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256 理想郷

 シュンッ


「っと・・・よかった。成功したみたい・・・」

 サタニアが魔法陣の上に立つ。

 リーム大陸へ転移してきていた。


「ヴィル、久しぶりね」

「あぁ、魔王城はどうだ?」

「何の問題もないわ。異世界住人との連携も取れてるし、コノハがうまく動いてくれてる」

「そうか」

「私、やっと魔王代理として自信がついてきた」

 サタニアが髪を触りながらほほ笑む。


「他の人間たちとは戦闘に・・・・ってエヴァン・・・」

「あからさまに嫌そうな顔をするなよ」

「もう少し、ヴィルと2人きりで話したかったのに」

「そんな状態じゃないんだって」

 エヴァンがセイレーン号からひょいと降りて、こちらに駆け寄ってくる。


「転移魔法なんて用意していたのか」

「万が一、リーム大陸が復活したときのためにな。あまり、使うことは想定していなかったが」

「でも、これで魔王城と、リーム大陸は繋がったわ」

 サタニアが紫色の髪を流して、魔法陣から離れた。


「・・・!」

 遠くを見てはっとする。


「ねぇ・・・あれって・・・」

「海底都市『ウルリア』だ」

「気づくの遅いって」

「まさか・・・・復活してしまったの? じゃあ、魔族は・・・」


「ちょっと違う形で復活したんだ。サタニア、君がまだ異世界にいたときに、望月りく、雛菊アオイ、ナナミカって名前、聞いたことがないか?」

 風が吹くと草の匂いがした。


「確か・・・・Vtuberの名前だった? 人工知能で自立してるっていう・・・私、あまり詳しくないけど・・・」

「彼女らが、海底都市『ウルリア』を乗っ取ったんだ」


「えっ!? どうゆうこと?」

「・・・俺も正直、頭が追い付いていない。まさか・・・とにかく、整理しながら説明する」

 エヴァンが深刻な表情で話す。


「また、異世界の奴らか」

「ちょっと違うね。望月りくたちは人工知能・・・俺たち人間や魔族とも違う」

「ん?」

「セイレーンも人工知能だったね。彼女は初期の人工知能に似てる、エンジニアがそう作ったのか・・・俺がいたとき活躍してたVtuberはもっと人に近かった」

 エヴァンがセイレーン号を見つめていた。


「人工知能って聞いたが、詳しくは知らないな。人間と違うのか?」

「人が作り出した頭脳。私がいたときにも、そうゆう仕組みがあった・・・」

 サタニアが口を挟む。


「まさか、人工知能を持つ者がこの世界にいるの?」

「転移してきたんだ」

 サタニアが目を丸くする。


 人工知能・・・か。


 一度、エヴァンに聞いたとき、逸らされたことがあったな。


「ヴィル、最初に言っておくと、今の状況は俺もアイリス様も見たことが無い未来だ。魔族が壊滅させられる未来を、避けられたのかはわからない」

「わかった。エヴァンの知ってることを話せ」

「うん・・・・」

 さっき、モニターでリョクが話していたことについてゆっくりと話し始めた。


 Vtuberは異世界で一人の仮想キャラクターが不特定多数の人間と会話できる仕組みなのだという。

