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196 願い⑩

 体が元に戻っていた。

 オーディンが息を切らしながら、剣を立てる。

 細かい傷を自分で治癒していた。


「魔王であってもマリアのことは覚えているのか?」

「・・・どうして死んでいた人間が蘇ったんだ?」

「さぁな。俺も今は情報がない。マリアは突然、俺の前に現れた。幻覚でも見ているようだった」

 オーディンが顔をしかめる。


「誰かが蘇らせたのだ。目的はマリア自身もわかっていない。あまり手放しで喜べる状況ではないということだな」

「・・・・・・」

「マリアは、本当はお前に会いたそうだったが?」

「そうか・・・」

 腕を抑えながら立ち上がった。


 最下層の壁は崩れて、砂埃が舞っている。

 瓦礫でよく見えなかったが、少し離れたところに、石化したアイリスとエヴァンたちの姿が見えた。


 レナが回復魔法を唱えている。

 誰か負傷したみたいだ。


 俺がやったのか。

 全然感覚がなかった。



「アイリス様・・・禁忌魔法を使ったのか」

「・・・・・・・」

「俺がアイリス様と面識があるのが意外なようだな。当然だろ。俺はアリエル王国の勇者なんだからな」

 オーディンがこちらを見て笑っていた。


「どうでもいい、お前のことなんか」

「ハハハハ、相変わらずだ」

 オーディンが血の付いた剣を拭っている。

 クロザキとシロザキが壁際で気を失っていた。


 オーディンだけで、俺を止めたのか?


「・・・・・・」

 自分の腕を見つめる。

 まだ微かに闇の魔力が強かったが、人の肌に戻っていた。


「状況把握に時間がかかっているのか? あの姿になれば、本当に記憶を失くすんだな」

「オーディンは一度俺に殺されている。調子に乗るな」

 マントを後ろにやる。


「寝ぼけてるのか? まだ俺は生きてるぞ。でも、まさかお前がこんなに強くなるとはな。噂には聞いていたがここまでとは・・・まぁ、もともと闇の魔力の強かったからな。誰に似たのか・・・」

「強がりを・・・」

「お前に闇魔法を教えなかったのは正解だったよ」

 オーディンが息を切らしながら剣を下げていた。


「おぞましい力を与えたものだ。あの女は・・・」

 オーディンに戦闘能力は残っていないようだ。

 あと一撃で死んでいただろう。


 マリアが蘇った夢にさえ気を取られていなければ、な。


「なぜ、お前が異世界住人側についてるんだ?」

「・・・・・・」

「アリエル王国の人間は、異世界転移者の入れるため、テラによって消された。知ってて、異世界住人側についてるのか?」

「あぁ・・・わかってる。そうゆうことになるな」

 オーディンが応急処置程度の回復魔法を、自分の腹に押し当てていた。


「お前を勇者だと崇めた人間が、今の状況を見たらどう思うんだろうな」

「・・・俺には俺の目的がある。久しぶりの親子対面だ。少しこちらの状況を話してやろう」


「・・・・・?」

 オーディンがちらっと周囲を確認してから声を落とす。


「アイリス様からお前のことは聞いてる。随分、仲良くしていたようだな。魔王は悪い者じゃないと、口癖のように話していた」

「アイリスが・・・?」


「そうだ。変わり果てたアリエル王国を見て呆然とする俺に、力を貸してほしいと、アイリス様から近づいてきた。もちろん俺も、王女の印象しかなかったから、境遇を知ったときは絶句したけどな」

「境遇って・・・どうゆうことだ?」

 石化したアイリスのほうを見つめる。


「・・・アイリスは・・・テラに騙されていたのか?」

「いや、全てアイリス様の意思だ」


「!?」


「俺も最初は信じられなかった。いや、今でも・・・」

「どうゆことだ? 目的は何だ? まさか、初めから魔族を陥れようとしていたのか?」

 声を荒くする。


「そうじゃない、話はちゃんと聞け。ん?」


「すぅ・・・っ・・・・」

 途切れ途切れに、クロザキの呼吸が聞こえた。


「目を覚ましそうだな・・・あまりぐだぐだ話している時間はないみたいだ。手短に話す。アイリス様は今いる異世界住人が最悪の未来を救うことになると信じていた」

「最悪の未来?」


「アイリス様はある未来と過去ををループしているらしい」

「??」

「信じられなかったがな。俺が長年調べていたことと一致する」

 何を言っているのかわからなかった。


 時間をループ?

