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190 願い④

『なるほど。死にたいというのか。本気のようだな』

「はい・・・・」

 ユイナが大きく頷いて、目を閉じた。

 ヒイが立ち上がって、杖を回した。


『じゃあ、望み通り、今すぐ殺してやろう』

「えっ・・・・」


 キィン


『ん?』

 魔王のデスソードを出して、ヒイの杖を止める。

 突風が巻き起こって、ガラスの置物がカタカタ揺れていた。


「殺すのはダメだ。こいつは、魔族が捕えている異世界住人の情報源だ」

『さすが、魔王、わしの攻撃を止めるか』

「当然だ」

『・・・・・・・・』

 睨みつけると、ヒイが杖を降ろした。


『冗談じゃよ。願いは、ちゃんと死ねるように、じゃな。その願い以外は叶えられぬ。安心しろ。少し脅してみたかったんじゃ。この世界を舐め切った異世界住人とやらを』

「・・・・・・・・・」

 ヒイから殺気が消えていくのを感じた。


『さぁ、下がってくれ。東の果てのダンジョンの精霊、ヒイの仕事だ。願いを叶えよう』

「本当だな?」

『もちろんだ。わしは中立であるダンジョンの精霊、四元素のダンジョンとしての誇りもある。私情を挟めないのが基本だ』

「・・・・・・・」

 剣を解いて一歩下がる。


『異世界住人よ、わしの前に来い』

「は・・・はいっ・・・・」

 ヒイが祭壇の真ん中に立ち、杖をかざすと、祭壇に魔法陣が浮かび上がる。

 何かを唱えると、緑の光が広がっていき、ユイナを包み込んだ。


 ブワッ


「あ・・・・」

 ユイナが自分の手を見つめる。


『変わったのがわかるか? お前の命の数との関係は断ったのじゃ』

 ヒイが杖を降ろして、髭を触った。


「なんとなく・・・アバターの動きは変わりません、モニターもちゃんと見れるようです。装備品の切り替えも問題ありませんね。でも、何か変わったのがわかります」

 指を動かして空中を眺めていた。


「命の数は、もう、気にしなくていいんですね」

『フン、わしが削除する行為が得意な精霊でよかったな。北の果ての精霊、セツならできなかっただろう』

「あ・・・ありがとうございます」

『・・・・・・』

 ユイナが深々と頭を下げると、ヒイが視線を逸らした。


 祭壇から離れて、近くの岩に座る。

 周囲のガラスが煌めいた。


『ダンジョンの魔力は、キサラギがリセットしたせいで変わってきておる。わしも、普段通りの魔力を使えて一安心じゃ。衰えはないようじゃな。役目は今まで通り、果たすことができそうじゃ』

