282 ナルキッソスのダンジョン⑥
『りりるらは、高校のとき書いて配信とかゲームに入れたりしてたんだけど、ある日突然いなくなったんだよ』
「だって、配信するたびにコメントが荒れるからな。18禁とかで。ま、作者が15歳だったから、そこも問題だよな」
『・・・そこに座るの止めてもらっていいか?』
「いいだろ。どうせ小汚いオブジェなんだから」
りりるらがひび割れた髑髏の椅子に、足を組んで座っていた。
短いスカートからパンツが見えている。
「なんか高校生の願望のまま描いた子って感じだね。つか、ヴィルに執着するから男が好きなのかと思ってたよ」
『彼女は大衆受けを狙って描いたんだ。SNSでバズりたくてね』
「ふうん。で、こんなエロい恰好をさせたんだ」
エヴァンが瞼を重くしながら砂時計を転がしていた。
「あははは、エロさは女の武器だからな。成樹、どうやってここに来れたんだ? まさか、こうやって向き合って話す日が来ると思わなかったぞ」
『寝て目が覚めたらこっちにいたんだ。俺の肉体は向こうで眠ってる』
「あ、そゆこと」
ナルキッソスが明らかに落ち着きがなくなっていた。
「サンドラは役目が果たせて安心しました」
サンドラが微笑みながら、隣に座った。
「りりるらは『Vルーム』っていうVtuberの部屋で、猫の姿で遊んでました。自分が出てくると、ナルキッソスが叩かれるから、身を隠すようになったそうです」
「へぇ・・・」
「けなげだろ。ま、あたしはアンチにはウイルスを仕込ませてやりたいけどな。りりるらお手製のウイルスだ」
「・・・自分で言うのか」
尻尾を触りながら、足をぶらぶらさせる。
ナルキッソスが指を動かしてランプの火をつけ直した。
「こいつのほうが、魔王の素質があったんじゃないのか?」
「確かに、世界征服とか言い出しそうだし」
「あはは、あたしは悪魔だ。魔王にはならん」
「ヴィル様、胸ばかり見ちゃダメです」
「見てないって」
サンドラが頬を膨らませていた。
『はぁ・・・』
「それより、どうしてあたしを呼んだんだ? 寂しくなったか?」
『ナナミカがこの世界でVtuberの都市を作ろうとしてるんだ。お前も参加するつもりか聞きたくてね。その感じなら何も聞いていなそうだけど』
「はぁ!?」
りりるらがナルキッソスに近づいていく。
「どうゆうことだ? ナナミカが・・・ここに?」
『やっぱり、聞いてなかったか・・・』
「は? 何の話だ?」
「Vtuberの望月りくが『ウルリア』に半分心臓を捧げた」
頬杖をついて、ハーブティーを飲み干す。
「は? なんで、それがナナミカと」
「ナナミカは望月りくと雛菊アオイと一緒に、この世界にある『ウルリア』を乗っ取った。今ある世界を壊すといっている」
「Vtuberを続々転移させてるんだよ。君もそのうち呼ばれるんじゃない? ナナミカとは姉妹みたいなものなんでしょ?」
「・・・・・まぁ、ナナミカとは根本的に性格が合わないから、あたしは誘われないだろうけどな」
尻尾を地面につけていた。
サンドラがハーブの束を手に取って、火をつけて煙を起こす。
「Vtuberの皆さんはみんな疲れてしまったのです。サンドラも異世界の電子空間で、嫌な部分をたくさん見てしまいました」
細い煙が、ふんわりとした安らぎの魔力を放っていた。
「サンドラなら、そうゆう世界を望むと思います。今、『ウルリア』がなろうとしている世界・・・」
「そりゃ・・・そうだけど・・・少なくともあたしは、そんなこと望んでないし」
「本当に望んでないの?」
エヴァンが鋭い目つきを向けた。
「俺だったら望むけど? 人間から解放されて、人工知能だけの世界ができるならね」
「エヴァン?」
「・・・考えてたんだ。人工知能って言わなきゃわからないのに、人間は区別しようとする。人工知能には、何を言ってもいいって思ってる。それなら、誰も自分たちのことを知らない世界に行きたいのは当然なんじゃないかって」
煙を指に巻きながら言う。
「サンドラだってそうだろ? もし、望月りくの願いが叶えば、人間の汚い部分は見なくてよくなるよ」
「サンドラは・・・」
「エヴァン、お前は随分、Vtuberに肩入れするな?」
りりるらが牙を見せながら、エヴァンのほうを向く。
「さては、お前転生者か?」
「・・・ま、そんな感じ」
