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230 永久契約

「貴女がユイナね?」

「そうよ」

「何をされたのか知らないけど、よりにもよって魔族につくなんて・・・」

 コノハがユイナを睨みつける。

 指を動かして空中で何かを確認していた。


「ステータスも見えないようになってる。どうゆう手を使ったのか知らないけどね。みんなに伝えておかなきゃ。データを保存・・・と」

「・・・・構わない。私は戻るつもりなんてないから」

「そうはいかない」


「姫様!」

 他の異世界住人が武器を構えて、隙を狙っていた。

 コノハが手を挙げて止める。


「ユイナ・・・・貴女には来てもらう。アース族には、女性が足りないから。連れて帰らなきゃいけない」

 人形のような小さな口を動かす。


「必要って・・・転移してきたアバターたちのために必要なだけでしょ?」

「そう。旧約聖書のアダムとイブの話は知ってるでしょう? どこの世界にいるにも、男性と女性がいないことには生きられないと思わない?」

「旧約聖書って・・・どうしてここでそんな話を」

「ここは、私たちの楽園になるの。重要なことでしょ」

 コノハが服を黒いローブに切り替えていた。


「だって、この体はアバターでしょ?」

「そう、だから確認が必要なの。子供ができるか」

「っ・・・・」

「私は別に構わない」

 ユイナが腰に差した短剣を握りしめていた。


 アエルはただの傍観者か。

 離れたところで目が合うと、肩をすくめていた。


「この体は、エルフ族の血から導き出した研究結果よ。勇者クロザキとシロザキの功績には感謝してる。今は調整中だけど・・・」


「!!!!」

 ユイナがカッとなって、短剣で襲い掛かろうとした。 


 ガンッ


 コノハが咄嗟に出した、長い杖で受け止める。


「どうしてそんなに怒るの?」

「貴女たちの命は何も罪のない、エルフ族の死で成り立ってる! よくも、そんなことをした人間を英雄扱いなんてできるわ」


「私たちの願いを叶えるため。綺麗事ばかりじゃ生きられない」

「姫様、俺たちも戦います」

「みんなは離れてて。ユイナは絶対に連れて帰る」

 軽やかに飛んで空中に杖を置く。



 ― 来なさい。幻獣フェンリル ―


 ガルルルルルルルルルル


 空中に展開された魔法陣から、巨大な灰色の狼が飛び出してきた。

 コノハがフェンリルの背中に乗って着地する。


「幻獣フェンリル、さすが姫様」

「可愛いでしょ。どうしてもって連れてきてもらったの」

 コノハがフェンリルの鬣を撫でる。



 ユイナが空中に指を置いて、何か調べようとしていた。


 ザザザザザザザッ


「仲良くしようね。フェンリル」

 幻獣も異世界から来たもののようだ。 


 魔力が違う。

 どちらかというと、メタルドラゴンやユイナが召喚したバルムに近いな。


 マントで砂埃を避けながら上を見る。


「フェンリル、ユイナを捕まえて。絶対に連れて帰るわ。貴重な女性なんだから」

「どうして・・・・」

「傷はつけないようにね。大切だから」

 コノハが低い声で言う。


 フェンリルの視線がユイナを捉える。

 ユイナがはっとして盾に切り替えようとしていると、一気に突っ込んできた。


 ドドドドドドド ガッ

 