 確かにアイリスは時間を巻き戻したことがあったが・・・。


「全てを思い出し、ここで石化したのだ」

「なぜ、異世界住人に頼る必要がある? なぜ、お前が関わっている?」


「アイリス様が見た未来は、俺にも関係ある。ヴィル、お前にもな」

「なんのことだ? 俺にわかるように話せ!」

 思わず、声を荒げる。


「ヴィル、この世界にダンジョンが現れた時点で、異世界と通じていたんだ。わかっているだろう?」

「・・・・・・」


「こいつらが来るのは時間の問題だった。願いを叶えるダンジョンがあろうが、なかろうがな」

「・・・そうかもな」

「アイリス様は・・・」


 キィン


 魔王のデスソードを手に取って、オーディンのほうへ向ける。


「・・・アイリスは何者だ? お前は何を知ってる?」

「これ以上説明することはできない。アイリス様について知りたければ、今から話す場所に行くといい。俺は行けなかった。アイリス様の持つ禁忌魔法を作り出した種族がいる。一回しか言わない。よく聞け」

「・・・・・・・」

 オーディンは淡々とある場所と、そこに行く方法を言い出した。

 本でも読んだことのない、地図にも載っていない場所だ。


 だが、オーディンも俺も知る場所から通じているのだという・・・。


「待て、そこは行ったが、そんな場所があるとは思えな・・・」

「アイリス様の言ったことだ」

 全て言い終わると、剣を収めて、後ろを向いた。



「伝えることは伝えた。どう動くかはお前次第だ」

「逃げるのか?」

「俺はそこでぶっ倒れているアース族の勇者とやらを連れて帰らなきゃいけないからな。本物になれるかは知らないけどな。何度も死なせてはいけないと言われているんだ」

 クロザキとシロザキのほうへ歩いていく。


「ほら、起きろ。行くぞ」

「う・・・・体が」

「そいつは、北の果てのエルフ族を大量に殺した。それでも、勇者にさせようとしているのか?」

「・・・・・・」

 オーディンの動きがぴたっと止まった。


「戦闘能力のないエルフ族が何人も死んだ。異世界住人をこの世界に定着させる血がほしいためにだ。そんな奴に、勇者であるお前が協力するとはな」

「ヴィル」


「まだ、正式に任を降りたわけじゃないだろ? 降りたふりをしているだけだ」

 オーディンがゆっくり、振り返る。


「勇者は聖人ではない。幼かったお前には・・・マリアにも、俺がどう映っていたかわからないけどな。俺の勇者という称号も、大量の魔族の死の上に成り立っていた」

「・・・・・・」

「たまたまアリエル王国と月の女神の加護を受けて勇者になっただけだ。まぁ、当時から自覚がなかったわけじゃないがな」

 クロザキの胸元から、堕天使の羽を取り出していた。


「お前の、目的はなんだ?」

「仲間も、もういない。生き残ってしまった自分の役目を、果たすまでだ。この命が尽きるまでな」

「オーディン! まだ話を・・・」

 投げた堕天使に羽根が宙を舞う。


「じゃあな、息子よ。道は違えど、成長したお前を見れて嬉しかった」


 シュンッ


 少し口角を上げると、クロザキとシロザキを連れて消えていった。

 地面にはオーディンの血が落ちている。


「・・・・あと数十分いたら、出血多量でお前のほうが死んでいたな。オーディン。異世界住人になぜここまで・・・」

 小声で呟く。

 アイリスのことを知る者。


 本当にそんな場所があるのか?





『話は終わった?』

 シズが土人形とぺたぺた歩いてくる。


『あーあ、よくもこんなぼろぼろにしてくれたね。さっきは怖くて近づけなかったけど、今は全然怖くないから』

 頬を膨らませながら言う。

 土人形も腕を組んで、こちらを見上げていた。


「悪かったな、みんなは?」

『瀕死だよ。優秀な回復魔法を使うエルフ族がいてよかったね。彼女がいなきゃ全滅してた』

「そうか」


「サタニア、もう少し治療します」

「だ、大丈夫よ・・・・」

 しんとすると、レナの声が聞こえた。


「ユイナは? 体力が少なくなっているが・・・・」

「レナ? 私どうして? い・・・・」

「あまり動かないでくださいね。ひどいケガだったのです。でも、大丈夫ですよ。あ、左腕の傷がまだ深いので、少し待ってください」

「・・・・・・・」


 シズがこちらを見下ろす。

 土人形を橋のほうに寄せていた。


『魔王ヴィルはアレになると、仲間だろうが容赦ないんだ。怖かった、怖かった。あ・・・』

 瓦礫を蹴って、エヴァンたちのほうへ駆け寄っていった。

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