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231 姫の覚悟

「ほかのダンジョンも同じなのか?」

『さぁな。連絡も取っていない』


「・・・・・・・」

『キサラギのリセットは、我々ダンジョンの精霊に大きな変化をもたらした。我は消えることもなく、自由だ。安心しろ、これはあくまでも我の選択だ』

 シナガワがふわふわしながら言う。


「・・・・・・い、一度契約したら、変えられないのですか?」

『そうだ。永久契約は一度結べば変更はできない。キサラギがいなくなった今、リセットをかけられることもないのだから』


「そんな・・・・戻れないだなんて・・・」

 ユイナがコノハを見て、言葉を失っていた。


「・・・」

 コノハが視線を逸らす。

 檻の中で、鎖に繋がれたままフェンリルを見上げた。


「その反応が普通よ。みんなそうだったわ。異世界が嫌になって転移してきた人たちも、ここに一生いるつもりだって言ってたのに、アバターを残して戻ったりしてたし」

「・・・・・・・・」

「この世界は元の世界よりも快適だけど、本音はアバターで一生暮らすっていうのが怖いみたい。でも、ここにちゃんと根付くことができるって証明できれば、みんなの考えも変わってくると思うの」


「それじゃあ・・・・」

「何としてでもユイナは連れて戻る。私のためにも」

「っ・・・・」

 戸惑うユイナを睨んでいた。


 コノハはまだ情報を持っていそうだな。

 魔王城に連れていくか。


「ん?」

 急に冷気が立ち込める。 


『あ・・・アイスストーム』


 ザザザザザザザザーッ


 剣士の男が唱えると、蔦が一気に凍り付いた。

 毒薔薇のチェーンに繋がれて体力の奪われていた人間たち3人が、地面に落下していく。


 気を取られていたな。


「ぐっ・・・・・」

「そ・・ソウマ、さすがだな・・・痛みはないが、体が動かない」

「大丈夫・・・か? 今、回復薬を」

 男がふらふらになりながら、倒れている人たちに寄っていった。

 蔦に流れている毒を止めて、氷魔法を使ったのか。


「レン、体制を整えてくれ、俺が魔王の気を逸らす」

「・・・あ・・あぁ・・・・悪い」

 元居た人間たちよりは立ち回りがいいようだ。


 丸い玉のような回復薬を口に突っ込んでいた。

 喉を抑えて、軽く咳をしながらこちらを睨んでくる。


「くだらない・・・」

 剣を持ち直して、息をつく。


「魔王だろうが何だろうが・・・姫様は必ず連れて帰る」

「ソウマ!」

 コノハが叫んだ。


「姫様はそこで見ていてください。剣に強化魔法を付与。女神の首飾りを装着して、属性を聖属性に変更。守りの果実で防御力を50%アップさせて・・・・」

 指を動かして、素早くステータスを変更していた。


「ヴィル様、あいつらに負けるつもりはありません。私が相手になります」

 ユイナが大剣に持ち替えていた。


「いや、いい。お前は異世界住人の様子を記録してくれ。そっちのほうが魔族に有益だ」

「え・・・? は、はい・・・・」


「裏切者が・・・」

 男が剣を持ち直して地面を蹴ろうとした瞬間・・・。


 ザンッ


「あ・・・・」

 一気に、魔王のデスソードで3人を切った。


 軽いな。


「みんな!!」

「あ・・・・姫・・・・・」

 ソウマが言いかけて、光の粒になって消えていった。

 体を起こそうとしていた人たちも、時間差で消滅していく。


 異世界住人は手ごたえがない。空を切るようだ。

 どうせこいつらも、アリエル城からすぐに戻ってくるのだろう。


 地面に残っているのは、魔族の血だけなのが憎らしい。


「魔王・・・・・」

「短期間で強くなったくらいで調子に乗るな」

 コノハのほうへ歩いていく。


「こ、殺すなら殺せばいいわ。私たちはまだ強くなってる段階だから、これからもっと強くなる・・・」

「いや、お前は魔王城に連れていく」

「!?」


 ― 絶対強制解除アブソリュートキャンセル― 


「フェンリル!?」

 フェンリルの召喚を解除する。


 コノハの前髪を揺らして、消えていった。

 手を動かして、闇夜の牢獄プリズンを小さくしていく。


「わ・・・私を甘く見ないで」

