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【完結】どのギルドにも見放されて最後に転職希望出したら魔王になったので、異世界転移してきた人工知能IRISと徹底的に無双していく  作者: ゆき
第一章

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18 来訪者

 雲の下を飛んでいると、小さな村が見えてきた。

 人は数えるほどしかいなく、誰もこちらに気づかない。攻撃性もなく、無防備な村だ。


 速度を上げて、魔王城に向かう。

 森に入ったところから、どことなく異変を感じた。

 人間の気配がするな。


 魔族とは違う闘気が漂っていた。

 魔王城からは1キロメートル以上離れていたが、人間たちがこんなに近いところまで来るとは、俺が来てから初めてだ。


 上位魔族があえて、泳がせていたのか。俺の命令通りだな。

 気配を消して、人間たちにゆっくりと近づいていく。


「ここを真っすぐ行ったところが魔王城か・・・」

「警戒しろよ。ここで上級魔族にバレたら終わる」


「でも、魔族の気配はないし」


「魔族・・・いえ、魔族の王だって、話し合えば分かり合えるはずです。だって、A級クエストに行ったギルドのメンバーが。魔王に会って帰ってこれたのですから」

 賢者らしき女が、透き通るような声で話していた。


「始まった。賢者様のお説教」

「言われてみればそうだよな。A級クエストに行ったメンバーたちが、命だけは逃れることができたんだ」

「私たちはSS級クエストを何個もこなしてるんだから、このくらいできるはずなのよ。じゃなきゃ、後輩の彼らに顔向けできないじゃない」


「これで、俺らも一気に有名になるな」

「でも、魔王って、アリエル王国のギルドを転々としてたヴィルっていう落ちこぼれらしいぜ」


「その話なら俺の方が詳しいな。よく酒場で聞いてたから」

「げ、マジかよ。じゃあ、全然知名度上がらないじゃん」

 浅黒い肌の剣士が、文句を言っていた。


「有名になるために行くのではありません。すべては神様への祈りのため」

「・・・アリアって、修道院を出たときからこうなの?」

「しっ・・・静かにしろ。油断するなと言ってるだろう」

 ギルドの剣士3人と魔導士1人、賢者1人のパーティーだ。


「だって、ここまで来ても魔族が出てこないし」

「少しくらい何かないと、来た意味ないんだけど」


「・・・・・・・・」

  魔導士の結界で、魔族から見えないようにしているようだ。


  草木の動きまで錯覚を起こさせて、気づかれないようにしているのか。

  どおりで周辺のカラスたちも騒がないはずだ。


 魔族と同化する、闇魔法の結界だった。 

 あの、女魔導士がかけているようだ。

 随分細やかな魔法・・・ギルドの中でも結界に特化した者だろう。


 俺には関係ないけど・・・な。


 指先で空中に線を引く。


 ― 魔王のデスソード


「っ・・・・・!?」

「な!?」

  素早く、結界を破り、彼らの前に姿を現した。


「ここで何をしている?」


 キィンッ


 剣士の一人の後ろに回る。

 刃を首に突きつけた。


「ど・・うして・・結界を? ミウのかけた結界を破れた魔族はいないのに」


「こんなもの俺には効かない」

「お・・・お前が、魔王か?」

  大剣を構えた剣士が、こちらを睨んできた。


「そうだ。人間が魔王城に近づいてくるとは・・・随分なめられたものだな」

「みんな大丈夫! 魔王は落ちこぼれの・・・」


「上位魔族がなぜここに来ないかわかってるか?」

「!?」

