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265 異世界と中の人

 シュンッ


 目を開けると、暗くて狭い部屋にいた。

 周囲には本や神、服、見慣れない物が散乱している。


 女物なのか? 男の部屋みたいに見えるが・・・。 


「異世界に来たみたいだな」

「最悪だよ。俺こっちに来たくなかったのに」

 エヴァンが肩を払っていた。


「私も、この雰囲気久しぶりです。なんだか戸惑いますね」

「あれ? ユイナ、アバターのままなの? こっちに肉体あるんでしょ?」

「よくわかりませんが、アバターで来てしまったみたいです。あ、私は物に触れられないみたいですね。少し透けています」

「ほんとだ」

 エヴァンがユイナの腕を確認しながら話していた。


「・・・・・・・」

 手を見つめても、うっすらとした魔力しか感じなかった。

 異世界に来るのは、アイリスとクエストに来て以来だな。


「なんでこの部屋に・・・。汚いし、変なにおいがするし。とりあえず、カーテン開けよう」

「勝手に開けて、だ、大丈夫ですか?」

「暗いまま歩いてたほうが危険だって。なんか踏んじゃいそうだし」

 エヴァンが鼻をつまみながら、カーテンを開ける。


 部屋に光が差し込んだ。


「なんだ? これ・・・」

「ゲームだ・・・・」

 エヴァンがしゃがんで、床に散らばった四角い物体を見ながら言う。


「ゲームってお前らがよく話してるやつか」

「そうそう。すごい、これVictoryってゲームだ。俺が居た頃ⅡまでしかなかったのにⅩまで出たんだ」

「あれ、見てください」

 ユイナが指さす先に、棚には俺たちと同じような服を着た男女の小さな人形が何体も並んでいた。


「なんだ? ただの、人形か? 全部同じものに見えるが、召喚したものじゃなさそうだな」

「こっちの世界では、フィギュアっていって、自分の推しを大量に集めたりするんだよ」

「ふうん」

 エヴァンがフィギュアを一つ一つ眺めていた。


「これはかなりのオタクだね。ゲームだけじゃなくVtuberのフィギュアもあるのか。見た感じ、パソコンもかなりのスペックみたいだし、椅子はゲーミングチェアだ。高そう・・・」

