203 戦闘の後
ズン ズン ガシャン
土人形たちがメタルドラゴンに潰されていく。
もう一度、地の反逆者を唱えてもいいが、あまり時間を食いたくないな。
「次の攻撃で決める。準備はいいか?」
「はい」
「任せてください。夜明けの弓矢の付与効果の確率を最大値まで引き上げます」
ユイナが弓を構えた。レナが氷魔法の詠唱をし始めた。
「ユイナ、矢を天に掲げていてください」
「はいっ・・・・」
― 冬雪結守護―
サァァァァァァアァ
レナが両手を大きく動かす。
雪の結晶が集まってきて、矢が透明な氷に包まれていた。
「成功です。完全に隠しました」
「ヴィル様・・・」
「あぁ、打て」
魔王の剣の魔力を確認してから、地上に降りて行く。
ザザッ
メタルドラゴンが最後の土人形を潰してから、足を踏み鳴らしていた。
片方の目が俺を捉えたようだ。
「ヴィル様!」
「っ・・・」
一気に走って、距離を詰めていく。
ドドドドドドドドドーッ
巨大な鉄の足が地面に亀裂を入れる。
雪があったら雪崩が起きていただろうな。
飛ぶようにして避けながら、ユイナの矢の効果が効いてくるのを待った。
マントを掴んで石化する煙をかわしていく。
「解きます!」
パリンッ
レナが矢をまとっていた氷を割った。
「やった!!! 成功です!!」
ユイナの声が聞こえた。
白い閃光が走る。
数秒後、メタルドラゴンの動きが止まった。
剣を持ち直して、体の内側に回り込み、勢いよく心臓を突き刺した。
ガガッ
脈が無くなり、その場にメタルドラゴンが倒れる。
ドドドーン
剣を引き抜き、後ろに下がった。
メタルドラゴンは天を仰いだ姿勢のまま倒れていた。
足元から光の粒になり、消えていく。
すぐに、もう一体のメタルドラゴンへ向かった。
グアッ?
俺が回り込む前に、ユイナの目くらましは解けていたようだった。
硬い鱗が、すぐに戦闘態勢に入ろうとしていた。
「お前が魔族だったら、仲間にしてやったものを」
!!???
メタルドラゴンが抵抗する前に剣を刺す。
生暖かいが、命のないような、不思議な感覚だった。
ジジジジ・・・ジジジジジジ・・・・
声を上げる間もなく、胴体から消えていった。
剣を解いて、光の粒に手を伸ばす。感触はなかった。
硬い鱗を持つ巨大なドラゴン2体は跡形もなく消えていった。
「魔王ヴィル様」
「大丈夫ですか?」
ユイナとレナが降りてくる。
「あぁ、問題ない」
「メタルドラゴンって・・・亡骸を残さないのですね。こんな消え方する生物見たことがないです」
レナがメタルドラゴンのいた場所を見つめながら言う。
「メタルドラゴンも、私たちのいた世界のゲームのキャラクターです。なので、ゲームみたいにアバターと似たような消え方をします・・・」
「ゲームの・・・って、ユイナたちはよく言っているのですが、レナは、ゲームがいまいちよくわかっていないのです。どんなものなのでしょうか?」
「異世界住人がやっている、様々な世界を疑似体験できるものだ」
「この世界と異世界以外にも、世界があるのですか? なんか混乱します」
レナが髪についた雪を払いながら、首をかしげる。
俺も、ダンジョンのクエストで異世界に行っていなければ理解できなかっただろうけどな。
「混乱しますよね。メタルドラゴンが来ているということは・・・私、少し調べたいことがあるんです・・・ちょっとこの周囲を確認してみます」
ユイナが言いながら矢を仕舞っていた。
「待て。まだ、メタルドラゴンがいるかもしれない。お前がその弓矢を持っているとはいえ、油断すればすぐに殺される」
「遠くへは行かないようにします。すぐに戻るので・・・少しお時間をください」
「あ・・・・」
靴を調節してから、ふわっと浮き上がり、飛んでいった。
「ったく・・・どいつもこいつも、好き勝手行動するな。これだから、連れてくるのは嫌だと言ったんだ」
息をつく。
「レナはそんなことないですよ。わがままは言ってないです」