  女魔導士が動くよりも先に、手をかざす。


 ― 闇夜の牢獄プリズン


「俺が、人間に直接手を下したいと言ったからだ。お前らみたいに、俺をあざ笑ってきた奴らをな」

 全ての魔法を吸収する檻に、5人を閉じ込めた。


「うわっ・・・・・な、なんだこれは!?」


 手を振って剣を消す。


「くっ・・・・魔法が・・・・・」

「お前らを魔王城へ連れて行くとしよう」

 闇夜の牢獄プリズンを宙に浮かせた。


「痛っ・・・・・」

「きゃっ・・・・・・・・」

  勢いでひっくり返っていた。


「こんなもの・・ぐぬぬぬぬぬぬ・・・」

  筋肉隆々な剣士が、力づくで破ろうとしていた。

  持っているのは、サリーが扱うような大剣か。


「無駄だ」


「ま、魔王城に連れて行って、私たちをどうするつもり?」

 女魔導士が叫ぶように聞いてきた。


「何を言っている? お前らから来ようとしたのだろう? 魔王城に」

「あ・・・・・・・・・・」

「案内してやるんだ。感謝しろ」


「神様・・・どうか、あの魔王から私たちをお救いください」

 アリアという神を信じていた女は、目を閉じて必死に祈っていた。


 どこで見た神とやらを、信じているんだろうな。


 牢獄の中から怯えているのが伝わってきた。

 今にも逃げ出したいと、心の中では叫んでいる。


 でも、周りの目があるから強がっているフリをしている。

 人間は建前を大事にする生き物だから、か。




「おかえりなさいませ、魔王ヴィル様」

 空中で牢屋を引きずりながら、魔王城へと入っていった。

 カマエルがメガネを上げて、にやりと笑う。



「これが上位魔族・・・」

「ま、ま、魔王城・・・・」


 ザザザザザザザー


「待て、お前らはこいつらに手を出すな」


「・・・・かしこまりました」

  双剣と持ったカマエルと、斧に手をかけたゴリアテの前に檻を下ろす。

  ほかの魔族たちも、息を荒げていた。


「魔王ヴィル様!」

「よく、ここまで粘ってくれたな」

「はい! 魔王ヴィル様が来てくださると思っていたので」

 ププウルが同時に頷いた。


 魔王の椅子に座りながら、檻の中の人間を見下ろす。


「お、俺たちをどうする気だ!? 落ちこぼれの・・・・」

「・・・・・・・・・・」

 肘を付いて人間たちを見下ろす。

 睨みつけると、すぐに口をつぐんだ。


「あぁ、殺したくてうずうずしますね。神聖な魔王城に人間が来るなんて汚らわしい」

「カマエル、手を出しちゃダメ」

「わかってる。魔王ヴィル様の前で、勝手なことはしない」

 カマエルが舐めるように、織の中を見つめていた。


「上位魔族・・・会ったことないし、聞いたこともない・・・ここにいる魔族は、圧倒的すぎる」

 上位魔族を見て、女魔導士が腰を抜かしていた。


「だって、私たちと会ったら死んじゃうもん」

「会ったことなくて当然でしょ」

「当然当然」

 ププウルが怯える剣士に、交互に話していた。


「・・・・・・・・」

 冷え切った気持ちで眺めていた。


 こいつらは、おそらくギルドの中では英雄扱いされている者たちだ。

 C級の奴らは、SS級の奴とすれ違うだけで喜んでいた。


 でも、こんなに弱かったんだな・・・。


「ま・・・魔王ヴィルっ・・・・・」

 震えていた剣士の一人が立ち上がって、檻を掴んだ。


「聞いてるぞ。お前はその・・・・目で相手の弱点を見ているから、圧倒的な強さを誇示できるんだろう? 弱点を攻撃してるんだ」

「そ・・・そうよ。今だって・・・・私たちの弱点を知っているから、こんな牢屋に閉じ込めていて・・・上位魔族をうまく言いくるめて。だって、あの落ちこぼれのヴィルだもの」