「ここはピュグマリオンの異世界での部屋なのか?」

「そうじゃない?」

「私もその可能性が高いと思います」

 ユイナが小刻みに頷いた。


「でも、肝心なピュグマリオンらしき男が居ないな」

「寝てるって言ってたけどね。家じゃないのかな?」 

 食べかけのパンが落ちていた。


 体が重くなるような部屋だな。魔族でさえ、こんな部屋に住んでるやつ見たことないが。


「このタペストリーはVtuberっぽいですし、ちょっと、女物の服があるのも気になりますが・・・」

 ユイナがベッドに置いてある下着を見ながら口に手を当てた。


「絵の参考資料でしょうか?」

「趣味なんだろ。こっちの世界は等身大の女の子のフィギュアを、女の子として扱ったりするじゃん。好みの服を着せたり、脱がせたりさ」

「・・・人形って・・・エヴァン、そうゆう趣味があったのか」

「わ、私は否定しませんよ」


「俺じゃないって。なんで俺になるんだよ」


 ガチャ


「はぁ・・・疲れた。今日は配信オフ日だからって飲みすぎちゃった。でも、楽しかったなーりまりまってあんな子なんだ・・・・って、え・・・」

 フラフラの女が上機嫌で入ってくる。

 10代後半か20代前半くらいだろうか。


「・・・・・・・」

「あ・・・あ・・・・・」


「女が入ってきたぞ」

「なんかピュグマリオンじゃないっぽいね」


「へ・・・?」

 俺たちを指さして、何回も目をこすっていた。


「あ、あの、驚きましたよね。えっと、これには、いろいろあって・・・・」


 バタン


 エヴァンが咄嗟にドアを閉める。


「きゃー!!!!」

「お、お、落ち着いてください。私たち、怪しいですけど、怪しい者じゃないので・・・」


「女の子・・・・・・?」

「落ち着いてくださいね。大丈夫ですから」

 ユイナが女に落ち着くよう、深呼吸を促していた。



「危なかったな」

「ピュグマリオンのダンジョンが女の子の家に通じてるなんて。一歩間違えば、俺たち犯罪者だったよ」

「つか、もう間違ってる気がするけどな」

 頭を掻く。

 ダンジョンの精霊はこうゆうのがあるから恐ろしい。


 アイリスが単独で動いて無事だったのが不思議なくらいだな。


「貴方たち私をどうするつもりですか?」

「本当に違うんですよ。私は、女ですし、ほら、見てください。私は3Dホログラムです。アバターなので・・・・」

 ユイナが身振り手振りを付けて、必死に説明していた。


「アバター? 飲みすぎて夢を見てるのかな?」

 女が頭に手を当てる。


「エヴァン、お前も異世界の知識があるならユイナと説明・・・・」

「・・・・・・」

 エヴァンがぼうっとモニターのようなガラスを見つめていた。





「え!? じゃあ、異世界から来たの?」 

「ユイナはこっちの世界の人間だから、アバターのまま来たんだけどね」

「はい。2人は向こうの者で、私だけが違うんです」


「そっか。そういえば、異世界に転移する装置があるって話、ネットに流れてた気がする。界隈が違うから、あまり興味を持ってなかったけど」

 女が口に手を当てて、ユイナをまじまじと見つめる。


「テラが集めてたやつか」

「転移できる装置、なんて普通信じないと思うけど」

「私、ゲームの世界のことだと、てっきり・・・ほら、そうゆう広告、あるから」


「俺らの世界がゲームなわけないだろ」

 エヴァンが靴の紐を直しながら、機嫌悪そうにしていた。


「貴女は応募したの? 異世界転移計画に?」

「私は、勝手に転移させられたんですよ。行きたくて行ったわけじゃありません・・・」

 ユイナが椅子の脚に手を透かしながら言っていた。


「そんなこと、どうでもいいです。私の話は、ちょっと複雑で長くなってしまうので・・・」

「あ、そ。ねぇねぇ、これって、本物?」

「触るなって」

 女がエヴァンの剣に触ろうとして、避けられていた。


「ごめんごめん。ねぇ、どうして? どうして私の部屋に?」

「知らん。ダンジョンからワープしたらここにいたんだ」

「そうなの? すごすぎて手の震えが止まらない」

 ピュグマリオンとこいつが、何か関係があるのだろうか。


「私の部屋が異世界のダンジョンと・・・・すごいすごい。選ばれちゃったのかな? 私、本当は異世界に選ばれしお姫様だったとか? ま、まさか悪役令嬢とか?」

 ぱっと目を輝かせていた。

 近くにあった袋がかさっと音を立てる。


「全然、そうゆうじゃないと思うけど」

「あいつ、何か間違えたんじゃないか?」

「だね。帰る手段ないの?」

「聞いたことないな。今までダンジョンの精霊が間違うことなんてなかったし」


「ねぇ!」

 女が話に割って入ってくる。


「何?」

「貴方たち異世界から来たんでしょ? ゲームで見たようなかっこうしてるもん。絶対そうだよ、うん、間違いない!」

「・・・・・・」

「こうゆう主張の激しいタイプは苦手なんだよ」

 エヴァンが後ろに手を置いて、ため息をつく。


「随分すんなり信じるね。俺だったら絶対信じないけど」

「酔ってるから、受け入れてるのかもしれませんね。シラフなら通報されていたかと思います」

「だろうね」

 ユイナが床に落ちてる人形を触りながら言う。


「酔ってるかどうかは関係ないもん。私、信じてたの。異世界には魔導士が居て、剣士が居て、私たちが向こうでゲームできるなら、向こうの人たちもこっちに来て、いつか会えるんじゃないかって」

 両手を組んで、夢見心地に話していた。


「夢が叶っちゃった。嘘みたい・・・」

「・・・サタニアが異世界にいたときって、こんな感じだったの?」

「もう少し消極的だった印象だな」

「サタニア?」

「こっちの話だ。それで、お前は何者なんだ?」

 腕を組んで女のほうを見る。


「私? 私は20歳になったばかりの人気Vtuberなの」

 立ち上がって机の前の椅子に座った。


「あれ? そういえば、貴女の声、なんだか聞いたことある気がします」

「なんていうか、アニメ声って感じだね」

「そうでしょ? そうでしょ?」

 女が自信満々に話していた。


「私は実は、雛菊アオイの中の人、陽菜っていうの。投げ銭のランキングも上位だから知ってるはず。配信すると、トレンドに上がっちゃうんだよなー」

 モニターが光ると、見覚えのある少女が映っていた。


「雛菊アオイって・・・」


 確か、リーム大陸に現れたモニターで、リョクのそばにいた少女・・・。


「うわ、マジで!?」


「うん。私、お金とお酒が大好き、雛菊アオイだよ。よろしくね」

 画面の女の子が手を振っていた。

 背景にお金のマークがついている


「・・・・・・・・」

 エヴァンとユイナが顔を見合わせていた。


「なんかよくわからんが、向こうの世界にいる雛菊アオイは、こいつとは別ってことでいいか?」

「そうだね」

「向こう?」

 陽菜が黒い髪を耳にかけて、椅子を回した。


「雛菊アオイが俺たちの世界にいるんだよ」

「え? 雛菊アオイ・・・って、この子が?」


「そう、望月りくと一緒に、俺たちの世界に人工知能の都市を創ろうとしてるんだ」

「えっ・・・・・・!?」

 青髪の目の大きな可愛らしい少女が画面の中から手を振っている。

 

「人工知能の・・・って、あの子が?」

 陽菜が信じられないといった表情で手元のボードを動かしていた。

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