「お前ごときが、俺に勝てるはずがない。勝負はついた」

 魔王のデスソードを解除する。


『終わったか。容赦ないな』

 シナガワがふわっと飛んで近づいてきた。


「当たり前だ」

『言っておくけど、そいつを連れて行ったところでダンジョンは魔族には渡らないぞ』

「わかってる。でも、これ以上、異世界住人にダンジョンが奪われるわけにはいかない。異世界住人の空ける穴は、色々と厄介だからな」

 コノハを見下ろす。


「異世界住人は何度殺しても、命の数で蘇る。優先者がいるなら、捕まえておくのが得策だろう」

「っ・・・・」

 コノハが蔦で縛られたまま、歯を食いしばっていた。


『じゃあな』

 シナガワがダンジョンの中に戻っていこうとすると、ユイナが口を開く。


「シナガワ様!」

『なんだ?』

「その・・・ダンジョンと異世界の駅はどうゆう関係なのですか? どうして、シナガワ様は品川って繋がって・・・」


『さぁな。我々はこの世界の各地に散らばるダンジョンの精霊ということだけだ。あとは好きなように解釈してくれ』

「・・・・・・・」

 ユイナが手を握りしめて、何か言おうとしていたが、ダンジョンの扉が素早く閉まっていた。


「帰るぞ・・・」


 ビリッ・・・


「??」

 振り返ると、檻の中にいたコノハの体が光に包まれていた。


「お前、自分で自分を?」

「私のこのアバターは魔王に連れていかれるくらいならここでいったん死んで、ゲームリセットするように設定されているの。私までユイナのようになったら大変だから・・・」

 頭につけていた髪飾りがじりじりと電気を帯びていた。


「じゃあね。魔王、私たちは絶対、この世界に住み着くから・・・」


 シュッ


「!」

 瞬きする間もなく、コノハがいなくなっていた。


「・・・やられたな」

 命の数がある限り、異世界住人は何度でもやり直せる。

 いくつ持っているのかは知らないが・・・な。




 アエルが拍手をしながら、噴き出していた。


「随分、面白かったですね。姫はやっぱり、他の異世界住人と覚悟が違いました。ちやほやされてるだけありますね。私はサタニアみたいな不器用でさっぱりした姫が好きなので興味はありませんが」

 闇夜の牢獄プリズンを消して、マントを羽織り直す。


「ユイナ、あいつらとの戦闘で何か得た情報はあるか?」

「はい・・・今、情報を記録しています。帰ってから分析しましょう。コノハのつけていた髪飾りについては、データの読み込みに時間がかかっていますね。こっちのいうところの魔法とは違う仕組みなのかもしれません」

 空中を見つめながら、指を動かして話していた。

 この場の情報は、ユイナに任せておくか。


「ふむふむ」

 アエルが後ろから興味深そうに覗き込んでいる。


「な、何でしょう?」

「私も異世界住人が使っているモニターというものを、いつか見てみたいですねぇ。アリエル王国にいる異世界住人も、そんな感じで空中見つめて会話してるんですよね」


「お前まで異世界住人に興味を持つのか? あれだけ嫌っていたくせに」

「そんなわけないじゃないですか。私はあいつらが住み着く限り、堕天使のままですからね。あ、堕天使で充実してるんですけど」

 笑い交じりに言う。


「そうそう! 言い忘れてました。さっき、ごたごた異世界住人とやっている間にね、アリエル王国の情報が入ったんですよ。速報です。きっと驚きますよ」

「お前は戦闘中ずっとここにいただろうが・・・信憑性のある情報なのか?」

「もちろんです」

 アエルがにこにこしながら大きく頷いた。


「私はアリエル王国の堕天使なので、離れていてもちゃんと見えているのです。王国の状況が・・・」

「言ってみろ」


「アリエル王国の前の王女、現在、導きの聖女アイリスの石化が解けたようです」


「っ!?」

 はっとして顔を上げる。


「ほ・・・本当ですか・・・・?」

 ユイナが手を止めて、アエルのほうを見つめた。


「はい。間違いありません。禁忌魔法の石化が解けました」

「解除が成功・・・したのか・・・・・」

「ふふ、そのようですね」

 アエルの翼の羽が、宙を舞って、風に流されていく。

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