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276 ナルキッソスのダンジョン③

 ザッ


 螺旋階段を降りていく間に、ドラゴンを2体、刃を振り回すロボットと呼ばれる異世界のモンスターを4体倒していた。


 こちらの世界の者たちと動きは違うものの、特別な強さは感じない。

 魔王のデスソードを見つめる。


 少し、色が変色している気がするな。


「さすが・・・ヴィル様です。今のはゲーム終盤のボス戦で出てくるモンスターばかりだったのに」

「動きは鈍いし特殊能力も弱い。今の敵なんて、下位魔族でも討伐できる程度だ」

 ロボットが崩れて残った砂鉄をつまんだ。

 掌に載せると、すぐに光になって消えていった。


『ハハハハ、それは違うよ。さっきの敵は確かにかなりの力を持っていた。俺のダンジョンに居るから、他のゲームにいたときよりもさらに強くなっている』

 ナルキッソスがこちらを振り返りながら言う。


『残念だけど、今のでこのダンジョンに転移させてきた強敵は、全て倒されてしまった。本当に魔王は恐ろしいね』

「あんなの雑魚だろ」


 すっと、魔王のデスソードを消す。


「ヴィル様、強いです。強かったんですよ。さっきの敵、本当に強かったんです。円グラフで確認していますが、上にいた騎士のゴーストより、何倍もステータスが強化されていました。動きにくいですが、今のはどうしてもデータとして残したいので・・・少々お待ちください・・・・」

「そんなのに残すなよ」

「でも、魔王ヴィル様のかっこいいところを記録しないと」

 サンドラが縛られた手を器用に動かして、モニターに線の突き出たグラフを表示していた。


 何かを記録しているようだ。

 異世界のコードのようなものが流れていた。


『魔王は魔王が思っている以上に強いんだ』

「俺は自分が強いことを自覚しているけどな」

 魔王のデスソードを解く。


『いや、もっとだ。おそらく魔王が考えている強さは、自身が持つ力の全体の10分の1しかないね。この世界の魔王は、美しく気高い、強くて、優しい・・・まさに俺の理想通りだ』

