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270 サンドラ

「ナルキッソスのダンジョンはとても静かな場所にあるんです。ダンジョンの近くには祭壇もあります。何に使うかわかりませんが」

「ふうん」


「今のスピードで、1日飛べば辿り着きますが、一度3時間の休憩を入れたほうが、より早く到着するのです。魔王ヴィル様とエヴァン様の魔力はまだこのリーム大陸に順応している期間と出ていますね」

 サンドラが電子を模って作ったような翼を広げて、飛びながら説明する。

 モニターを出して、円グラフを表示していた。


「ユイナが無事到着する確率、98パーセント、私たちが無事目的地にたどり着く確率97パーセントです。ユイナはあと数時間後に目的地に到着するでしょう」

「なんか分析されているようで嫌な気分だな」

 エヴァンが鳥を避けながら言う。


「あ、すみません。持ってる情報は全て話したほうが効率がいいかと思ったので・・・」


「いや、いい。助かるよ。この辺りで休めそうなところはあるか?」

「はい! この平原を真っすぐ行ったところに、水の湧き出る岩があります。そこが休憩場所として最適化と思うのです」

 サンドラが指を動かして、小さな木々に囲まれた岩を映した。


「じゃあ、そこに行くか」

「はい」

 サンドラが嬉しそうにしていた。


「そのモニターはどこまで情報が入ってるの?」

「リーム大陸の半分くらいなのです。後の情報は、ピュグマリオンから自分の足で集めるようにと言われています」

 柔らかい髪を耳にかける。


 サンドラは自分たちと違う、人工知能で動いている者だということは、いまいちよくわからなかった。

 顔も体も描かれたような美しさ、分析能力があったが・・・。


 時折感じる、怒りの魔力はなんだ?

 気のせいか?


