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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第四章

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253 マリアの願い

 深海は天使たちの光で昼間の砂浜のように明るかった。


「さすがに、ここは時間も止まらないか」

 エヴァンが泡を突きながら言った。


 アイリスの言う祭壇は深海にも関わらず、台座と柱を残していた。

 中央には崩れた女神像があり、胸元に埋め込まれた宝石が祭壇を守り続けているのだという。


 怪しげな女神だ。


 天使たちが作った光の筒に祭壇が入るのが見えた。

 白い翼の天使と黒い翼の堕天使たちが降りてきていた。

 ピンクの髪が視界を過っていく。


「マリア」


「魔王ヴィル様、今は作戦通りに」

「・・・・・・・わかってる」

 サリエルとともに、マリアが祭壇に向かう。

 まさか、海の中で見ることになるとはな。


「エヴァン、いい?」

「あぁ、もう準備できてるよ」

 エヴァンが掌に電流を流しながら言う。


「行くぞ」


 ― 黒雷帝エンペラー― 


 ガガガガガガガガガガガガガガガ


「!?!?!?!?!?!?」

 海の中をエヴァンの電流が走る。岩が砕けて散らばっていった。


 天使たちが一斉にこちらを向く。

 アイリスが一瞬で距離を詰めて、光の筒に入っていった。


 ― 愚者の輪舞ロンド― 


「これはっ・・・・」

「うわっ」

 アイリスが水流を操り、天使たちを圧倒する。

 ホーリーソードを持って、サリエルとそばにいた天使に突っ込んでいった。


 キィン


「これはこれは、聖女様か」

「ミハイル・・・」

 ミイルがアイリスの剣を弾く。白と黒の混じる翼を大きく広げていた。


「今はミイルですよ。ハは無くなったのでね」

「どちらでもいい。悪いけどここは譲れない」

「こうやって、貴女と戦うことを待ち望んでおりました。これだけで、ここに来た価値があります」

 アイリスがふわっと泳ぎながら、攻撃をかわしていた。


 ― 炎女神の指輪リング― 


 エヴァンが左手で素早く炎の輪をいくつも作り、天使の攻撃を打ち消していた。

 アイリスに天使が集中している間に、エヴァンが俺から祭壇に向かう道を開いている。


 俺からマリアまでの道だ。

 海の中にも関わらず、真っすぐ伸びていた。


 魔王のデスソードを出して、マリアの近づいていく。


 カンッ


「?」

「ヴィル!!!」

 マリアがこちらを見つめる。

 

