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24 変わったか?

「この世界、ラッキースケベイベが多すぎる。想定外・・・」

「その、ラッキースケベイベってなんだよ」

「あれ? なんだろう?」

 アイリスの声が響く。

 異世界クエストこなして疲れてんのか?


 湯の流れる音が響いていた。


「はぁ・・・まさかお前がいるとは。俺は出てるから、上がったら最下層まで来い」

「待って」

 一旦出ようと服を取ろうとしたときだった。


「魔王ヴィル様。服・・・そこの足元にある・・・」

「ん・・・?」

 下を向くとアイリスの服があった。


「それ、こっちに持ってきてほしいなって。私のほうを見ないようにしながら」

「見てないから取りに来いよ」

「んーっと、こうゆうときは駆け引き? が必要って情報がある」

「ん?」

「とにかくよろしく!」

 パシャっ・・・と潜るような音が聞こえた。


 ダンジョンの精霊は余計なことを・・・・。


「こっちは絶対見ないように。そうゆうイベは苦手」

「はいはい」

 アイリスから視線を逸らしながら、湯船に近づいていく。


「ほら・・・」

「ありがとう。あと、魔王ヴィル様、明かりを消して目を瞑ってほしいんだけど・・・」

「注文の多い奴だな」

 なんか気が抜けるな。

 俺は魔族の王なのに・・・。


 指先の明かりを消して、目を閉じると、服を受け取る感覚があった。


「ありがとう」

 頬に手が触れる。


『ヒール』


「え・・・・?」

 目を開けると、アイリスが頬に手を触れていた。


「怪我してた。魔王ヴィル様」

「・・・・・・・?」

 いつの間に・・・。


 人間の攻撃にあたった感触はなかった。

 飛んできた小石が当たったのか。


「ダンジョンの外で、戦闘があったの?」

「まぁな・・・アイリスには関係のないことだ」

 アイリスから離れる。


「そっか。ねぇ、私も『ヒール』が使えるようになったの。ダンジョンの精霊シブヤ様のおかげかな?」

「そうかもな」

「これで、役に立てるね」

 アイリスが指先に癒しの光を灯しながら話していた。


「俺さ、アイリスと出会ったときと何か変わったか?」

「どうしたの? 急に・・・」


「聞いてみただけだ」

 背を向けて、自分の手を握ったり離したりする。

 人間と魔族・・・俺は元々魔族のほうが近かったのかもな。


「何も変わってないよ」

「そうか・・・・」

「魔王ヴィル様はずっと魔王ヴィル様。私の憧れの存在」


「適当なこと言うなって」

「そんなことない。ずーっと前からだよ」


「?」

 アイリスの明るい声が響く。


 魔族の王になってから日が経つごとに、人間だった時の感情が薄れていた。


 欲望、希望、祈り、団結、人間の行う全てが愚かで醜いもののように感じられる。


 いや、これは魔王になる前に感じていたものだ。

 魔王に転職する前に抱いていた憎悪を、隠す必要ない立場になっただけだ。


 でも、アイリスだけは・・・。


「アイリス・・・お前は、アリエル王国の城に帰りたいと思うか?」

「そんなわけない。今こうしていろんな経験をできてとっても楽しいんだから」

 力を込めて言ってくる。


「私、やっとここに来たの。それに、ほら。魔王ヴィル様のケガも回復できる!」

「いや、いらないって。俺は自分で回復できるし」


「あ・・・・今のは・・・あれ、どうゆう感情なんだろう? これは・・・」

 ぶつぶつ独り言を言っていた。


「はっもしかして、魔王ヴィル様、ラッキースケベイベを狙ってきたの?」

「だから、違うって」


「うん。魔王ヴィル様、嘘ついていない。たぶん」

「・・・・・・・・・・・」

 アイリスの言うことは、よくわからないことがある。

 嚙み合っているようで、噛み合っていないような・・・。


「私は美少女型だから、魔王ヴィル様に襲われてもおかしくない。男はオオカミだって」

「自分で言うなよ。しかも、型って何の話だ?」

「ん? なんだろう?」

 自分で言って、自分で首をかしげていた。


 しかも、裸のままでな。


 どうゆうつもりなんだよ。

 異世界クエストをやってから、話し方がおかしくなってる気がするんだよな。

 影響を受けているのか?