 配信者は各々の世界観からキャラクターを作り出し、キャラクターを動かして自分たちの世界を配信する。

 声を当てている人もいれば、リョクのように人工知能で独立して活動している者もいる。


 リョクが海底都市『ウルリア』に心臓を半分捧げたことにより、『ウルリア』はリョクの意志に従うことになった。


 封印されていた者たちも蘇る。

 異世界と同じ技術を持ち、Vtuberアバターと『ウルリア』の人間”ウルビト”が住む都市になった。


 リョクはこの都市を、自分たち3人がVtuberを始めたときに思い描いたような、理想郷にしたいのだという。


「異世界住人と決定的に違うのは、同じアバターを持つ者でも、人工知能で動いてる点だ。言語、理解、推論を、1と0の演算で行われる」

「1と0?」

「あぁ、だから、ヒトとして扱わない人間も多い。俺はそうは思ってないけど」

 エヴァンが言う言葉には重みがあった。


「じょ・・・状況は・・・わかったけど・・・いえ、わからないことがありすぎてまとまらないわ」

 サタニアが首を振って、頭を押さる。


「理想郷? って、どうゆうこと? リョクたちの?」

「さっき名前を出した3人のVtuberは多くの人から誹謗中傷を受けて活動停止に追い込まれたVtuberだ。まぁ、多くの人に刺されたといっても過言じゃない」

 エヴァンが俯きながら言う。


「穢れのない人工知能だけの世界を創る・・・他の2人も同じ意見だ。『ウルリア』にいた者たちがなぜ、リョクを受け入れたのかはわからないけどね」

「・・・・・・・・・」

 サタニアが空中に浮く『ウルリア』を見つめる。


「穢れの無い世界・・・か」

「穢れのないなんて・・・じゃあ、堕天使は?」 

「俺も知らないよ。リョクはそこまで説明しなかった」


 人間は汚い生き物だと思っていた。

 だが、俺も・・・自分の目的のためにマリアを殺した。


 俺の行為は本当に正しかったのだろうか。

 あのままマリアが生きていたら、天使に利用されて、魔族は全滅するが・・・。


「ヴィル?」

「あ、あぁ・・・悪い」

 エヴァンに呼ばれて、我に返った。


 リーム大陸が浮上してから、調子が悪いな。 


「大丈夫か? さっきから顔色悪いけど」

「少し気が立っているだけだ。問題ない」


「魔王ヴィル様・・・ちょっといい?」

 アイリスがセイレーン号から降りて、駆け寄ってきた。


「ダンジョンの位置が確認できたの。セイレーンがこのリーム大陸の地図を出せるようになったから」

「ダンジョン? この大陸に?」

「うん。現れたみたいなの」

 アイリスが来ると、サタニアが一歩引いた。


「そうそう、リーム大陸に3つのダンジョンができたらしいよ」

 エヴァンの足元で、蛙が跳んでいた。

 軽く避ける。


「ダンジョンは異世界と繋がってるから・・・か。急に現れてもおかしくないな」

「うん。この大陸のダンジョンの精霊なら、海底都市『ウルリア』のことも知ってるかもしれない。3つしかないなら、『ウルリア』の住人が辿り着く前に、私たちが行ったほうがいいと思って」