「レナも同じだ。戦闘に出るなと言っても、出てきただろうが」
「結果的に役に立てたのです。終わりよければすべてよし、です」
レナが雪を手のひらに乗せながら言う。
「・・・・・・・」
エヴァンとサタニアのありがたみが染みるな。
あいつらは、衝動的になるが、俺の言うことは聞くし、賢いからな。
ユイナはともかく、レナも自由に行動するタイプだ。
エヴァンを連れてこないと、収拾がつかない。
北の果てのエルフ族・・・か。
まぁ、あの温もりの中で育てば、レナのようになるのは当然なのかもしれないけどな。
ジジジジジ ジジジジジ
『あ、やっと接続できた。パスワードが複雑すぎるな』
「????」
何もなかったところから、一人の男性が現れた。
テラと同じ、3Dホログラムのように透けている。
「リュウジ・・・・」
すっと飛んで、近づいていく。
「わわわ・・・に、人間ですか!?」
『ん・・・お、珍しいな。銀髪のショート、エルフ族か』
「にっくき、人間!どこから現れたか知りませんが、エルフ族の地に来るなんて許せません」
レナが後ずさりして剣を出そうとしていたが、リュウジは動じなかった。
異世界住人・・・とは違って、殺気は感じない。
リュウジがレナとの距離を、ぐっと縮める。
「なっ・・・な、何するんですか?」
『んー、美少女で胸が小さい。珍しいな』
「えっ!? 小さい!?」
レナの胸をまじまじと見てつぶやく。
『小さいよ。ぺったんこじゃん。まぁ、貧乳は貧乳で需要があるけどさ』
「!!!!!!」
レナが顔を真っ赤にしながら胸を押さえた。
「リュウジだな?」
『あぁ、魔王のパーティーだったのか! 久しぶりだね。追憶のダンジョンでしばらく待っていたけど誰も来ないから、別の接続方法でここに来てみたんだ』
「どうしてこんなところに?」
『それは・・・』
「ねぇ、ヴィル! レナ、人間に胸が小さいって言われました!」
「んなこと、俺に言われても・・・」
涙目になりながら手をぶんぶん振っていた。
「あの、レナの胸は小さくないですよね? だって、エルフ族のみんなそんなこと言わなかったです」
「レナ、首を絞めるなよ」
「だって、これが標準ですよね・・・」
「苦しいって」
レナが首元を引っ張ってこちらを見上げる。
『なんかごめんね・・・気にしてたみたいで・・・』
リュウジがこめかみを搔いていた。
「レナ、わかったから後にしてくれ」
「レナにとってはとてもとても重要なのです・・・まさかヴィルもレナのことを貧乳だって思ってて・・・ヴィルはひどいです。人間じゃないです」
「俺は魔族の王だって」
「レナは、そんなこと言う子にヴィルを育てた覚えはないのですっ」
「そもそもレナに育てられた覚えなんてないって。今、こいつと話したいんだから、少し黙っててくれ」
どれだけ過保護に生きてきたんだろうな。レナは。
「リュウジ!」
ユイナが声を上げる。
『!?』
「リュウジなのね?」
『ユイナか?』
ユイナが駆け寄ってくる。
「そうよ。よくわかったのね?」
『も・・・もちろん、顔も姿もこっちの世界のアバターとほとんど同じだし、君を間違えるわけないじゃないか。あれだけ冒険をしてきた仲なんだから』
「あ・・・そ」
リュウジがちらちらとレナのほうを見る。
「どうして、レナ様が泣いてるんです?」
「ユイナ、この人会っていきなりレナのことを貧乳だって・・・」
レナがユイナの袖を引っ張る。
「貧乳?」
『違・・・誤解だ。こ、これは、ちょっと感想を・・・』
「もうっ、もしかしたらリュウジがいるんじゃないかって探しに行ったのに・・・いきなり胸のことを話すなんて。セクハラじゃない!」
『ちょっと・・・コミュニケーションを・・・』
「ひどい!」
ずけずけと歩いて、リュウジに向かって叫ぶ。
「レナ様に失礼なこと言わないで!」
ユイナが珍しく目を吊り上げて怒っていた。




