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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第四章

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289 人工知能の世界

「これがVtuberアバターの体。なんだか軽い感じがするな」

 腕を見ると、肌の色が白っぽくなっている気がした。

 時折、電流が流れているような感覚がある。


 慣れれば違和感はなくなりそうだな。


「まさか、自分が画面越しに見てたVtuberアバターになるとはね」

 エヴァンがジャンプしたり手を振り回したりしている。


「望月りくが俺を見たら驚くだろうな。確か、俺もアバターになって会いたいってスパチャしたことあったんだよね。覚えてたりして」

「まさかあたしたちと同じ時代に生きてたとはな。にしても、お前、相当入れ込んでたんだろ」


「転生前は、彼女が俺の唯一の癒しだったんだ。はぁ・・・」

 エヴァンがいつになくはしゃいでいる。


「ねぇねぇ、ヴィル、どう? なんか変わった?」

「いや・・・別に・・・」

「そうか。見た目じゃわからないか」

 正直、エヴァンの動きには違和感があるけどな。


「念押しておくけど、あくまで擬態だ。魔法は使うと、解けるからな。空飛ぶのもナシ」

「飛べないのか? 飛んでる奴らだっているだろ?」

「そうだよ。君だって飛んでるじゃん」


「お前らは翼が無いんだから当然だ。飛ぶのだって魔力を使うだろうが」

 りりるらが後ろを向いて、翼をパタパタさせた。


「確かに・・・忘れてたけど、魔力で飛んでたね」

「・・・魔法を少しも使わないって難しいな。いつもは意識せずに魔法を使ってるから」

「まぁ、俺らは魔力の減りとか気にしたことないもんね」

「そうだな」


「はい。終わったぞ」

 りりるらが杖をくるっと巻いて仕舞う。


「これで完了だ。『ウルリア』でモニターを出せとか言ったら、あたしが適当にごまかすから、終焉の塔まで、魔法を使わないようにだけは自分たちで気を付けてくれよ」

「あぁ」

 草陰から離れる。

 Vtuberが作り上げる街は、ほんの数分でも建物が増えて、どんどん大きくなっているようだった。


 終焉の塔までここから1キロくらいだろうか。

 歩いていくなら、終焉の塔まで時間がかかりそうだが・・・。

 アイリスも同じ道をたどったなら、終焉の塔には辿り着いていないだろう。


「行くぞ」

 ローブを羽織って、フードを押さえた。





「みなさん、異世界転移記念ののライブパフォーマンスを聞いていきませんか?」

「お願いしまーす」

 通りに出ると、似たような服を着た3人組の少女が、音の流れる紙を配っていた。 

 道行く人が声をかけている。


 さっきも似たような少女を見たな。

 流行っているのか?


「一時期ずっとトレンドを独占してた『はなまるまるぽ』だよね。何時から?」

「すぐ始まります。私たちはトップバッターです!」

 短い髪の少女が嬉しそうに頷く。


 背の高い男の人が紙を受け取って話しかけていた。


「見に行こうかな? 私歌えないVtuberだったから、ステージに立てる人たちに憧れてて」

「ありがとうございます! ほかのVtuberたちもたくさん出るので、是非見ていってください!」

「むーちゃん、そろそろステージに行かないと」

「そうね」


「・・・・・・・」

 少女が移動しようとすると、りりるらがすっと後ろに隠れた。


「ステージって・・・どこにそんなもの」

「そこにステージができてるよ」

 エヴァンがきょろきょろ見渡すと、りりるらが後ろを指さした。


「!!」

「ライトまで作ってるし・・・野外ライブ会場になってるじゃねぇか。さっきから音が流れてたのは、ステージからだったんだな」


「なんか懐かしくてくすぐったいな」

 りりるらが角を触りながら体を丸める。


 数十メートル離れた先に、大きな丸いステージが浮かんでいた。

 さっき、木の上から見たときは、あんなもの無かったはずだ。


「ヴィル・・・やばくない? この力」

「あぁ・・・おそらく数秒でできたんだろう。これから何が起こるのか想像もできない」

「ぶっ飛んだ話、地面から突然槍が出てきても不思議じゃないね」

 街の中にいるほどひしひしと感じていた。


 Vtuberは呑気だけど、かなり危険な存在だ。

 『ウルリア』の敷地内ではうかつな行動はとれない。


 他にも踊っている者、作り立てのお菓子を配っている者、魔法を使っている者、配信を見て何か話している者・・・『ウルリア』内では、こいつらが想像するものがそのまま実現しているのだという。


