが漂ってきた。

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