「直接、『ウルリア』に行く方法はないのか? 早い話、あの都市をつぶせばいいんだろ?」

「そうなんだけど・・・あの結界、異世界のものでできてる。今持ってる私たちの魔法が、あの都市で効く可能性は約40パーセント」


 アイリスの視線の先に、『ウルリア』を囲むドーム型の結界があった。


「いつの間に・・・」

「嘘・・・あんな結界、初めて見るわ」

 サタニアが岩に立って背伸びをしていた。


「まだ浮上したばかりの大陸に思えない。なんか、どんどん向こうのペースになってきてる気がする・・・」

「まぁ、リョクたちは頭がいいからね」

「異世界住人の後は人工知能? もう、本当、うんざりよ」

「・・・・俺も、正直、リョクが望月りくだったとしても、過去のことなんて思い出してほしくなかったよ」

「ご・・・ごめん・・・エヴァン。リョクのことを悪く言うつもりはなくて」

 サタニアが咄嗟に謝っていた。


「いいって。サタニアが気を使ってくると、なんかぞわっとするから」

 エヴァンがふわっと飛んで、サタニアの横に並んだ。


「アイリスはどうしてあのドーム状のものが異世界の結界だと思ったんだ?」

「あ、結界はイオリに調べてもらったの。異世界のゲームで使われていたものだって。セイレーンの分析結果も同じ回答だから、98パーセント合ってると思う」

「へぇ、やるじゃん」

「ありがと。私も冷静にならないと」

 アイリスが手を胸に当てて、深呼吸をする。


「ね、魔王ヴィル様」

「そうだな。焦るより、まずは情報収集したほうがいい。この大陸がどうなっているのかも、未知数だしな」

 水たまりが日差しを反射していた。


「俺は一度、魔王城に戻る。上位魔族に今の状況を伝えなければいけない。時間はあるか?」


「今ならまだ大丈夫。『ウルリア』の住人も封印から目覚めたばかり、雛菊アオイもナナミカがいるからリョクもすぐに行動を起こせると思わない。異世界転移した人工知能は順応が必要だもの」

「・・・・・」

「そうね。ヴィルの口から魔族に話した方がいいわ」

 サタニアが髪を耳にかけて魔法陣を確認する。


「サタニアじゃ不安だもんね」

「いちいち一言多いのよ。一応、上位魔族の信頼は厚いんだからね」

「ヴィルがいるからだろ」

「さ、最近は私だって実績残してる」

「ふうん」

「何よ・・・その目は・・・」

「別に」

 エヴァンとサタニアががちゃがちゃ言い合っていた。


 草むらに描かれた魔法陣の中に立つ。ふわっとした闇の魔力が体を包んだ。


「サタニア、この転移魔法は俺も使えるか?」

「あ、もちろん、この魔法陣は魔王城と結んでるの。いつでも行き来できるわ。円の中心に入れば起動するようにしてある」

「随分、技術が上がったな」

「そうでしょ。私だって、日々向上してるのよ」

 エヴァンのほうをちらっと見て、鼻を高くしながら言う。


「セイレーン号と結界も服またこの周辺にステルスの結界を張っておかないと。『ウルリア』の住人に見つかったら厄介だから・・・」

 アイリスが一歩下がって、片手で複雑な魔法陣を描いた。


「明日の朝には戻る」

「うん、ここは任せて。魔王ヴィル様、気をつけて、いってらっしゃい」

 アイリスが魔法陣を光らせながら、花のようにほほ笑んだ。


 視線を外す。



 シュンッ



 目を開けると、魔王城の屋根にいた。雲間から日差しが差し込み、木々を照らしている。

 魔力から察知するに、サタニアの言う通り、魔族に変わった様子はなかった。


「魔王ヴィル様!!!」

 庭にいたシエルが俺を見つけて飛んでくる。


「おかえりなさいませ、魔王ヴィル様ー」

「っと」

 いきなりぎゅっと抱き着いてきた。白銀の柔らかい髪が顔にかかる。


「お会いしたかったのです。ずっと、お待ちしておりました」

「あぁ、魔族に説明しなければならないことがある。上位魔族、今この城にいる魔族を魔王の間に集めてもらえるか?」

「かしこまりました。あぁ、魔王ヴィル様の匂いが・・・」

 シエルが腕に力を入れていた。


「・・・・そろそろ移動したいんだけど」

「あ、すみません。つい、魔王ヴィル様が来てくれたのが嬉しくて・・・・」

 少し照れるように顔を上げる。

 シエルが髪で口を押えながら、言いにくそうに言葉を選ぶ。


「えっとあの・・・魔力が足りなくなってしまい・・・。後で、魔力をいただけますか? ちょっと時間が経ってしまったので、た・・・たくさんほしいのです」

「あとでな」

「はい!」

 嬉しそうにしながら、ぱっと離れた。


「すぐに上位魔族を集めますね」

 シエルがふわっと飛んで、魔王城の中に入っていく。


「・・・・・・・」

 魔王城に戻ると、少し緊張がほぐれていた。

 リーム大陸はどこか落ち着かなかった。

 

 感情を落ちつけても、我を忘れそうになる。


「あの女神像は一体・・・・」

 小さく呟く。

 しばらくして、カマエルとサリーの声が聞こえて、城が騒がしくなるのがわかった。

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