 りりるらから聞いていたが、ここまでとは・・・。


「異世界住人よりもやりたい放題だな」

「あいつらはこっちの世界に染まろうとしてたからね。ここにいる者たちは、もう、自分たちの独自文化築こうとしてるよ」

 エヴァンが苦々しい顔で周りを見渡す。


「これが『ウルリア』か」


 小さな船の模型を3,4個浮かべて、説明している青年もいた。

 異世界では普通なのかもしれないが、俺にとっては見たことない情報ばかりだ。


 上位魔族が見たらパニックを起こすだろうな。


「なぁ早く行こうぜ。ぼうっとしていると・・・」

「あ、これから私たちのライブパフォーマンスがあるんです。他のVtuberも歌ったり踊ったりするので見ごたえありますよ」

 赤い服を着た少女が甲高い声で話しかけてきた。


「ライブって・・・」

「あー、俺たちはそうゆうの興味ないから」


「あ! そこにいるのは、もしかして、りりるらですか?」 


「!?」 

 後ろに隠れていたりりるらが、ぎくっとする。


「やっぱり、りりるらです!」

「なんだよ。あたしは急いでるんだ」

「ちょっとだけです。あーちゃん、むーちゃん、りりるらもここに来てたんですね! ねぇ、ろんちゃん、りりるらがいたよ」


「わぁ、本当だ。その節は助けていただきありがとうございました!」

 いきなり長い髪をぶんと振って、頭を下げた。


「ま、まぁ、成り行きだったから・・・」

「りりるらってもしかして有名?」


「Vtuberの中では顔が広いんだよ。憂さ晴らしにクリエイターの鍵かけたフォルダを一斉に解放したことあったからな。ネット上にバラまいたんだ。ちょっとした事件にもなったんだぜ」

 少し自慢げに言う。


「うわ、えっぐ。悪魔みたいだな」

「悪魔だからな」

「ねぇねぇ」

 少女がガシッとりりるらの腕を掴んだ。


「見て行ってください。いろんなVtuberが集まるライブがあるんです。『ウルリア』に来れたからできたことなんです。私たちを助けてくれたりりるらにも見てほしいです」

「え、いや、あたしはちょっと・・・」


「お願い!」

 りりるらが無言でエヴァンと俺に助けを求めていた。


「助けてくれよ。おい!」

 りりるらがこちらに手を伸ばす。


「じゃ、俺らは急いでるから」

「あぁ、そうだな。りりるらをよろしく」

「裏切者! ま、待てって。あたしはあいつらと・・・」


「まぁまぁ、ライブが終わってからでもいいじゃん」

 よほど力が強いのか、2人がじたばたするりりるらの腕を引っ張っていった。

 足をバタバタさせるたびに、パンツが丸見えになっている。

 ステージに集まっていく人に隠れて、4人が見えなくなった。


 人ごみをすり抜けながら、終焉の塔のほうへ歩いていく。


「りりるらって露出高いんだけどなんかエロくないんだよね。やっぱ、エロはギャップだよ」

「お前がその歳でエロさを語るなよ」

「もう何十回と言ってるけど、そもそも俺は未成年じゃないって」



 ジャーン


 弦を弾いたような音が鳴り響いた。

 振り返ると、ステージに光が走って、Vtuberたちが集まっていくのが見えた。



 ワアァァァァァァァァァ


 ピアノやタブラのような音も交じり、歓声も大きくなっていった。

 いろんな色の光が地上や空を照らす。雲まで、赤や緑、青や黄色に変わっていった。


「盛り上がってるねー」

「ライブってそもそも何なんだ?」

「そっか。こっちの世界では無いよね。音楽を奏でるパフォーマンスのことだよ。アリエル王国でも、路上で歌ったりダンスしたりしてるのあっただろ? そのもっとでかいバージョンって感じ」

「ふうん。娯楽か」

 すれ違う人から甘いお菓子の香りがした。


「まぁ。軍事的なものじゃなければ、俺には関係ない。このまま終焉の塔を目指すだけだ」


「うん。りりるらには悪いけど・・・って、ちょっと待って」

「ん?」

 エヴァンがぴたりと立ち止まって、目を擦る。


「えっと・・・信じられないと思うけど・・・あれ、アイリス様じゃない?」


「は?」

 振り返ると、アイリスがさっきの3人のVtuberと一緒にステージに立っていた。


「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 アイリスが、ステージに、立っていた。

 どう見ても、アイリスだった。

 

「ま、まさか、そっくりさんだよね? アイリス様があんな場所に」

「アイリスだ。間違いない・・・」

 驚きのあまり、俺もエヴァンも硬直していた。


「嘘・・・でしょ。似た感じのVtuberがいたとか。だってアイリス様は・・・」

「・・・・いったん、戻るぞ」

「あ、待って。ヴィル」

 人ごみの中に入って、来た道を戻っていく。


 俺がアイリスを間違えるはずがない・・・が、そもそもあんなとこで何やってるんだよ。

 さっきの少女たちと色違いの衣装を着て、ステージからぎこちなく手を振っていた。

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