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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第三章

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234 聖と闇

「・・・アイリス、それは本当なのか? 私が時空調整している中では、そんな兆候見たことが無いが・・・」

  ダダンが沈黙を破って、アイリスに近づいていった。


「本当だよ。もし疑うなら、独白魔法をかけてみてもいいよ」

「フン、私がお前にそんな魔法をかけられるわけがないだろうが・・・」

 ダダンが杖で、アイリスが放った風に触れながら言う。

 ビリっと何度も弾かれていた。


「もし、堕天使が何かを起こすとして、どうして直接俺に言わなかったんだ?」

「それは・・・・」


『ねぇねぇ』

 急に、シズが力いっぱいマントを引っ張ってきた。


「なんだよ・・・急に」


『異世界住人が来てるけどいいの?』

「は?」


 ガッガッ・・・ガッ・・・


 遠くのほうで崩れた柱を踏みつけるような音がする。

「まったく、どうしてこんな時にわらわら集まってくるのかしら?」


 ― 魔女のウィッチソード― 


「ヴィル、こっちは任せて。どうせ、雑魚なんだから」

 サタニアが剣を出して、魔力を強化していた。


「行かなきゃ」

 アイリスが女神の守りを解いた。


「あっ」


 キン・・・・


「ダメだ。お前は行かせない」

 魔王のデスソードをアイリスの胸元に突き付けながら言う。


「流れが変わってきてる。アース族のところに、戻らなきゃ」

「行かせるか。お前にはまだ聞きたいことがある」


 キィンッ


「ごめんなさい」

 アイリスがホーリーソードを出して、剣を弾いた。


「俺と戦う気か?」

「・・・・魔王ヴィル様はいつもそうやって私を引き留めようとしてくれる。私はすぐに流されてしまうから、いつも失敗しちゃってた」

 無理した笑みを浮かべる。


 俺は幼い頃、この表情をよく見ていた。

 マリアが無理するときに、な。


「もう、失敗できない」

「お前がどんな時間を通ってきたのか知らんが、俺は今の俺だ。お前が今まで会ってきた俺は、ここにいないんだから別人だ」

「・・・・・・」


「魔族の王として、お前を連れて帰る」

「ごめんなさい・・・・・魔王ヴィル様」 

 急に接近してきて、軽やかに剣を振った。


 カキンッ


「!?」

 咄嗟に剣を回して受け止める。


 キィンキィンキィン


 アイリスが素早く剣を持ち替えて、攻撃を繰り広げていた。


 俺が押されてる・・・だと?