「ここは魔族の通る場所ではありません。とても清らかな場所なのでね」

「黙れ・・・よくもマリアを利用したな」

「利用とは失礼な。マリアは選ばれし尊い存在です」

 サリエルが剣を振り下ろしてきた。魔王の剣の黒い炎で弾く。

 他の天使たちの攻撃の軌道を、エヴァンが逸らしていた。


「まさかこんなところまで魔王が来るとは思わなかったよ。アイリスから聞いたのかい?」

「これから死ぬ奴にはどうでもいいことだ」

「天使を殺す?」

 余裕な笑みを浮かべる。


「この力ならできるだろ?」

「な!?」

 ドラゴン化させた手で、サリエルともう一人の天使を掴む。


 ガガガガガガンッ


 地面から闇の檻を作り出して閉じ込めた。倒れた柱に押さえつける。


「これは・・・なんだ?」

「っ・・・・異世界の力か・・・化け物が・・・・・」

 アイリスの言っていた通りだ。

 周囲の天使が檻をこじ開けようとしていたが、異世界の力には弱くなるらしい。


「マリア!」

「ヴィル・・・ヴィルなのね?」

 マリアが目を輝かせて祭壇から離れた。


「マリア! 駄目だ!」

「・・・・・・・」

「君には役目がある。ヴィルはもう、君の知ってるヴィルじゃない! 魔族の王だ!」

 サリエルが檻の中で叫んでいた。

 片手で魔王のデスソードを持ち直す。


「ヴィル・・・勇者様の言っていた通り」 

「魔王は君を殺しに来たんだ。その剣で。誰か!!!」

 檻の周辺にいた天使が助けを求めようとしていたが、他の天使はアイリスとエヴァンに苦戦してこちらを見ていなかった。

 サリエルが唇を嚙む。


「このままじゃ・・・・」


 マリアは弱い。すぐに貫ける。


「大きくなったのね。どうしたの?」

「マリア・・・・・・」

「大丈夫。ヴィルのことは、生き返ってから勇者様にたくさん聞いていたの。魔族の王なんて、すごいね」

 マリアがとんと近づいて頬を撫でる。一歩下がって歯を食いしばった。


 シュンッ


 小さな天使が巨大な斧を振り下ろして、俺とマリアの間に入る。


「ねぇ、ザキエラ。ヴィルを・・・・」

「早く祭壇へ。マリア、この世界には貴女の祈りが必要なのです! 祭壇の女神像の前に、早く!!!」

 斧が水を切って、泡を起こす。


 どうして俺の体は動かない。

 こんな奴の攻撃なんか、すぐに抜けられて・・・・。


「・・・・・・・・・」


「魔王ヴィル様!!!」

「ヴィル! やるんだ。ヴィルしかできない。あの未来を繰り返す気か?」

 エヴァンが攻撃を防ぎながら叫ぶ。 

 アイリスが天使の気を引きながら海水の流れを変えていた。


 ― 冥界の業火デーモンファイア―  


「うわあああああ」

「離れろ!」

 マリアの周りにいた天使に炎を放つ。


「ヴィル。会いたかった」

 ふわっと浮いたマリアの体を抱き留めた。


「・・・・お前を殺さなきゃいけない」

「そっか」

 マリアが頬に手を当ててきた。


「最期に会えてよかった。泣かないで、私は生き返るつもりなんてなかったの。役目なんてどうでもよくて、海底都市なんか復活しなくていい。可愛いヴィルが元気かどうか、見れただけで十分なの」

「・・・・・・・・・・・」

「呼んで。ヴィル。私を呼んで」

 マリアが花のようにほほ笑む。


「・・・・さようなら。母さん」


 ザンッ


 マリアの胸に魔王のデスソードを刺すと同時に、もう一つの剣がマリアの背中から貫いた。

 

「!?」

 エメラルドのような髪が、海中に広がる。


「リョク!!!!!」

「・・・魔王ヴィル様、これが僕の役目です」

 リョクがマリアから剣を抜いて、女神像の前で剣を離した。

 水中に浮いていた剣の刃先が、リョクのほうを向く。


「止めろ!!!」

 エヴァンが叫ぶ。


「『ウルリア』の天使は僕だ」


 ザンッ


 リョクが剣を自分の胸に突き刺す。

 翼が漆黒に染まり、口から血を流していた。


「っ・・・・・」

 マリアの体が光の中に消えていく。


 泡と砂が入り混じって、渦が巻き起こった。

 流されるように祭壇から離れていく。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・


 地面が大きく揺れていた。

 砂と泡で見えにくかったが、女神像が動き出しているように見えた。


 女神? どこかで見たような・・・。


 ブオン


 ― サイレント ― 


 アイリスが巨大な魔法陣を展開させる。


「浮上するぞ!」

「所詮人間が・・・天使に勝てるわけないだろ。たかが3人に手こずるなんて、天使も落ちたな」

 堕天使がアイリスの魔法を止めようと杖を回した。


「やめなさい。アダモラ!!」

「死ぬぞ! 彼女は月の女神の使い、甘く見ると・・・・」

 ミイルの近くにいた黒い翼の堕天使を、あっさりとアイリスの剣が貫いた。

 アイリスの速さは桁違いで、俺でも見えなかった。


「どいて」

「っ・・・・・」

「邪魔」

 アイリスが冷たく言い放つ。

 黒い羽根が渦の中に消えていく。


「そんな、アダモラが負けるなんて・・・」

「これがアイリスだ」

 天使が圧倒されてバリアを張っていた。


「アイリス! 絶対に逃がしません。私はこの時を、貴女に対する恨みを・・・・」

 ミイルが剣を持ち直して、アイリスに突っ込んでいく。


 ― ホーリーロード ― 


 キィンッ 


「ぐっ」

「全員、邪魔」

 アイリスが手をかざす。

 ミイルの体が、吹っ飛ばされて岩に食い込んでいた。


「アイリス・・・・」

 目の前に大きな道が現れる。

 いや、俺とエヴァンのためだけの転移魔法を作ったんだ。


 天使と堕天使を一斉に蹴散らしていた。


 うああああああぁぁぁぁぁ


 彼らが触れると焼けるような痛みが走るらしく、苦しむような声が響いている。

 

「エヴァン、行くぞ」

「・・・そんな」

 リョクのほうを見て、呆然としたエヴァンが剣を降ろす。


「魔王ヴィル様、早く中に入って」

 アイリスが叫んだ。マントで砂を防いで、体勢を立て直す。


「エヴァン!」

「・・・リョク・・・・」


「・・・・・・・・」

 リョクがエヴァンのほうを一瞬だけ見て、目を逸らした。

 祭壇が魔力を放つ。


「ヴィル、リョクが・・・そこで・・・何を話した?」

「エヴァン、今は俺に従え!」

「あ、あぁ・・・・・・」

 エヴァンの腹を抱えてアイリスの作った光の道の中に入る。


 シュンッ




 目を開けると、船のデッキにいた。

 エヴァンがよろけて手すりに寄りかかる。


「これは・・・」

 アイリスが真っ先に身を乗り出す。


「失敗したのか?」

「わからない。初めてのルート・・・・・確認しないと」


「あれが・・・話していた魔法石か?」

 半分に欠けたひし形の魔法石が現れる。


「!!!!」


 ドドドドッドドドッドドドッド

 ドドドドドドドドドド・・・・


 岩々が揺れていた。

 魔法石が虹色に輝きを放つと、海底がゆっくりと音を立てて上昇していく。   

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