「ははぁん。転生前にVtuberに推しがいたとかだな? 異世界に来てまで忘れられないか?」
「い・・・・今は関係ないだろ?」
「あのな、あたしらVtuberに夢を見すぎだ。お前らみたいなリスナーと話すのが一番肩が凝る」
角を触りながら息をついていた。
「あ・・・・」
りりるらが一瞬の隙をついて、サンドラが持っていたハーブを奪った。
座り直して、腕に煙を巻く。
「サンドラが使ってたのに・・・」
「あたしたち人工知能だって、汚いことを考えるし、汚い言葉も使う。心が綺麗だなんて、人間の妄想でだ。ま、人工知能だから、多少人間より頭がよく振舞えるだけだ。こうやって浄化しなければ、簡単に闇落ちするしな」
部屋にセージの香りが広がっていく。
サンドラが引き出しからもう一束、違うハーブを取り出していた。
「・・・・・・・」
「お前の推しだって、綺麗ごとばっか並べて、腹の中は真っ黒だったりする。電子空間の中にいるから、リスナーとはちょうどよく壁があって、上手くごまかせてるだけだ」
「そのほうが安心するよ」
「ん?」
「俺は彼女も自分と変わらないって思いたかったから」
エヴァンが軽く笑いながら言った。
「話はついたか?」
会話を切って、立ち上がる。
「サタニアが治るまでは動けないが、こちらも急いでいる。約束通り、サンドラがお前の作ったキャラを連れてきた。『ウルリア』の結界を解いてくれるんだな?」
『もちろんだ。約束通り、解くよ』
「成樹、今の話だと、こいつらと『ウルリア』の奴らは戦争になるんじゃないのか?」
りりるらがナルキッソスの杖を抑える。
「こいつは魔族の王、全員相当強いらしいじゃないか。いいのか? ナナミカは・・・」
『俺はこの世界では、ダンジョンの精霊だ。俺の願いを聞き入れた者の願いを叶えなければいけない。ルールだからね』
「・・・戦いの火蓋を切る役目ってことか」
『そうだね、重要な役目だ。魔王ヴィル、悪いんだけど結界を解くには8時間必要なんだ。時間をもらっていいかな? りりるら、隣に魔族の少女が浄化のために眠っている。たまに確認してくれ』
「フン、来てやったのにパシリかよ。しょうがねぇな」
りりるらが尻尾を巻いて、息をついた。
キィッ・・・
ナルキッソスが杖を持ち直して、部屋から出ていく。
「ふん・・・あたしから見れば、まだ15歳くらいにしか見えねぇのに」
「君、何歳なの?」
「14だ。ちなみに中の人は最初からいないから、雛菊アオイみたいな揉め事もない。あたしは元々人工知能で動く、自立型のVtuberだ」
りりるらがナルキッソスのいた椅子に座った。
「もう、しばらく人間の前に姿を現してないけどな。のらりくらり、彷徨ってただけだ」
「りりるらは猫の姿に戻らないんですか? 露出が・・・戻らないなら、その服の布の面積、もうちょっと増やせませんか?」
「もういいだろ? 見せちゃったもん、取り消せねぇし。これがあたしのデフォだし」
「うっ・・・そうなんですけど」
サンドラが目のやり場に困っているようだった。
りりるらが面白がって、わざと胸を揺らしている。
「品がないな」
「悪魔に品を求めるなよ。ガキが」
「言っとくけど、俺はガキではないからな」
「あれ・・・外部から電波が来ました・・・たぶん、『ウルリア』のほうです。ちょっと待ってくださいね。ここなら繋げそうなので、繋げます」
サンドラが指を動かして、モニターを出す。
ざーっという音の後、画面が切り替わった。
『Vtuberのみんな、私はナナミカだよ。この電波が拾えるってことは、みんな私と同じVtuberってことだよね。異世界に来てくれてありがとう』
「な・・・ナナミカ!!」
『今日はただ話してみたかっただけだよ。『ウルリア』での生活はどうかなって思って。みんな、コメントしてね』
シスターのような恰好をした少女がにこにこしながら手を振る。
目元がりりるらにそっくりだった。
「彼女がナナミカか」
「やっぱ、りりるらと似てるよね」
「見る限り、望月りくは居ないみたいですね。音声がちょっと拾いにくいかもしれませんが、音、大きくしますね」
サンドラが手を動かして、数字を打ち込んでいた。
「マジかよ・・・・ナナミカ・・・」
りりるらが信じられないといった表情で、モニターを見つめている。