 ヒイがユイナを見ながら言った。


「このガラスはなんだ?」

『わしのコレクションじゃ。この一つ一つが、生き物に似ているからな。癒されるのじゃ』


「生き物ですか?」

『わしは、風の記憶を持っていても、ダンジョンの精霊。ここから離れることはできないのだからな。こうして、ガラスを見て、命の輝きを想像するのじゃ』

 ヒイがピンク色のガラス箱を一つ、手のひらに載せた。


「ヒイ、お前は風の吹くところにある人間の記憶を知っていると言っていたな」

『そうじゃ。風の記憶はわしのところへ届く』

「アイリス、という者を知っているか?」

『・・・・もちろんじゃ』

 一瞬言葉を詰まらせて、ガラス箱を置いた。


『なぜ、アイリスのことを聞く?』

「面識があってな」

『そうか・・・そうじゃったな。彼女の存在は、四元素のダンジョンの精霊なら、全員が知っているだろう』


「何者だ?」

『・・・・1000年前の他の者の記憶の中にもおる。人間とは思えない少女じゃ。7,8歳から、どうやって今の年齢になったのか・・・誰の記憶にもない』

 ヒイが魔法陣の上を歩きながら言う。


『多くの禁忌魔法を所持して、彷徨っているということは知っている。なぜそうなっているのか、何者なのか、誰にもわからない。それに・・・』

「・・・・・・・」

 顎に手をあてて、ヒイの話に集中する。


『彼女には風の記憶がない。誰かが消去してるんだろう。神か、悪魔か・・・知らんが』


「!?」

「ど、どうゆうことですか?」

『風の記憶があるわしでも混乱するということか・・・よくわからん』

「・・・・・・・」

 ぼうっとガラスを見つめる。


「・・・・・・・」

「ヴィル様? どうされたのですか?」

 ユイナの声で、はっと我に返った。


「・・・あぁ、すまない」

 握りしめた手から魔力が溢れ出ていた。

 ヒイが構えていた。


『やはり魔王、このダンジョンを壊すほどの魔力か』

「そんなつもりはない。悪い。ほんの少し、考え事をしていただけだ。ん?」

 ポケットからオブシディアンを取り出すと青色に点滅していた。


「エヴァンのところか。異世界転移を止めるダンジョンが見つかったようだな」

「早いですね。一番、最後に着いたのに・・・」

「まぁ、エヴァンは頭のいい奴だからな。ダンジョンに入ればうまくやり過ごせるだろう」


『ほぉ、魔族も魔道具など使っておるのか。珍しいのぉ』

 ヒイが杖をついて祭壇から離れる。


「魔族も頭を使う時代になったからな。予定通りだと、サタニアがこっちに来るだろう。外で待つぞ」

「はい」

『どれ、じゃあ、お前らを外に出してやるか』

 ガラス一つ一つを眺めてから、こちらに近づいてくる。


「もし、異世界住人がここに来たら、願いを叶えるのか?」

『もちろんじゃ。わしの役割じゃからな』


「利用されないようにな」

『ふぉっふぉふぉ、心配しておるのか。わしらは、この世で利用される存在じゃ。ありがとうと言ってくれる者も少ない。お前は言ってくれた、ありがとな』

「いえ、こちらこそ、ありがとうございます。感謝してもしきれません」

 ユイナのほうを見て、くしゃっと笑みを浮かべた。


「・・・・・・・・」

『じゃあな、魔王と異世界住人。風の噂を聞く限り、お前の想定通りにいかんかもしれんが、せいぜい頑張れ』

 低い声で言う。


「ん? それってどうゆう・・・?」

『健闘を祈る』

 ヒイが杖をこちらに向けて、手を振った。



 シュンッ・・・・


 ドサッ


 瞬きする間もなく、外に出ていた。

 夜か。日は暮れて、尖った岩々の間に満月が浮かんでいた。


「ヒイが最後に言いかけたことは、なんだったんだろう・・・」

「いたたた・・・・」

 ユイナがお尻をさすっていた。


「お前、ダンジョンとか戦闘の身のこなしは上手いのに、なんかどんくさいな」

「ゲームにはこうゆう繋ぎの操作はありませんから」

 岩に手を付きながら、立ち上がる。


「あ! ヴィル、探したのよ」

 すぐに、サタニアが岩陰から飛び降りてきた。

 アメジストのような瞳が月夜に輝いて、ユイナが綺麗と呟いていた。


「魔法陣が成功してよかった。ダンジョンの入り口らしきものが見つからなかったから、探し回っていたのよ。別のところに来たのかと思っちゃった」

「このダンジョンの扉は、朝日に照らされなければ現れないみたいなんです」

「そうなの。どおりで」

 サタニアが岩を凸凹した部分を触りながら言う。


「サタニアはダンジョンの精霊と会えたのか?」

「ううん、エヴァンから連絡があったから、すぐ引き返したの。まだ、あまり降りてなかったから助かったわ。扉の仕掛けに時間がかかっちゃって」

「・・・・・・」

 サタニアはダンジョンの精霊に遭遇しなかったか。

 内心ほっとしていた。


 サタニアがしゃがんで、ダンジョンの近くにある魔法陣に手を当てている。


「いい感じね。エヴァンのところまですぐに行けると思う」

「魔力は大丈夫なのか?」

「大丈夫、今日は満月だもの。星も出てるし、いつもより元気よ」

 サタニアが髪を後ろにやって、ほほ笑んだ。


「じゃあ、行くわ。急がなきゃ、あまりスムーズにいくと、なんだか不安になるの。ユイナ、落ちないようにね」

「はい」

 ユイナが慌てて魔法陣の中に入ると、サタニアが両手を広げて詠唱を始めた。

 魔法陣がぐんぐんと光に満ちていく。 

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