「スタイルもよし、顔もよし。胸は若干貧乳だけど、これから成長する予定」

「自分で言うのかよ」

「事実だもん。そう作られてるの。ん? 作られてるって・・・」


 トンッ


 光を消して、アイリスの腕を強引に掴む。


「俺を挑発してるつもりか?」    

「え・・・?」

 ピチャン


 水の滴る音が響く。


 アイリスがぎゅっと服で体を隠しながら、じっとこちらを見上げる。


「・・・怖いのか?」

「ううん」

 アイリスの感情が読み取れなかった。


「怖くない」

「アイリス、俺が怖いと思うか・・・?」

「怖くないよ。魔王ヴィル様、優しい魔王様だもの」


「!?」

 咄嗟に、ダンジョンの精霊の気配を感じて離れた。



『アイリス、頼まれていた布、ここに置いておくぞ』

「あ、ありがとうございます。シンオオクボ様」

 シンオオクボが明かりをつけてふわふわ飛んでいた。

 湯が出ている部分に、布をかけている。 


『ん? さっきまでここに二人でいたように見えたが?』

「気のせいだって」

 こいつら妙なところつっこんでくるんだよな。


『なんだ、お前ら二人で入ってると思ったのに』

「入るわけねぇだろ」

『クク、ゆっくりしていけ。最下層で待ってるぞ』

「あぁ」

 自分の服を取って、端のほうに座った。


「アイリス、早くしろ。俺も早く人間の匂いを落としたい」

「う、うん・・・」

 シンオオクボがいなくなると、明かりが消えていった。





 マントを羽織って最下層に降りていく。

 双竜の前で、アイリスが待っていた。

「魔王ヴィル様、お帰りなさい。ギルバートとグレイが乗せてくれるって」


 クオーン


「いいのか?」

 ギルバートが何度も頷いた。

 シンジュクが近づいてくる。


『そのほうがお前としてもいいだろう?』

「・・・まぁな」

 聞こえないような声で話した。

 通り道には俺が殺めた死体が転がっている。


「魔王ヴィル様、どうしたの? っと・・・・これがドラゴンの感触・・・」

「今行くって。双竜から落ちるなよ」

 ギルバートとグレイの顔を撫でる。


「頼んだぞ」


 クォーン クォーン オオーン


 嬉しそうに鳴いていた。

 首を掴んで背中に乗る。翼を大きく広げていた。


「このダンジョンには後で魔族を配属させてもらう、よろしくな」

『あぁ、待ってるぞ』

「精霊さんたちありがとう。またね」

 アイリスが両手で手を振ると、精霊たちが手を振り返していた。


 マントでアイリスの体を包んだ。


「え・・・・?」

「俺がいいって言うまで、目を瞑ってろ」

「・・・うん?」


「じゃあ、シンジュク。外に出してくれ」

『わかった。またな、魔族の王よ』

 シンジュクが触れると体が光り出した。



 シュンッ


 瞬きする間もなく、ダンジョンの前に出ていた。

 ギルバートとグレイが地面を踏み鳴らしている。


「ま・・・魔王ヴィル様・・・外に出たの?」

「あぁ、しっかり掴まってろ」

「うん」


「・・・・・・・・・・・・」


 ダンジョンの近くに、5人の死体が転がっている。

 うつろに歩き出そうとしている人間たちもいたが、後方の人間は倒れたままだな。

 水たまりのような水流に打たれて、息があるのかどうかわからない人間もいた。


 これは、アイリスには見せられないな。


「風が冷たい!」

 アイリスが目を閉じて、ぐっとしがみついていた。


「ギルバート、グレイ、魔王城に向かって飛んでくれ」


 オォーン


 バサッと翼を広げると一気に飛び上がっていった。

 下を覗くと、崖の上にも倒れた人がちらほら見えていた。

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