表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

268/594

252 深海の作戦

 俺のやることは決まっていた。

 躊躇うことは無い。


 一度は死んだマリアを、もう一度死なせることだ。


『この海底の岩を抜けると、目的地になります。アイリス様、確認をお願いします』

 セイレーンが地図を映しながら、今通っている場所を指していた。

 深い深い海の底、魚すら少ない入り組んだ岩々の向こうだ。


「合ってる・・・私もこの岩を見た記憶がある。この先に・・・」

「海底都市『ウルリア』を復活させる祭壇があるのか」

 エヴァンが背伸びをして覗き込んだ。


「岩しかないじゃん。海底都市なんか見えないけど?」

「封印を解いて、浮上したら現れるの。すごい力が放たれる・・・経験したこともない光景だった」

「・・・なるほど・・・・」

 エヴァンが顎に手を当てて、何かを思い出しているようだった。


「エヴァン、風邪は治ったのか?」

「治ったよ。ほんっとに、大袈裟だな」

「レナの薬が効いたのですよ。やっぱりレナがいなきゃダメですね」

 レナが自慢げに話していた。


 ゴウンッ


「!?」

 突然、船に衝撃が走る。


「なんだ!? 今のは・・・・」

『確認します』

 セイレーンがモニターをくるくる動かして、外の様子を確認していた。

 イオリが興味深そうに覗き込んでいる。

「天使が来た・・・嘘、こんな早く?」

 アイリスが砂時計を見ながら言う。


 カッ


 まばゆい閃光が海を照らした。


「眩しいっ・・・・」

『これでは外の様子が見えませんね。光を遮断しましょう』

 セイレーンが窓を調整して、光を押さえていた。周辺にいた魚が一気に逃げ出すのが見える。


「セイレーン! 羅針盤が狂ってますよ!」

 イオリが柱に捕まりながら言う。


『気づきませんでした。危うく流されるところでした。でも、どうして・・・』

「天使がこっちに気づいてるな・・・」

「えっ」

「・・・・・・・・・」

 アエルにも似た魔力が、こちらに向いているのがわかった。


 おそらく堕天使。

 直接、攻撃を仕掛けてこないのは何か理由があるのだろうか。


「あぁ、おいしそうな魚たちが行っちゃう・・・食べたかったな」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。フィオは隠れて」