 聖属性の魔法を纏っていて、一撃一撃が重かった。

 両手が塞がれて、魔法を展開する時間すらない。


「ヴィル!!」

「お前らは手を出すな!」

 エヴァンが魔法を使おうとしたのを止めた。

 高く飛んで、魔王のデスソードの魔力を整える。


「魔王ヴィル様! 私は魔王ヴィル様を助けたい。信じて! 魔族のためにやらなきゃいけないことだから」

 アイリスが呼吸を整えながら言う。


「魔王ヴィル様から見た私は、ほんの少し一緒にいただけかもしれない。でも、私はたくさん会ってる。だから、魔王ヴィル様のいいところ、たくさん知ってる」

「・・・・・・・・・」

「お願い、信じて。私が絶対、未来を変えてみせるから。魔族がちゃんと、未来を生きられるように。私、たくさんの時間考えてきたんだから」


 剣を握りしめて、アイリスのほうへ突っ込んでいく。 


「!!」

 アイリスがホーリーソードの魔力を強化する。


 ― 奪牙鎖チェーン


 瞬時に魔王のデスソードを解いて、アイリスの両手首を縛った。

 ホーリーソードが肩に刺さり、右腕の感覚が無くなる。


「魔王ヴィル様!!!」

「っ・・・・お前は、魔王の奴隷だろう・・・?」

「・・・・・・・」

 よろけながら、奪牙鎖チェーンを調節する。


「お前は、1度、俺に助けを求めた。本心は知らないがな。このまま、魔王城に連れて帰る。なんとしても・・・」

「私・・・・」

 アイリスの手からホーリーソードが消えていった。


「今回は、俺の勝ちだ」

「魔王ヴィル様・・・」

 魔王のデスソードをアイリスの横に立てた。




「アイリス様!」

 異世界住人が3人ダンジョンへ入ってきていた。

 アイリスがびくっとして入り口のほうを見る。


「みんな! も、戻って! 私は大丈夫だから!」

 アイリスが手首を固定されたまま叫ぶ。


 1人はクロザキか? 後の2人は初めて見る顔だ。

 シロザキはいないのか。



 ヒュン


 ユイナが弓に持ち替えて、クロザキめがけてまっすぐに放った。


「危ない!」

 咄嗟に隣にいた魔導士の男がシールドを張る。

 矢が大きな亀裂を入れて無くなっていった。


「属性を見誤ったわ。次こそは・・・」

 ユイナが矢を引いて、水属性から火属性に変更していた。


「ユイナか・・・裏切者が・・・」

「導きの聖女、アイリス様を返してもらう!」

 クロザキが空中で指を動かして、瞬時に双剣を構えてステータスを変更していた。


「攻撃力を上昇させて他のステータスは下げる、俺が動いたら、攻撃速度と、防御力付与は頼んだ」

「わかった。カナトは他の奴らに、デバフを」

「あぁ、シミュレーション通りやればいいんだよな。まずは、こいつらのステータスを確認して・・・」

 小声で話していたが、全て聞こえていた。


「本当に、もう・・・・」

 サタニアがうんざりした表情で、毛先をいじっていた。


「すごい、ここにいる奴らのステータスが・・・」

「魔王だからな。周りの奴らもそれなりの力がある。逆を言えば、こいつらさえ倒せば、魔族は黙るしかなくなる」

 クロザキが俺を睨みつける。


「一瞬でも気を抜くな。殺される・・・」


 シュッ


 サタニアがクロザキの首に剣を当てる。


 ― 闇薬手ドラッグハンド



 ズズ・・・


 サタニアが左手で、魔法陣を展開していた。

 残り2人を闇から現れた巨大な手で掴む。


「そうよ。殺すわ」

「っ・・・・・」


「あんたらのせいで、ここ最近、魔族は負けっぱなしよ。ここで勝たせてもらう。魔王代理としてね」

「あ、圧倒的だ。こんな強さ」

「アイリス様」


「!?」 

 アイリスが顔を上げて、魔力を高めた瞬間・・・。


 パチンッ


 エヴァンが指を鳴らして、時間を止めた。

 この場にいる俺とサタニアとダダン以外の者たちが、固まっていた。


「ふぅ・・・アイリス様に効いてくれてよかったよ。記憶を取り戻したアイリス様にかけられるのはほんの数パーセントの確率だったから、針に糸を通すような感覚だったけど」

 エヴァンがアイリスの目を見つめていた。


「・・・・気を抜いてたな。やっぱり、ヴィルには敵わないか」


「ほぉ、こいつら、こっちの世界に来たばかりなのに、随分戦闘慣れしてるんだな。長年共にいる『忘却の街』の住人でさえ、こんな連携取れないぞ」 

 ダダンがクロザキの顔をまじまじと眺めていた。


「異世界には魔法を使った戦闘を疑似体験できる仕組みがあるのよ。まったく、エヴァンが手を出さなきゃ私が殺してたのに」

「疑似体験? へぇ・・・」

「別に個々の能力が高いわけじゃない。適性はあるけど、職業もころころ変えられるし、敵に合わせて戦闘スタイルも変えられる・・・」

 サタニアがダダンに説明しながら、魔女のウィッチソードと魔法陣を解いた。



「ヴィル、大丈夫か!?」

「っ・・・・」

 腕を抑えて、アイリスにかけていた奪牙鎖チェーンを消す。


 さすがアイリスの魔法だ。

 俺の魔力がここまで乱されるとは・・・。


「・・・あぁ、問題ない。早くアイリスを連れて魔王城に戻るぞ。サタニア!」

「はいはい。わ、私は別にアイリスを連れて帰ることなんて、望んでないんだけどね」

 サタニアが瞼を重くして、髪を後ろに流した。

 腕を抑えながら、くらっとして、瓦礫の上に寄りかかる。


「この異世界住人も・・・・」

「ヴィル、マジで顔色が悪いぞ、本当に大丈夫なのか?」


「悪いが・・・意識が朦朧とする・・・闇の力が・・・・」

 刺された部分から、自分の魔力が聖なる魔法に焼かれているようだった。

 脈が乱れて呼吸が浅くなる。


 これがアイリス本来の力か。


 まさかアイリスの魔法にここまでされるとは・・・。

 前は、俺の闇魔法のほうがはるかに強かったはずで・・・。


「ヴィル、すぐに手当てを!」

「シズとユイナを連れて、早くダンジョンを出てく・・・・」

「ヴィル! ヴィ・・・・・・」

 時間の止まったアイリスを見つめる。

 エヴァンとサタニアの声がどんどん遠くなって、次第に闇の中に消えていった。

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