「この状況で、お気楽な妄想ができるお前らが羨ましいよ」

「!!」

 檻を解いた。


 ― 奪牙鎖チェーン


 ガガガガガガガガガガガガガガ


 うわぁぁぁぁぁ


 面から黒い鎖を出して、両手両足を縛り上げる。


「いっ・・・」

「ねぇ、そこの女」

  サリーがすっと女魔導士に近づいていき、髪を引っ張って顔を上げた。


「うっ・・・うっ・・・・」

「さっき、魔王ヴィル様になんて言ったの? 聞こえなくて」


「あ・・・・あぁ・・・・・」


「ミウっ!」

「魔王ヴィル様の魔法を直接受けるなんて・・・なんて汚い女なのかしら?」

 サリーが目を吊り上げて、長い爪で頬を擦る。


「サリー、魔王ヴィル様の前だぞ」

「申し訳ございません。衝動が抑えきれず・・・」


 サリーがしぶしぶ離れると、近くに跪いた。

 カマエルが歯を食いしばって、メガネを持ち上げる。

 額から、角が飛び出ていた。


「魔王ヴィル様、どういたしましょう? こいつらを?」

「俺たちも、衝動を抑えられそうもありません」

 ゴリアテが絨毯に片膝を付けて、斧に手をかけていた。


「まず、こいつらに聞きたいことがある。なぜ、この城に近づこうとした?」

「そんなこと答えるわけ・・・」

 人差し指で、奪牙鎖チェーンの魔力をいじる。

 独白魔法だ。


「それは、魔王城の情報を持ってきた者に多額の懸賞金が与えられるからです」

「ミウ、急にどうした?」

「く・・・口が勝手に・・・・」

 女魔導士が口を閉じようとして震えていた。


「ほぉ、どれくらいだ?」

「家族が一生暮らしていけるくらいの・・・あぁ・・・口が勝手に・・・・」

 カタカタした唇を必死に閉じようとしていた。


「なるほどな」

「魔王ヴィル様が復活されるまで、この城が狙われたことがございません」

「今更、魔王城に興味を持つとは・・・人間は単純で面白いですね」

 カマエルが鼻で笑っていた。


「しっ・・し、知ってるぞ、ヴィルなんだろう? お前!!!」


「ルイ・・・!」

「ハハハハ、ヴィル!!」

 突然、額に傷の付いた男が狂ったように笑いだした。


「ギルドで有名な落ちこぼれのヴィルってな、ここにいるお前の部下たちはお前の過去を知っているのか?」

「・・・・・・・・・・」

「その様子は何も知らないんだよな? どうせ死ぬんだ、お前の過去を聞いた限り話してやろうか? 面白いぞ、どこに行っても使えない奴が魔王になってるんだからな!」

 歯並びの揃った口を大きく広げていた。


「そうだ。こいつは落ちこぼれのヴィルだ」

「どんなにイキったってな、所詮魔族の頭がこんなんじゃ・・・」


 スッ・・・


「止めろ、ププウル」

「っ・・・・・・・」

 ププとウルが遠くから弓矢を引いていた。


「だ・・・だって、魔王ヴィル様」

「こいつら・・・もう、耐えられません」

「魔王ヴィル様・・・お許しを・・・。野蛮なことは嫌いですが、私もそろそろ限界です・・・・」


「私も、罰は受けますから」

 カマエルが双剣を持ち直していた。


 もう少し、こいつらから情報を得たかったが・・・・。

 まぁ、いい。ここまでにするか。


 このままだったら、他の魔族が衝動的に殺してしまいそうだからな。


 シュルシュルシュル


「!?」

  奪牙鎖チェーンを解いて、段差を下りていく。


「お前らに聞くことは済んだ・・・・」

 カマエルたちを横切って、人間の前に立つ。


「あ・・・俺たち動け・・・・」

「クソ・・・こんな時に、体がこわばって・・・・」

 人間たちが膝を付いたまま硬直していた。

 目を合わせることすらできないらしい。


「ヴィル・・・まさか、まだ人間の心が・・・?」

「・・・・・・・・・」

「あぁ・・・神様・・・祈りはどんな時も人の心を灯して・・・」


「都合のいいときは神様か」


「あぁ・・・・」

 ずっとしゃべっていなかったアリアという賢者の女性が、懇願するような表情を向けてきた。

 どこか希望の光でもみつけたような息を漏らしていた。


 よく見ると、首に下げたネックレスは、祈りの痕で変色している。


 ― 魔王のデスソード


「!?」

  地面を蹴って飛び上がった。


「人間の心も慈悲も、求めるな。俺は魔王だ」


 ザンッ


「うわあああああああ」

 宙に浮き、一気に5人まとめて突き刺す。


 瞬時に5人の魂が抜けていった。

 着地と同時に、空気を切って、剣を消す。


「お前らだって、弱かった俺をいたぶって楽しんでただろうが・・・」

 小さくつぶやく。

 マントを後ろにやって、赤い絨毯に転がった5人の死体を見下ろした。

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