「ん? どうしました?」

「いや・・・・・」

 マントを後ろにやって、前を向いた。



 リーム大陸には見慣れないものが多くあった。


 異世界のゲームを模して造られている部分があるらしい。

 誰もいない街や村、形だけの祠、祭儀場があったが、機能はしていないのだという。


「この大陸にあるものは望月りくの想像力から生まれています。今は街に誰もいませんが、今後、Vtuberアバターが転移してくる可能性も十分考えられます」

 水の湧き出る岩から水をコップに注いで、俺とエヴァンに渡してきた。


「薄いですが、回復の水となっています」

「ありがとう」

 岩に座って水を飲み干す。

 体がやんわりと癒されていくのを感じた。


「ヴィル、よく疑いもなく飲めるね」

「俺は毒が効かないからな」

「なるほど。そうゆうこと」

 エヴァンが高めの岩に座って足をぶらぶらさせていた。

 周囲の木々からは青々とした匂いがして、蝶が飛んでいる。


 つい、数日前に浮上したとは思えないほどだ。

 どこかから切り取られて転移してきたように、動植物が生活していた。

 冷静に見れば見るほど、異様な光景だった。


「あの・・・サンドラはずっと気になっていたことがあって・・・」

「ん? なんだ?」

「どうして魔族の王であるヴィル様が、こうやって色々動いてるのでしょうか?」

 サンドラが隣に座って、緊張しながら話していた。


「・・・っと、サンドラが知ってる魔王って、こう、ずっと魔王城にいて、ダンジョン攻略だとか、新大陸の偵察だとか、そうゆうことは部下に任せるような話が多いです」

「まぁ、確かにね。ヴィルは魔王だけどこうやって俺たちと行動するし、異世界で魔王のイメージって、魔王城から動かないんだよ」

「そうなのか。気にしたことなかったな」

 コップを両手で持ちながら言う。


「・・・・たぶん、じっとしているのが性に合わないんだろうな」

「俺だったら魔王城でぐうたらするなー」

 エヴァンが伸びをしながら、木の実を摘まんでいた。


「エヴァンも一応、王国騎士団長の仕事は熱心だったんじゃないのか?」

「社畜魂が残ってるんだよね。ヴィルも、なんだかんだそうじゃない?」

「俺を異世界の言葉に当てはめるなよ」

 オーディンが勇者として、クエストをこなす様子を見てきたからだろうか。


 こんなところで、あいつのことなんか思い出したくないが・・・。


「サンドラは魔王ヴィル様のために作られた、サンドラなのです。悩みがあるなら何でも話してくださいね」

 サンドラがいきなりぐぐっと寄ってきた。


「ん? いや、俺は・・・」

「ダメダメ、ヴィルはモテるんだよ」

 エヴァンが嫌味っぽく言う。


「アイリス様がいるから、君に勝ち目はないよ」

「アイリス様?」

「アリエル王国の王女だったけど、今は聖女ってなってるね。神であるクロノスの娘だよ。かなり美しいし、純粋で優しい、いくら君でも、敵わないよ」


「でも! サンドラだってピュグマリオンが描いた可愛い女の子ですし。自信を持つように言われてますから・・・『ウルリア』の知識も搭載されてますよ」

「アイリスのこと、知らないのか?」

「アイリス? が、この大陸にいることは知っていますよ。でも、サンドラはこの大陸の外については情報が無いのです」 

 近くに落ちていた小石を拾って、太陽にかざす。


「サンドラはこれからたくさんのことを覚えるのです。石がごつごつしていることとか、水が冷たいこととか・・・経験したことないことを経験して大人になるのです」

「大人ねぇ・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 エヴァンと目が合った。軽く息をつく。


「いいんじゃない? 俺はもう知りたくないことだらけだからさ」

「え・・・・?」

 エヴァンが岩から降りて、草むらに足を付ける。


「俺、その辺見てくるよ。何か面白そうなものあるかもしれないしね」

「あまり遠くに行くなよ」

「了解」

 コップを置いて、軽く飛んでいった。


「サンドラ、なんだか間違ったこと言ってしまったのでしょうか?」

「ただあいつが勝手に感傷に浸ってるだけだ」

「・・・そ・・・そうですか」

 エヴァンがいないことを確認すると、サンドラがにじり寄ってきた。


「どうした? まだ何かあるのか?」

「サンドラは、その・・・魔王ヴィル様とエッチなこともできるのです」

「は?」

「あ、愛し合う男女は大人になるために、そうゆうこともするって聞いています」

 サンドラがスカートの裾をいじりながら言う。


「か、体は幼く作られていますが、胸も大きいですし、い、いずれは魔王ヴィル様と・・・・そして、大人に・・・」

「そんなことじゃ大人にならないって」

「え?」


「ヴィルー」


「!?」

 エヴァンの声を聞くと、サンドラがぱっと離れた。


「あれ? なんか話してた?」

「こっちの話だ。それよりどうした?」

「ん・・・と・・・」

 エヴァンがサンドラのほうを見て、首を傾げた。


「堕天使の羽根、見つけたんだよ。ほら・・・」

 見覚えのある黒い羽根をくるんと回す。


「堕天使・・・アエルか・・・?」

「さぁね」

「わー、綺麗な羽根ですね」



 サアァァ


 風の方向が変わった。


「!?」

 突然、水色の髪をした天使の翼を持つ青年が現れる。

 ばっと身構える。


「お前は・・・・・・・」

「はじめまして・・・ではなかったかな。魔族の王ヴィル」


 キィン


 ― 魔王のデスソード ― 


「ヴィル、こいつは・・・」

「・・・・・サリエル・・・」

 こいつは、マリアの横にいた天使サリエルだ。


 水色の髪に白い肌、生意気な口調・・・海の中ではよく見えなかったが、地上に上がるとあの夢で見たサリエルという天使と全く同じだった。


 翼の色だけは違ったがな。


「へぇ、僕の名前知ってたんだ。ま、今は”リ”を落としてしまって、堕天したからサエルだけどね」

「堕天したのか?」

「ま、なるべくして? って感じかな」

 両手を広げて茶化すように言った。


「マリアの子、魔王ヴィル。その節はどうも。マリアがまさか最期の最期で裏切ると思わなかったよ。穢れない理想的世界を作るまで、あと少しだったのに」

「お前・・・よくもここに・・・・」

「あー!」

 サンドラがひょこっと間に入った。


「?」

「サンドラ」


「羽根が真っ黒。でも、綺麗な顔立ちですね? これが天使なのですね。堕天・・・ですか?」

「天使と堕天使は紙一重なんだよ。お人形さん」

 サンドラに冷たく言い放つ。


「お、お人形じゃないです! サンドラはサンドラという可愛い名前があるのです!」


 ― ダビデのソード ― 


 魔法陣を展開して、しなやかな剣を出す。

 刃元には星の紋章が刻まれていた。


「ダビデの紋章・・・?」

 エヴァンが目を丸くして、呟く。


「サンドラは強いです。馬鹿にしないでください」

「ん? 君は・・・・あぁ、なるほどね」

 サエルが指を口に当てて、ニヤリと笑う。


「サンドラは貴方が嫌いになりました」

「僕は別に喧嘩しに来たわけじゃない。それに、僕のこと邪険にしないほうがいいと思うよ」


「どうゆう意味だ?」

「サタニアとシエルを探してるんだろう?」

「・・・・・・・・・」

「その話をしに来たんだからさ」

 サエルが翼をふわっと畳んだ。


 奥歯を噛む。浅く息を吐いて、ゆっくりと魔王のデスソードを降ろす。

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