「わかってますよー」

 フィオが掃けていく魚を見て、呟いた。


「魔王ヴィル様、別の方角から回ったほうが・・・・」

「いや、このまま進んでくれ。天使たちが集まって来ているということは、そろそろ儀式が始まるんだろう」

「・・・・そうね・・・・」

 両手を広げた。


 ― 漆黒の羽衣ベール― 


『!!』

 船に属性無効化の魔法を付与する。

 セイレーンが驚いたような表情をした。


『このような魔力を感じたのは初めてです・・・少々、乱れました。軌道を戻します』

「アイリス、俺の私情は無視しろ。確実に祭壇に行きたい。ルートがわかるか?」

「・・・うん。セイレーン、船はあの岩陰に止めて。祭壇まで行くと、船ごと撃破される可能性があるから・・・」

『かしこまりました』

 アイリスが杖を出した。


 ― 人魚の泡 ― 


 俺とエヴァンと自分の体を空気の鎧で包む。


「へぇ・・・深海用の装備ね。これで上手く呼吸できるのか」

 エヴァンが物珍しそうに、空気を突いていた。


「俺は必要ないんだけどな」

「天使と戦闘になるかもしれないから。ちゃんと、力は温存しておいて」

 アイリスがぴしゃりと言った。


「これは・・・何度も見た光景。もし、魔王ヴィル様に覚悟ができたなら・・・今だけは私に従って」

「あぁ」


「この空気の鎧って時間制限とかあるの?」

「30分くらい、でも2人なら自分で魔力を追加できるでしょ?」

「りょーかい」

 エヴァンが軽く鼻をすすりながら言った。

 空気の鎧で軽く動いてみる。特に地上にいるときと変わりがないみたいだ。


「レナも・・・行きたいのですが」

「レナは行かなくていいだろ。行ったところで、あっけなく天使に殺されて終わりだ」

 エヴァンがため息交じりに言う。


「し、失礼ですね。レナは回復魔法に長けてるので」

「レナ、お前はここにいてくれ。天使と戦うには、人数が少ないほうが都合がいい」

「・・・・・わかりました。そうします。でも、みなさん、ちゃんと戻ってきてくださいね」

「当然だ」

 レナが心配そうに、ペンダントをいじっていた。


「あの・・・私たちはどうすれば・・・・」

 ユイナが両手を握りしめながら言う。


「儀式が終わって、リーム大陸が浮上するとき、巨大な魔法石が現れるの。その魔法石を、確実に打ち抜いて」

「魔法石?」


『これは・・・』

 アイリスがセイレーンの横のモニターに、ひし形の図を描く。


「こうゆう形をしていて、色は変化していくから。この石、海底都市『ウルリア』を復活させる源になるの。大体、3メートルくらいあって・・・」

「俺がマリアを刺せば、魔法石は現れないのか?」

「そう、なのかな・・・・ごめん、その未来になったことが無いから確証はない・・・」

 アイリスが言いにくそうにしていた。


「私が見た未来では、マリアを祭壇に捧げ、海底都市『ウルリア』の天使となり、リーム大陸が浮上する際に巨大な魔法石が現れていた」

「地上に行ったら、魔法石が海底都市『ウルリア』の民を復活させてたってことだろ? 俺もそういえば見たよ。その場面・・・・」

 エヴァンが剣を磨いて椅子から降りた。


「とにかく、今は未来を変えることだ。うまくいけば魔法石なんて現れないかもしれないし。ヴィル、頼んだよ」

「わかってる。確実に、殺す」

 アイリスが複雑そうな表情を浮かべていた。


「魔王ヴィル様・・・・」

「セイレーン、今の速度で進んでくれ」


『かしこまりました』

「僕、セイレーン号に隠しコマンドみたいなものがあったのを覚えてるんです。確実に的を当てる攻撃に有利だったと思うので、確認してきますね!」

「あ、待ってください。ご主人様。私も手伝います!」

 イオリとフィオがブリッジから出ていった。


 船が岩々を避けながら進んでいく。


「俺は少しデッキで空気の鎧の様子を確認してみるよ。俺が動けなきゃ作戦は失敗するからな」

「あ、俺も行くよ」

「待ってください、えっと・・・」

 エヴァンがついてこようとして、レナに止められた。


「ん?」

「エヴァンは駄目です。えーっと、そうです。レナの作る回復薬のお手伝いをしてください」

「は、なんで俺が・・・」

「エヴァン、いいじゃない。レナのおかげで風邪が治ったんだから。ね」

 エヴァンが不満そうにしている。

 アイリスとレナの声を背に、部屋から出ていった。




 空気の鎧で、外に出ても深海の圧も、呼吸も問題なく体を動かせた。

 聖属性の魔法の中に、闇属性の魔力を混ぜたのだろう。

 体力が削れる感覚もなかった。


 ― 魔王のデスソード― 


 剣を出して、刃先を確認する。剣の精度も乱れがない。


 きっと、作戦は成功するだろう。

 崩れた魔王城、ボロボロになったマキア、シエルの姿を思い出して、歯を食いしばる。

 俺は魔族の王だ。天使の思い通りになんかさせない。




 カッ


「・・・・・・?」

 顔を上げると、深海から天空まで結ぶ、巨大な光の柱が立っていた。

 漆黒の羽衣ベール越しに、天使らしき人影が見えた気がした。

 おそらく、あの中にマリアも・・・。


 タタタタタタタッタタタタタ

 バタン


 アイリスとエヴァンがドアを開けて出てきた。


「天使たちが降りてきたみたいなの!」

「予定よりはだいぶ早いけど、早く向かおう。時間がない」

「わかった」

 アイリスがホーリーソードを出していた。


『ご出発ですね』

 セイレーンがジジッと電子音を鳴らして、目の前に現れる。

 船を覆っていた結界を開けて、深々と頭を下げた。


『いってらっしゃいませ。この船は予定通り、ご指定の岩陰に止めます。波が荒いので、どうかお気を付けください』

「あぁ、みんなを頼む」

『かしこまりました』


 船から深海へ飛び出していく。

 漆黒の羽衣ベールから出ると、天使の放つ光属性の魔力がぐわんぐわんと波打っているのを感じていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