 ― 闇夜の牢獄プリズン― 


「なっ・・・」

 フェンリルごと、コノハを牢獄の中に閉じ込める。

 格子の間から魔王のデスソードを突き付けた。


「!?」

「どうして、魔王である俺がいるのに、思い通りにいくと思ったんだ?」


「・・・私はアース族で最強の力を受けて転移してきた。幻獣召喚できるのも私だけ・・・でも、こんなところで負けられない」

 コノハが両手を広げる。


『ホーリーシールド』


 キィン


 聖属性の盾を出現させて、魔王のデスソードを弾こうとしていた。


「姫様を助けないと・・・・」

「うおおおおおおおお」

「ダメ! みんな! 下がってて!」


 ― 毒薔薇のフリーズ― 


 後ろにいた異世界住人達を一気に縛り上げた。


「ぐっ・・・・・・」

「体が動かない・・・」

「魔王・・・」

「これは外にいた異世界住人を一気に仕留めた魔法だ」

 近くに生えた蔦を撫でながら言う。


「異世界住人ごときが、よくも魔族を殺してくれたな」


「うぅ・・・苦しい・・・早く痛覚の切断を・・・」

「体の力が抜けて、思うように操作できない・・・」

 少しずつ力を奪っていった。


 アバターの感覚は、通常の人間とは違う。

 殺すのは情報を搾り取ってからだ。


「みんな! 待ってて、今遠隔操作で、みんなの痛覚を切るからっ」

 コノハがフェンリルから降りて、檻の中から指を動かしていた。

 蔦をコノハのほうに向けた。


「姫様!!」

「っ・・・・・・」


 パリンッ


 ホーリーシールドが弾ける。

 細い手首に、蔦を巻き付けていった。


「アリエル王国の王女は、相変わらず無知だな」

「なっ・・・」

 コノハの手を柵に縛り付けた。

 フェンリルの足も固定していく。


「・・・アイリスとピュイアのことを言ってるの?」

「そうだ」

「2人は関係ない。ピュイアは結婚していなくなった、アイリスは導きの聖女になんだから、アリエル王国の王女は私だけ」

 フェンリルの毛に手を当てながら言う。


「へぇ・・・・」

 蔦に力が入る。


「不満?」

「気に食わないな」

 コノハの青かった髪の毛先は、光の加減で白銀に見えた。

 風が吹くとさらさらと揺れていた。


「でも、誰が何と言おうと、アリエル王国の王女は私。ユイナも戻ればきっと王族になれる」

「私は王族になろうとなんて思いません!」

「そう、残念ね。みんなチヤホヤしてくれるし、楽しい生活を送れるのに。私、お姫様になるのが夢だったから」


「貴女と一緒にしないで!」

「あ、そ」

 ユイナが心底嫌そうな顔をした。


「今回アイリスが魔法陣を制限したのは想定外、みんな混乱してるわ」

「・・・・・・・・」

「でも、導きの聖女であることには変わりない。導きの聖女はアイリスじゃなきゃいけないから」

 言いながら、後ろの奴らを逃がす隙を狙っているのが伝わってきた。

 戦闘慣れはしていないみたいだな。 


「その導きの聖女ってなんだ?」

「私たちをこの世界に案内してくれる存在・・・アイリスは道しるべなの」

「・・・・・」


 やはり、アイリスに直接聞かないことにはわからないか。


 ガンッ グルルルルルル


「フェンリル、この檻は破れない。落ち着いて!」

 コノハが声をかけると、体当たりしようとして暴れていたフェンリルが静かになっていった。


「フン・・・・」

「私を殺してもアリエル城に戻るだけ。命の数はまだあるし、私は優先的に与えられる。永久契約を結んだから、私が離れたってこのダンジョンは魔族の手に渡らない。殺したければ殺せばいい」

 強い口調で言う。


「シナガワ、そうなのか?」

 魔王のデスソードをコノハに向けたまま、後ろを振り返る。

 シナガワが軽く飛んで、近づいてきた。


『そうだ。永久契約を交わしたから、シナガワダンジョンはこの先何があってもアース族のものだ』

「永久契約?」

『キサラギが関与しなくなったからな。我はそれを選んだ』


「ダンジョンは異世界に通じてる。今後の研究のためにも、アース族が所有したほうが理にかなっているでしょ」

 コノハが口を挟みながら、捕まっている異世界住人をちらちら気にしていた。


「・・・・・・・」

 ここがこんなに簡単に異世界住人のものになるとは・・・。


 予想外だったな。


「シナガワのダンジョンがそうなら、他のダンジョンもこうなる可能性があるってことか?」

『あぁ。異世界住人と永久契約を結べばな』


「待ってください! 私もアース族です! 永久契約って私でも結べるんですか?」

 ユイナがシナガワに詰め寄っていた。


『できないことはないが・・・』

「私が代わりに今あるダンジョンの精霊と永久契約を結べば・・・」

「無理よ」

 コノハがぴしゃりと言う。


「どうして? アップデート内容は違っても、アバターの性能のベースは同じはずです」

『永久契約の対価は心臓だ』

 シナガワがユイナに顔を近づけた。


「え・・・・・心臓?」

『そうだ。人間の心臓』

 フェンリルが檻の中で、コノハの頬に鼻をくっつけていた。


「どうゆう意味だ? お前らがこっちの世界にあるのは仮の体だろ? 命なんていくつも持ってる。そんなものに、永久契約を結べるほどの価値があるのか?」

「異世界にある心臓のことよ。異世界で動いている、私の心臓がこのダンジョンと永久契約を結んだの」

「異世界の・・・?」

 ユイナが口を薄く開いて、表情をこわばらせた。


「別に元々いらない心臓だったから、いいんだけど。あんなもので、複数のダンジョンと契約を結べるなら安いわ」

 コノハが絞り出すような声を出した。

 長いまつげでゆっくりと瞬きをする。


「・・・・・・・・・・」

「・・・・じゃあ、貴女は・・・・・」


「もう、異世界に戻ることはできない。異世界に戻れば心臓も止まってしまう。これが私の覚悟」

 フェンリルを撫でながら、こちらを睨みつけてきた。


「私は後戻りできない。何としてでも、この世界にいなきゃいけない体になったの」

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