「・・・・・・・・」

 ナルキッソスが嬉しそうに話していた。


 ダンジョン入り口の装飾品を見たときに感じたような居心地の悪さがあった。

 早くここから出たいな。


「ふぅ・・・セーブしました。ナルキッソス、この手錠外してもらえないんですか? 動きにくいですし、足元、危ないんですけど」

 サンドラが後ろから顔を出す。


『君は何者だ? ただのアバターには思えないが』

「ふふ、サンドラは研究が得意なのです。こうゆう手錠も懐かしいのです」

『・・・・・なるほどねぇ』


「サンドラ?」

「ふふふ、いい作りですね」

 ナルキッソスが暗い瞳で砂鉄を見てから、にやにやしていた。



「サンドラはしばらくこのまままなのか? それとも、一時的なものか?」

『そうだね。まぁ、こうゆう性質も含めてサンドラだ。ちょくちょく、同じことになると思うよ。ピュグマリオンがやることはわからないなー』

 ナルキッソスが手をかざすと、壁に明かりが走る。

 天井から突き出た罠らしきものが停止した。


「面倒だな・・・」

『俺はサンドラやナタシアたちと違って、普通の人間だけどね、人間は嫌いだ』

「ん?」


『だから、魔王が好きなんだ。反対に、夢とか希望とか絆とか、たいそうなことばかり並べて剣を握る勇者が嫌いなんだよ』

「勇者を知ってるのか?」

『魔王が居れば勇者が居る。常識だよ。どの世界でも共通の、ね』

 ナルキッソスがこちらを見てほほ笑んだ。

 何度も聞いたような言葉だ。


 ガラスのような壁の廊下を歩いていた。

 床は真っ白で俺とサンドラが歩くと、薄い青色に変色した。


『この世界にも勇者がいるんだろ?』

「まぁな」

「一人は知っています。勇者オーディンっていう、ヴィル様のお父様なんですよね?」

 サンドラが無邪気に話していた。


「どこからそんな情報を・・・」

「この世界で生まれるにあたって、魔王と勇者の情報を入れておくのは常識です」


『そうかそうか。親子だったのか。いいね、俺はそうゆうの好きだよ』

 ナルキッソスが目を輝かせる。


『でも、今は居ないと感じる。死んだのか』

「まぁな」

 クロザキとシロザキとかいう奴は居たが、あいつらを勇者として認めるのは周囲の異世界住人くらいだ。


 本来の勇者とは違う。


「今後もアリエル王国には現れないだろうな」

 勇者になるには条件があった。

 あの意地の悪いオーディンが、易々と教えていないだろう。


 オーディンは多くの者から支持されたから勇者になったわけではない。

 勇者になる条件を満たし、アリエル王国の勇者と呼ばれるようになった。


 勇者には、勇者にしか使えない力がある。

 オーディンは使わなかったし、自ら能力を語ることは無かったから、知る者が少ないだけだった。


『否、アリエル王国に勇者は現れるよ』

「ん?」


『俺にはわかる』

 地面がいつの間にか大理石に代わっていた。


「随分、この世界について知っている口ぶりだな」

『あらゆるゲームをやってきたから、世界はそうゆうものだってわかるんだ。魔王がいる限り、勇者が現れるんだ。闇ががあるところに、光が現れるようにね』

 意味深に言う。


「・・・そうか。現れれば殺すだけだ」

『いいね。俺はやっぱり魔王が好きだよ』

 ナルキッソスが指を動かすと、扉が音を立てて開いた。




「ヴィル!」

 エヴァンとサタニアが駆け寄ってくる。


 城のような部屋の天井にはシャンデリアが輝いていた。

 真っすぐに伸びた赤いカーペットの先に、段差があり、大きな椅子があった。


 横には骸骨が積まれている。


「お前ら・・・・」

「なんかあのままトロッコ乗ったらここまで降りてきたんだよね」

「モンスターとか、こう強い奴らが出てこなかったのですか?」


「出てきたけど、ここは俺の時間停止魔法が有効みたいだったから適当に」

「?」

 エヴァンが自分の指を見つめていた。

 サンドラが首を傾げる。


「ふぅ・・・・なんか酔っちゃったの」

 サタニアの顔色は悪く、ふらふらしていた。


「サタニアがずっとそんな感じでさ」

「だ、大丈夫ですか?」

「っと・・・少し休んでろ」

 サタニアの腕を支える。


「ありがと、ヴィル」

「サタニア、自分で回復魔法使わないのか? 俺がやってもいいが」

「そうゆうのじゃないの。この悪趣味な地下に来て悪化したのもあるわ」

 口を押さえながら、ナルキッソスのほうを見る。


『悪趣味とは失礼だな。魔王城をモチーフにしたダンジョンだ。このダンジョンにいると、自分が魔王であるような気分になれるよ』


 ジジ・・・


「!」

 3Dホログラムが消えて、赤い絨毯の先に、ナルキッソスが派手な椅子に座っていた。

 横に置いた骸骨を眺めながら言う。


『ようこそ、美しい俺の美しいダンジョンへ』

 足を組んだ。


『ゆっくりと休んで行ってくれ。語らうのもいい』

「勘弁してくれ。ここから早く出たい」

「お前のクエストは何だ? こっちは急いでいる」

 イライラしながら顔を上げる。


 スッ


「!?」

 突然、ナルキッソスが白いマントをなびかせて距離を詰めてきた。


『待ってよ。俺は魔王が大好きなんだ。魔王ヴィルにはここに居てもらうよ。せっかく会えたんだから、時間をかけて存分に眺めさせてくれ』

「は・・・・・」

 背筋がぞくっとした。


「ヴィル、ついに男にまで手を出したのか?」

「わ、私は、男なら浮気も許せるタイプよ」

「んなわけないだろうが」


「BL展開ですね。でも、ヴィル様はサンドラと愛し合うのです。邪魔はしないでください」

 サンドラが腕を回してきた。


「もうっ、ヴィルは渡さないからね」

「わわ、ずるいです。サンドラは、ヴィル様との多くの時間を過ごすのです」

「ヴィル・・・は、サンドラのものじゃないんだから」

 サタニアが少しふらつきながら、サンドラの間に割り込んできた。


『ハハハハ、魔王はいいね。この世界の魔王は、やっぱり俺の理想通りだ』

「気味悪いこと言わないで、一刻も早くクエストの内容を言ってくれ」


「うわっ・・・」

 エヴァンが骸骨を見て、苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 確かにここに居ると、言い知れぬ寒気がした。


『俺も他のダンジョンの精霊と同じ、異世界への宝探しだ』


「何を探してくればいい?」

「また、異世界かよ。サタニアは止めておいたほうがいいんじゃない? 君も異世界の記憶があるんだろ? ぶっちゃけ、結構、しんどいよ」

「でも・・・・ヴィルが行くなら私も行く。異世界は嫌だけど・・・」

 サタニアがマントをつまんだ。


『異世界へ行くのはサンドラ一人だ』

「え・・・・サンドラだけ?」

『俺の宝はネットの中にあるからね。Vtuberアバターのサンドラしか入れない』


「・・・・・」

 エヴァンと顔を合わせる。

 ナルキッソスが前髪をかき上げて、骸骨の頭を取って撫でていた。

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